11/24 私の音楽仲間 (336) ~ 私の室内楽仲間たち (309)
報われなかった編曲
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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報われなかった編曲
2世紀を超えて
室内楽で Viola
先日は、Mozart の クラリネット協奏曲、その弦楽四重奏
による伴奏版についてお読みいただきました。
編曲者はシュヴェンケ (Schwencke、1767~1822) という、主
にハンブルクで活躍した作曲家、ピアニストだそうです。
大編成の音楽を、家庭で手軽に楽しむには、当時は自分
たちで演奏するしかなかった…。 その点で編曲という作業
は、今日以上に重要な意味があったことでしょう。
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もう一人、Mozart と同時代人で、編曲者として知られている
のが、リヒテンタール (Lichtenthal、1780~1853) です。 本業は
お医者さんですが、Mozart に傾倒して、数々の作品を編曲、
紹介したと言われます。
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そのリヒテンタールが編曲した、Mozart の 交響曲第41番
に、先日接することが出来ました。
弦楽器だけの室内楽版でしたが、各パートに複数の人間が
いたとしても、別に構いません。 練習を重ねて公開演奏する
わけではないので、私たちも楽しみましょう。
今回は、Vn.Ⅰ 1人、Vn.Ⅱ 1人、Viola 2、チェロ 1、コントラ
バス 1…という人数でした。 私は Viola パートです。
始まる前に Viola の T.さんが、私の隣りに座ります。
私は、こう尋ねました。 「ご自分の譜面を持ってきた方
が、見やすいんじゃないですか? 譜面台はたくさんあるし、
場所も広いから。」
それに対して T.さんは、「ちゃんとした弓順が書いてある
譜面をお持ちでしたら、一緒に見せていただけますか?」
なるほど…。 確かにそのとおりです。
さて、事前に譜面を見た限りでは、かつて親しんだオケの
パート譜とは、やはりだいぶ違います。
「次には、確かアレがあるはずだな」…などと予想しても、
まったく別のパッセジが書いてあるので、却って面食らって
しまうほどです。
第Ⅱ楽章の後半では、第二主題がヘ長調で再現される
部分があります。
[譜例①]は、原曲のその部分をスコアで見たものです。
76小節目から、フルート、Vn.Ⅰ、ファゴットⅠが一緒に、
4分音符で歌い始めます。 Fa-Sol-La…。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/1d/b7d922df8bf89acff45756a99834e667.jpg)
下から2段目の Viola は、La-Sol-Fa と、反対に下降します。
ところがこの編曲版 (譜例②) では、Viola は違う音程で
弾き始めます。
最初の音は Do、いわゆる "中央ハ" です。
原曲には、この音域で動くパートはありません。 よく見ると、
「オーボエⅠがオクターヴ下で動いている」…のだと解ります。
以下、細かくご覧いただく必要はありませんが、木管楽器や
ホルンのパートを演奏する部分が、延々と続きます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/69/09c08d50a5caaa37fdde88c29e434c71.jpg)
緑色で塗ってあるのが、原曲の Viola パートと同じ音符です。
でも、やっと最後になってから出て来るだけですね。
この楽章には、管楽器の美しいソロの動きがたくさんあります。
声部も必然的に多くなるので、編曲者がもっとも苦労した部分
ではないでしょうか。
それにしても、ファゴットやホルンがペアで動く箇所が、すべて
1人だけなのです。 いざ、演奏してみると。
3度下で一緒に動くパートが無い! 変です。
それに、最後から2、3小節前では、ホルンがオクターヴ
の Do の音を刻むはずです。 6連符で。
ところが演奏してみると、これさえ、どこにもありません。
思わずそこで私は、「・トトトトト」…と、口ずさんでしまった
ほどです。
"利非点足" さん、足りないよ、音が!
やはり4パートでは、交響曲の編曲には無理があるので
しょうか? せっかく貴重な作業をしてくれたというのに。
でもここは、全員が休みで、暇なはずだけどな…?
どうも奇妙なことばかりです。
それから2週間が経ちました。 この記事を書いている、今の
ことです。
私は、メール添付で送ってもらった PDFファイルを、もう一度
よく見てみました。 それはこの曲の各パート譜で、Y.さんの
蔵書を、H.さんが事前に各自に手配してくれたものです。
Vn.Ⅰ、Vn.Ⅱ、Va.Ⅰ、Va.Ⅱ、チェロ。
何だって!? Viola パートが2つ??
私は印刷した自分のパート譜を、もう一度よく見てみました。
"ViolaⅠ" と書いてあります。 黒々と。 活字の色も濃く…。
そう言えばそうだった! この頃はさらう曲が多かったので、
注意が散漫になり、ずっと忘れていました。
…ということは、幻の ViolaⅡの譜面があったはずです。
このときは演奏されなかったパートが!
このパート譜のファイルを初めて開き、細部を検討すると…、
ありました! 先ほどのホルンの刻みが。
ちゃんと Do のオクターヴで…。
ああ、リヒテンタールさん、ごめんなさい!
私はメールの記録を、もう一度よく読んでみました。
この ViolaⅠのパートは誰? 私に間違いありません。
事前に H.さんから指定されたとおりです。
では、ViolaⅡの方は…。
これですべてが判明しました。
あのとき私の隣りに座った*さんが、もし自分の譜面を
取り出していたら…。 それは、先ほどご覧いただいたの
とは別の譜面、ViolaⅡだったはずです。
弦楽四重奏に編曲したのではなく、弦楽五重奏だった…。
でも、いざ演奏の場になってみると、誰も気付きませんでした。
私も、またパートを割り振った H.さんも。
ちなみに当の T.さんは、今回はほとんどの曲に出番がある
という、過密スケジュールでした。 「せめてこの曲ぐらいは楽
をしたい」…。 もしそう思ったとしても、誰も責められません。
まして、私と一緒のパートだと心強いと思ったのかな…。
そんなことはありませんが。
でも今後は、弓順を書き込んでおくの、もう止めようっと…。
今回の[音源]は、第Ⅳ楽章の最後の部分です。
[譜例③]の 1/2小節前からスタートします。
先ほどの第Ⅱ楽章の部分に比べて、ほとんどが
原曲と同じ作業です。
アルト譜表のオンパレードで、申しわけありません。
最初の音は、ト音譜表の下の方にある Mi の音です。
Re ではありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/bc/13677c0ee8c266f1847e76731c7f49a8.jpg)
見にくい譜面で申しわけありません。
ところで最後の段には、私が書き加えた部分がありますね。
"タン タカ タ タ …"。
ティムパニ、ホルン、トランペットが奏でる、仕上げのリズム
ですが、これは、正真正銘、どこにもありませんでした。
T.さんのパート、ViolaⅡにもね…?
譜面を送ってくれた H.さん、ごめんなさい。
譜面を提供してくれたのに、今回は参加できなかった、チェロ
の Y.さん、すみません。 今度は一緒にやりましょうね。
それに、5つのパートを作ってくれたリヒテンタールさん、本当
にごめんなさい。 必ず再演の機会を設けます。
今回は "災演" だったけど…。
こちらは原曲の音源です。
[音源サイト ①] [音源サイト ②]