◎2021年6月26日(土)
登山口前駐車地(8:50)……蛙のおんぶ岩?(9:31)……東峰(9:44)……雨降山(10:04~10:16)……大鳥屋山・968m標高点(11:07)……910m級小ピーク(11:32)……御荷鉾スーパー林道(12:19~12:34)……展望台・法久峠地蔵尊(13:16~13:26)……登山口駐車地(13:57)
雨降山のことは、昨年の11月に城峯公園から神山に登った際、神流湖越しに見えた山として初めて知り、いずれ行くつもりでいた。『山と高原地図・西上州』に雨降山は掲載されていない。御荷鉾、赤久縄山エリアなのに、よほどにマイナーな山なのだろう。地形図頼りになる。念のため、ネットで調べると、雨降山周回だけなら2時間半、さらに尾根伝い西の大鳥屋山を含めれば+1時間ほどのようだ。ピストン歩きが嫌なら、帰路は御荷鉾スーパー林道歩きになる。元気な方はさらに御荷鉾山まで行くようだが、そうなると7~8時間の歩きだ。東西の御荷鉾山も赤久縄山も35年前に済ませていて、どうしても改めて行きたい山の印象はなく、林道歩きばかりをしていたような気がする。今日の行程のベースは雨降山。天気次第で大鳥屋山を加えた周回にする。余力はあるはずだから、その後に車移動でオドケ山に行くつもりだ。この山だけは『高原地図』にあった。せいぜい40分もあれば回れそうだったし、そこだけの登山で行くにはガソリンの無駄遣い。あくまでもついでの山だ。
登山口前の駐車場とはいっても若干広い路肩があるだけのことだが、他に車はない。ここでスーパー林道に南から細い林道が合流する。準備をしていると、そちらから爆音が聞こえ、インチアップした改造ジムニーが上って来た。まさかと思ったが通り過ぎたのでほっとしたが、こんな車に林道走行であおられたら、嫌な感じになるだろう。
登山口には雨降山の解説板があった。「山頂からは関東平野を一望し、近くに上毛三山、遠くに上越の峰々を望めます」と記されている。この梅雨空の曇天では叶わないだろうが、「琴平神社の奥の院として御嶽教を祭っており、……」という記述が気になった。かろうじてスマホが電波を受けたので調べると、北にある藤岡市の三波川地区に琴平神社があるらしく、そこの見所は「おいぬさま」の狛犬とのこと。帰りがけに寄ることにしよう。ついでに地図を見て神社の位置はわかったが、雨降山に奥の宮がある以上は本社から続いている道があるはずだろうに破線路すらない。以前は信仰の道もあったとは思うが、その間の地形は入り組んでいる。
(登山口から。舗装道が続いている)
(登山口にある雨降山の説明板。右にある「御荷鉾山展望台」標識は、この時点では関心もなかった)
(ここから山道に)
しばらく、途中から未舗装になりはしたが、車が通れるほどの道が続いた。侵入禁止でもなかった。5分ほどで終点。鳥居が置かれ、ここまで車で来たとしても、ここからは歩くしかなく、車を乗り入れるメリットはなさそうだ。見上げると、植林帯が広がっている。ここを地道に登るのかと思うと気がしぼむ。この時期の歩きには、せめて風が欲しい。それでなくとも、朝からじっとりしている。植林では風も期待できず、汗の垂れ流し登りになるのは確実。
(風も通わぬ登山道)
(標識には10m単位での距離数が記されている)
(こんなところが「迂回」になっている)
案の定、クネクネと登って行くと、汗が頭から、身体からと吹き出し、全身がベトつき、手拭いはすぐに重くなった。何ともうっとうしい。上の尾根に出るまでの辛抱かと思うが、改めて地図を広げると、美原トンネルを出てすぐに、北西に上がって777m標高点を経由する破線路があった。スタートから尾根歩きだし、そちらが正解だったかもしれない。もし、雨降山ピストンということにでもなったら、その破線路を下ってみることにしよう。
明らかに初心者向けに安全に設置された道だった。二か所ほどに「迂回路」があり、大きく迂回するのかと思いきや、すぐに道に戻る。その間に、何がバリアなのかと確認すると、道がわずかに陥没している程度のもので、普通ならわざわざ迂回はするまでもない。ふれあい道でもあるまいに、標識は親切なほどに置かれている。傾斜も甘い。というのも、きつくならないように、敢えて緩くクネクネさせている。それはそれで助かるが、どうであっても風当たりがないのに変わりはなく、徐々に限界に達していく。メガネ拭きに使っていたもう一枚の手拭いを汗ふきに転用し、以降、汗はズボンから出したシャツの裾で拭いた。シャツといえば、今日は半袖にしたが、虫除けに使ったハッカ油もすでに汗とともに流れ落ち、芳ばしい香りはかろうじて衣類にかすかに残っている程度だ。
(ようやく、うっとうしい登りの斜面が終わりそうだ)
(蛙のオンブ岩)
上に東西につながった尾根が見えてくると岩が出てくる。登山道にぶつかることはないから岩越えはないものの、その岩の中に、足尾の庚申山に行く途中で見かけるような重なった岩が見えた。その場には看板も何もなかったが、帰路の林道歩きで目にした案内看板には「蛙のオンブ岩」とあった。おそらく、この岩のことだろう。庚申山のそれは「夫婦蛙岩」だ。ともにカエルを名前に付けている。いずれも信仰の山でもある。カエルに何かあるのだろうか。後になって素朴な疑問が生まれた。
尾根真下で風通しは少しはよくなった。植林が自然林になった分、気分的なものもあるのか、蒸し暑さからは幾分解放された。それよりも、反対側の尾根真下から金属音が聞こえてくるのが気になった。鉄板を叩いているような音だ。とにかくうるさい。山側だから、産廃処理場でもあるのか。木立で何も見えない。地図を見ても、それらしき建屋のマークはないが、北側の林道が延長されて最近出来たのだろう。騒音はしばらく先まで聞こえた。
(霊神四基)
(日本武命だろう)
(何とか荒神)
四基の石碑が置かれていた。それぞれに紙垂が巻かれているので肝心の上の文字は読めないが、すべて「霊神」となっている。御嶽教の神様の名前が刻されているのだろう。この先、尾根に出ても、離れて二基見かけた。曇っていたら不気味な気配になるかもしれないが、尾根上には木漏れ日が差し込んでいる。これからからっとした天気になるのだろうか。濡れた地面から水が蒸発しているのか、空気はモヤのように白っぽくなっている。
(トタン張りの小屋)
(改めて鳥居があって)
(奥の院)
左上に青いトタン張りの小屋が見えた。かなり俗っぽい風景を見てしまった気になったが、ここは奥の宮の社務所か物置なのだろう。小屋の下には鳥居があって、石碑や木の神社が置かれている。ここが奥の院らしい。ということは、ここが雨降山かと思ったが、雨降山の標識は先を向いている。ここは雨降山の東峰のようだ。出発からここまで一時間もかかっていない。身体がベトついて不快だが、息切れもしていないし、ストックも出していない(結局、今日は最後まで出さなかった)。体調は良いようだ。というか、この程度の山ならだれにでも楽な山の部類だろう。
(NHKの電波塔の脇を通って)
(山頂へ)
(山中で唯一見かけた花)
(雨降山山頂)
山頂に向かう。物置の上の高台には、登山口先の鳥居にあった看板<NHK中継放送所>(正確には「NHK三波川テレビ中継放送所」もあったし、「FM GUNMA」も併設してある)の電波塔がある。周囲は明るいが、ここも木立に包まれ、少なくとも関東平野一望云々のスポットではないようだ。ここから不自然に感じながらコンクリの電柱と電線が尾根脇に続く。雨が上がったばかりらしき尾根を少し下って、少し登ると雨降山の山頂に着いた。
ここもまた周囲が木立で薄暗く、関東平野どころか、展望が抜けているところはまったくない。セルフ撮影も一回目は暗かったので、ストロボ発光で撮り直しをしたくらいだった。山頂はそこそこの広さの平地だが、景色を眺めながらゆっくりと食事でもするのなら、葉が落ちた晩秋から冬にかけての頃ではないだろうか。ただ、その時期は御荷鉾スーパー林道も閉鎖される。ぎりぎりの晩秋だろう。その前の紅葉期はどうなのだろう。植林が主体だし、期待はできまい。幸いにも風通しは良い。腰掛けする手頃な石はなく、倒木はたっぷりと水気を帯びていたから三角点標石に腰掛けてアイコスを吸った。
この山の名前が雨降山というのは、それなりのいわれがあるはず。後で『日本山名事典』で調べると、「東峰に御岳大権現があり、雨乞いの信仰登山が行なわれた」とある。雨が降ってばかりの山かと思ったが逆だった。一月に川場村の雨乞山に行ったが、山名はストレートで調べるまでもない。上野村にも雨降山があるようだ。全国ならもっとか。
(大鳥屋山へ。この時点では赤白のテープが目印とは気づいていない)
(雨降山の下山コースらしい)
ためらうこともなく大鳥屋山に向かう。地図には雨降山の山頂からそのまま南に林道に下る破線路があるのに、山頂の標識にはそちら方面に指標はなく、大鳥屋山方面に「展望台 1760m」とあるだけ。ちなみに自分が来た方向には「登山口 2270m」とあって、10m単位のアバウトではない距離表示に首を傾げもしたが、それはともかく、破線の下り尾根方面には下れそうなところはない。ここで林道までどうやって下るのだろうと思いながら尾根を西に下って行く。標識の「展望台」とは地図上でどこなのかずっと気になっている。
尾根を少し下ると、左下にブル道というか作業道が通っていた。標識の「展望台」がその道に向けてあった。自分の進行方向には何もない。つまり、雨降山のみで終わりの帰り道はこのブル道のようだ。いずれは破線路につながっているのだろうか。しかし、「展望台」とはどこなのだろう。この先も、別のブル道が尾根下を通る。あれだけは歩くまいと思って避け歩きはしたが、尾根の鞍部でブル道がカーブして尾根に接触していたため、2、3歩ほど踏んでしまった。ここまで、このブル道のおかげで、尾根上は歩きづらかった。道の造成のために、切り倒した木や枝を尾根に押し上げていたからだ。
(下り尾根で別のブル道にぶつかる)
(これはまた別のブル道。登山者には不愉快な道)
(そのうちに、舗装林道が見えた。スーパー林道だろうか)
やがて、左下に舗装道が見えてきた。地図に照らすと、スーパー林道のようだ。こう、高いところを林道が通るエリアの山歩きは、往々にしてこういうことがある。気分よく歩いていると、横切った林道を見た瞬間にがっかりする。前述した御荷鉾山も赤久縄山もしかりだった。こうして目障りな林道を忌み嫌っているのも今だけで、後で、その林道に早く出会いたくてどうにもならない状況になることになる。
(つい、巻き道のテープに頼る)
すでに踏み跡の世界になっている。それでいて踏み跡は明瞭。尾根上が植林帯に再び突入すると、これが果たして歩行用なのか伐採の目印なのかは知らないが、その濃い踏み跡に沿って赤二本のテープが樹に巻かれて、これが続く。小ピークのトラバースもテープを追えば安心で、これはどうも歩行用のテープでもあるようだ。別に、テープがあってもなくとも、紛らわしい枝尾根のない尾根伝いだし、コンパスも雨降山からは真西に向けているので問題はないが。
いくつか小ピークを越えると、自然林も混在するようになった。木の葉が堆積してフカフカになる。これはこれで、単調歩きへのアクセントにもなるが、よくみると、実のない栗のイガがやたらと落ちている。この辺はクマの生息地のようだ。今のところ、雨降山の真下でシカを一頭見かけただけだ。
(作業道、林道からも離れてほっとして歩くと)
(これだ)
(大型の動物の足跡)
(フカフカ)
(ここが大鳥屋山かと思う)
(山名板1)
(山名板2)
間もなく968m標高点(大鳥屋山)というところで、とんでもないものを見た。放置されたというか投棄されたハイエースワゴンと冷蔵庫。林道からこの場所までは標高差が70mほどある。周囲に車が通れるような作業道の痕跡もない。どうやってここまでこんなゴミを運んだものやら。何もここだけではなく、過去にも同様な風景を何度か見たことはある。常識レベルでは想像できないことをする人間もいるものだ。考えてみれば、伐採用のウインチで引きずり上げるという方法が使えるかもしれない。その場合の協力者、事情通となると…。
クマの生息地と記したが、大鳥屋山の山頂下のフカフカに新しい窪みをいくつか見た。自分の少ない体験では、明らかにクマかと思われる。靴型でないことは明らかで、さりとてシカやタヌキならもっと小さく、イノシシにしては大きい。
冴えない感じの小ピーク。六畳間ほどの広さか。展望なし。ここが大鳥屋山かと思うが、山名板はないのかと探すと2枚あった。「登山記念」と書かれた方の山名板の裏には、同一人物らしき筆跡で日付が三行に記されていて、一番新しいのは今年の1月4日だ。その前は前年の1月と3月。スーパー林道は通行止めの時期だから、林道からちょい登りできるはずもなく、強い大鳥屋山ファンの方なのだろう。
(尾根伝いに北西に下ってしまった。尾根型は明瞭)
(クリの実のないイガがあちこちに。後で気づいたが、左の樹の皮が剥がれている)
(左下には林道。910mにこだわるなら、一旦登り、それからここに戻り、林道に出るのが正解だったようで、以後、地形図に合わせて下ろうとしたのは大失敗だったともいえる)
クマの気配を感じたばかりにそそくさと立ち去る。帰路は尾根伝い北西寄りに910m級ピークに行き、そこから南西に下って石神峠。後は林道歩きで戻るというもので、まして当てにはならないものの破線路が続いているので、30分もかからずに峠に出られると思っている。これはスムーズに行けばのことだが、まさか逸脱した歩きになるとは想像もしていない。この先、コンパスすらセットしなかった。ただ、ここで気をつけなければいけないのは、破線路は910m級ピークには寄らず、南側10mほど下を巻いて通っているということ。このことは後になってから気づいた。
ここからややこしい歩きになる。まずは910m級ピークを目指す。尾根を忠実に北西に下っているつもりでいたが、やや平らな斜面になった左側にも尾根が下っている。どこから派生しているのか確認もしなかったが、そちらが本尾根に思えたので、尾根ミスと判断してそちらに向かった。910mを経由しない限りは、それでよかったかもしれないが、910mにこだわっていた。途中で、南に向かう尾根ではおかしいのではないのかと、再び、元の尾根に戻った。そのまま下っていたら、法面で立ち往生になるんじゃないか。このあたりは方向感覚もまだしっかりしていた。尾根の樹々にはすでにテープはない。踏み跡らしきものも薄くなり、またもや実のない栗のイガが山になっているのが何か所かあった。
(向こうの尾根に行こうとして、<?>になって戻る)
(910m級ピーク。ここは休むまでもない)
(尾根型が次第に不明瞭になり)
(尾根を下るのはおかしいんじゃないかと、左にずれるとこんなところに出てしまった)
910m到着。目ぼしいものは無く、植林のブリキ看板が倒れているだけの狭い小ピーク。山名なぞあろうはずもない。ここまでは一度尾根の選択に悩んだだけだから特別な問題はない。問題はこの先だ。本来なら、ここから南西に下るべきところを(その「べき」の認識はあった)、何もためらうことなく、910mまでの延長のまま北西に下ってしまった。尾根型は次第に不明瞭になり、地形が複雑になり、本尾根と思った尾根は枝分かれして選択に迷うようになり、太いと思って選んだ尾根そのものの傾斜も増した。その間には水のない谷もある。GPSを出した。初めて間違った方向に下っていることに気づいた。こういう場合は910mに戻るのが当たり前のことだが、それをしなかった。トラバースで破線尾根への復帰を目論んでしまった。その前に、地図を見て、このまま下れば、石神峠に至る北からの破線路にぶつかるはずなのだが、実際の地形はそう甘くはなく、本尾根がどれかすでにわからなくなっている。
トラバースをしていけば、910mから南西に下る尾根にぶつかると思った。簡単にはいかなかった。急な小尾根がいくつもあり、岩だらけの谷では、岩に足を滑らせ、危うく岩角に顔面をぶつけるところだった。GPSを見ても、目当ての尾根にまったく近づいていない。陽は隠れ、これが雨になったらヤバいなと思わずにはいられなかった。
方向感覚が狂い出した。尾根を下れば林道に出られると思っていた。だが、自分のいる場所は反対側。ここは登らないといけない。ようやくそれに気づいたのは、陽が再び出て、背中に陽が当たった時だった。自分が、方向違いに北に下っていることを悟った。ここは太陽のある南に登らないといけない。
(ダメモトであの尾根に這い上がる)
(頼った木は、この太さでもあっさりと折れた)
(ようやく尾根には出たが安心はできない。結構、急だった)
(尾根を登り切ると、これを見てほっとした)
(もう、林道まっしぐら。なりふり構わずといったところ)
(ヤレヤレ…)
きびすを返すと、右手にしっかりした尾根が見えた。がむしゃらに尾根に這い上がった。ズルズルと滑った。尾根に出てほっとしたが、その尾根は急で長かった。つかむには手頃な立ち木は大方が朽ちていて、ボキボキと折れて役に立たない。それでも何とか登りきると、そこには東西に尾根が通っていて、まだかとため息が出たものの、明らかに目印テープがあり、左に向かえば間違いはない。尾根も平坦だったのでほっとし、東側に向かうと、すぐ右下に林道が見えた。
林道にまっしぐらに下ったのは言うまでもない。とにかく、山中彷徨から一分でも早く解放されたかった。道端にへたり込み、落ち着いてから水をがぶ飲みし、ヤマザキのランチパックを食べ、アイコスを吸って、ここでようやく人心地が付いた。本当は紙巻きタバコを思いっきり吸いたかった。持ってきていないのでは仕方がない。しかし、今日は林道歩きがあったので、ワークマンズックにするか「初心者用」をうたい文句にした登山靴にするかで迷ったが、登山靴にして正解だった。ズックだったら、靴の中は泥だらけになっていた。そして、後で確認した写真は、迷った区間の写真のほとんどがピンボケになっていた。それなりに動揺していたのは明らかだ。
(林道はふれあい道だった)
さて、ここから駐車地までは少なくとも4kmはあるだろう。上り基調ならつらいだろうなと地図を見ると、少しの上りもあるが、ざっと860mから670mへの下り基調でほっとした。逆だったら、それに気づいたその時点で、歩く気が失せ、足取りも重くなる。
このスーパー林道だけはふれあい道区間だった。歩いて行くと、ふれあいマークの入った道標が目に付いた。それには進行方向に「御荷鉾山展望台 1.8km」とある。雨降山からの下りで気になった「展望台」とはこの展望台のことだろうか。展望台というくらいだから、展望地であるわけで、林道から少しばかり離れたところだったら、寄り道をしてもいいだろう。
(スーパー林道はここで左にカープしている。見えている道は法久、鬼石方面。その上に広場があって、そこが「展望台」だった)
(この林道分岐地点に雨降山登山口がある)
(広場。展望台とはいっても、右側は木立で展望はまったくきかない)
(ここから御荷鉾山が見えるから、こんな看板があるのだろうが)
(ふれあい道の案内)
(半信半疑が続いていたが、やはり展望台はここしかない)
(法久峠地蔵尊)
下りながらもこの1.8kmが長く感じる。林道をただ歩いているだけだし、道連れもいないから尚更。林道が左にカーブするところに分岐林道があり、その上に広場があった。カーブには標識が置かれていて、ここが雨降山への別登山口、つまり、自分が入った登山口からすれば下山口ということになる。広場に入ってみた。御荷鉾山の説明板があり、地図看板もあった。地図看板を見ると、ここが展望台だった。どこが?と言いたくなるような展望台だ。ここもまた樹々の葉が落ちた季節向けの展望台なのだろう。今は何も見えやしない。ここは法久峠というところらしく、法久峠地蔵尊のお堂があり、中のお地蔵さんはまだ新しい感じがしないでもない。朽ちたというか腐りかけのベンチがあったのでここで休む。『山と高原地図』を開き、御荷鉾林道周辺の山々を改めて確認する。雨降山は切れて載っていないが、大鳥屋山はコースは出ていないものの名前だけは載っている。左に林道を追うと、この後に登るつもりでいてすっかり忘れていたオドケ山が目に入った。ついでの短時間歩きで済む山とはいっても、今日のところは無理だ。910m過ぎのルート探しですっかり困憊してしまった。今日はヤメだな。その気にはとてもなれない。
(野イチゴ。子供の頃、ヘビイチゴと言っていた。これを食べては舌を真っ赤にしていた。酸っぱいだけで決しておいしくはない)
(ようやく出発登山口に戻った。林道歩きは一時間少々)
林道を車やバイクが気まぐれに通る。この林道、道の端にはコケが付いていて、何気なくその上を歩いたら滑って転んでしまった。要注意だ。雨がポツリと落ちてきた。いよいよかと思ったら、それで終わりだった。すぐに陽が出た。梅雨空の気まぐれ。
ようやく駐車地に到着した。ヤレヤレとほっとした。着替えたいが、着替えは持ってきていない。せいぜい、長袖シャツで登るつもりでいたこともあって、それだけはあった。上半身の下着と半袖は脱いで着替えをしてすっきりしたが、下半身は泥だらけ、汗まみれで、不快だが、このまま帰るしかない。
5時間もかけてしまったが、そのうちの一時間は途方に暮れた歩きをしていた。これが、日光、足尾方面の山でなくてよかったと思う。この辺は、どこをどう間違って歩いたとしても、里につながる道には出られるはずだ。久しぶりにこんな歩きになったが、雨にあたらなかっただけでも幸いだったか。雨になったら、濡れるだけでは済まず、霧がかかって視界も悪くなる。さらにさまようことになったかもしれない。さりとて、「これからは自戒」なんて殊勝な気持ちにはなれないのが不思議だ。日光、足尾の山ではないからこそ、疲れはしたが、たまには、こんなヘマな歩きもありかな、なんてとぼけるというかうそぶいて済ませられる気持ちの余裕は残っている。おバカさんとしか言いようがない。お家芸の道迷いは抜けきろうにも、潜在的に楽しみ、もしくは我が歩き方の一つとして身に着いてしまっている。今さらどうにもなるまい。
ナビで琴平神社にセットしたが、車のナビでは該当地はなく、スマホのグーグルマップでセットした。走行距離は10kmを超えていた。神流湖近くに下って大回りして行くしかないようだ。スーパー林道ですぐかと思ったが、なぜかそちらルートの案内はなかった。何かあればと従った。神社は国道の途中から分岐する三波川に沿った県道沿いにあるはずだが、さらに先の妹ヶ谷不動滝には去年の11月に行っている。
(がっかり。迂回路案内も無く不親切だ)
県道に入ってしばらく行くと、いきなり<工事中につき全面通行止め>のガードが道を塞いでいた。ここに来るまで、事前の注意看板も目にしなかった。今は人家も途切れたとはいえ、この先には三波川郵便局もあるし、集落も続いている。どういうことになっているのかとあきらめ、一旦、引き返すと、戻るような脇道があったので入り込むと、ナビの表示の先には、件の県道に迂回するどころか、北側に続く道になっていた。これではもうダメだと帰路に就いた。残念ながら琴平神社のおいぬ様には会えずで終わり。
集落があるのに行けないのはおかしいと、帰ってからパソコンでストリートビューを見ると、自分が折り返した脇道の先に分岐した道があって、それが郵便局の方に向かい、通行止め区間の少し先で県道に合流していた。今さらどうしようもないが、せっかく行ったのに道路迂回の案内がないのは、地元の人は当然にわかっていたとしても、観光客には不親切だ。まして、不動滝のある御荷鉾山不動尊から御荷鉾山に登る登山道もある。通行止めでは、迂回路を知らなければ、また戻ってスーパー林道から登るしかなくなる。
帰り道、車搭載の気温計はずっと29℃になっていた。往復ともに一般道経由だ。往路はともかく、帰路ではさすがに疲れたのか、眠くてどうしようもなかった。オートマの車の運転だったら、おそらくは居眠りもしかねないが、何せマニュアル車だ。頭はボーッとしたものの、本庄市内を通過する時はせわしなくクラッチを踏んではギアチェンジをしなければならず、その点、少しは眠気覚ましにはなったようだ。
(今回の軌跡)
「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)、数値地図250mメッシュ(標高)、数値地図50mメッシュ(標高)及び基盤地図情報を使用した。(承認番号 平24情使、 第921号)」
6月の山行はこれで終わり。滝見を含めて計3回だった。週一歩きには一回足りず、実は29日のコロナワクチン二回目接種の翌日は副反応の症状が出るかもと休暇を取っていて、症状が出なかったら、今回、行き損ねたオドケ山と近くのもう一山に行くつもりでいた。だが、そんなに甘くはなかった。朝から悪寒がするわ、腕は痛くて上げられないわ、全身と喉の痛み、…。そのうちに午後から微熱が続いた。山どころではなかった。
登山口前駐車地(8:50)……蛙のおんぶ岩?(9:31)……東峰(9:44)……雨降山(10:04~10:16)……大鳥屋山・968m標高点(11:07)……910m級小ピーク(11:32)……御荷鉾スーパー林道(12:19~12:34)……展望台・法久峠地蔵尊(13:16~13:26)……登山口駐車地(13:57)
雨降山のことは、昨年の11月に城峯公園から神山に登った際、神流湖越しに見えた山として初めて知り、いずれ行くつもりでいた。『山と高原地図・西上州』に雨降山は掲載されていない。御荷鉾、赤久縄山エリアなのに、よほどにマイナーな山なのだろう。地形図頼りになる。念のため、ネットで調べると、雨降山周回だけなら2時間半、さらに尾根伝い西の大鳥屋山を含めれば+1時間ほどのようだ。ピストン歩きが嫌なら、帰路は御荷鉾スーパー林道歩きになる。元気な方はさらに御荷鉾山まで行くようだが、そうなると7~8時間の歩きだ。東西の御荷鉾山も赤久縄山も35年前に済ませていて、どうしても改めて行きたい山の印象はなく、林道歩きばかりをしていたような気がする。今日の行程のベースは雨降山。天気次第で大鳥屋山を加えた周回にする。余力はあるはずだから、その後に車移動でオドケ山に行くつもりだ。この山だけは『高原地図』にあった。せいぜい40分もあれば回れそうだったし、そこだけの登山で行くにはガソリンの無駄遣い。あくまでもついでの山だ。
登山口前の駐車場とはいっても若干広い路肩があるだけのことだが、他に車はない。ここでスーパー林道に南から細い林道が合流する。準備をしていると、そちらから爆音が聞こえ、インチアップした改造ジムニーが上って来た。まさかと思ったが通り過ぎたのでほっとしたが、こんな車に林道走行であおられたら、嫌な感じになるだろう。
登山口には雨降山の解説板があった。「山頂からは関東平野を一望し、近くに上毛三山、遠くに上越の峰々を望めます」と記されている。この梅雨空の曇天では叶わないだろうが、「琴平神社の奥の院として御嶽教を祭っており、……」という記述が気になった。かろうじてスマホが電波を受けたので調べると、北にある藤岡市の三波川地区に琴平神社があるらしく、そこの見所は「おいぬさま」の狛犬とのこと。帰りがけに寄ることにしよう。ついでに地図を見て神社の位置はわかったが、雨降山に奥の宮がある以上は本社から続いている道があるはずだろうに破線路すらない。以前は信仰の道もあったとは思うが、その間の地形は入り組んでいる。
(登山口から。舗装道が続いている)
(登山口にある雨降山の説明板。右にある「御荷鉾山展望台」標識は、この時点では関心もなかった)
(ここから山道に)
しばらく、途中から未舗装になりはしたが、車が通れるほどの道が続いた。侵入禁止でもなかった。5分ほどで終点。鳥居が置かれ、ここまで車で来たとしても、ここからは歩くしかなく、車を乗り入れるメリットはなさそうだ。見上げると、植林帯が広がっている。ここを地道に登るのかと思うと気がしぼむ。この時期の歩きには、せめて風が欲しい。それでなくとも、朝からじっとりしている。植林では風も期待できず、汗の垂れ流し登りになるのは確実。
(風も通わぬ登山道)
(標識には10m単位での距離数が記されている)
(こんなところが「迂回」になっている)
案の定、クネクネと登って行くと、汗が頭から、身体からと吹き出し、全身がベトつき、手拭いはすぐに重くなった。何ともうっとうしい。上の尾根に出るまでの辛抱かと思うが、改めて地図を広げると、美原トンネルを出てすぐに、北西に上がって777m標高点を経由する破線路があった。スタートから尾根歩きだし、そちらが正解だったかもしれない。もし、雨降山ピストンということにでもなったら、その破線路を下ってみることにしよう。
明らかに初心者向けに安全に設置された道だった。二か所ほどに「迂回路」があり、大きく迂回するのかと思いきや、すぐに道に戻る。その間に、何がバリアなのかと確認すると、道がわずかに陥没している程度のもので、普通ならわざわざ迂回はするまでもない。ふれあい道でもあるまいに、標識は親切なほどに置かれている。傾斜も甘い。というのも、きつくならないように、敢えて緩くクネクネさせている。それはそれで助かるが、どうであっても風当たりがないのに変わりはなく、徐々に限界に達していく。メガネ拭きに使っていたもう一枚の手拭いを汗ふきに転用し、以降、汗はズボンから出したシャツの裾で拭いた。シャツといえば、今日は半袖にしたが、虫除けに使ったハッカ油もすでに汗とともに流れ落ち、芳ばしい香りはかろうじて衣類にかすかに残っている程度だ。
(ようやく、うっとうしい登りの斜面が終わりそうだ)
(蛙のオンブ岩)
上に東西につながった尾根が見えてくると岩が出てくる。登山道にぶつかることはないから岩越えはないものの、その岩の中に、足尾の庚申山に行く途中で見かけるような重なった岩が見えた。その場には看板も何もなかったが、帰路の林道歩きで目にした案内看板には「蛙のオンブ岩」とあった。おそらく、この岩のことだろう。庚申山のそれは「夫婦蛙岩」だ。ともにカエルを名前に付けている。いずれも信仰の山でもある。カエルに何かあるのだろうか。後になって素朴な疑問が生まれた。
尾根真下で風通しは少しはよくなった。植林が自然林になった分、気分的なものもあるのか、蒸し暑さからは幾分解放された。それよりも、反対側の尾根真下から金属音が聞こえてくるのが気になった。鉄板を叩いているような音だ。とにかくうるさい。山側だから、産廃処理場でもあるのか。木立で何も見えない。地図を見ても、それらしき建屋のマークはないが、北側の林道が延長されて最近出来たのだろう。騒音はしばらく先まで聞こえた。
(霊神四基)
(日本武命だろう)
(何とか荒神)
四基の石碑が置かれていた。それぞれに紙垂が巻かれているので肝心の上の文字は読めないが、すべて「霊神」となっている。御嶽教の神様の名前が刻されているのだろう。この先、尾根に出ても、離れて二基見かけた。曇っていたら不気味な気配になるかもしれないが、尾根上には木漏れ日が差し込んでいる。これからからっとした天気になるのだろうか。濡れた地面から水が蒸発しているのか、空気はモヤのように白っぽくなっている。
(トタン張りの小屋)
(改めて鳥居があって)
(奥の院)
左上に青いトタン張りの小屋が見えた。かなり俗っぽい風景を見てしまった気になったが、ここは奥の宮の社務所か物置なのだろう。小屋の下には鳥居があって、石碑や木の神社が置かれている。ここが奥の院らしい。ということは、ここが雨降山かと思ったが、雨降山の標識は先を向いている。ここは雨降山の東峰のようだ。出発からここまで一時間もかかっていない。身体がベトついて不快だが、息切れもしていないし、ストックも出していない(結局、今日は最後まで出さなかった)。体調は良いようだ。というか、この程度の山ならだれにでも楽な山の部類だろう。
(NHKの電波塔の脇を通って)
(山頂へ)
(山中で唯一見かけた花)
(雨降山山頂)
山頂に向かう。物置の上の高台には、登山口先の鳥居にあった看板<NHK中継放送所>(正確には「NHK三波川テレビ中継放送所」もあったし、「FM GUNMA」も併設してある)の電波塔がある。周囲は明るいが、ここも木立に包まれ、少なくとも関東平野一望云々のスポットではないようだ。ここから不自然に感じながらコンクリの電柱と電線が尾根脇に続く。雨が上がったばかりらしき尾根を少し下って、少し登ると雨降山の山頂に着いた。
ここもまた周囲が木立で薄暗く、関東平野どころか、展望が抜けているところはまったくない。セルフ撮影も一回目は暗かったので、ストロボ発光で撮り直しをしたくらいだった。山頂はそこそこの広さの平地だが、景色を眺めながらゆっくりと食事でもするのなら、葉が落ちた晩秋から冬にかけての頃ではないだろうか。ただ、その時期は御荷鉾スーパー林道も閉鎖される。ぎりぎりの晩秋だろう。その前の紅葉期はどうなのだろう。植林が主体だし、期待はできまい。幸いにも風通しは良い。腰掛けする手頃な石はなく、倒木はたっぷりと水気を帯びていたから三角点標石に腰掛けてアイコスを吸った。
この山の名前が雨降山というのは、それなりのいわれがあるはず。後で『日本山名事典』で調べると、「東峰に御岳大権現があり、雨乞いの信仰登山が行なわれた」とある。雨が降ってばかりの山かと思ったが逆だった。一月に川場村の雨乞山に行ったが、山名はストレートで調べるまでもない。上野村にも雨降山があるようだ。全国ならもっとか。
(大鳥屋山へ。この時点では赤白のテープが目印とは気づいていない)
(雨降山の下山コースらしい)
ためらうこともなく大鳥屋山に向かう。地図には雨降山の山頂からそのまま南に林道に下る破線路があるのに、山頂の標識にはそちら方面に指標はなく、大鳥屋山方面に「展望台 1760m」とあるだけ。ちなみに自分が来た方向には「登山口 2270m」とあって、10m単位のアバウトではない距離表示に首を傾げもしたが、それはともかく、破線の下り尾根方面には下れそうなところはない。ここで林道までどうやって下るのだろうと思いながら尾根を西に下って行く。標識の「展望台」とは地図上でどこなのかずっと気になっている。
尾根を少し下ると、左下にブル道というか作業道が通っていた。標識の「展望台」がその道に向けてあった。自分の進行方向には何もない。つまり、雨降山のみで終わりの帰り道はこのブル道のようだ。いずれは破線路につながっているのだろうか。しかし、「展望台」とはどこなのだろう。この先も、別のブル道が尾根下を通る。あれだけは歩くまいと思って避け歩きはしたが、尾根の鞍部でブル道がカーブして尾根に接触していたため、2、3歩ほど踏んでしまった。ここまで、このブル道のおかげで、尾根上は歩きづらかった。道の造成のために、切り倒した木や枝を尾根に押し上げていたからだ。
(下り尾根で別のブル道にぶつかる)
(これはまた別のブル道。登山者には不愉快な道)
(そのうちに、舗装林道が見えた。スーパー林道だろうか)
やがて、左下に舗装道が見えてきた。地図に照らすと、スーパー林道のようだ。こう、高いところを林道が通るエリアの山歩きは、往々にしてこういうことがある。気分よく歩いていると、横切った林道を見た瞬間にがっかりする。前述した御荷鉾山も赤久縄山もしかりだった。こうして目障りな林道を忌み嫌っているのも今だけで、後で、その林道に早く出会いたくてどうにもならない状況になることになる。
(つい、巻き道のテープに頼る)
すでに踏み跡の世界になっている。それでいて踏み跡は明瞭。尾根上が植林帯に再び突入すると、これが果たして歩行用なのか伐採の目印なのかは知らないが、その濃い踏み跡に沿って赤二本のテープが樹に巻かれて、これが続く。小ピークのトラバースもテープを追えば安心で、これはどうも歩行用のテープでもあるようだ。別に、テープがあってもなくとも、紛らわしい枝尾根のない尾根伝いだし、コンパスも雨降山からは真西に向けているので問題はないが。
いくつか小ピークを越えると、自然林も混在するようになった。木の葉が堆積してフカフカになる。これはこれで、単調歩きへのアクセントにもなるが、よくみると、実のない栗のイガがやたらと落ちている。この辺はクマの生息地のようだ。今のところ、雨降山の真下でシカを一頭見かけただけだ。
(作業道、林道からも離れてほっとして歩くと)
(これだ)
(大型の動物の足跡)
(フカフカ)
(ここが大鳥屋山かと思う)
(山名板1)
(山名板2)
間もなく968m標高点(大鳥屋山)というところで、とんでもないものを見た。放置されたというか投棄されたハイエースワゴンと冷蔵庫。林道からこの場所までは標高差が70mほどある。周囲に車が通れるような作業道の痕跡もない。どうやってここまでこんなゴミを運んだものやら。何もここだけではなく、過去にも同様な風景を何度か見たことはある。常識レベルでは想像できないことをする人間もいるものだ。考えてみれば、伐採用のウインチで引きずり上げるという方法が使えるかもしれない。その場合の協力者、事情通となると…。
クマの生息地と記したが、大鳥屋山の山頂下のフカフカに新しい窪みをいくつか見た。自分の少ない体験では、明らかにクマかと思われる。靴型でないことは明らかで、さりとてシカやタヌキならもっと小さく、イノシシにしては大きい。
冴えない感じの小ピーク。六畳間ほどの広さか。展望なし。ここが大鳥屋山かと思うが、山名板はないのかと探すと2枚あった。「登山記念」と書かれた方の山名板の裏には、同一人物らしき筆跡で日付が三行に記されていて、一番新しいのは今年の1月4日だ。その前は前年の1月と3月。スーパー林道は通行止めの時期だから、林道からちょい登りできるはずもなく、強い大鳥屋山ファンの方なのだろう。
(尾根伝いに北西に下ってしまった。尾根型は明瞭)
(クリの実のないイガがあちこちに。後で気づいたが、左の樹の皮が剥がれている)
(左下には林道。910mにこだわるなら、一旦登り、それからここに戻り、林道に出るのが正解だったようで、以後、地形図に合わせて下ろうとしたのは大失敗だったともいえる)
クマの気配を感じたばかりにそそくさと立ち去る。帰路は尾根伝い北西寄りに910m級ピークに行き、そこから南西に下って石神峠。後は林道歩きで戻るというもので、まして当てにはならないものの破線路が続いているので、30分もかからずに峠に出られると思っている。これはスムーズに行けばのことだが、まさか逸脱した歩きになるとは想像もしていない。この先、コンパスすらセットしなかった。ただ、ここで気をつけなければいけないのは、破線路は910m級ピークには寄らず、南側10mほど下を巻いて通っているということ。このことは後になってから気づいた。
ここからややこしい歩きになる。まずは910m級ピークを目指す。尾根を忠実に北西に下っているつもりでいたが、やや平らな斜面になった左側にも尾根が下っている。どこから派生しているのか確認もしなかったが、そちらが本尾根に思えたので、尾根ミスと判断してそちらに向かった。910mを経由しない限りは、それでよかったかもしれないが、910mにこだわっていた。途中で、南に向かう尾根ではおかしいのではないのかと、再び、元の尾根に戻った。そのまま下っていたら、法面で立ち往生になるんじゃないか。このあたりは方向感覚もまだしっかりしていた。尾根の樹々にはすでにテープはない。踏み跡らしきものも薄くなり、またもや実のない栗のイガが山になっているのが何か所かあった。
(向こうの尾根に行こうとして、<?>になって戻る)
(910m級ピーク。ここは休むまでもない)
(尾根型が次第に不明瞭になり)
(尾根を下るのはおかしいんじゃないかと、左にずれるとこんなところに出てしまった)
910m到着。目ぼしいものは無く、植林のブリキ看板が倒れているだけの狭い小ピーク。山名なぞあろうはずもない。ここまでは一度尾根の選択に悩んだだけだから特別な問題はない。問題はこの先だ。本来なら、ここから南西に下るべきところを(その「べき」の認識はあった)、何もためらうことなく、910mまでの延長のまま北西に下ってしまった。尾根型は次第に不明瞭になり、地形が複雑になり、本尾根と思った尾根は枝分かれして選択に迷うようになり、太いと思って選んだ尾根そのものの傾斜も増した。その間には水のない谷もある。GPSを出した。初めて間違った方向に下っていることに気づいた。こういう場合は910mに戻るのが当たり前のことだが、それをしなかった。トラバースで破線尾根への復帰を目論んでしまった。その前に、地図を見て、このまま下れば、石神峠に至る北からの破線路にぶつかるはずなのだが、実際の地形はそう甘くはなく、本尾根がどれかすでにわからなくなっている。
トラバースをしていけば、910mから南西に下る尾根にぶつかると思った。簡単にはいかなかった。急な小尾根がいくつもあり、岩だらけの谷では、岩に足を滑らせ、危うく岩角に顔面をぶつけるところだった。GPSを見ても、目当ての尾根にまったく近づいていない。陽は隠れ、これが雨になったらヤバいなと思わずにはいられなかった。
方向感覚が狂い出した。尾根を下れば林道に出られると思っていた。だが、自分のいる場所は反対側。ここは登らないといけない。ようやくそれに気づいたのは、陽が再び出て、背中に陽が当たった時だった。自分が、方向違いに北に下っていることを悟った。ここは太陽のある南に登らないといけない。
(ダメモトであの尾根に這い上がる)
(頼った木は、この太さでもあっさりと折れた)
(ようやく尾根には出たが安心はできない。結構、急だった)
(尾根を登り切ると、これを見てほっとした)
(もう、林道まっしぐら。なりふり構わずといったところ)
(ヤレヤレ…)
きびすを返すと、右手にしっかりした尾根が見えた。がむしゃらに尾根に這い上がった。ズルズルと滑った。尾根に出てほっとしたが、その尾根は急で長かった。つかむには手頃な立ち木は大方が朽ちていて、ボキボキと折れて役に立たない。それでも何とか登りきると、そこには東西に尾根が通っていて、まだかとため息が出たものの、明らかに目印テープがあり、左に向かえば間違いはない。尾根も平坦だったのでほっとし、東側に向かうと、すぐ右下に林道が見えた。
林道にまっしぐらに下ったのは言うまでもない。とにかく、山中彷徨から一分でも早く解放されたかった。道端にへたり込み、落ち着いてから水をがぶ飲みし、ヤマザキのランチパックを食べ、アイコスを吸って、ここでようやく人心地が付いた。本当は紙巻きタバコを思いっきり吸いたかった。持ってきていないのでは仕方がない。しかし、今日は林道歩きがあったので、ワークマンズックにするか「初心者用」をうたい文句にした登山靴にするかで迷ったが、登山靴にして正解だった。ズックだったら、靴の中は泥だらけになっていた。そして、後で確認した写真は、迷った区間の写真のほとんどがピンボケになっていた。それなりに動揺していたのは明らかだ。
(林道はふれあい道だった)
さて、ここから駐車地までは少なくとも4kmはあるだろう。上り基調ならつらいだろうなと地図を見ると、少しの上りもあるが、ざっと860mから670mへの下り基調でほっとした。逆だったら、それに気づいたその時点で、歩く気が失せ、足取りも重くなる。
このスーパー林道だけはふれあい道区間だった。歩いて行くと、ふれあいマークの入った道標が目に付いた。それには進行方向に「御荷鉾山展望台 1.8km」とある。雨降山からの下りで気になった「展望台」とはこの展望台のことだろうか。展望台というくらいだから、展望地であるわけで、林道から少しばかり離れたところだったら、寄り道をしてもいいだろう。
(スーパー林道はここで左にカープしている。見えている道は法久、鬼石方面。その上に広場があって、そこが「展望台」だった)
(この林道分岐地点に雨降山登山口がある)
(広場。展望台とはいっても、右側は木立で展望はまったくきかない)
(ここから御荷鉾山が見えるから、こんな看板があるのだろうが)
(ふれあい道の案内)
(半信半疑が続いていたが、やはり展望台はここしかない)
(法久峠地蔵尊)
下りながらもこの1.8kmが長く感じる。林道をただ歩いているだけだし、道連れもいないから尚更。林道が左にカーブするところに分岐林道があり、その上に広場があった。カーブには標識が置かれていて、ここが雨降山への別登山口、つまり、自分が入った登山口からすれば下山口ということになる。広場に入ってみた。御荷鉾山の説明板があり、地図看板もあった。地図看板を見ると、ここが展望台だった。どこが?と言いたくなるような展望台だ。ここもまた樹々の葉が落ちた季節向けの展望台なのだろう。今は何も見えやしない。ここは法久峠というところらしく、法久峠地蔵尊のお堂があり、中のお地蔵さんはまだ新しい感じがしないでもない。朽ちたというか腐りかけのベンチがあったのでここで休む。『山と高原地図』を開き、御荷鉾林道周辺の山々を改めて確認する。雨降山は切れて載っていないが、大鳥屋山はコースは出ていないものの名前だけは載っている。左に林道を追うと、この後に登るつもりでいてすっかり忘れていたオドケ山が目に入った。ついでの短時間歩きで済む山とはいっても、今日のところは無理だ。910m過ぎのルート探しですっかり困憊してしまった。今日はヤメだな。その気にはとてもなれない。
(野イチゴ。子供の頃、ヘビイチゴと言っていた。これを食べては舌を真っ赤にしていた。酸っぱいだけで決しておいしくはない)
(ようやく出発登山口に戻った。林道歩きは一時間少々)
林道を車やバイクが気まぐれに通る。この林道、道の端にはコケが付いていて、何気なくその上を歩いたら滑って転んでしまった。要注意だ。雨がポツリと落ちてきた。いよいよかと思ったら、それで終わりだった。すぐに陽が出た。梅雨空の気まぐれ。
ようやく駐車地に到着した。ヤレヤレとほっとした。着替えたいが、着替えは持ってきていない。せいぜい、長袖シャツで登るつもりでいたこともあって、それだけはあった。上半身の下着と半袖は脱いで着替えをしてすっきりしたが、下半身は泥だらけ、汗まみれで、不快だが、このまま帰るしかない。
5時間もかけてしまったが、そのうちの一時間は途方に暮れた歩きをしていた。これが、日光、足尾方面の山でなくてよかったと思う。この辺は、どこをどう間違って歩いたとしても、里につながる道には出られるはずだ。久しぶりにこんな歩きになったが、雨にあたらなかっただけでも幸いだったか。雨になったら、濡れるだけでは済まず、霧がかかって視界も悪くなる。さらにさまようことになったかもしれない。さりとて、「これからは自戒」なんて殊勝な気持ちにはなれないのが不思議だ。日光、足尾の山ではないからこそ、疲れはしたが、たまには、こんなヘマな歩きもありかな、なんてとぼけるというかうそぶいて済ませられる気持ちの余裕は残っている。おバカさんとしか言いようがない。お家芸の道迷いは抜けきろうにも、潜在的に楽しみ、もしくは我が歩き方の一つとして身に着いてしまっている。今さらどうにもなるまい。
ナビで琴平神社にセットしたが、車のナビでは該当地はなく、スマホのグーグルマップでセットした。走行距離は10kmを超えていた。神流湖近くに下って大回りして行くしかないようだ。スーパー林道ですぐかと思ったが、なぜかそちらルートの案内はなかった。何かあればと従った。神社は国道の途中から分岐する三波川に沿った県道沿いにあるはずだが、さらに先の妹ヶ谷不動滝には去年の11月に行っている。
(がっかり。迂回路案内も無く不親切だ)
県道に入ってしばらく行くと、いきなり<工事中につき全面通行止め>のガードが道を塞いでいた。ここに来るまで、事前の注意看板も目にしなかった。今は人家も途切れたとはいえ、この先には三波川郵便局もあるし、集落も続いている。どういうことになっているのかとあきらめ、一旦、引き返すと、戻るような脇道があったので入り込むと、ナビの表示の先には、件の県道に迂回するどころか、北側に続く道になっていた。これではもうダメだと帰路に就いた。残念ながら琴平神社のおいぬ様には会えずで終わり。
集落があるのに行けないのはおかしいと、帰ってからパソコンでストリートビューを見ると、自分が折り返した脇道の先に分岐した道があって、それが郵便局の方に向かい、通行止め区間の少し先で県道に合流していた。今さらどうしようもないが、せっかく行ったのに道路迂回の案内がないのは、地元の人は当然にわかっていたとしても、観光客には不親切だ。まして、不動滝のある御荷鉾山不動尊から御荷鉾山に登る登山道もある。通行止めでは、迂回路を知らなければ、また戻ってスーパー林道から登るしかなくなる。
帰り道、車搭載の気温計はずっと29℃になっていた。往復ともに一般道経由だ。往路はともかく、帰路ではさすがに疲れたのか、眠くてどうしようもなかった。オートマの車の運転だったら、おそらくは居眠りもしかねないが、何せマニュアル車だ。頭はボーッとしたものの、本庄市内を通過する時はせわしなくクラッチを踏んではギアチェンジをしなければならず、その点、少しは眠気覚ましにはなったようだ。
(今回の軌跡)
「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)、数値地図250mメッシュ(標高)、数値地図50mメッシュ(標高)及び基盤地図情報を使用した。(承認番号 平24情使、 第921号)」
6月の山行はこれで終わり。滝見を含めて計3回だった。週一歩きには一回足りず、実は29日のコロナワクチン二回目接種の翌日は副反応の症状が出るかもと休暇を取っていて、症状が出なかったら、今回、行き損ねたオドケ山と近くのもう一山に行くつもりでいた。だが、そんなに甘くはなかった。朝から悪寒がするわ、腕は痛くて上げられないわ、全身と喉の痛み、…。そのうちに午後から微熱が続いた。山どころではなかった。
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