Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

CINDERELLA - ABT (Sat Mtn, July 7, 2007)

2007-07-07 | バレエ
私のバレエ鑑賞のメンターであるお友達が出張でNYにいらっしゃることに!!
成田からJFKに到着した後、ほとんどホテルに荷物を置いたその足でリンカーン・センターに向かう、
という無謀なスケジュールにもかかわらず、
バレエファンの執念に神も微笑むしかないと観念したか、
万事、スムーズにすすみ(といっても、あわてて日本を発った彼女は化粧品やら携帯やらかなり肝心なものを持ってくるのを忘れてしまったらしい。。)、
集合時間の開演30分前にメトのオペラハウスに向かうと、すでに懐かしい彼女の顔が!
喜びの再会を果たし、そして、全く疲れている表情すらない彼女のパワーに感服。

直前の出張決定だったため、残念ながら残っていた連番の座席はいまいちなものばかり。
よって、今回は別々の席で鑑賞することに致しました。
彼女のパーテールの座席も、私のグランド・ティアの座席も、いずれも見やすい座席で安心。
と思ったら開演間近であることを知らせる鉄琴の音が響いてきたので、おのおのの座席へ。

今シーズンのABT、『マノン』、『ロミオとジュリエット』、『白鳥の湖』と、
鑑賞した演目がひたすら王道のクラシック・バレエ演目であるばかりか、
演出も王道クラシックだったので(そして、私、オペラもバレエも、その王道クラシックな演出が大好きなのであります。)
この『シンデレラ』も深く考えず、同じくコンサバ路線かと思いきや。。

とんでもない!!!!
これは、何っ??!!!!

まず、シンデレラといえば、ディズニーやら、小さい頃に読んだ絵本のイメージがものすごく強いので、
姫は長いドレスにティアラで、王子はタイツに剣の王子ルックかと思いきや、設定が思いっきり20年代風。
国は不明ですが、シンデレラがこき使われている意地悪姉妹の家のインテリアからすると、
アメリカのような気がする。。。
でも、ん??アメリカに王子??!!
でも、気にしない、気にしない。
なぜならば、彼は全幕ずっとスーツかタキシードで、タイツ、一切なし!!
女性はフル・レングスのドレスはこれまた一切なく、
夜会のシーンも、ひざ下くらいの長さのドレスで、
最後の結婚式の招待客の衣装は、ココ・シャネル系。
なので、途中から、私は勝手に、”彼”は王子なのではなく、
アメリカのどこかの金持ちのぼんぼんで、シンデレラは王女になるのではなく、
単に金持ち息子と玉の輿にのる話なのだ、と解釈することにしました。

さて、myメンターより、男性が意地悪姉妹を演じる版もあると聞きましたが、
今回はいずれも女性のダンサー。
ただし、姉と思われる側を演じた方が、やたら背が高くてたくましく、
初登場の場面では、”あれ?男??”と一瞬舞台を凝視してしまいました。
よーく見ると女性ですが、しかし、あの、異様な背の高さと、プラチナブロンドのウィッグとあいまって、
ドラッグ・クイーンのような雰囲気を醸しだしてました。
めがねをかけた妹の方は間違いなく女性でしたが、踊りも確かなら、芸も達者。
この二人がかなり狂言まわし的な役で重要なのですが、
この妹がすっかり姉を食ってました。

さて、シンデレラ役のジュリー・ケント。
舞台写真などから察するにものすごくエレガントな踊りを披露してくれるのではないかと期待していたのですが、
この役、特にこの演出に合わないのか、終始動きは綺麗なのだけれど、
感情を伴わない踊りで少し意外。
”ああ、綺麗だなあ”とは思うのだけれど、全く一度として心に訴えてくるものがなかったです。

それに引き換え、わがダックス王子のマルセロ・ゴメス!!
彼がかわりにいい味を出しているのであります!!

彼の好青年なところと、妙に律儀っぽいところ(キャラクター的にも、踊りも。。)が、
この演出とうまくはまっているというか、
おかしなことをまじめな人が一生懸命やっていると、
面白さ倍増に感じられることがありますが、まさにその公式を地でいっているのです。

例えば、意地悪姉妹に夜会で見初められて(そう、王子の方が。。)、おびえる王子。
まさにとびかかっていきそうな勢いの姉妹から逃れようと、椅子にあわてて飛び乗るところなんか、
まじめな顔で、まじめに美しく椅子に飛び乗っているのが笑える。
また、靴を片方落としたシンデレラを探しに、世界一周の旅に出るゴメス。
(しまいには、日本まで行ってしまうのですよ、これが。。)
このあちこち飛び回ってます!という表現をするのに、舞台を何度も
右から左へ、左から右へといろいろなジャンプやら技を入れつつ移動するのですが、
いちいちその技がまた綺麗なもので、おかしさ百倍。
このシーン、こんなにまじめにやるところなの?とつっこみたくなるくらいに、
突き抜けて丁寧に踊っているのが、さらに笑いを誘う。。

いいです!この役は、彼にとっても合ってる!!
しかし、残念なのは、ボッレと並んで二大ギリシャ彫刻と私が呼んでいるゴメスのお体が、
この20年代衣装では全く見えない。。泣いちゃいますよ、本当に。

Ballet 101という私のバレエ鑑賞のお供の本を読み始めたばかりの頃、
バレエの歴史で、男性がタイツをはいたり、女性がチュチュを着るようになった意味は、
体の動きがよく見えるよう、云々と書いてあって、
”えー、そんな違いあるかー??!”と笑っていた私ですが、声を大にしていいましょう。

おおありです!!!!!

普通のスーツで踊られることが、こんなにフラストレーションの溜まるものだとは思いませんでした。
特にゴメスは本当に細かいところが丁寧で、体の動きが美しいので、なんだか、とっても損した気分。
かろうじてシンデレラは、ひざ丈のやわらかい素材の衣装を着けてくれていたので、何とか我慢。

さて、衝撃のシーンは第一幕のお庭のシーン。
魔法使いのおばあさんが連れてきた手下たちが踊るシーンですが、
いよいよ、12時になると魔法が解けてしまう、ということを説明する場面で、
おもむろに頭にかぼちゃをかぶった黒いスーツの男性ダンサーが12名登場。
円陣を作って座ったかと思うと、一人一人立ち上がって、びよよよよーん、とその場でジャンプするのです。
そのジャンプがみなさん渾身のジャンプで、高さもすごい。
先ほどの論理と同様に、真剣なのが、おかしすぎる。。
いや、本当にすごいインパクトなのです。
私は、椅子から転げ落ちるかと思うほど、笑いをこらえるのに苦労しましたが、
周りの人、誰も笑ってないー!!!!
そうなの?ここで笑っちゃいけないのっ??
そう思うと余計笑えるのだけど、お友達は全然違う席に座っているし、
どうやってこの笑いを発散すればいいのーーー!!!??
一幕目がはけた後の休憩時、私はお友達に会った開口一番、
”ねえ、あのかぼちゃ、何??!”と聞いてしまいました。
お友達は、すでにパンフレットを見て、12人の名前がPumpkinsのところにあったので、
なんだろう?かぼちゃって、馬車だけのはずなのに?と不思議に思っていたそうです。
さすが!
しかし、彼女のまわりではみなさん、ちゃんとお笑いになっていたそうです。
何なの、私の席のまわりの人。寝てんじゃないでしょうね!!

次の夜会のシーンで、実際に魔法が解けるシーンで、またこのかぼちゃチームが登場するのですが、
こちらはもうすこしわかりやすく、
かっこ、かっこ、と時計の音が鳴るのにあわせて、時計盤の数字のように、
1時から12時まで順にかぼちゃが飛び上がるので、
ああ、時間が経っていることをこれで表現したかったんだ、とやっと納得。

さて、先ほど少しふれたゴメス世界一周のシーンでは、
ゴメスが世界中を行脚。
なぜだか、女性飛行士Amelia Earhartを思わせる女性やら、
スペインからはカルメンチックな女性、そして、オランダ、アラブ、日本
(しかし、ここでの日本女性の扱いは結構ひどいです。
ゴメスが差し出す靴に、くすくすっとうつむいて笑うばかり。
本当、アメリカ人の持ってる日本人のイメージって、いつまでこうなんでしょう?)まで、
あらゆる女性に、片方の靴を試させようとするのでした。

一体、何年かかったことか、シンデレラを見つけるまでに。。。

しかし、ここでふと気付いた。
シンデレラは運で玉の輿にのっただけだけれど、
実は王子のほうは、彼女を探してそれこそ火の中、水の中。苦労しているのです。
(その間、シンデレラの方は、今までと同じように、意地悪姉妹にいじめられながら働いているだけ。。)
この話、実は、王子が真の恋を手に入れるまでの涙の物語なのでは?と思いました。

だから、最後、小汚い女中姿なのにもかかわらず、
シンデレラを目にした途端、すでに王子は、
”もしや彼女では?!”と感じとるのです。(ここが、またゴメス、いい演技!)
そして、おつきのものが靴を履かせる間、その間ももどかしいといわんばかりにそわそわ。
そして、彼女こそが夜会の美女だということを確認したときの王子の喜びよう。



”よかったねー!!!王子!!”と、いつの間にか、
我々は、すっかり、シンデレラにではなく、王子に共感している!!
これは、シンデレラのいわゆる”シンデレラ・ストーリー”に女心が反応するから、
この話は人気があるのだ、と思い込んでいた私には、コロンブスの卵的な発見でした。

この後、シンデレラと王子二人が踊るシーンは、
背の高さ、体格や、踊りのスタイルなど、見た目という点では、
割と相性がよい二人と思われ、美しかったです。
ただ、もともと慎重派のゴメスに、ジュリー・ケントもその傾向があるように思われました。
なので、美しいのだけれど、少し安全運転すぎるかな?という不満もなきにしもあらず。
でも、この演目ではそれもいいのかも知れません。

最後になってしまいましたが、王子の4人のおつきの方、良かったです。
ジャンプの高さ、きれ、4人のコンビネーションともに、なかなか見せてくださいました。

いわゆるトラディショナルなクラシック・バレエをイメージしていくと肩透かしをくらわされますが、
全く別物のエンターテイメントとして割りきると、結構楽しめました。

そうそう、オペラのカーテン・コールは歌手が割と素に戻ってしまう過程なのに比べて、
バレエは最後の最後まで役になりきっているのが楽しい。
最後、シンデレラと手と手をたずさえて現れたダックス王子ゴメスに、
いきなり意地悪姉妹のめがねの妹が、だっこちゃんのようにへばりつき、
そのだっこちゃんを肩に背負ったまま、ゴメス、全キャストと共にお辞儀。
迷惑がりながらも、育ちのよさゆえにつっぱねきれない王子様特有の微笑みを浮かべつつ。。
この人、正真正銘、天然の王子キャラだわ!と確信いたしました。
ダックス王子、万歳!!!!

とうとう終わってしまった今年のABTのシーズン。
来シーズンまでにさらなる精進を積んで、来年もバレエ鑑賞に励みたいと思います。

Julie Kent (Cinderella)
Marcelo Gomes (Her Prince Charming)
Carmen Corella (Her Stepsister)
Marian Butler (Her Other Stepsister)
Matthew Golding, Blaine Hoven, Jared Matthews, Luis Ribagorda (Four Officers)

Music: Sergei Prokofiev
Choreography: James Kudelka
Conductor: Charles Barker

Metropolitan Opera House
Grand Tier C Even

***シンデレラ Cinderella***