変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     掲載済 (17、18、19、20)
 第5章 回帰     ○   (22:2/4)
 第6章 収束     未
 第7章 決戦     未
 終 章          未
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第5章 《回帰》  (続き 2/4)

 悲劇はブリタニアだけに訪れたのではなかった。大陸の北方の森林にはあらゆる残骸が飛散していた。王国の爆撃隊の末路である。昼なお暗いと形容されて来たゲルマニアの森、その所々に火災の痕跡が黒々と点在していた。その数の多さが、爆撃隊の辿った軌跡を物語っている。ルナ隊の支援を得られなかった爆撃隊は、奮戦するも神聖同盟の餌食になってしまった。足の遅い爆撃機は、神聖同盟の迎撃隊にとって、演習目標のようであった。北方半島に残された僅かな王国領土に帰還できた爆撃機の数は、出撃していった半分にも満たなかったのである。これは、一機当たり二十名以上の乗員を有する爆撃機、鬱蒼とした森の中に、数百の御霊が飲み込まれたことを意味する。それでも、爆撃隊の被害は地上部隊よりもマシだったと言える。神聖同盟の陸空の守備隊に迎え撃たれた王国の地上部隊は、西ケルト奪還の思いとは裏腹に、全滅状態であった。わずかに逃げ果せた兵士達は、古代の蛮族の様相で北方半島の領土に帰還した。彼等にはもはや王国軍人の誇りも規律も無く、大陸にあるこの僅かな王国領土を守る術は残されてはいなかった。神聖同盟の軍隊に蹂躙されるのは時間の問題だろう。
 未開地域ではあったが、王国が唯一保持していた大陸の領土は、まさに風前の灯火であった。脱出も救出もままならぬ状況が、そこに残された人々に王国への不信感を植え付け、作戦を失敗に導いたルナへの恨みとして開花した。その思いは、捕虜として各地に連れ去られ、生き恥を晒すことになった兵隊達の中では一層強かった。数は多くはないが、その怨念の強さはブリタニアのそれに引けをとらないだろう。
 ルナが気に病んでいた状況は、ここに最悪の形で具現化してしまっていたのである。

 古代より陰惨な戦闘が多かったこの地で肉体を焼かれた魂達は、過去から漂う悪霊達と折り合いを付けられたのだろうか。彼等が、自らを死に追いやったルナがこれから諸悪の根源を突こうとしている、ということを知ることはもう無い。そんな彼等が、ルナの行動を後押ししてくれることは無いだろう。過去から各地で繰り返されて来た権力闘争や陰謀の数々、それらの犠牲となった人々は余りにも多い。王家の血とは、そんな怨念までをも力として取り込んでしまうものなのだろうか。

 これらの状況について、ルナは着陸してすぐに報告を受けた。斥候として大変優秀な部下、ブルータスが着陸地点で待ち受けていた。そこは同時に、フェルチアやカク・サンカク達との合流地点でもある。ブルータスは、僅かの時間に最低限ではあるが補給の準備をも整えていた。勿論、専用部品の多いタイガー・ルナのパーツまでは揃えられてはいないが、それは止むを得ないだろう。
 ブリテン王国の北方は、かつては大陸から海を渡って来た蛮族が闊歩していた。その南侵を食い止めるべく、島の東西の海から海に渡る城壁が構築されたことがあり、現在でも二千年の時を越えてその一部が残っている。過疎となって人の往来も無い地域であるために必然的に残ったものであるが、昨晩にルナから指示を受けたブルータスは、この場所にルナを受け入れるべく彼が持つ全てを投入して準備にあたった。彼が何年もかかって極秘裏に作り上げた情報網と裏組織、それらの全てを注ぎ込んだのだ。そうでなければこの短時間にこれだけのことはできなかっただろう。一度使ってしまえば、極秘は秘密ではなくなる。これは斥候の常識である。よって、これらの情報網や裏組織は、もう使えなくなってしまったのである。しかし、ここ一番で使うために作り上げたものであり、ブルータスの感性は今がその時だと告げていた。
 ブルータスはこの地域で生まれ育った。彼の親は、信念を持って生きて欲しい、という思いを込めて、敢えて『ブルータス』という名前を彼に贈ったという。あのカエサルを裏切ったブルータスのように、自らの信念に生きよ、裏切りもその一つの形でしかない、と語り聞かされたものだ。この地域の厳しい自然に生きた彼の親は、既にこの世にはいない。しかし、その思いは確実に伝わっていた。そして彼の信念は、ルナへの忠誠という形で具現化した。その名のため、裏切り者と罵られた少年時代も影響したのだろう。彼のルナへの忠誠心には全く淀みが無い。持つべき信念が芽生えず悶々としていたある日、ルナが彼の前に現れた。当時、ブルータスは地場のヤクザのようだったし本人もそう思っていたが、ルナに言わせるとブルータスの組織のお陰でこの地域は安定していたという。力の作り方と使い方を知っていると言うのだ。そんな組織力と調整や運営の能力を買われ、ルナの斥候として誘われた。皇太子を廃位されたばかりの王子、そんなルナがどうにも魅力的に見えたのは、その出会いが運命だったからなのか。少なくともブルータスはそう考えていた。親の死を看取ってからそれまで、他人に認められたり評価されることは皆無と言ってよかった。むしろそうされることを警戒するようにさえなっていた。このような生き方をして来た者が選ぶ生き方である。しかし本音では、それでは寂しくてしょうがない。そこにルナが現れ、本質を見抜いたのだ。心の拠り所は多くは要らない。ブルータスの心はルナによって満たされたのだ。これからも彼は、ルナに尽くすことにだけを考えて生きていくことだろう。それがあくまでも秘密裏に、表の世界から認められるものではないとしても、彼の忠誠心に一点の曇りも出るものではないのだ。

 ルナは隊員に補給と休息を命じ、それができる状況を作ってくれたブルータスに感謝の意を示した。あっさりしているが、ブルータスにはそれで充分であった。そしてルナは、自らの考えを纏めることに集中した。
 明らかに状況は最悪である。王国の将来自体が極めて危ぶまれるし、王もルナも人心を再び掴むことは難しいだろう。神聖同盟が侵攻して来ることが確実になった今、 ~侵攻するためにこれ以上は望めない口実を王国側から与えてしまった~ 王国は国としての体裁を保つこともできなくなりつつあるのだ。
「救命艇が接近して来ます。」
ブルータスの報告にルナが立ち上がった。空母から脱出した救命艇が合流して来たのだ。今のルナにとって、それは唯一の朗報である。この状況であっても、フェルチアをはじめ、命がけで彼を慕い、寄り添ってっ来る者達がいる。プライドも責任感も無くしかけていた今、彼の心にも支えが必要なのであった。追い詰められたルナの心の中で、フェルチアの存在が徐々に大きく育っていることに未だ気付く余裕は無かったが、狼狽や弱みを見せられない立場の彼を、人知れず救ったのは彼女なのであった。

「ブリタニアに帰る。体制を整える必要がある。」
突然、決断を隊員に告げたルナは、自ら離陸の準備に取り掛かったが、ブルータスがルナに歩み寄って耳元でささやいた。
「さっきも言ったが、ブリタニアは焦土と化しているんだぜ。統領をはじめ、お前の腹心は所在すら掴めていない。それにお前に対して不穏な動きも予想される。考え直すことだな。」
「基盤が必要だ。ゲリラになるわけにはいかない。それに怪鳥の件、捨て置くわけにはいかん。王国がそんな兵器を所有していたなんて話しは聞いていない。」
ブルータスにそう告げると隊員に大声で言った。
「諸君、ここで分かれよう。付いて来ることを拒みはしないが、それは絶望への旅路になることだろう。」
後から合流したフェルチアが応えた。
「絶望を希望に変えに行かれると信じます。地獄も極楽に変えられるはずです。私にお手伝いさせてください。」
何とも純粋な、若々しい感受性だろう。しかし、ルナは返事をせずにタイガー・ルナを離陸させた。
ある程度は予想していた。付いて来る者がいることを。だが、全員がルナ乗機の後を飛んでいた。甲板要員までもが、狭いタイガー・ルナのコックピットに収まっていた。
「俺を撃ち落とすつもりなら、すぐにやれ。」
付いて来る理由にはそれもあろうかと思い、ルナは全機に告げた。
 応答も反応も無いまま、ルナ隊はブリタニアに向かった。

 隊員の真意も気になってはいたが、怪鳥出現の情報で、ルナの考えが繋がった。

 怪鳥の件は知らなかった。そんなものがあるなら、宰相派は神聖同盟を本気で叩き潰すつもりなのかもしれない。帝国との開戦までも視野に入っている可能性もある。しかしそれなら、自分の招聘は何のためだったのだろう。いや、秘密は漏れるものだとブルータスも言っていた。きっと怪鳥は開発されて間もないのだ。だから自分の耳にも未だ入って来ていないと見てよいだろう。つまり、究極の兵器で先手を打とうとしていたが、実戦配備する前に神聖同盟からの侵攻が予想されたので、戦線を維持させるためにルナ隊が必要だったのだ。どこまでも姑息な連中だ。

 捨て駒にされていたことを腹立たしいと思いながらも、未だ裏がありそうだとルナの直感が告げていた。

<発散する複線は、どこまでも続きます。。。>

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