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【art】「清方ノスタルジア」鑑賞@サントリー美術館

2010-01-20 03:15:40 | art
'10.01.09 「清方ノスタルジア」@サントリー美術館

この日は16:15からNICE ONE!!のrose_chocolateさんのお誘いで『今度は愛妻家』の試写会へ行く予定。実は新年早々、前歯が欠けてしまい、予約が取れたのがこの日の12:00。ちょっと時間があるのでどうしようと考えたところ、行きたかった「清方ノスタルジア」があるじゃない!と思い出した。サントリー美術館は六本木ミッドタウンのギャラリア内にある。ギャラリアB1のイート・イン スペースにはお気に入りの刀削麺のお店があったんだけど、讃岐うどんのお店に変わってしまっていた。フード・コートでBLTサンドとヘーゼルナッツラテでランチ。急いで3Fのサントリー美術館受付へ。チケを買ってエレベーターで美術館入口の4Fへ。

鏑木清方は大好き。しかし「清方ノスタルジア」とはなんという素晴らしいタイトル! ノスタルジアっていうのは、そもそもは故郷を懐かしむことらしいけど、回顧展と書かれるよりノスタルジアの方がぜんぜんいい。そして清方の絵にはノスタルジアという言葉がピッタリだと思う。入口入って正面に見える「春雪」が素晴らしい。これ、早くも”本日の一枚”という感じ。帰宅した夫の黒の羽織をかいがいしくたたむ新妻。その少し傾けた顔の美しさ。こちらも大好きな上村松園の美人画は本当に美しくかわいらしいけど、清方の美人画は少し面長で、どちらかというと浮世絵の美人を思わせる。その表情自体はそんなに大きくないけど、その涼やかな目元と、少し開いた赤い口元、そしてほんの少しほほを染めている感じがなんともかわいらしい。夫の世話を焼くのがうれしいという、彼女の幸福感が伝わってくる。藤色の地に梅を散らし、裾には雪の模様を配した着物もいいけれど、素晴らしいのは帯。お寺の天井なんかに描かれている、曼陀羅のような模様も淡いパステルカラーみたいな配色なので、ぜんぜんきつくなくかわいらしい。輪郭線の緑青がいい。襟元の紗綾形の青色もきいている。ホントに美しい。あぁ、やっぱり来てよかった。

小さな作品が2~3続いた後、大きな作品「秋宵」がある。宵の薄暗いバルコニーのような所で、洋風の柱に寄りかかり、ヴァイオリンを弾く袴姿の女性のキリリとした姿がいい。袴の裾からチラリとのぞく足元には、ルームシューズのような形の靴を履いている。少し上を向いた日本髪の横顔が美しい。ヴァイオリンの美しい音色まで聴こえてきそうなこの絵は、新婚時代に描かれたそうで、新妻を描いたと言われているそう。だとしたら、かなり美しい方だったに違いない。この絵はリンとしていて好き。この絵の数枚先に「朝涼」がある。蓮など緑の草花の前に、藤色の着物に三つ編みの少女がたたずんでいる。この絵は何度か見ている。清方ファンにはおなじみの作品。この絵を描いた頃の清方は大スランプ。大正9年に購入した別荘で描かれたそうで、背景は金沢八景。この絵を描いたことでスランプを脱出できたのだそう。なるほど、そんな清々しさが感じられる。

「洋燈」は青地にユリの花が描かれたランプを点ける夜会巻の女性が描かれている。夜会巻は当時、中流以上の女性の間で流行した髪形。この女性の品のある姿も良家の奥方を思わせる。ランプを点けて読もうとしている本の上に置かれた左手の薬指には、大粒のエメラルドが! 黒の羽織の袖からのぞく桜柄も素敵。けっこう柄に柄を合わせて着ていたんだなと、興味深い。「遊女」は泉鏡花の「通夜物語」の丁山に題材を得たのだそう。泉鏡花は「高野聖」しか読んだことないし、調べてみたけどこの「通夜物語」がどんな話なのか不明。火鉢に肘をかけ、襟元を大胆に広げてしなだれかかる姿が妖艶。これはスゴイ。この2作並んで展示されていたわけではないけれど、対照的でおもしろい。

「薫風」は美しく清々しい作品。束ね髪に花柄ピンクの着流し姿に、松林を描いた薄い黄色の小袖を羽織っている。裾からは紫の足袋の足元がのぞく。このスタイルは桃山時代の流行だそうで、昔の風俗なども研究していたことがうかがえる作品とのこと。「初冬の雨」は傘をさした女性の後姿と、訪ねて来たその女性を、わずかに障子を開いて迎える若い娘。娘の顔がかわいい。彼女より少し年配と思われる女性の後姿がいい。この障子越しの構図は浮世絵の祖、鈴木春信の作品に多いそうで、春信は男女で描いている。清方は女性同士ににしたことにより、より清らかな感じがする。これは素敵。この後姿の女性から、恋しい男性の言伝でも聞いているのかも。なんて想像も膨らむ(笑) この構図は2枚組みの「廓の宵」では、廓の格子越しの構図へと変化。右の1枚には3人の女郎達。思いのほか配色は抑え目。杜若柄の白の着物がいい。その女郎達を格子越しに覗く頭巾姿の2人の男性を描く左の絵は、ほとんど墨一色と言えるくらい色がついていない。艶やかな世界と、外の世界の対比もいい。でも、華やかにし過ぎないのが清方らしい。

4Fの第1展示室の最後は、肖像画が並ぶ。「雨華庵風流」は三味線を前に、立てひざで座り、両手で膝を抱えるようにたたずむ老人。なんとこの雨華庵とは琳派の絵師、酒井抱一なのだそう。抱一は三味線の名手でもあったらしい。酒井抱一は大好きだけど、ぜんぜん知らなかった。「幸田露伴著『天うつ浪』の木版口絵」に描かれている、手あぶり(小さな火鉢)は柴田是清の蒔絵だそう。柴田是清は幕末から明治初期の絵師であり漆工。蒔絵が有名。いろんな作品を研究していたんだな。さすが!

階段を降りて3Fの第2展示室へ向かう。階段下のスペースには清方が挿絵を描いていた東北新聞がパネル展示されている。清方の父はやまと新聞を経営していて、その挿絵を描いていたのが師匠となる水野年方。この水野年方は歌川国芳の孫弟子。そして国芳の師匠が歌川豊国なのだそう。スゴイ! 新聞の経営が悪化したため、清方が挿絵を描いていたけれど倒産してしまい、東北新聞に挿絵を描くようになったんだとか。清方の挿絵なんて何と贅沢! ここでは清方が絵を描く工程もパネル展示されている。すごいたくさんの工程で描かれていることが分かり興味深い。

第2展示室はかなり狭い。「紫陽花」はその名のとおり紫陽花を描き、そこに文章が書かれている。ちょっと達筆すぎて何と書いているのか読めなかった(涙) 土用丑の日に門辺に紫陽花を吊るすと、家が栄えると言われていたそうで、清方はこの花が大好きだったらしい。ここでの見ものは勝川春章の「婦女風俗十二ヶ月」に触発されて描いた「明治風俗十二ヶ月」 前半と後半で展示内容が違うため、七月~十二月しか見れなかったけど、縁台に浴衣姿で腰掛けて話をする2人の女性を描いた「盆燈篭(七月)」と、人力車に乗り込み車屋さんにひざ掛けをかけてもらっている御高祖頭巾の女性を描く「夜の雪(十二月)」が好き。夏の蒸し暑さと冬の寒さが感じられる。勝川春章の「婦女風俗十二ヶ月」も四月のみ合わせて展示されている。これも素晴らしい。

「いでゆの春雨」が良かった。戦時中、美人画を描くことは禁止されていたけれど、反骨の画家清方は画室では描いていたそうで、これもその頃の作品。温泉地の宿の柵なのかな? そこに寄りかかり後ろを振り向くような姿勢で下を見ている。その顔の美しさ! 青地に梅モチーフの柄の着物と、花柄の帯が粋。確かに戦時中に不謹慎ではあったのかもしれないけれど、これを禁止してしまうなんてもったいない! 日本の宝ですよ! この絵の向かい辺りにガラスケース入りで展示されていた「小品集(草花風景スケッチ色紙)」も良かった。文字通り花などのスケッチ。その美しくかわいらしいことといったら! あんまりかわいいので唐辛子と桜の絵葉書を購入して、会社のデスクの前に貼って疲れた時に眺めて癒されている。

そして最後に”本日の一枚”について。これは第1展示室の後半にあった「二人美人図」 これスゴイきれいだった。花柄ピンクの着物の若い娘と、若衆髷の人物。二人美人となっているからにはこの若衆も女性なのかな。紫の着物の上に杜若が描かれた羽織を袖を通さずに羽織り、懐から出した手に煙管を持って、鏡を見つめている。その顔がキリリとしててキレイ。その若衆の後ろで膝をついて鏡を覗き込んでいる若い娘がなんともかわいらしい。紙で手をぬぐっている感じからすると、化粧が済んだのかな。ホントに美しい2人。胡坐をかいた若衆の膝の辺りに置かれた、煙草盆の杜若の蒔絵が素敵。この盆と若衆の羽織の杜若は「伊勢物語」を表しているのだそう。そして女性のように(この絵は女性?)なよなよと美しい若衆と娘という構図は、鈴木春信の浮世絵によるもの。第2展示室の入口には垂れ幕状のものに、清方が語ったと思われる言葉がいくつか掛けられていたけれど、その中の1つに「ボッティチェリの悩ましさも シャヴァンヌの純潔も 大和撫子や水仙の趣ではない それは只 我春信あるのみである」というのがあった。ホントにそうだと思う。清方も春信が好きだったと知ってウレシイ。

喜多川歌麿から上村松園まで、大好きな美人画家はたくさんいる。それぞれ美しく、かわいらしく、なよやかで、なまめかしいけれど、匂いたつように艶っぽいのに清々しいのは清方だなと思う。清方の美人は清々しい。今回発見したこと。ギリギリで半分見るの諦めていたけれど、行ってよかった。素晴らしかった!


「清方ノスタルジア」(サントリー美術館HP)

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