寝入りばな、窓にぬうっと現われた金色の満月と目が合って、
思わず「ひっ」と小さく叫んだ。
とっさのルナティックな瞬間。
ついこの前まで、日暮れとともに こんな透き通った
生まれたての三日月が出ていたというのに。
先週、銀座と新橋で見上げた月は、まだ猫の瞳のようなアーモンド形だった。
地球上で火山爆発があった年は、空が美しく澄むのだとか?
真偽のほどは分からないけれど、確かに今年はボルケーノ騒動があったっけ。
ともかく、今夏は連日の澄んだ夕映えを観るのが楽しみでしょうがない。
近くの陸橋で夕空を撮っていたら、「わぁ」と通りすがり女の子が眩しげに溜息をもらしたり
「おっ」とおじさんが立ち止まって携帯で撮影したり。今夏の夕空には不思議な魔力が宿っている。
キムナオさんにデジカメ写真を見せたら、「フォトショップで画像修正してる途中みたい」と(笑)
確かに 刷毛でサッと描いたみたいな暮色や、イレーサーで消すのをミスったみたいな夕雲が。。
でも、もちろん画処理は一切なく、まんまの夕映えです。
☆
またどかんとブログに間が空いてしまったので、例によって近況をさくっとプレイバック。
まずは、先日みっちゃんと「ちいさな薬膳料理教室 鳥の巣」を主宰している
鳥海明子さんご夫妻のおうちへ。
和のしつらえが心地よい部屋の窓から見える夕景色がしだいに濃く染まっていくなか
振舞っていただいた手料理の数々は、暑さにふにゃっとなっていた夏の身体をはっと目覚めさせ、
五臓六腑にしみじみ沁みこんでいくような絶妙な風味食感だった。ご馳走さまでした!
こんなに愛情深い料理を魔法のようにささっとできる奥さん、私も欲しいかも!
こちらは先週末、近所のSPBS(渋谷ブックセラーズ&パブリッシング)で行われたトークイベント
「動き出した電子書籍『AiR』、その表も裏もぜんぶ話します」の模様。
作家の瀬名秀明氏、桜坂洋氏、北川悦吏子氏などなどのぶっちゃけ話、なかなか面白かったです。
紙媒体と電子書籍は決してヴァーサスではなく、いい意味で棲み分けていくのだろうな
と改めて確信。どっちかだけにこだわっていても 楽しい未来は拓けないはず。
その翌日、軽井沢から日帰りで来ていたSTUDIO TORICOのキムリエさん&キムナオさんと
ご近所のNEWPORTへ。トリコチームと話していると仕事の話もほんと楽しい。
バックにホルガー・チューカイやアート・オブ・ノイズやトーキング・ヘッズや
マイケル・ナイマンの「ZOO」サントラがかかっていたりして、風景が一瞬にして80sに。
あ、STUDIO TORICOでは、先日取材した「モールトン展」の本も鋭意制作中なのでお楽しみに!
☆
7月は取材集中モードなのだが、いろんなインタビューの中でもとりわけ印象深かったのが
中央大学名誉教授の小山田義文先生と、南方熊楠 顕彰会理事の田村義也先生。
小山田先生の著作『世紀末のエロスとデーモン』は取材内容とは直接関係なかったけど
86歳にしてなお、花のエロティックな暗喩について嬉々と語る教授にしびれました。
また、南方熊楠研究者の田村先生による熊楠像や、エコと熊楠を巡る緻密な検証も大変興味深く。
で、数年ぶりに 水木しげるの『猫楠』を書棚から引っ張り出してきて読み返したのだけど
天才なんて枕詞をつけるのが気恥ずかしくなるほど人間離れしているね、熊楠も水木しげるも。
☆
仕事の間隙を縫って、銀座のギャラリーGKで開催していた「本多廣美作品展」(写真右・中)と
ギャラリー小柳の「須田悦弘展」にも行ってきた。全然毛色は違うけど、前者は木版画、後者は木彫と
どちらも木を自在に操るアーティスト。本多さんは不思議な幻想譚の挿画のような世界観が魅力。
須田さんは楚々とした草花そっくりの木彫による利休的インスタレーションが心憎い。
そして昨日は馬喰町のオーガニックカフェ ハスハチキッチン(左)で超ロングミーティング後、
「馬喰町ART&EAT」などをオーリエさんと散策。昭和レトロな雑居ビル特有の
昭和的モダニズムを活かしてリノベーションされたお店やギャラリーは、
アンティークのあしらいがいちいち巧いなぁ。
☆
そういえば、故ニキの月命日前夜17日、
たったいま生まれたばかりのようにつややかな漆黒の翅をひらめかせて私を先導する
麗しいカラス揚羽に出逢った。
ふと、かつてニキを動物病院に連れて行った時、眼前をふらふら横切っていった
枯葉のようにぼろぼろのカラス揚羽のことを思い出した。
おわる命とはじまる命、それぞれの瞬間。
↑熊谷守一の〈鬼百合に揚羽蝶〉
7月20日は高校時代からの盟友みるの10回目の命日だった。
その日の空も、彼女が大好きな深い深いブルーだった。
その青はやがて、潤んだ緋色の空へと吸い込まれていった。