07/03 私の音楽仲間 (177) ~ 私の室内楽仲間たち (157)
(153)~(156)
関連記事 歌劇『バリース・ガドゥノーフ』
① 「ロシアの主題」
② 永遠のテーマ
③ 為政者の悲哀
④ 下層に生きた作曲者
Beethoven の 『ラズモーフスキィ』第2番
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
続く第Ⅲ楽章は、A : "Allegretto" と、 B : "Maggiore" の二つの
部分から出来ています。 実質的にAは Scherzo、Bは Trio に当り、
これが "ABABA" のように繰り返されます。
Aの部分はホ短調 (Mi-Minore) で、Bの "Maggiore" (長調) とは
明確な対比を成しています。
このBの部分に差し掛かり、ホ長調の新しい主題を歌い始めるのが
Viola です。 … これは、"Theme russe"、つまり "ロシアの主題"
と記されています。
これは何度かご覧いただいた一節で、曲は『ラズモーフスキィ』
第2番です。
数十年後の帝政ロシアにワープした後は、再び Beethoven
の弦楽四重奏曲で、舞台は1806年のヴィーンです。
はるばるロシアまでご一緒に出かけたきっかけは、この
「ロシアの主題」でした。 元々はロシア民謡の讃歌で、
これを歌劇「ボリス・ゴドノフ」 (バリース・ガドゥノーフ) の中
で、ム―ソルクスキィが 1869年になって用いたのでした。
ここでそのロシア民謡を、もう一度見てみましょう。
"原曲" の、『神を讃える歌』です。
[譜例 ①]
わ が 全 能 の た- か き かみ に さ か ー え あーれ!
「我が全能の高き神に栄えあれ!」
この主題を、Beethoven は次のように用いています。
[譜例 ②]
これは Viola のためにアルト譜表で書かれており、慣れないと読みづらい
かもしれません。 最初の二つの音は "Mi"、"Si" です。 ("Re"、"La" では
ありません。) この "Mi" は、左下に小さく書かれた高さの音符で、ト音譜表
では "第一線上" の "Mi" です。
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ところで、"Mi"、"Si" に続く次の小節は、①の民謡とは、
形に若干差がありますね。 音階を1段昇るか、2段昇る
かの違いです。
Beethoven が編曲してしまったのでしょうか? どうも
そうではないようなのです。
[譜例 ③]
↓ ↓
これは『バリース・ガドゥノーフ』の中で、この讃歌が最初に
登場する場面の、合唱パートです。 6小節から成る歌が、
2回繰り返されています。
この "音階の小節" だけに注目すると、前半では「ド ド レ 」と
"1段" ですが、後半では「ドレミ ミ 」と "2段" 昇っています。
先ほどご覧いただいた、① 《民謡の譜例》は "1段だけ" です。
ちなみに、[譜例①]の讃歌は、私の手元にあった『ロシア
民謡集』からで、これはドイツで出版されたものです。 もしか
すると、「前半の部分に酷似しているので、後半は印刷の際
に省略されてしまった」のかもしれません。
16行ある歌詞をよく見てみると、「2行 × 8」、つまり「8番まで
ある」と考えると、よく納得できるのです。 (この事情に詳しい方は、
ぜひご教示ください。)
ム―ソルクスキィが歌劇のこの部分で付けた歌詞は、逐語訳
だと以下のとおりで、太字部分が "音階の小節" です。
「天上の太陽の、真紅の美しきに、栄光あれ、栄光あれ!」
(前半)
「栄光あれ、ロシア皇帝バリースに、栄光あれ!」 (後半)
以後、この主題は何度も現われ、「ド ド レ 」、「ドレミ ミ 」
のどちらかが、単語の抑揚、音節数に相応しい形で用いら
れます。 場合によっては「ド ドレミ 」となることもあります。
また同じ民謡を扱った、リームスキィ=コールサコフの
『3つのロシアの歌 (主題) による序曲 作品28』 (1866年
作曲・初演、1879~1880年改訂)や、歌劇『皇帝の花嫁』
(1898年/1899年初演) では、この "問題の小節" に関して
は「ドレミ ミ 」の形だけが使われています。
何度出てきても。
再び弦楽四重奏曲に戻ります。
[譜例 ②]
この主題はまず Viola に登場し、次いで、ViolinⅡ、そして
チェロ、ViolinⅠと順番に引き継がれます。
これは第Ⅲ楽章の "中間部" になってからの話でしたが、
Beethoven はこの素材を、どのように用いたのでしょうか?
(続く)
音源はこれまでと同じものです。
ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音
バリリ四重奏団 :1956年録音
音源ページ
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(43) ~ (46) 『ラズモーフスキィ』第3番
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③ 序奏は倉庫
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③ 誰が縁結び?
④ 厳しさと重圧
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