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僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

思い出のシーン…「トント」

2012年06月08日 | SF小説ハートマン
「宇宙、いらっしゃい。」
気がつくとママがそばに立っていた。

「餃子作るの手伝って。」
僕の肩を抱いて台所へ連れて行った。

丸い餃子の皮に具をスプーンで取り、指で水をつけながら包んでいく。
ヒダを上手に作れるようになって僕の大好きなお手伝いになった。
いつもママと楽しい会話をしながら競争で作る。

上手になる前、僕の作った餃子はすぐに分かってお父さんにも笑われたものだった。
「これは爆発したのか?それともワンタンなのか?」

今はママとほとんど変わらない形に包める。

「うーむ、お前は料理の鉄人になれるかも知れない…」
なんてお父さんに言われたこともある。

そんな楽しいはずのお手伝いにも今日は手が動かなかった。
ママが5個作る間に僕は何とか1つ、しかも形になっていない。

ただ涙が落ちるのを必死にこらえていた。

ママは一人でしゃべっていた。

「餃子はねキャベツだけじゃなくて白菜も入れるのよ、中国人のお友達が教えてくれたの。
その人今度ね小龍包も肉まんも教えてくれるって。
ママ習ってきたら宇宙にも教えてあげるからね。宇宙は鉄人だからすぐに上手になるわよ。
ショウロンポウっていうのはね、小さい肉まんみたいな物だけど、中にスープの煮こごりみたいのを入れてね、煮こごりって知ってる?…」

ママは一人でしゃべり続けていた。

僕が黙っているのに、どうしたの?って聞かないでいつも通りどんどん餃子を作り続けた。

僕はこらえきれなくなってママに抱きついた。
わぁーんと大声を上げて泣いた。
ママは僕の背中を何度も何度もそっとなでながら抱いていてくれた。