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僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

老婆…②

2006年07月14日 | SF小説ハートマン
数時間後、老婆は洞窟に座っていた。
どこにそんな力が残っていたのだろうか。手に錫杖を握りしめ鉱泉のしみ出る岩肌に向かってなにやら意味不明の言葉ともうめきとも判別できない声を発している。

洞窟には数百本のろうそくがあった。老婆が震える指でそのひとつを指し示すとジジッと音がして火がともった。指が左右に揺れ動くと全てのろうそくに火がともり、彼女の顔を、その深いしわまでくっきりと照らし出した。

「ナーマンサーマンハートマン、ターバンカビサンイソワカ、サラナンセンダンマーカロシャーナスワ、タヤウンタラミリンダン・・・」

ひからびた口には泡になった唾液がへばりつく。体全体を震わせ肉眼ではっきりと見えるほどのオーラを発している老婆。うめきにも似た呪文がしだいに熱を帯びてくる。
数百のろうそくが一斉に揺れ動き、瞬くと、洞窟の岩肌から岩盤が数枚剥がれ落ち激しい音をたてた。

GS-DSの大型スペースシップ内、貨物ブロックのICUポッドに横たわるハートマンのうめき声と老婆の呪文が重なり共鳴を始めた。なおも熱く呪文をはき続ける老婆。

震える両手が一瞬空を彷徨い落ちた。

口から泡を吹き硬直した体をのけぞらせた後、ぼろ布のように崩れ落ちた。同時に数百のろうそくが吸い取られたかのように消え、白い煙が数百の揺らめく筋を描いた。

死斑の浮いた老婆の顔には深くしわが刻まれていたが、ひび割れた口元には優しい微笑みが浮かんでいた。錫杖を取り落とした後握りしめている筋張ったその左手首に、ほくろのように見えるハート形の傷があった。

数百万パーセク離れた空間に浮かぶ大型スペースシップの中、ICUポッドに横たわるハートマンの体にフル充電されたプロトン電池のような凄烈な力がわき上がっていった。   つづく