僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

ケータイ小説「エロスとパトス」④

2008年10月11日 | ケータイ小説「パトスと…」
次のパンチは鼻の直前をすりぬけたのでそいつは勢いあまってバランスを崩したが、すぐにファイティングポーズを取ると目で笑いながら顎を突き出し今度は大きくのけぞった。
またすぐに向き直ってジャブを繰り返しながら、おまえもやれよと顎で誘った。

殴られる真似なのか。
殴られなかった。
安堵感で力が抜けた。

ケンカの(形)なら辰雄も知っている。父親が欠かさず見ていたテレビの西部劇には毎回必ず殴り合いのシーンがある。侮辱された男が、あるいはお尋ね者がぶち切れて相手に飛びかかっていく。仲間がそれに加わる。テーブルが倒され椅子が飛び酒場のカウンターに投げ込まれる。ふらふらと立ち上がった男に酒瓶が振り下ろされ粉々に飛び散る。そんなに殴られても鼻血が出ないのはやっぱりカウボーイは肉体労働だから強いのだろうなどと辰雄は思いながら、最後にこれも必ずある撃ち合いのシーンが始まるのを待っていた。

右のパンチを左手で受けつつ空いたボディへパンチを繰り出す。何発かに一回は相手のパンチがクリーンヒットし、自分も倒れるが相手をにらみ返し唇に付いた血を手の甲で拭うと素早く立ち向かっていく。そんなパターンだ。

それをやれと言うんだな。まねっこするだけでいいんだ。それで殴られないのなら簡単なことだ。
辰雄は反応した。殴り合いのまねっこごっこをした。楽しんでいるふりをした。
そいつは満足そうな顔でしばらく殴ったり殴られたりし、「明日も来いよ」と言うと秋田犬を連れて帰っていった。


辰雄は夕飯を残しテレビも見ずに布団にもぐりこんだ。頭の中にあいつの言葉がこびりついていた。

「明日も来いよ」

それが「明日も遊ぼうな」だったら辰雄を孤独にすることも苦しめることもなかったはずだ。すごまれたわけではなかったがその言い方は、言うとおりにしないと今度は本当に殴られるに違いないと思わせるに充分な強制力を持っていた。  つづく










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