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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

映画「ボディ・ダブル」・・・<恍惚の視線>デ・パルマ監督NO.9

2013-08-09 | ブライアン・デ・パルマ

■製作年:1984年
■監督:ブライアン・デ・パルマ 
■出演:クレイグ・ワッソン、メラニー・グリフィス、グレッグ・ヘンリー、他

 

とにかく下世話なんです。この映画。ある意味でブライアン・デ・パルマ監督のエッセンスが詰まっている作品といえるのだと思います。この映画は。展開の整合性といったものを脇に置いといても、映像としてこんなことやってみたかったんです!とばかりに、あらゆるデ・パルマ監督の映像演出のテクニックがテンコ盛りの如く見ることができます。それはブレーキの効かないダンプカーとでも言うようにでも、どこかやり過ぎ感もあり、そこでそうなるの?と言いたくなる部分もあるのですが…。

 

始まりからそのデ・パルマ調は全開で、一昔前のB級ホラー映画のような出だしから、ロックスターのような吸血鬼が棺桶から出ようとするも、実はそれは映画の撮影で役者は閉所恐怖症となりそこで身動きが取れず固まってしまうという、いきなり笑える展開とB級感もたっぷり漂う雰囲気なのです。その吸血鬼を演じていた男は冴えない役者で、家に帰ると内縁の妻が浮気をしていて、ベッドの中で男と寝んごろで、騎乗位で悶えていた女と男の視線はそこでピタリと合ってしまいます。男はいいます「彼女の顔が輝いていた」ああ、なんという出だし…。それが冒頭のシークエンスで、私などは下世話だよとばかりで、拍手喝采なのです。

 

家を出た男は住む場所を失うのですが、そこに海外滞在で長期自宅を不在にしている金持ちの豪邸の門番をしてくれと依頼があり、その邸宅に潜り込むのですが、そこで向かいの家に住む美女の一人ストリップ・ショーを覗くことになります。毎夜決まった時間に一人で無防備に踊る向かいの家の美女のストリップ・ショー。男はワクワクしながらそれを覗くことになるのですが、そうした覗き見趣味も他の映画で見ることができるデ・パルマ監督の趣向性で、そこからどんどん彼の独擅場が展開していきます。つまり、台詞は極端にすくなく流れるようなカメラワークや俯瞰して全体の動きを見せ人物関係がどうなっているかを説明していき、最後は360°の旋回映像というあのデ・パルマ調の独特なエロティシズムさえ孕んだ映像美を長時間にわたり展開していくのです。

 

覗きという行為ですっかり美女の虜になった男は不審な男が後を付けていることを発見し、女の行動を見張るため尾行することになります。そして女はランジェリー・ショップに入り下着を購入、そこで新しいものと履き変えます。それまで履いていた下着はごみ箱に捨てるのですが、男(冴えない役者)はそれを拾い自分のポケットへ。美女を救う目的とはいえこれはストーカー行為に近い状況です。さらに男は女の後をつけ、見かけた不審者は女のハンドバッグを引ったくります。後を追う男。しかし、トンネルに入ると閉所恐怖症で身動きが取れなくなり不審者を逃がしてしまいます。やがて女がやってきて男と女は抱き合うのですが、ここで2人を360°旋回のカメラで捉えるのですが「愛のメモリー」や「ミッドナイト・クロス」のような劇的な効果はありません。寧ろ欲望の表出をロマンティックにおさめようとしているものの上手くいってないのではないかという逆効果になってしまっていると私は感じたのですが。そしてそのまま前半の山場である殺人事件へと発展していきます。これら一連の展開をデ・パルマ監督は得意の映像テクニックで見せていくという手法を大胆に採用しており、これを全開と言わずして何と言うのでしょう?

しかし、おもしろいことに殺人事件後は話の展開が変わり、どちらかというと謎解きの方向に向かいます。男が覗いていた向かいの家の一人ストリップ・ショーは殺された女ではなかったことがわかります。踊っていたのはポルノ女優だったと。つまり依頼を受けて殺された女に成り代わっていたのであり、殺された女の替え玉として雇われていたです。ボディ・ダブル、ここで映画は様々なボディ・ダブルな二重構造を持っていることが段々とわかってきます。そして覗いていた冴えないB級映画に出演している男は、殺人の目撃者となるよう仕向けられ犯人にはめられていたのがわかってきます。私はこの映画をそれまで2度ばかりビデオで見ていたのですが、今回、再見したのが一番面白さを感じました。何故だろう。おそらく、終始この映画は下世話であり、過去この映画を見た時は、そこが嫌だったんではなかろうかと。でも今回はその下世話こそが心地好いと感じたのだと思います。それは私が大人になったこと?

ボディ・ダブル [DVD]
デボラ・シェルトン,メラニー・グリフィス,クレイグ・ワッソン,グレッグ・ヘンリー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

 

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