白隠和尚のブログ

今日より明日が幸せでありますように。好奇心旺盛な70代のブログ。

誰も彼に敵わなかった

2018-10-05 13:58:35 | 日記

毎年恒例の退職者懇談会の席でS氏の死亡を知った。
40代で賃貸アパートを3棟打ち立てた、自らの信念に生きた見事な金の亡者の思い出話である。。

彼は入社した時から一風変わっていた。
会社が退けても周囲と交わろうとせずその私生活は誰も知らなかった。
ずんぐりむっくりの目立たぬ男で顔はいつも脂ぎっており無表情だった。
彼の財布はいつも畳めぬ位一杯詰まっていた。

彼は直ぐにその異才を発揮し始めた。
まず職場の誰もが嫌がる宿直業務を一人で引き受けてその手当を独占した。
彼はこの時期だけ皆にちやほやされた。

ところが入社間もない若者の月給が課長のそれを上回ることが分かって課長の怒りが爆発した。
「会社で寝泊まりする馬鹿者がいる」との一言で宿直の連泊は禁止された。
同時に職場の風向きも変わり、この年をさかいに彼の将来は閉ざされた。

次に彼は残業手当に目を付けた。徹夜仕事も進んで手を挙げ買って出た。
課長はS氏を内勤に変えた。
暫くすると妙な噂が立った。S氏が高利貸しをしているというのである。
厳しい取り立てに音を挙げた連中が課長に注進に及んだらしい。
貸し金を請求するときのS氏の顔は鬼だったという。
この頃になるとS氏は完全に孤立していたが、彼は屈しなかった。
舶来の高級腕時計をひけらかし、仕立て屋を呼んでスーツを仕立て、
ときどき怪しげな保険の外交員を呼んで長々と話し込んだ。
そして社長と同じ6気筒エンジンの高級車を乗り付け度胆を抜いた。

遂に課長は決断した。昇格を条件に体よくS氏を追い出しを図ったのだ。
課長の魂胆は見え見えだったので職場の皆は一波乱あることを期待したが、
S氏は平然とその辞令を受けとり引き下がった。

暫くして彼が退職したらしいという噂が聞こえてきた。
上司との折り合いが合わなかったのが退職理由だというがそうではあるまい。
彼は働くことに飽きたのだと私は思っている。
「金の無いのは首が無いのと同じ」というのが彼の口癖だったから自信満々の退職だったと思う。


お わ り