MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

1月の記事の一覧

2014-01-31 00:00:00 | インポート

01/31



       今月の記事の一覧です。




     私の室内楽仲間たち

01/02   理解が先? 表現が先?

01/03   揺れる調、揺れる3度

01/04   それは形式が決めるさ




     その他の音楽記事

01/05   傷を抱えて生きた巨匠




01/10   頭の体操 (139) 漢字クイズ 問題/解答




     私の室内楽仲間たち

01/14   嫌われる外骨格

01/15   太っ腹のブラームス

01/17   理屈っぽいのは誰?

01/19   言うだけ言ったわよ

01/22   羽を伸ばす Mozart

01/24   円やかなペア

01/25   楽章を結ぶ3度?

01/26   対照的な “Andante”

01/28   黒幕は作曲家?




01/30   頭の体操 (140) 漢字クイズ 問題/解答




01/31   今月の記事 ~ 一覧





頭の体操 (140) 漢字クイズ 問題/解答

2014-01-30 00:00:00 | 頭の体操 漢字クイズ

01/30    頭の体操 (140) 漢字クイズ




        『これまでのカタカナ語句には、

        カタカナ部分のみ各回ごとに載っており、

         それぞれの記事に飛ぶことも出来ます。

   「古い記事 (トップ) → 新しい記事 (奥)」 の順に並んでいます。




      『頭の体操 漢字クイズ』 カテゴリーでは、

     『問題・解答』の全文が直接ご覧になれます。 こちらは

      「新しい記事 (トップ) 古い記事 (奥)」 の順です。





 10/06 ~ 10/08 に登場した外国語の人名、地名、用語が、
カタカナ表記で (1) ~ (20) に、登場した順に並んでいます。

 また、(A) ~ (T) に並んでいるのは、それぞれを漢字で
表記
しようとしたものですが、どう読めばいいでしょうか?



    (1) 騎士ロへラングリン   (2) アングロサクソン

(3) スキフ       (4) シェアフ       (5) マピノーギオン

(6) アリマテア    (7) モンサルヴァ―ト    (8) ペルセヴァル

   (9) オードリー・ウィリアムソン    (10) ジークムント

(11) ジークフリート  (12) ペローの童話  (13) グラ―ルの聖杯

      (14) ファウスト     (15) グレートヒェン

(16) ロジーナ     (17) ガイヤー     (18) 妹のチェチリエ

     (19) ポッセンドルフ     (20) ヴェルズンク族

(A) 害爺   (B) 数奇父   (C) 舌喉上   (D) 老爺否

(E) 飢寸狗足     (F) 呆銭盗父     (G) 不合素人

(H) 減急父歩      (I) 問猿馬跡      (J) 子選悪父

(K) 餡黒割損    (L) 黄白屁嵐緑    (M) 曲悲悩偽音

(N) 上履馬手空   (O) 児育夢脱兎   (P) 地行自由人

      (Q) 暗歩乗勢這    (R) 灰色頭火炎

   (S) 踊狸羽入編孫   (T) 芋疎之知恵恥狸餌




[解 き 方]


  ・ 漢字を読み、主にその音を用いて、原語での発音を表わそうと試みた
   ものです。

  ・ 音読み訓読みが混ざっています。 必要な場合は、濁点()、
   半濁点()、送り仮名を補ってください。

  ・  従来のカタカナ表記による読み方とは、必ずしも一致しない場合が
   あります。

  ・  音ではなく、単語の意味を外国語に置き換え、その発音を用いる
   こともあります。 「星 → スター」、「太陽 → サン」のようにです。
    今回は箇所あります。

  ・ 口語的俗語的にくだけた読み方をすることもあります。
   (例) 「汚 → きたねぇ」、「社長 → ボス」。
    今回は箇所あります。

  ・ 漢文もどきに、順番を入れ替えて読む場合もあります。
   (例) 「不読 → よまず、よまん、よまない」。
    今回はありません。

  ・ 人名漢字の中には、“”、”” ともに含まれている場合もあります。 
   姓に加えて "first name" をご自分で補ってください。
   (例) 「ヨーゼフ・シュトラウス」。
    今回はありません。

  ・ 音や意味とは無関係で、漢字から連想しないと解けないものも!
    今回はありません。

  ・  厳密に見るといい加減なものもありますが、そこは冗談の世界。
   お見逃しくださいませ。



   解答
    ↓





以下、10/06 考えすぎの私より




(1) 騎士ロへラングリン  (L) 黄白屁嵐緑



 「聖なる白鳥の騎士に対して、なんたる冒涜を!」

 まあまあ…。 ここは冗談の世界。 お赦しください。



 「ローングリンも知らないのか。 けしからんぞ!」

 いえいえ。 古い資料には “Loherangrin” と書かれて
いるんです。 終幕の名乗りの場面では、ちゃんと “
と発音するのが、今でも慣例らしいですよ。



 この名が現われる “Parzival” については、前回も記しま
した。 作者は中世の詩人ヴォルフラム・フォン・エッシェ
ンバッハ
(1170-1220) です。

  関連記事 頭の体操 (139) 漢字クイズ 問題/解答 ~ (18)



 さて、ヴァーグナの『ローエングリン』です。 エルザ姫は
“弟殺し” の嫌疑をかけられており、それを救うのが白鳥
の騎士の役目でした。

 ところが、それは作曲者の “脚色” です。 訴えられた
内容が、本来は別のものでした。



 新しき「白鳥の騎士」物語には、以下の記述があります。

 「ある領主が死の直前、娘である姫と、領地の保護を臣下に
委ねる。 その後、その臣下は、約束では姫を妻に娶り、自身
がその地を治めるはずであったと言って、姫を結婚の不履行
で訴えてしまう。」



 ただし、以下の諸点については共通しています。

 騎士は白鳥の引く小舟で現われ、正体が不明なこと。
その氏や素性を問うてはならぬのに、姫は禁を犯して
尋ねてしまうこと。 その結果、騎士が去ってしまうこと。



 白鳥の騎士の説話は、ドイツ、フランスには何種類も
伝説として広まっていました。 ヴァーグナは『ローエン
グリン』の舞台を、アントワープに設定しています。




以下、10/07 女性的なる愛より




(2) アングロサクソン  (K) 餡黒割損

(3) スキフ         (B) 数奇父

(4) シェアフ        (J) 子選悪父

(5) マピノーギオン    (M) 曲悲悩偽音



 この説話は、ゲルマン系の人々に育まれながら、やがて
長い旅をすることになります。 北のデンマークを経て西へ。

 根を下ろした先は、グレートブリテン島でした。



 以下は、ある著書から、すでに引用した記述です。

 「白鳥の騎士の物語は、デンマークとアングロサクソン
スキフシェアフ) の伝説や、アイルランド統治下にあった
時代のウェールズの四つのマピノーギオン (ウェールズの民間
に流布していた中世騎士物語集)
伝説に盛り込まれている。」




(6) アリマテア  (N) 上履馬手空

 大陸で生まれた説話は、海を渡りました。 以下の記述
によれば、 説話は新たな土壌に育まれ、さらに別の要素
が付け加わったことになります。

 「このケルト的背景は、アーサー王と円卓の騎士たちの
伝説の創造にも影響を及ぼし、聖杯 (キリストが最後の晩餐
に用いた杯で、アリマテアのヨゼフが、それで十字架上のキリストの
傷口から流れる血を受けた)
の物語は、このアーサー王伝説
に由来するものなのである。」




(7) モンサルヴァ―ト  (I) 問猿馬跡

 記述はさらに続きます。

 「もっと後の時代の伝説になると、聖杯の安置されている
場所がスペイン、ピレネー山脈のモンサルヴァ―トへと移り
変わり、そこで聖杯を守護する者は、罪なく圧迫されている
人々を救うために旅に出るという、中世騎士道の形式を、
いまだに取っている騎士たちとなる。」




(8) ペルセヴァル  (H) 減急父歩

 エッシェンバッハの “Parzival” には、さらに下地にした
作品がありました。 フランス語で書かれた “Perceval”
です。

 「パルジファル (ときにはペルセヴァルと呼ばれることもある) は、
その聖杯守護の騎士たちの頭であり、窮地に立たされた
エルザを救いにやって来るのは、ほかならぬこのパルジ
ファルの息子なのである。」




(9) オードリー・ウィリアムソン  (S) 踊狸羽入編孫

 以上は、オードリー・ウィリアムソン著、『ワーグナーの
世界』 (中矢 一義 訳、1976年、東京創元社) より引用しました。

 著者については、残念ながら詳しい経歴は不明でした。




 『パルジファル』の舞台は、モンサルヴァ―ト。 『ローエン
グリン』の中でも、これは触れられています。 騎士が最後
に名を名乗る際には、以下の語句が聞かれます。

 「“Monsalvat” には、聖杯 “Gral” を守る騎士たちがいる。
王は “Parzival” で、私はその息子 “Lohengrin” である。」



 ただしモンサルヴァ―トは、“はるか彼方” とされているだけ
で、もちろん “スペイン” の言及はありません。 白鳥の騎士
は、シェルデ河を下ってアントワープに辿り着いたので、小舟
に乗った区間は、せいぜい北フランスからになります。

 エルザを救うために、もしスペインから、はるばるピレネーを
越えてやって来たのなら…? 陸路を経なければなりません。

 白馬の騎士、ローエングリン!?



 はるばる旅をしたのは、騎士だけではありません。 説話
も同じです。 ライン河、シェルデ河付近に生まれ、北ドイツ、
デンマークから、イングランド、スコットランド、ウェールズへ。

 先ほどの、オードリー・ウィリアムソンの記述のとおりなら…。
大ブリテン島で『アーサー王と聖杯』伝説と融合し、再び大陸
へ “逆輸入” されたことになります。

 ヴァーグナが作曲するまで、千年近くが経っていました。



 白鳥、そして聖杯。 伝説の二つの側面に光が当てられ、
生まれたのが、『ローエングリン』と『パルジファル』。

 しかし、単なる思い付きや勝手な脚色を、ヴァーグナが
付け加えたわけではありません。 まずは徹底的に文献
を収集し、考証を加えました。 説話の原初まで遡って。




(10) ジークムント  (O) 児育夢脱兎

 ヴァーグナのこの姿勢は、他の作品においても同じでした。
ニーベルングの指環は、ドイツの伝説的叙事詩ニーベ
ルングの歌
を基にしてはいますが、彼はさらにその源泉を
辿り、北欧の神話にまで遡り、研究しています。

 “Siegmund” は、実在したブルグント国の王として、この
叙事詩に登場します。



 しかしヴァーグナの作品では、彼は双子の妹ジークリンデ
と再会し、愛し合うことになります。 “ジークフリートの父” と
いう設定は叙事詩と同じですが、近親相姦によってこの世に
送り出された英雄という、現実的な生々しさを伴っているのが
ジークフリートなのです。

 こういう設定になってしまったのは、ヴァーグナの生い立ちと
無関係ではないでしょう。 心理学的に分析すると、どうなるの
でしょうか。



 ところで、ジークムントと検索して驚きました。 精神分析
学者のフロイトが見られるのは当然として、ゲームに登場する
と思しき怪獣や、競走馬まで!

 なるほど、男性の一般的な名には違いないのですが…。




(11) ジークフリート  (P) 地行自由人

 『ニーベルングの歌』では、「クリームヒルト姫と結婚する」
…とありますね。 ヴァーグナの楽劇で思い浮かぶのは、
ヴァルキューレの一人、ブリュンヒルデとの相克ですが。



 kotobankには、以下の記述があります。

 「エッダサガなどの古北欧伝説と《ニーベルンゲンの歌》
に登場する人物。 ボルスンガ・サガではジークフリート
(古北欧語ではシグルズSigurðr,Sigurd) は鍛冶屋に養われていて、
あるとき竜を退治して宝物を手に入れる。」

 「旅の途上彼は、甲冑に身を包んだブリュンヒルト Brynhild
(ブルンヒルデ Brunhilde) を救い出し、彼女に結婚を約束する。

 ところが、ライン河畔のギューキ王の宮廷で忘れ薬を飲ま
され、王女グズルーンGuðrún (クードルーン) と結婚する。」



 お気付きのとおり、ヴァーグナの作品内容は、こちらのほうに
近い。 その反面『ニーベルングの歌』は、視点が “ゲルマン族
の王国” 中心になっています。

 同じ題材でも、より根源的、普遍的な、原初の内容を求めて
いたヴァーグナ…。 限られた文献だけでは飽き足らなかった
姿勢が、この例からも解ります。



 さて、この “ジークフリート” も、ゲームのヒーローから、
ケーキ店、さらには、中古車買い取り店までありますね。

 その名は、好き勝手、自由奔放に用いられています。




(12) ペローの童話  (C) 舌喉上

 この漢字表記が 「“ペローの童話” だ!」…と解るかたは、
危険信号ですよ? からだじゅうに、相当毒が回っています
からね。 私と同じように…。

 “舌” を “べろ” と読むだけでも大変なのに。 ましてや…。

 この先も中毒にご用心ください。




(13) グラ―ルの聖杯  (Q) 暗歩乗勢這

 「これ (Graal) をキリスト教に結びつけたのは、フランスの
詩人ロベール・ド・ボロン(Robert de Boron)による1190年代
の作品であろう。 それによれば、アリマタヤのヨセフが
イエスの血を受けたとし、ヨセフはその聖杯とともに…。」



 解説ページの一文ですが、先ほどのオードリー・ウィリアム
ソンの記述とは矛盾していますね。 ここには、「“キリストの
血” が現われる最初の文献は、フランス人によるもの」…と
書かれていますから。

 オードリー・ウィリアムソンは英国人と思われますから、
「この伝説が、ケルト、ウェールズに由来する」…と記して
いるのも、なるほどうなずけます。



 同じ解説ページでは、末尾に様々な参考文献が見られ、
世界各地の地名が…。 これでは、私のような門外漢は
お手上げです。




(14) ファウスト  (G) 不合素人

 まさに、素人が話題に取り上げるのは不似合い。



(15) グレートヒェン  (R) 灰色頭火炎

 灰色頭が炎上するどころか、青息吐息です。




以下、10/08 父が与えた苦しみより




(16) ロジーナ  (D) 老爺否

 「美しい娘ロジーヌは、アルマビバ伯爵に見染められ…。」
『セビリャの理髪師』の荒筋ですね。



 あれ!? この検索では、若きサッカー選手から、茶房や
パン屋の店名、果ては戦車の愛称まで!

 でも、どこを見ても “ジイサン” は居ないねー…。



 ヨハンナ・ロジ-ナは、パン屋の娘だった。

 ヴァーグナの母のことです。



 余飯無・老爺否は、メシ抜きの私のことです。

 彼女は結婚すると、余飯無・我具無になり、生活が
変わりました。 でも私の場合は、余り変わりません。




(17) ガイヤー  (A) 害爺

 “実父” のカルル・フリートリッヒ・ワーグナーは、リヒャルト
が生まれて半年後に、43歳の若さで早世しました。 折から
チフスが蔓延し、倒れたのです。

 作曲家の卵は、戸籍上 “リヒャルト・ガイヤー” と名乗って
いた時期もあります。




(18) 妹のチェチリエ  (T) 芋疎之知恵恥狸餌

 「計算が合わない。 誰の子なの?」

 きっと周囲からそう言われたであろう、リヒャルトの妹です。
やがて彼女は、自分がガイヤーの子であると確信するよう
になります。

 「お兄さんも、間違いなくそうよ。」

 生涯に亘って打ち解けていた、この兄妹。 その裏には、
共通した “秘密の事情” があったのでしょうか。




(19) ポッセンドルフ  (F) 呆銭盗父

 7歳のリヒャルトは、一年間だけ実家を離れ、外へ預け
られたことがあります。 しかしその間に、継父ガイヤーも
亡くなってしまいました。

 幼少時に深い傷を負ったと思われるリヒャルト。 最初
の妻ミンナには、「母の愛憮など覚えが無い」と語り、母
のヨハンナについては、ほとんど口にしなかったそうです。




(20) ヴェルズンク族  (E) 飢寸狗足

 『ニーベルングの指輪』に見られる、様々な種族の一つです。
ジークムントは、そのヴェルズンク族の英雄として登場する。

 主神ヴォータンは、もちろんヴァルハラ族 (神々族) の長です
が、このヴェルズンク族との関連も見られます。

 そしてリヒャルト・ヴァーグナ自身にも、様々な点で二重性
が窺われます。




 お疲れさまでした。




黒幕は作曲家?

2014-01-28 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/28 私の音楽仲間 (558) ~ 私の室内楽仲間たち (531)



              黒幕は作曲家?



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 今日まで謎として残されたままの、楽章順。

 まず困るのは、出版社です。



 【Ⅰ : Allegro】は良しとして、【Ⅱ : Andante、Ⅲ : Menuetto】
なのか、あるいはその逆なのか? たとえ判らなくても、楽譜
を印刷する際には、順番を決めなければなりません。



 もちろん演奏者も同じ。 ただ遊びで音を出すだけならいいが、
ちゃんと発表する際には、出版譜に任せっきりではいけません。

 しかし、得られる情報には限りがある。 目の前の楽譜を読み
返し、解読することになります。 まるで暗号情報のように。



 曲は、Mozart の 弦楽五重奏曲 ハ長調 K515 で、
Ⅱ、Ⅲ楽章の順序が不明なのです。




 そのヒントと思われたのが、“3度音程” でした。

 もっと重要なのは、テンポ、調性、拍子、モティーフ…などの
要素です。 しかし、高名な研究者たちが200年以上研究し、
検討しても、結局のところ進展はありませんでした。



 キー-ワードは “3度”。 特に、“3度間隔で動く” 二つ
の声部です。

 その特徴は、第Ⅳ楽章の “Allegro” でも見られます。



 この楽章はハ長調。 「全4楽章中、3つがハ長調」…
ということになります。




 [譜例]は、第Ⅳ楽章の冒頭のテーマですが、
やはり3度で上行する形が含まれています。

 演奏例の音源]も、ここからスタートします。








 しばらくすると、【28小節目】 (音源では26秒後)
次のような形が出てきます。







 一見すると Vn.Ⅰが目立ちます。 でも大事なのは、
三つの内声部でしょう。

 テーマの特徴の3度音程が、ここでも見られます。
あるときは下行形で。



 また、一緒に動く三つの声部の、間隔を見てみましょう。

 最初の小節だけは6度音程。 しかし、転回すれば3度
になり、以後は、3度間隔で並行して動いています。

 各パートの動きも、上行下行の形で3度音程が続きます。



 “3度の関係” は、さらに他の箇所でも続きます。 テンポも
リズムも活発なので、さほど印象に残りませんが。

 この演奏例の音源]の最後の数秒では、二つの Violin が
3度間隔で動いている。 その一例です。




 “3度音程” を中心にお読みいただいてきた、一連の記事。
そろそろ纏めなければなりません。

 各楽章を比較してみると、「“Andante” 楽章だけが異質」…
なようです。 その訳は…。



 (1) テンポが遅い楽章である。 他は Allegro か Allegretto。

 (2) 他はハ長調で、これだけがヘ長調

 (3) 「二つの声部が3度間隔で動く」…という特徴が無い。




 最後の (3) については、例外箇所もあります。

 別の演奏例の音源] (既出) は “Andante” の途中で、
楽章の冒頭と同じ音楽で始まります。 ここでは二つの
Violin が、6度や3度の間隔で動き始めます。

 Violin S.さんH.さん、Viola 私、N.さん、チェロ T.さんです。



 しかし、これは序奏的な部分で、“3度” や “6度” の
間隔が重要と思える箇所は、ほかにもありません。

 先行する楽章が【Ⅰ : Allegro】であっても、また
Ⅱ : メヌエット】であっても、導入はスムーズです。
いずれも “3度” に特徴がある音楽でした。




 そしていよいよ、“Andante” 楽章の最後の特徴です。

 (4) Violin と対等の機会を、ViolaⅠのソロ に与えている。



 上の既出音源で言えば、【23秒】の辺りから聞こえるのが Viola
です。 以後、Vn.Ⅰと対等に歌い交わし、楽章は進みます。

 それまでの Mozart の室内楽曲からすれば、これは実に空前
の出来事なのです。




 そんな特別の楽章を、どう扱うか? 全体の順序は、この
問題を中心に考えても、いいのではないでしょうか。

 “Andante” を2番目に置くか、3番目にするか?



 もし、この楽章の Viola を私が弾くとすれば…。

 「あまり早く終わらせてほしくない。 全曲の後半で、
思い入れを込めて弾きたい。 そして次の第Ⅳ楽章
“Allegro” で解放され、身軽になりたい。」



 最後は本音が出てしまいました。 もちろん、Violin を弾いて
いても同じ気分ですが。

 しかし Viola にとっては、稀な大役。 難しい部分もあるとは
いえ、作曲者に感謝しない Viola 弾きはいないでしょう。




 もちろん、この “Andante” を第Ⅱ楽章とすることも出来ます。

 しかしそれでは、異質な楽章を先に終えてしまうことになります。
後半のハ長調の楽章、“メヌエット” と “Allegro” は、全曲の重み
軽快さで支えなければなりません。




 Mozart さん、教えてくださいよ。 どういう順番なんですか?

 「ハハ。 困ってるみたいだね。 自分で考えなさい。」



 ちゃんと指定もせず、世を去ってしまうなんて、ひどいじゃ
ないですか。 お蔭で200年以上経っても、百家争鳴のまま
ですよ。

 「そうかい。 …実はね、宿題にしておきたかったんだよ。
後世のキミたちがどういう判断をするか、一つお手並みを
拝見しようじゃないか。」



 …Viola が達者な貴方としては、どうなんですか? この曲
も、いずれはご自分で演奏するつもりだったんでしょ? ほら、
あのディヴェルティメント K563 を何度か弾いたみたいに。

 「…さあね…。 Haydn 先生ならどうするか、訊いてみたら?
それとも Beethoven 君にするかい? まあ、あの二人じゃ、
どうせ意見は合わないと思うがね。 ハハ、頑張りたまえ。」




 …やれやれ…。 悪戯や冷やかしにも、ほどがあるよ…。



 ところで1787年に作られた、この作品。 “3つのハ長調楽章”、
“3度音程の跳躍”、“3度間隔の進行”…と、“3” がたくさん出て
きますね。

 上記の解説サイトには、「“3” はフリーメイソンにとって重要な
数字」…とあります。



 ひょっとして、この曲も…? Mozart さん。




            ハ長調 五重奏曲

      [音源サイト    [音源サイト




               関連記事

            弦楽五重奏曲 ハ短調 K406
              Mozart の厳格さと歌心

            弦楽五重奏曲 ハ長調 K515
              全員が指揮者?
              黒幕にも決定できない順番
              押しかけビール
              羽を伸ばす Mozart
              円やかなペア
              楽章を結ぶ3度?
              対照的な “Andante”
              黒幕は作曲家?
              束になってかかって…来ないでね
              トリは任せたよ
              解放された Viola

            弦楽五重奏曲 ト短調 K516
              疾走する Mozart …
                    など

            弦楽五重奏曲 ニ長調 K593
              呼び交わすニ長調
                    など

            弦楽五重奏曲 変ホ長調 K614
              最後に五重奏曲
                    など




対照的な “Andante”

2014-01-26 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/26 私の音楽仲間 (557) ~ 私の室内楽仲間たち (530)



            対照的な “Andante”



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』





   「使われた五線紙の鑑定などから判明しているのは、



      第楽章と "ヘ長調の Andante" が、また

      "ハ長調の Menuetto" と第楽章が、

      “対になって書かれた” という事実です。



     作曲時期にも若干のズレがあるようです。」




 以上は私が記したものですが、これはベーレンライター
版のスコアの、序に書かれた内容に基づいています。



 Mozart の 弦楽五重奏曲 ハ長調 K515 では、順序の
不明な楽章がありますが、それに関連した記述です。

    関連記事 黒幕にも決定できない順番 の末尾




 そのベーレンライター版では、【Ⅰ : Allegro】、【Ⅱ : Andante】、
Ⅲ : Menuetto】の順に配列されています。



 「第Ⅰ楽章の後に、同じハ長調のメヌエットが続くよりは、
ヘ長調の楽章が来るほうが自然だ」…という論拠が、そこ
には記されています。

 なるほど、「ハ長調の後に、ヘ長調が来る」…なら、古典派
の作品としては自然です。 それに、「ほぼ同時に作られた」
…という上記の事実も、一つの根拠なのでしょう。




 これに対して、従来のペータース版では、【Ⅰ : Allegro】、
【Ⅱ : Menuetto】と、ハ長調の楽章が続いています。

 流れとしては自然すぎるので、これでは “能が無い”…
というのが、ベーレンライターの主張なのでしょう。



 しかし私は、「Mozart は敢えてそうした可能性もある」
…などと、それに反する考えを記してしまいました。

 調性のほかにも、大きな共通点が見られたからです。

        関連記事 楽章を結ぶ3度?




 さて、たとえ共通点があるとしても、疑問が一つ生まれます。

 「“Allegro” と “Menuetto” に共通点があるならば、なぜ
同時期に作曲されなかったのか?」




 なるほど、「“Allegro” と 同時期に作られたのは “Andante”
のほうなので、第Ⅱ楽章は “Andante” だ。」…という主張は、
確かに説得力がありますね。

 ただし、「作曲家が四つの楽章を順番に作る」…とは、必ず
しも言えないのではないでしょうか?



 私は作曲は出来ないので、作曲家の作業工程は解りません。
しかし、そうでない例のほうが、むしろ多いからです。




 「交響曲第6番の四つの楽章は、Ⅲ、Ⅰ、Ⅳ、Ⅱ…
の順に着手された。」



 これは、時代も国も異なる別の作曲家の例ですが、
通常は『悲愴』と呼ばれている名曲のことです。

 完成も、ほぼその順だったと考えられています。

        関連記事 信頼の結実




 話を元に戻しましょう。 Mozart の弦楽五重奏6曲は、
いずれも4つの楽章から出来ています。



 うち、メヌエット楽章の位置を見ると、次のとおりです。

    ↓

     ト短調 K516       (1787年)

     変ロ長調 K174     (1773年)
       ハ短調  K406(516b) (1787年)
          (管楽セレナード (1782年) の編曲版)
       ニ長調  K593     (1790年)
       変ホ長調 K614     (1791年)

     ハ長調 K515      (1787年)




 また弦楽重奏曲では、Ⅱ、Ⅲが、ほぼ半々です。

 ただし、ハイドン-セット以後の作品に限ります。 なぜなら、
これ以前の作品は、「メヌエットが無い」、「3楽章構成」…などの
理由があるので、比較しにくいからです。



 また先輩 Haydn の弦楽四重奏曲については、
晩年の Prestoの末尾をご覧ください。

 作品数は約80曲ですが、「前半は第Ⅱ楽章に、
後半は第Ⅲ楽章へ」…という傾向が見られます。




 演奏例の音源]は、弦楽五重奏曲 ハ長調 から
“ヘ長調の Andante”。 その最後の部分です。



 [譜例]の一段目、最後の小節からスタートしています。

 二段目の[2小節 ]は、編集でカットしてあります。







 これは Vn.Ⅰのパート譜ですが、歌い交わしている相手は
ViolaⅠ。 ここでは、独立した、大のソロ-パートに変身して
います。

 しかし第Ⅰ楽章では、“3度間隔で並行して動く” 楽器の
一つにすぎませんでした。

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 いずれにせよ、同時期に作られた二つの楽章、
“Allegro” と “Andante”…。

 その性格は、まったく対照的なようです。



 共通点があるとすれば、第Ⅰ楽章 “Allegro”
でも、Vn.Ⅰと対話をする楽器があること。

 こちらはチェロで、第一主題だけですが。




            ハ長調 五重奏曲

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              全員が指揮者?
              黒幕にも決定できない順番
              押しかけビール
              羽を伸ばす Mozart
              円やかなペア
              楽章を結ぶ3度?
              対照的な “Andante”
              黒幕は作曲家?
              束になってかかって…来ないでね
              トリは任せたよ
              解放された Viola

            弦楽五重奏曲 ト短調 K516
              疾走する Mozart …
                    など

            弦楽五重奏曲 ニ長調 K593
              呼び交わすニ長調
                    など

            弦楽五重奏曲 変ホ長調 K614
              最後に五重奏曲
                    など




楽章を結ぶ3度?

2014-01-25 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/25 私の音楽仲間 (556) ~ 私の室内楽仲間たち (529)



             楽章を結ぶ3度?



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 引き続き Mozart の 弦楽五重奏曲 ハ長調 K515
から、今回はメヌエット楽章です。

 演奏例の音源]は、Trio の後半から始まり、【42秒】
のところで Menuetto に戻ります。




 [譜例]は Menuetto の一部です。 29小節目以降の
様子で、[音源]では【1分23秒】以降に当ります。



 ここでテーマを奏でるのは、ViolaⅡ とチェロ。 楽章
の冒頭では、2つの Violin がペアで歌っていました。

 いずれも3度音程の間隔で、並行して動いています。

        



                        

 直後にテーマを繰り返すのが、Violin たち

 これと同時に2つの Viola が、やはり3度を隔て、
反対の動きで加わっています。




 この楽章の Menuetto 部分では、3度間隔で動く
例が多いようです。 2つの楽器が。 上の譜例は、
その締めに当る部分です。

 3度間隔で動くペアは、前回の記事でも主役でした。
同じ曲の第Ⅰ楽章では、これが頻繁に聞かれます。

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 さて、何度か触れているとおり、この Menuetto が第Ⅱ楽章
なのか、それとも第Ⅲ楽章なのかは不明です。

 作曲者は、心に思い描いていた順番を明らかにしないまま、
世を去ってしまったからです。

     関連記事 黒幕にも決定できない順番 の末尾



 楽章の順番を定めるに当って大事なのは、もちろん
全体の構成。 また、それに関係してくるのが、楽章
の間に “連続性” や “関連性” があるかどうかです。

 調性、テンポ、モティーフなどは、それを判断する
ための大事な要素でしょう。 




 このメヌエットを、その点から考えてみれば…。

 第Ⅰ楽章の Allegro に続く楽章としては、最適なようです。 



 共通する特徴は、まず “ハ長調” という調性。 そして、
3度間隔で動く2つの声部の響き” だからです。

 後者は、第Ⅰ楽章を聴いた者の耳に、まだ残っている。
そこでまた “2つの声部” が一緒に動き、楽章が始まれ
ば、導入は極めて自然です。




 いや、あまりに自然過ぎて、却って「策が無い。 凡庸だ。」

 そんな感想さえ、聞かれるかもしれません。 もっとも作曲者
は趣向を凝らしていますが。



 第Ⅰ楽章では動きがジグザグで、 それさえ “3度” でした。

 しかし Menuetto では、テーマは “音階” で出来ています。




 聴く者を、続く楽章へとスムーズに導く。 そのために
Mozart は、一見しただけでは解らないような、巧妙な
手段を用いています。

 「装飾音で、2つの楽章を関連付けているのでは?」



 そう推測される例が、弦楽四重奏曲『不協和音』です。

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 五重奏曲に話を戻しましょう。 第Ⅱ楽章はどちら?



 Allegretto、ハ長調のメヌエットなのか。

 あるいは、ヘ長調の Andante が先か。



 これを推測するには、まだ不充分。

 他の要素を考慮する必要がありそうです。




 今回はこれで終わりですが、以下の譜例は
参考まで。 既出のスコアです。

      関連記事 全員が指揮者?



 今回の演奏例の音源]は、Trio の後半から始まって
いました。 最初の[譜例]では、二段目の中ほど。







 そして Menuetto に帰ります。








            ハ長調 五重奏曲

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