Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

TURANDOT (Sat, Apr 28, 2007)

2007-04-28 | メトロポリタン・オペラ
プロフィールにもある通り、オペラのシーズンが終わると仮死状態に入る私なので、
シーズンの終わりが見えてきたこの頃、すっかり元気をなくし気味なのですが、
気を取り直して。。。

今日はとっても楽しみにしていたBキャストによるトゥーランドット。
カラフ役のマージソンはそのままですが、
メインの登場人物では、トゥーランドットがErika Sunnegardhに、
リューがLiping Zhangに入れ替わりました。
また、それ以外の役も大部分が入れ替わっているために、
前回の公演とは、歌唱面ではまったく違うものになることは間違いなさそうなので、これまた楽しみ。

それにしても、今さらながら、トゥーランドットって人気演目なのだ、と再確認。
Bキャストだし、公演回数も結構多いし、どっかで好みの席がとれるでしょう、などと、
のんびり構えていたら、2週間ほど先にチェックしたところ、
好みの席どころか、sold outになってしまっている席種が多く、
窓口でしか買えないサイドのボックス席も売り切れ、
絶対にオーケストラ席(一階席)の後ろには座らないというモットー
(舞台から遠すぎるし、席がぎちぎちでリラックスできないし、
さらには段差が少ないので、舞台とともに200人くらいの頭を眺めなければいけない。)の私は、
今回仕方なく、初めて、parterre正面席に座るという贅沢を体験したのでした。
そんな席で、この頻度でオペラを見れるほどリッチでないゆえ。。
コストをのぞけば、やはり快適なのは間違いないです。
ボックス席でありながら、窮屈な感じがしないし、
空調は思う存分浴びれるし(って寒がりな人には拷問ですが。。)、
何よりも舞台との距離感というか、がどの他の席よりも、まるで自分のために上演していただいているようなダイレクトさを感じさせる。
グランド・ティアご贔屓の私も、このダイレクト感については、敗北を認めざるを得ません。
ただ、グランド・ティアとの最大の違いは、ボックス席って、
みなさん、誰かと一緒に来ている人が多く、下手すると、ボックスごと、家族、親戚、友人関係でお買い上げ、というケースも。
今回、私のボックスは総お買上げではありませんでしたが、ご夫婦、カップルが多くて、皆さん、会話は内輪。
こうなると、今日を含め、たいていメトに行くときは一人で見に行く私などは、
ぽつねん、とただ座っているだけになってしまうのでした。
他の席種のよいところは、私のような一人で参加組でも、
必ず会話をしかけてくれる方たちがいるところ。(もしくはこちらから仕掛ける相手がいるところ。)
考えてみれば、他の席種でも、みなさん結構ご夫婦やカップルでいらっしゃっているのですが、
ボックスでない、一列の席だというだけで、一気に会話がしやすい雰囲気になるのです。
ボックスという環境が、そのような、全然知らない人との会話を楽しむ貴重な機会をはばんでいるようで、
私はやっぱり今後もグランド・ティアびいきで行くわ!と決意を新たにしたのでした。

さて、そんな風にぽつねんと座ること数分。いよいよ、第一幕。
オケが気合が入っていてよい。特に金管。特にトランペット。
トランペットはばりばり吹く部分と、あと、ソリストとのアカンパニーとして、
リリカルに吹かなければいけない部分が結構交互に出てきたりして、
スイッチが大変なはずのこの作品を、首席奏者の方がいともたやすいことであるかのように、
吹きこなしていて、素晴らしかった。
演奏箇所が多いだけに、たいていどこかでマイナーな傷が出るものなのですが、
力強い箇所でのボリューム感といい、リリカルな場面でのやさしい感じといい、
ほとんど通しで完璧だったのではないでしょうか。
特に一幕と三幕は、聞いているこちらがアドレナリン全開放出になるほど!
一幕に関しては、完全に歌唱陣よりもオケがドライブしていたと思います。

ピン、ポン、パンを除く脇役陣は、断然今回の演奏のキャストの方が良かった。
まず、役人、歌う場面は本当に少ないながら、
冒頭のオケの演奏の後に第一声を発する役なので、
公演全体の、第一印象と雰囲気を決定付ける大事な役だと私は思うのですが、
前回公演のJames Courtneyよりも、今回のPatrick Carfizziの方が深い魅力的な声で、一気に引き込まれました。
それでいうと、ティムール(カラフのお父さん)役も、
今回のHao Jiang Tian(前回はOren Gradus)の方がずっと感情のこもった歌唱が聴けました。

今回で3回目のマージソンのカラフ役。今までの中では、もっとも調子が良かったですが、
環境や調子以前に、まず、声質があまり私の好みではない、ということがはっきりしました。
一番気になるのは、特に声を張り上げる場面で、微妙に妙なディストーションというか、
雑音のような音が混じることで、
もうこれは声質の問題ゆえ、どうのこうの言ってもしょうがないとは思いながら。。
それと、もう一点は、たまにださいこぶしが回ること。
コレルリ・ファンの私ですから、
決してこぶしが全部だめなわけではないのですけど。
あとは、およそ感情というものが伝わってこないところが、痛い。
今、コレルリの、メトでの1961年のライブ録音を聴いてみたのですが、
例えば、リューの”お聞きください、王子様”のアリアの後、
リューをなぐさめる”泣くな、リュー”。
もう、コレルリが一フレーズ、Non piangere, Liuと歌いだすだけで、
自分を慕うリューの気持ちを知りながら、やわらかくそれを退ける、
思いやり深くて、男らしいが一途な王子の性格が滲みでてくるよう。
マージソンの歌にはそういった王子の性格描写が欠けているように思います。

リューのLiping Zhangは、無難に乗り切ったものの、
声質、テクニックの両面で、ホンさんとの間にはだいぶ差があるように感じました。
まず、ホンさんのあのすきとおるような、しかし決してパワフルすぎない声は、
けなげなリュー役にぴったりで、あれ以上の適役はないと思われるほどなので、
Liping Zhangのやや泥臭くて、人間くさい声質は、ことリューに関しては
あまり適していないように思えます。
しかし、声質はどうにもならないとしても、テクニックの方は問題。
数日前のラジオの中継で聞いたときは割としっかり歌っていたように思ったのですが、
今日の演奏では、まず、してほしくないところでのあからさまな息継ぎ、
それから音程のコントロールを少し失った箇所があった、など、
物足りなかったです。声のサイズはホンさんとほとんど変わらないのですが、
やはり役柄が歌唱面で練りきれていないように聴こえました。
特にプレミアでの、これ以上はうまく歌えないと思われるほどのホンさんの見事な歌唱を聞いてしまったので。。

ピン、ポン、パンの3人のアンサンブルが乱れがちだったのも残念。
前回の3人(Patriarco、Stevenson、Valdes)がものすごく息のあった歌唱を聞かせていたので、比べるのも酷ですが、
今回のYun, McVeigh, Reidの3人はもう少しコンビネーションに改善の余地がありそうです。

第二幕では、オケのコントロールが少し乱れたのが残念。
そして、いよいよトゥーランドット姫、Erika Sunnegardhが登場。
ラジオ放送で事前に聞いたところでは、若干カバリエを思わせる、
温かい、それでいて透き通るような声質のうえに、
音程のコントロールも確か。
ラジオ放送で唯一つかみどころがないのはメトのような大ホールで、
実際どれくらいの声量で聴こえるのか、というところで、
これが生で(劇場で)聴く楽しみの一つでもあるのですが、
ここが盲点でした。
ラジオ放送では声量豊かに聴こえたのですが、
ほんとに、彼女の場合、一回りどころか半周り、いや1/4周りだけでもよいのですが、
あとほんの少しボリュームが出れば!!
ビルギット・ニルソンの鋼鉄のような歌唱に慣れて、耳をつんざくような響きを期待していくと、
In questa reggiaがあまりにも優しい響きなのに、ちょっと不意打ちを食らいます。
このアプローチはこのアプローチで面白いとは思うのですが、
もう少し全体的に声のサイズを底上げしない限り、
言葉がオケを越えてはっきり聴こえてこない箇所があるのは厳しい。
それ以外の箇所で聞ける力強い響きを聞く限り、不可能ではないようにも思うのですが、
無理しすぎると声を潰すし、難しいところです。
それだけでもやはりニルソンがいかに稀有な存在だったかということがわかるもの。。
しかし、そこの若干の不満を除いては、大変ユニークな役作りだったと思います。
グルーバーのように、前半はとにかくブルドーザーのように歌う歌手たちが多いなかで、
Sunnegardhの役作りはもっとフェミニンというか、すでに最初からか弱さが透けて見える姫。
もともとのきれいな声の質のせいか、役作りのせいか、
ニルソンやグルーバーのように、刀のようなシャープな響きに比べると、
少し言葉がまったりして聞こえる傾向にあるのも、好きになれるかなれないかの分かれ目になるかも知れません。
私はなかなか面白いと思いました。

第三幕は、先にも書いたとおり、ニ幕で我々を不安に陥れたオケが復活して、素晴らしい幕に。
マージソンも、”誰も寝てはならぬ”を、彼にしてはうまく決め、
リューの死をはさんで、意外にもびっくり、ティムール役のTianの名演技、名唱が舞台を引き締めました。
さて、前回に続き、これはマルコ・アルミリアート(指揮者)の仕業か何なのか、
プッチーニが絶筆した箇所(リューの死)以降もテンションが高い演奏を聞かせてくれました。
一般に芸術レベルがここで、かくっと下がると言われていますが、
うまく演奏されれば、そこまで悪くないのかな?と思えるほどには、
よく聞こえるので(回りくどい表現だけど)、最後まで完成させてくれたアルファーノにはやはり感謝すべきなのでしょう。


Erika Sunnegardh (Turandot)
Richard Margison (Calaf)
Liping Zhang (Liu)
Conductor: Marco Armiliato
Production: Franco Zeffirelli
Ctr Ptr 27 front
ON
***プッチーニ トゥーランドット Puccini Turandot***

最新の画像もっと見る

コメントを投稿