マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

王様のさようなら 

2014-06-19 10:30:00 | スペイン日記
(写真は全部El mundo より)

“退職願い”にサインするファン・カルロス国王

 子供の頃のお話でこんなのがありました。関所(今で言ったら通関)で仕事を問われて、大工です、コックです、オペラ歌手です、とそれぞれ道具を出したり、歌ったりして皆が通関していました。王様は「ありません」と答えて、通関した話です。スペイン国王・ファン・カルロス一世が退位を先週発表しました。僕がスペインの国家体制に違和感が無いのは日本が天皇制だからです。両国とも立憲君主制なので王や天皇の国政への権限は憲法で大幅に制限され、王権の施行には国会の承認が必要なので、あくまでも「象徴」です。国のトップが天皇や国王であっても政治が民主主義ならいいです。

 ファン・カルロス国王はフランコ死後のスペインをスアレス首相と民主主義国家に変えました(アディオス、アドルフォ・スアレス元首相)。クーデターも抑えてこの40年間(几帳面に言えば、39年半です)国王をやってきました。この退位は死亡でも病気でもありません。自分の敷いた民主化で国政への関与は歳とともに減りましたので、この1月の76歳の誕生日を迎えてから「隠居」を考えていたようです。


ファン・カルロス現国王と6月19日からの新国王・フェリペ6世、将来のスペイン女王となる長女・レオノ-ル姫

 イギリスのチャールズ皇太子の待ちくたびれた、その姿が哀れだったので、息子のフェリペ・アストゥリアス皇太子に王位を譲りたいと、ラホイ首相に退位の意向を漏らしたのが2ヶ月半前のスアレス前首相の葬式の時だったのです。その時は退位の発表をいつにするのかは決めていませんでしたが、欧州議会選挙(投票率、たったの43%だった欧州議会の総選挙2014)の結果が与野党の惨敗だったので、その1週間後の6月2日に「退位願い書」をラホイ首相に提出し、発表しました。この日しか、ソフィア女王とフェリペ皇太子がマドリードに揃う日がなかったようです。


エリザベス女王と待ちくたびれたチャールズ皇太子

 国王の譲位は国会の半数以上の承認が必要で、今の与党で十分ですがファン・カルロス国王は野党も含めた大多数の承認が欲しかったのでしょう。このように急な「退職願い」にスペイン中がひっくり返りました。国会はそれでなくても夏のヴァカンス前で法案が詰まっているのに、譲位審議を急いで衆参両議会にかけなければなりません。庶民もジュ-ン・ブライドで息子や娘、親戚の結婚式が詰まっているし、学生たちは卒業式や入試です。ブラジルのワールドカップも始まります。6月18日がファン・カルロス国王の退位式、翌19日がフェリペ6世新国王の戴冠式に決まり、マドリードの街は王政廃止、共和制復活の国民投票を訴える左翼のデモが始まりました。


王政廃止、共和制復活を叫ぶ共和主義者たち

 バルセロナとグラナダが過激でした。そりゃ、共和制主義者が「王室費用は税金の無駄遣いだぁ、その金を貧乏人にまわせ!」と言うのはわかるけど、スペイン王家の年間予算は10億円程度(780万ユーロ)で、ヨーロッパ王家では最も「貧乏」です(王様のお給料)。不況のスペインですが国家予算で賄えない額ではないし、この5月はスペイン経済が活力を取り戻し始め、消費も伸び、失業者も減り始めました。まわりのイタリアやフランスやポルトガルが共和制国家なので、差別化に立憲君主制はスペインのプラスになると思いますが、そんな僕の意見は外国人なので意味無いですね。


「クーデターは中止」と国民に発表をするファン・カルロス国王(1981年)

 今回の退位騒動でとばっちり食ったのは、警察と軍隊です。10年前の皇太子の結婚式の警備体制を整えるのには5ヶ月の余裕がありました。今回の戴冠式には5日間で警備体制を敷かねばなりません。6月19日の戴冠式はマドリードと近郊の上空は飛行禁止になり、バラハス空港は閉鎖です(日本人観光客にもとばっちり)。スペイン空軍はNATOにイベリア半島上空に偵察機を、マドリード郊外の米軍基地には戦闘機の待機を依頼しました。世界中の要人がマドリードに集まり、スペイン王家と仲の良いアラブ諸国の王は顔を揃えるので、イスラム原理主義テロの対策が頭痛です(やっぱり金がかかりますか?)。招待客のレセプションには王宮が使われるので、先週からクローズです(これも日本人観光客にとばっちり)。

 今回のフェリペ皇太子の即位で妻のレティシア皇太子妃がスペイン女王になりますが、初めての民間人、それも中流家庭の出身です。両親も自分の娘がまさか女王になるとは思っていなかったが、もっと驚いたのは前夫でしょう。そうなのです、レティシアはバツイチなのです(彼女の両親も)。捨てられた夫(学校の先生だそうです)の心境のほうが、僕らオヤジには興味津々ですね。


皇太子の結婚式に集まった世界中の王家

 夫と言えば、退位するファン・カルロス国王もこの数年間は孤独だったそうです(二人の間は冷めたスペインオムレツ?)。度重なる腰や脚の手術も持ち前の頑丈なカラダで乗り越えましたが、毎日の「ひとりで家メシ」には寂しかったようです。数たくさんの浮気歴の国王の身から出た錆ですが、ソフィア女王からは愛想をつかされました(オッサン、そんなことをしている場合かぁぁぁぁ!)。その女王はあまたの親善行事で「海外出張」が多いし、その合間はロンドン泊です。ソフィア王女はギリシャ王家出身なので、確か、兄弟はイギリス王家の親戚に嫁いでいるはずです。


「お前のカミさん、キツイけど、退位後の同居はどう?」と皇太子に頼んでいるような国王。
そっぽを向いて、無視のソフィア女王とレティシア皇太子妃。


 今度国王になる息子のフェリペ皇太子はそんな母親思いです。その王子も長旅が辛くなったファン・カルロス国王の代理で中南米の大統領着任式や行事に出席するので、ほとんどが海外です。その妻のレティシア皇太子妃は義父の国王とは折り合いが悪いので、国内行事や子供の世話で多忙とかこつけて一緒に食事はまっぴらのようです。王のお気に入りの次女・クリスティーナ王女は夫の公金横領事件で宮殿には出入り禁止です(庶民の怒りを3つ)。離婚した長女のエレナ王女が一緒に闘牛を観に行くくらいしか、国王と遊んでくれる人がいません。いやぁ~、男はいつでも寂しいものです、同情致します、ファン・カルロス国王。


ワールドカップのスペイン代表。もちろん、ボロ負け前です。

 次はフェリペ6世新国王の戴冠式をレポートしますが、その前日18日の現国王「退位の日」はワールドカップ:スペイン-チリ戦です。初戦でオランダに屈辱5-1で大敗した王者スペインとしては、チリに10-0で勝たないと退位じゃなくて退却です。もう崖っぷちですよ、トホホホ・・。オランダに負けた夜は静かなマドリードでした。一応、スペイン代表の写真も載せますので、コートジボワールに負けた日本代表同様に残り試合を応援してやって下さい。先月、「マドリッ」がヨーロッパクラブチャンピオンになったスペインとは思ええない負けっぷりに、皆、言葉なし。ちなみに、現国王は「マドリッ」贔屓で次期国王は「アトレティコ」です。


スペイン国王杯で優勝したアトレティコに渋い顔の国王と大喜びの皇太子
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1 コメント

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Unknown (Goto)
2014-06-22 22:22:43
スペインの国王には退職願という制度があるんですね。日本は天皇が高齢になっても退位が出来ないないのに比べるFlexibleですね。スペイン王家の一員が経済事件で裁判にかけられるとか色々ある中での国王の交代はそれなりの意味もあるのでしょう。サッカーも退潮が著しいと明るい話題がないけど、国民は明るく過ごしているのでしょうね。
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