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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

映画「殺しのドレス」・・・<恍惚の視線>デ・パルマ監督NO.10

2013-08-12 | ブライアン・デ・パルマ

製作年:1980年
■監督:ブライアン・デ・パルマ
■出演:マイケル・ケイン、アンジー・ディッキンソン、ナンシー・アレン

 

「殺しのドレス」は、私がはじめてブライアン・デ・パルマ監督の映画を見た作品です。学生時代ですから随分と前のこと。ファッショナブルなのだけどエログロも同居している、こんな映画を作る監督がいるんだとびっくりしました。このブログで何度も彼について書いているように流れるようなファッショナブルで華麗な映像美に、下世話な悪趣味とでもいうべきものが纏わりついているえもいえないような感性。そして全般に漂うのはエロティシズムのにおい。私は続くデ・パルマ監督の「ミッドナイト・クロス」を見たことによって(この作品は私の愛すべき1本です)、マイ・ベスト映画監督の一人として脳みその中に叩き込まれることになりました。ただ、残念なのはデ・パルマ監督は作品によってややムラがあるということです。がっかりすることも何度かあって見なくなったという…。その点においてこの「殺しのドレス」はデ・パルマ監督初期の傑作のひとつであり、若い映画通の方にはぜひ見てもらいたい1本なのです。

 

エログロ、下世話、悪趣味といろいろ書いているのですが、この「殺しのドレス」も冒頭の欲情のシャワー・シーンからそのテイストは全開で、欲求不満の中年のおばさん(=アンジー・ディキンソン)は続く美術館においてそこで出会った見知らぬ男と自意識過剰にして男漁りともいえる駆け引きを見せます。この美術館のシーンが、超わざとらしい演出にもかかわらずとても魅力的な映像に仕上がっています。そんなことあるのか?とつっこみをいれたくなるものの、妙に説得力がありグイグイと引き込まれてしまう。流れるようなカメラはそれだけでファンタジーであり非日常的にして幻想的なのです。その映像とともに流れるピノ・ドナジオの音楽も素晴らしく大いに盛り上げます。そしてその中年女性は美術館で出会った男とタクシーの中で、男の自宅でとその場限りの関係を持つのですが、その男が性病持ちとわかる落ちもあり、どこまでも悪趣味にして下世話なのです。

 

女が一時のランデブーに幻滅して性病持ちだった男の部屋から慌てて帰ろうとすると、有名なエレベーターにおける殺戮シーンへと展開します。剃刀をもった女(ここではあえて女としておきます)が、中年の女を襲います。そこにナンシー・アレン演じるリズ・ブレイクが登場し、カメラ・アングルの工夫とスローモーションで3者の関係性を劇的に描いてみせます。ここまででおよそ映画の半分、美術館にしろエレベーターの場面にしろ会話は極端に少なく、通常の映画よりもじっくりとカメラワークも駆使して見せるので展開は遅いといえますが、その分、各場面はとても映像言語が豊饒であり魅せられます。これは私の勝手な想像ですが、この「殺しのドレス」を見てデ・パルマ監督のファンになったという人は多いのではないかなと思ったりします。

 

後半はナンシー・アレンがメインとなります。彼女は娼婦の役柄で監督は彼女を同じような設定で何度か使っているので、そうした役柄がピッタリ合っているんだろうと見ているのでしょう。確かにスタイルもいいしどこか白痴美的で幸薄そうな所もありますから。彼女は中年女性殺害の現場を見たことにより警察から容疑がかかっており、自身の無実を晴らすためにも、犯人が出入りしていると思われる精神分析医(=マイケル・ケイン)の所に行き、会話の中で下着姿になり先生を誘惑しようとします。目的は先生のカルテを見て殺人犯を特定するためです。ここからの展開はネタバレしてしまうため書かないでおきますが、ここからの続く病院、そして再びシャワーの場面へと続く映像は、またまたデ・パルマ監督故にないし得たという私が好きな映像美となっていきます。

 

得にナンシー・アレンのシャワーのシーン。監督はほんとにシャワー・シーンが多く好きなんだなと思わされるのですが、その中でもこの「殺しのドレス」におけるナンシー・アレンのシャワー・シーンは一番魅力的に撮られていると思います。彼女を俯瞰して捉えた映像、不審な気配を察知して不安な表情で振り返るアップ、そこにはいるはずのない看護婦が履く白いシューズの人物、この状況から逃れようとスローモーションで動くシャワーのドア、そして剃刀…。エロティシズムの香とそれを引き裂くような緊迫と緊張、ドキドキハラハラ。私はこのシーンがこの映画では最も好きなところです。そしてその映像とともにナンシー・アレンも私の記憶中でマドンナとして存在するようになった。公開は30年ほど前の映画でその後何度かこの映画は見ているのですが、以前書いた同じデ・パルマ監督の「ミッドナイト・クロス」とともに忘れ得ぬ映画となっています。

 

 

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