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ネイチャー・センス展、黒澤画コンテ、R70

2010-10-10 04:37:15 | Art

9月末、打ち合わせ帰りに恵比寿でオーリエさんと久々邂逅した折には
東京中の雲という雲が秋風に一掃され、ミニチュア模型のような東京が
ディテールまでくっりきりパキッと眼下に広がっていた。

が、10月頭に母と海抜250mの東京シティビューから見下ろした東京は
ミルキーホワイトな霧雨の海に首までたっぷり浸かっていた。
でもそれはそれでミスティックなあやなし眺め。


そんな中、森美術館で開催中の「ネイチャー・センス展 吉岡徳仁 篠田太郎、栗林隆」
母とみて来た。森羅万象を感知する潜在的な力=ネイチャー・センスを喚起させる
3人3様のインスタレーション、非常に冴えていた。
(ちなみに森美術館はフラッシュ&三脚さえ使わなければ写真撮影もOK)


のっけから、吉岡徳仁作品に引き込まれた。
吉岡徳仁「スノー」2010

雪のように舞うのは羽毛。アクリルに映る人影も、作品の一部と化している(左)。
写真のシルエットは母。母も私も雪国出身なので、雪にはことのほか深い思いがある。
雪は、昏く美しく恐ろしい。ふしぎなことに、この作品の雪はとても温かく感じられた。

同じく吉岡徳仁の「ウォーターフォール」(右)は、
外界との境界を美しく蕩けさせ、曖昧化する絶妙な作品。
素材はスペースシャトルにも使われている特殊ガラスなのだそう。
このガラスも、なぜか視覚的に温かく感じられた。


京都の東福寺にある重森三玲設計の庭「銀河」をモチーフにした篠田太郎の「銀河」(左)も、
凛と研ぎ澄まされた作品だった。天井から時折り注ぎ降る滴によって、
液面に星座が一瞬浮かび上がり、即座に消える。あの重森三玲の枯山水の宇宙観を
こんな風に解釈するなんて、心ふるえた。ただ、上から注ぐボトルが視界から見えないように
セッティングしてくれたら、もっとよかったような。

一番最後は、ジャンクな家具とネイチャー関連本(閲覧OK)がインスタレーションされた
「ネイチャー・ブックラウンジ」(右)。こんな図書館があったらいいのにな。

現代アートとかデザインとか、狭量なカテゴリーをしなやかに軽やかに超越して
新鮮に愉しめる企画展だった。 小雨降るなか 行ってよかったねー、と母娘でしみじみ。


先週は写美の学芸員さんと打ち合わせした後、仕事冥利でご招待いただいた
秀逸な企画展を幾つか堪能。一つは「オノデラユキ写真の迷宮へ」。

非常に深淵でコンセプチュアルなアプローチながら、インターフェイスがコマーシャルと見紛うほど
エレガントでスイート。それらのエレメントは、ガーリィともいえる。
でもパリ発のお洒落さんで終わっていないところが、この人の真髄。美しくて、深い。
初めてちゃんと対峙したけど、かなり好きになりました。

古着のポートレート 1994(左) Transvest 2009(右)

ピンクの背景にキッチュなオブジェ群が並ぶ12枚の連続写真は、
よく見ると、オブジェに紛れた中央の丸鏡にフォンテンブローの森が映っている。
一見スタジオ写真と見まごうが、実は森の中で撮影されていることを
“鏡像の森”が唯一証明している。この人のギミックはどこか痛快だ。

12 Speed 2008

同じく写美で10/11まで開催中の「黒澤明生誕100年記念画コンテ展 映画に捧ぐ」も観てきた。
昔、父に見せてもらった『影武者』の画コンテ集で、黒澤のただならぬ画才に驚愕したものだが
生でみると、さらに迫力。黒澤の脳内にはクランクイン前からパーフェクトな映像が
存在していたということだ。黒澤映画は捨カットが無く、1カット1カットの画作りの濃密さたるや
いちいち溜息ものだが、画コンテの段階で既に溜息ものの完成度だったわけだ。
会場をじっくり巡りながら、黒澤フリークだった亡父に、心の中で何度も話しかけた。
『乱』より
『影武者』より

『影武者』や『乱』で主役を務めた仲代達也のインタビューを、昨日たまたまスカパーで見たのだが
彼は『七人の侍』に通行人のエキストラで登場していたよう。監督からなかなかOKが出ず、
そのわずか3秒ほどのカットのために、スタッフ数百名で半日を費やしたという。。恐るべし、黒澤。
仲代氏いわく「役者は楽器。役柄に合わせ、声色も当然変える。役者は芸術家ではなく、芸人だから」
写美の会場には、F.F.コッポラとJ.ルーカスの“黒澤を語る”みたいな映像も流れており、
これもかなり興味深かった。特に『影武者』におけるコッポラの勝新太郎と仲代達也論、必聴です。



少し遡るけれど、銀座で開催していた「前衛★R70展」も拝見。赤瀬川源平、秋山祐徳太子、
吉野辰海などなど、70歳以上の前衛芸術家たちの“前衛”っぷりを、たっぷり堪能した。
池田龍雄に至っては、17歳で敗戦を迎えた80代の元特攻隊員。存在自体があるいみ“前衛”だ。
みなさん、全然枯れていない。悠々自適なアヴァンギャルド爺たち。恐るべし、R70。

その足で銀座ライオンへ。日本で初めて飛行機を操縦した女性・原野先生も、
元NHK大河ドラマのディレクター清水さんもやはり70代ながらへたなU30よりきらきらパワフル。
そういえば、清水さんのお父様は黒澤映画『野良犬』に刑事役で出演されていたっけ。
大好きな原野先生が喜寿を迎えた記念のお誕生日ケーキ、美味でした。
ちなみに 私の母も古希を過ぎているけれど、心身ともに劇的に若い。
足るを知るR70の在りようは、歳を経ることの豊かさを身を持って教えてくれる。



先週末、プチ取材かたがた代官山の西郷山公園へ。
ただでさえ香る金木犀のアロマが ここは一段と濃密だった。
加えて、所々にオシロイバナも満開で。拙宅のベランダにもあやのさんから分けていただいた
かわいらしいオシロイバナが楚々と咲いているけれど、公園のは もっと獰猛な咲き乱れ方だった。
日が高いうちは蕾だが、夕暮になるといつの間にか開花。ジャスミンのような香りを放って。


遊歩道を下っていくと、幼稚園の裏に猫さん。そっと近づくと、随分甘えん坊だった。
黄昏時には、方々にぽっと灯るように咲いている彼岸花の朱が一段と艶やかに見えた。




幾つか原稿を書かせていただいている熊野&南方熊楠特集の文芸誌『Kanon』vol.20 が発売に。
南方熊楠顕彰館の理事 田村義也氏の熊楠についてのインタビューは、私自身も目からウロコでした。
論旨が非常に鋭利かつ明快なので、熊楠初心者にも熊楠マニアにもおすすめ。
また、東大前の喫茶「こころ」でお話を伺った哲学者 内田節氏の森についてのお話も
たいへん興味深い内容です。お読みいただくと、ちょっと世界観が変わるかも。
「自分を捨てきれない人に“悲しきもの”を見る日本人の自然観」――実に奥深いです。
高橋大輔さんの写真集を撮りおろした斉藤ジンさんの熊野フォトにも吸い込まれます。




夏に代官山のヒルサイドフォーラムで開催されたモールトン自転車展の図録も遂に完成!
キムナオさんの撮りおろし写真も、キムリエさんの編集も、早川さんのデザインも完璧です。
私も幾つかのインタビュー記事などを書かせていただきました。
詳しくはスタジオトリコのモールトンBOOKサイトを要check!


書きたいことがまだまだあるけれど、長くなるのでまた追って――
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