変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     掲載済 (17、18、19、20)
 第5章 回帰     ○   (21:1/4)
 第6章 収束     未
 第7章 決戦     未
 終 章          未
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第5章 《回帰》  (1/4)

 視界は、一面の海ばかりであった。その単調な景色がルナに考え事をさせてしまっていた。
 リモーが言った爆撃隊と地上部隊の侵攻という作戦は、どこまでが俺を貶めるためのものだったのだろう? 最終的には、俺を消してしまうことが目的だと思われるが、今回の作戦にそれ程の細工が行なわれたようには見えない。そうならば、俺が乗るタイガー・ルナに細工をするはずで、整備にカク・サンカクを招聘することを拒んだはずだ。ということは、今回の作戦は第一段階であって、俺の名声を汚すためだけに仕組まれたと見るべきだ。第二段階以降に何を企んでいたのかを今は知る術が無いが、今回はどうするつもりだったのか。
 手始めに、今回の作戦は完全にでっち上げの作戦だったと仮定してみよう。その場合、出撃した我が航空隊にはどのような結果が訪れたか。援護が無い状態で、我が航空隊単独で、神聖同盟の本拠地付近に踏み入るのだ。戦闘になるのは間違いない。相手は強力な軍備で迎え撃ってくるだろう。我が隊が如何に屈強だとしても、負けるのは目に見えている。これでリモーの今回の目的は達せられるはずだ。俺を負け犬にすることができるのだ。場合によっては俺も戦死するかもしれない。そうなればリモーにとってより望ましいことなのだろう。でっち上げ作戦の線はありそうだ。リモー達の目的と整合している。
 次に、あの作戦自体は本物だった、と仮定してみよう。リモーはどうやって目的を達成させるだろうか。恐らく我が隊の援護を得た王国軍は、相当な戦果を上げたはずだ。そうなると名声は汚されるどころか、一層高まってしまう。リモーにとっては我が隊が敗戦せねばならないのだ。例えば、敵に内通して作戦の一部を漏洩させてみせたか。我が隊が緒戦で兵装を使い切った頃に神聖同盟の別働隊を迎撃に仕向けられれば、我が航空隊の敗走は必至だ。いや、冷静に考えてみよう。それだけのことを成し遂げるためには、相当な情報網と機動力を持つ隠密の組織が必要だ。宰相派といえども、大した拠り所もない神聖同盟の本拠地付近に、それ程の裏組織を作り出せるはずはない。敵との内通を前提にした線は無いと見ていいだろう。そうか。フェルチアは、空母艦隊が次の作戦を控えているはずだと言っていた。次の作戦に我が隊が入っていないとも言っていたな。我が隊が帰還できる余地は初めから無かったのだ。我が隊が発艦した後、空母艦隊は急ぎ移動するつもりだったのだ。作戦を成功させた後に空母に戻ろうにも、空母がどこにいるのか分からず、我が隊は路頭に迷うことになる。後は何とでも話を作り出せる。これで、戦果も上げられ、且つリモー達の目的も達せられる。一石二鳥を目指したか。しかし、でっち上げ作戦の方が単純で分かりやすいようにも思う。この作戦が本当だとするならば、自分の名声を汚すということの他に、相当の戦果自体も上げなければならない理由が必要だ。

 そこまで考えてルナは、必然の結論に戦慄を覚えた。

 戦果が必要か? 問うまでもない。今の王国には何としても必要なのは明らかだ。先制攻撃でダメージを与えねば、神聖同盟に勝つ見込みはない。この作戦で王国側を有利な立場にさせ、協定に持ち込もうというのだろう。だからこそ、自分が必要だったのだ。戦果を確実にするために。これだけでは名声を汚すことにならないので、空母を移動させて我が隊が帰還できないようにする。わざと行方不明にした上で、敵前逃亡なり、神聖同盟に寝返って自滅したなりの噂を真しやかに流すに違い無い。汚い手を使う連中である。これで決まりだ。リモーの思惑は見えた。

 しかし、ルナが戦慄を覚えたのは、リモーを含めた宰相派の汚さに対してではなかった。

 確かに、我が航空隊はリモー達の思惑通りにはならなかった。彼等の作戦、いや謀略は失敗した。フェルチアの参画という想定外の幸運も手伝って、我々が失敗させたのだ。だが、我が航空隊の支援を失った爆撃隊はどうなったか、陸上部隊は戦果を上げられただろうか。その答えは絶望的である。支援戦闘機の援護が無い爆撃隊や、航空戦力が同行しない陸上部隊の末路は、火をみるよりも明らかだ。つまり、王国の兵隊を大量に消耗させ、国の状況も極端に悪化してしまったであろうということだ。自分の保身のために、臣民の、そして王国の将来を台無しにしたのではないだろうか。あってはならないことだし、我が信念に反する振る舞いでは無かったか。

「王に会いに行くのかい? 隊長。」
隊員が無線で問い掛けて来たところで、ルナは思考を機上の現実に切り替えた。隊員全員に聞こえているので、迂闊には答えるわけにはいかない。
「何らかの形で謁見賜ることになるさ。時期は分からんがね。」
敢えて軽く流してみたが、隊員達はそんな小細工が通じる心境ではない様子だ。
「よもや、跪く以外の形で王の前に参上するなんてことは無いよな?」
隊員達はこの時点でも、自分達を反逆者と考えてはいない、あるいは考えたくないようだ。ルナの行動に正義があるとすると、リモーや艦隊の方が謀反を企てているという構図でなければならない。そうであればルナ隊は救国の英雄に成り得る。しかし、そのためには必要な行動があった。
「どうして艦隊を攻撃しないんだ?」
核心を突かれたルナは、暫し沈黙してしまった。艦隊側が反逆者であるなら、ルナ隊は艦隊を攻撃せねばならない。それをしてこそ、英雄になれるのである。このままだと、反逆者を放置したということで、自分達に敵前逃亡の汚名が着せられはしまいか、隊員達の不安はそこにあった。軍人にとって、特に誇り高き王国の軍人には、敵前逃亡は最大の不名誉であり、それに応じた、決して受け入れられない罰則が設けられている。隊員達は、ルナの方が反逆者であるという可能性には考えが及ばないか、その選択肢を完全に捨て去っているのだ。
「どこまでが裏切り者か、それが分からないんだ。艦隊の兵員全てが反逆者とは思えないし。ヘタを打つと無実の奴に濡れ衣を着せることになりかねないだろう。」
一応、筋は通った答えのはずだ。ただ、誰も納得していない様子を、空気を、ルナは感じ取っていた。
「俺達の兵力は限られている。諸悪の根源を突いて、正義を確立しなければならない。王との接見も然り、目的に合致した会い方になるってことさ。」
つい言い過ぎたかと思い、隊員の反応を待った。王までが国賊の可能性を示唆してしまったのである。しかし、隊員からはこれといった反応は無かった。今は、何が起こっているかということよりも、これから何を成すのか、ということの方が彼らにとって重要なのだ。誰もが拠り所を探しており、ルナの考えを知りたいと思っているのだ。自分が芯になって見せるしかない。これまで以上に団結しなければならないことだけは、明らかであった。
「王国の栄誉は俺が守る。」
 隊員に、見えぬ未来に、ルナは一人ごちた。
     ◆
 燃え上がる炎を、人々は静かに見つめていた。永遠の辺境と思われたブリタニアは、ここ数年だけで急速に町の様相を呈した。ルナが作り上げた国、そこに人々は集まり、行政と商業と農業が奇跡的に発展したのだ。
 それらは夢だったのか。ルナが立ち去る前の、垢抜けないが素朴で豊かな国家の名残、全てが目の前の炎とともにその痕跡を消して行く。王国の軍隊はまるで機械のように、容赦なく、そして徹底的に破壊の限りを尽くして立ち去った。悪魔の変化としか言いようのない巨大な人工の怪鳥が飛来し、あっという間に町は灼熱地獄と化してしまった。怪鳥から稲妻が発せられ、少し遅れて雷鳴が轟く度に、地獄の業火に何もかもが飲み込まれていった。かろうじて生き残った誰もがその後に予想した惨劇、兵隊による略奪と殺戮は起こらなかった。いや、そうする余地も無い程に町は徹底的に崩れ去ったのだ。
 わずかに残った人々は、燃え上がる自分の国をただ眺めるしかなかった。辺境の人々にとってみれば栄えた国での生活は一時的な夢だったのだ。再び自然と暮らす生活に戻るだけであった。多くの家族と友人が、恋人が、一時の栄華と引き換えに奪われてしまった。余りにも残酷で高価な代償を、人々は未だ咀嚼できていない様子だった。
 戦果を確認すべく降下してきた王国の兵隊は、淡々と状況を記述するだけで、そこにわずかな人々が生き残っていることなどは意識の外にあるかのように、追撃もしないが救済するわけでもなかった。生き残った人々がこの理不尽を兵隊に詰め寄っても、あくまでも彼らは淡々と答えるだけであった。
 ルナが裏切ったと王国の兵隊は言った。そんな戯言をブリタニアの統領が受け入れたのだろうか。有り得ないと誰もがそう思った。しかし、怪鳥の攻撃は何の躊躇もなく推し進められた。
 ブリタニアは、王国の一部ではなかったのか。それを疑う者は誰もいなかった。それでも王国軍は、仇敵を討つが如くに振る舞った。あの怪鳥がリメス・ジンだ、これで王国は覇権を回復する。王国の兵隊は怪鳥を指して誇らしげに言った。
 風にあおられ勢いを増して燃え続けた炎は、一面を焼き尽くして衰えはじめていた。立ち尽くす人々の悲しみと怒りが燃え上がっていくのとは対照的に。その矛先は王にもルナにも向けられた。明らかに人々はいわれの無い被害者なのだ。
 王国は、ルナの王国復権の思いとは別に、致命的な分裂の要素を一つ作り出してしまったのである。現在の王や宰相達、そして皇帝までもが、大国による大権統治が既に時代錯誤になっており、分裂、分散方向に動き出していることに気付いていないのだ。それぞれの民族や風土、それらの上に培われた文化からは、それぞれ異なった価値観が創出され、異なる価値観から導き出される主義・主張は、相容れないことが多いのだ。帝国の母体となった都市国家が創立されてから二千七百年近く、その間に繰り返された繁栄と衰退、その度に国家も人々も成熟して行き、成熟とともに主義・主張も洗練されていく。洗練を深める過程で、各々の主義・主張は相違点を明確にしていき、人々の信条が乖離していく。それが成長なのであって、成長するために時代は流れている。そんな時代の流れに反して、如何に統合方向の策略を巡らそうとも、それは結果的に分裂に向かうトリガーにしかならない。歴史は人が紡ぐものだが、それは為政者が作るものではない。流れを読むことができる為政者によって組み立てられ、それを人々が営み続け、その結果として生まれる新たな流れを組み立て直す。そうした所業の断片を結果論として結晶させたものが歴史なのである。
 こういった哲学的な知恵は、今は亡き王だけが知りえた境地なのかもしれなかった。他には、亡き王の直系であるルナだけが理解して行動できる可能性を秘めているのだが、そんなことは民衆の知る由もないことであり、怒りという弓から放たれる怨念という矢の幾つかは、間違いなくルナに向かうであろう。

<盛り上がろうと上がるまいと、そろそろ大詰めです。>

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