04/29 私の音楽仲間 (164) ~ 私の室内楽仲間たち (144)
Dvořák の弦楽五重奏曲第3番変ホ長調 作品97
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この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
「《芸は身を助く》と言うてな…。 ハハハ。」
「驚異的な耳をお持ちなんですね!?」
「大事故に至らなくてよかったじゃろう。」
走行中の列車の異音に気付き、事故を未然に防いだなんて、
さすがです。
「だから私たちの会話も聞こえたんですね、厚い扉を通して。
それなら、音楽も耳に入ったんじゃないですか?」
先生が口にするのは、鉄道、列車の話題ばかりですから…。
「何となく聞き覚えのある調べではあったがね。 だが
テンポはとろいし、ワシの思い描いた、理想の響きとは、
ほど遠いな。 …まぁ、世界中のあちこちで、おんなじ
ようなことは起こっているがね。 通常はテンポが、逆に
速すぎるんじゃが…。」
とにかく私たちもまだまだです。
「溢れる歌心。 親しみやすく、自然に流れる、先生の
音楽。 熱烈なファンが多いですよ、日本でも。 その
一方で、素材を実に巧みに扱ってるんですから。 言わば
"横と縦の調和"。 ブラームス先生が高く評価なさるのも
無理ないですよね? 『あまりにも職人的だ』と言う人も
いますが。」
「…、…、…!」
「そう言えば、先生は Viola を弾いておられたんですよね?
歌劇場で、お若い頃は。 それなのに何だって、こんなに
弾きにくいパッセジを書くんですか!? ご自分では。 聞いて
いると快適ですが、楽譜を見ると散々です。 だって、高音域
の跳躍を、嬰へ長調でやらされたり。 それにあの、♭が7つ
の変イ短調!! 頭が変になりますよ…。」
「…作曲家となると、また事情は違うんじゃよ…。 観念
して励むんだな。 それよりお前は、普段からバカなこと
ばかり書きおって…! なるほど、頭が変だのー。」
「…、…、…。」
「"汚水溝居邪狗" とは、一体何だね! 失礼な…。」
「…、ご存じだったんですか…。 申しわけありません。
実はあれ、ウチのまるチャンが落っこったときのことで…。」
「弁解は無用じゃ。 でも、ワシならこう書くがね。
"土掘爺焼"! どうかな…?」
「面白いですよ…。 やはり焚火ですか? でも、何を
焼くのかな、地面まで掘って…。」
「解らんかね? では、四択クイズじゃ。 ただし、ページ
の最後をクリックしても正解は書いてないぞ。」
① 未熟な自作の楽譜 ② 甘藷 ③ 焼き餅 ④ 焼鳥
「ちなみに、②は何のことか、解るかな? サツマイモ、
つまり焼き芋のことじゃ。」
「もう一つ思い付いたよ! "怒暴利邪悪" ! ちょっと
品が無いかな…。」
「…?…??」
「分らんのかね? 悪徳バーのことだよ。 土曜日は
特別料金をふっかけてくるじゃろうが。 "ボル" は暴利
から来た言葉なのを、知らんのかね?」
「先生、今の日本は "ハナ金"。 ずいぶん変わったん
ですが…。 変わらないのは先生の人気だけですよ!
ひと頃は、どの小学校でも『家路』のメロディーが鳴り
出したものです、夕方になると。 それで一緒に下校
するんです、歌いながら。 《遠き山に陽が落ちてー》。」
「ほう、夕暮れ時か…。 だがサラリーマンは、電車に
乗っても、どうせ家路とは反対方向に向かうんだろう。
知ってるぞ? 焼鳥片手に酔いつぶれてな! ハハ。
気晴らしも善かろうが、もっと家庭本位に、オヤコで
ドンドンやらんとな。」
「…! それどころか、中にはステージ上で寝ちゃう
人もいますよ。 こともあろうに "寝春" 奏者なんです。
ほら、焼鳥のモッてない皿を両手にモッたまま…。
先生もハツ耳でしょうね? カワいそうなことに、
"寝世界から" 目覚めなカッたらしいんですよ。」
「実に下らん…。 誰かが不寝番 (ふシンバん) して、
ニラんでいレバよかったのに…。 指揮者は一体
何をしてタンだね?」
「先に自分の仕事を終えて帰っちゃっタンです。」
「おや、ソウタイ…。 そんな話は聞いタコとがない。
演奏が消化不良では、作曲家はイカイヨウになるよ。
交響曲など、もうツクんネぇぞ…。」
「まあまあ…。 第10番は、ぜひ "変胃腸調" でお願い
しますよ。 ヘイコウ調の "ヘ単調" でも、もちろん結構
ですが…。」
「いや、これ以上ナンコつクロウとも、苦労が報われん。
ワシのキュゥキョクの交響曲だったからな。」
ふと時計を見ると、残り時間も僅か。 時の経つこと
矢の如しです。 先生も仕方なく、私のレヴェルに話を
合わせてくれたようです。
「すっかり話し込んでしまったよ。 そろそろ帰ると
しようかな。」
「先生も家路に着かれるんですか…。 本当は
焼鳥屋へお連れしたいところなんですが、どうか
お気を付けて。 で、どちらの方へ?」
「うーん。 一人で赤提灯は、黄信号だしな…。
安全とは聞いておるが、ボラれんとも限らん。」
「一気にアメリカまで飛ばれては、いかがですか?
ヒューストンに行けば、曾孫の Kevin さんが迎えに
来ますよ。」
「誰だって? 孫ならいるが、まだ生まれたばかりだぞ?」
「チェリストですよ。 お若い頃の Kevin さんに、お目
にかかったことがあるんです。 とても人懐っこくて、
ハンサムな方でしたよ、先生に似て。」
「お世辞はもういい。 じゃ、失礼するぞ。 シンカンセン
は、またの機会にしよう。 じゃあ、せいぜい五人で楽しく
やるんだな。」
椅子から立ち上がり、厚い防音扉へ音も無く近づくと、
もう先生の姿はありませんでした。
(この項終わり)
音源です。
第Ⅰ楽章 Allegro non tanto
[A. Dvořák: String quintet No. 3 (1st mvt)]
[Dvorak, American Quintet Op. 97, Movement 1]
第Ⅱ楽章 Alegro vivo
[A. Dvořák: String quintet No. 3 (2nd mvt)]
第Ⅲ楽章 Larghetto
[A. Dvořák: Smyčcový kvintet Es dur, III. věta]
[A. Dvořák: String quintet No. 3 (3rd mvt)]
[Dvorak, American Quintet Op. 97, Movement 3]
第Ⅳ楽章 Allegro giusto
[A. Dvořák: String quintet No. 3 (4th mvt)]
[Dvorak-Quinteto op. 97, em mi bemol maior, para cordas]
[WHF2009-Groups-HCI from King`s College(HK)]