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迷子の鍵と手袋

2009-01-10 17:08:50 | Scene いつか見た遠い空
この季節になると、路上に手袋が片方だけ落ちているのをしばしば目にする。
かくいう私もときどき手袋を落としてしまうくち。失くすのは、使う頻度の高い黒が多い。
バッグから何か出すとき、表面に置いてある手袋をうっかり落としてしまうようなのだ。
昨年末も、深夜の渋谷で革手袋を片方だけ落としてしまった。
すぐに気づいたけれど、歳末の雑踏の彼方にそれを再び見つけることはできなかった。

そんなわけで、数日前、新しい黒革の手袋を入手。自分の掌サイズにぴったり
と、喜んで着けて歩いていた矢先、渋谷警察署から携帯に電話が――

やはり昨年、渋谷でうっかり落としてしまった自転車の鍵が、警察の落し物課に届いているという。
合鍵が幾つかあったので、無くても困ることはなかったけど、再会できてとてもうれしかった。
この鍵には、かつてニキの首に巻いていたリボンが結わえてあったから。


リボンには、万が一ニキが迷子になっても連絡してもらえるよう携帯番号をしたためていた。
それがこんなところで効を奏したわけで。。鍵をぎゅっと握りしめて云った。「おかえり!」
在りし日のニキ@新幹線

――実は、警察に連絡をもらう前に、鍵を拾ったという女性から私の携帯に直接電話をもらっていた。
「清掃中に拾ったのよ。困ってると思って」という彼女に、「ありがとうございます。鍵というか、
リボンが猫の思い出の品なんです」と私がいうと、その人は「あー、ねこ」と呟いてふっと笑った。

しかし、いざ受け取りに行こうと、伺った彼女の携帯にかけるとなぜか全然つながらず。。
その方が先日警察に届けてくれたらしい。お礼をしたかったけど、警察には名乗らなかったよう。
色褪せたリボンに触れると、ニキの体温とその女性の心温かさが 仄かに伝わってくるような気がした。


さて、今週は仕事始め。水曜は『NODE』の取材で五反田の大日本印刷にある
ルーブルDNPミュージアムラボへ。ここは、ルーブル美術館の所蔵品からセレクトした作品を
マルチメディアを駆使して紐解く実験的空間。開催中の「ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》
問い直された観る人の立場」展は、入口に脱ぎ捨てられた部屋履きやドアに下がった鍵、
蝋燭の焔などなどから、絵に込められた秘密を探偵のように推理できる仕掛け。
詳細は、ルーブル展を特集する3月発売予定の『NODE』vol.6をぜひ。

帰りに、布張りの美しいノートをお土産にいただいた。その後、編集のサトウさんとPR会社の方と
カフェでしばし談笑。仕事始めにほっと心なごむ冬の午後。



木曜は銀座のジュエリー会社で打ち合わせ後、日本橋高島屋で12日まで開催中の
「ガレ・ドーム・ラリック アール・ヌーヴォーからアール・デコへ ~華麗なる装飾の時代~」展へ。

会場にはアール・ヌーヴォーからアール・デコの時代を彩ったエミール・ガレ、ドーム兄弟、
ルイス.C.ティファニー、ルネ・ラリックの名品(主にポーラ美術館所蔵品)がずらり。

植物や昆虫など自然の造形を取り入れたアール・ヌーヴォーらしい有機的な装飾の数々は
あるいみ非常にグロテスクかつエロティック。ゆえに きわどいほどエレガント。


特に魅かれたのは、↓ルネ・ラリックの彫刻的な花瓶「つむじ風」(1926年)。
アール・デコらしい造形の奥に、未来派やダダ、キュビズムのエッセンスが潜んでいる気が。


日本橋高島屋は昭和初期の建築らしい意匠がエントランスや階段など隅々に残っていて趣深い。
ここの屋上も穴場。特に平日は、都市の不思議なエアポケット空間に。
冬晴れのささやかな空中庭園ではしゃぐ子供や犬、誰かの噂話を神妙に語り合う女性たち、
テイクアウトのカフェでパンケーキを独りつまむ白髪のご婦人。。


この後、件の手袋を買い、渋谷警察で件の鍵を受け取ったしだい。
さらにその足で代々木八幡宮に向い、少し遅めの初詣。
ひと気もまばらな参道には近隣の小学生の書道作品がずらり。


世の中にはいろんな「お正月」があるもので。私はいまだ少々お正月惚けぎみ。。


夕刻、上原の一角でこんな早咲き梅に遭遇。

その夜は雪予報だったけど、私が目覚めている間は遂に窓外に雪を目撃することはなかった。

翌金曜午後には雪も雨に変っていたが、ひどく底冷えがした。浜松町に打ち合わせに行った際、
氷雨で濡れた窓越しに、浜離宮恩寵庭園の一角に咲いていた桃色の梅がぽっと見えた。


打ち合わせの帰り、タガタ氏がふくちゃんから預かったというお菓子を渡してくれた。
中原中也にちなんだ山口のお菓子。パッケージにはローマ字で「湖上」の一句が書かれていた。
  ポッカリ月が出ましたら   舟を浮かべて出かけましょう
  波はヒタヒタ打つでしょう  風も少しはあるでしょう

明日は満月。ポッカリ月が出るといいな。


そうそう、1月6日にNHKで放映された「教育テレビの逆襲~よみがえる巨匠のコトバ~」が面白かった。
本田宗一郎、三島由紀夫、開高健、司馬遼太郎、手塚治虫などなど故人たちのリアルな言霊に
幾度も魂をつかまれた。好き嫌いはさておき'80年収録の矢沢永吉インタビューも呆気にとられた
同じく若き日の坂本龍一(「YOU」出演場面↓)もひたすら微笑ましく。

とかく旧いものに興味が向きがちなのは、単なる回顧趣味というわけでもない。
ホンモノには、時代を超越した凄みがあるから。
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