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空に吸われし十五の心

2009-10-31 04:24:19 | Travel 国内外猫の目紀行
あれこれあわただしいのだけど、そのひとつひとつが妙に楽しい日々。
ちょっと間が空いたが、先週末は取材で盛岡に一泊。
尋ねたのは石川啄木の故郷 渋民村。地元の人も滅多に見られないというほど
澄み渡った岩手山をスカッと拝むことができ、つくづく幸運だった。


渋民駅に降り立った瞬間から、何かの謎解きのように村の随所で啄木短歌に出逢う。
東京よりぐっと冷涼な空気に、切り絵のように浮かび上がる色づいた樹々。

冠雪も凛々しい岩手山の向かいには、すっとたおやかな姫神山が。
顔を右に左に動かし 2つの山を交互に眺めると、彼と彼女は静かに微笑みあっていた。


啄木が教員を務めていた渋民小学校の教室で取材&撮影。
障子窓の隙間から忍び込んだらしい糸トンボたちも一緒に参加。


教室の壁には、誰かが置いていったという素敵な帽子がかかっていた。
石川啄木記念館 学芸員の山本さんいわく、啄木は中折れ帽で蛍を採ったことがあるんだとか。
記念館には啄木がよく弾いたという旧いオルガンが。館内にはこのオルガンの音色を収録した
BGMがごく小さく流れており、妙に心地よかった。


寺山修司の「書を捨てて町に出よう」にも出演していたという元・天井桟敷の昆明男さんと
学芸員山本さんの対談は、おふたりのキャラが立っていて楽しかった。
なかなか長丁場だったけど、取材中もずっと、私の真正面には岩手山の威容がそびえており
夕暮れには、その迫り来るようなシルエットに思わず手を止めてほーっと見とれてしまった。


2日間に及ぶ取材の後、明治43年に東雲堂から発行された「一握の砂」の復刻版を
山本さんにいただいた。今回、啄木にまつわる本のお仕事で初めて啄木作品と真剣に向き合う
機会を得たわけだが、遅ればせながら、啄木がいかに天才だったかを思い知った。
中学時代に教科書で読み流していた3行詩のような短歌も、今改めて見ると平易な言葉の奥に
深遠な世界が息衝いており、ある種 彼は優れたキャッチコピーの天才でもあったのだと感じた。



それにしても、ご一緒できた方々がみな温かな人たちで楽しかったー。
編集のみずもとさんと共に、村の温泉でもほこほこあったまることができ、
スリランカと温度差約30℃もなんのそのすっかりなごんでしまったのだった(原稿もがんばろ)



土曜、久々にオーリエさんと邂逅。青山のCLEAR EDITION&GALLERYに寄った後、
例によってすっかり深く話し込み。彼女との新しいお仕事もわくわくする。
         時々口をつく博多弁も絶妙にチャーミングなオーリエさん↓




週明けは月曜から取材&打ち合わせラッシュ。火曜、修復中の東京駅の上に白い半月が浮かぶ頃、
待ち合わせ時刻にはしばし間があったので、一丁倫敦界隈をゆるゆるお散歩。


ながいながい自分の影に、のほほん顔で水を滑る鴨や白鳥たち。


夏以来、久々に訪れた和田倉噴水公園で、ぼーっ。。好きだなあ、やっぱりここ。


日没後、食育の取材で丸ビル35Fの仏料理店「サンス・エ・サヴール」へ。
窓辺に立つと眼下に、ついさっきまで居た和田倉噴水公園の水飛沫がちいさくちいさく見えた。
そして、夜の皇居は深い穴のようにくらいのだった。




その後2日間は部屋から一歩も出ず、時々ぱたっと寝てはまた起きて黙々と原稿を書き続ける。
もしも、誰かがその様子を覗いたら、変なネジ巻き人形みたいにみえたかもしれない。。


土曜、アイウエア関連の取材で布施英利さんにインタビュー。取材場所はたまたま近所のカフェ。
布施さんは去年も鼎談でお目にかかったけれど、やっぱり藤田嗣治画伯そっくり(笑)
さすが興味深い話もいろいろ。原稿を書くのが愉しみだなー。

これは、話のネタにでもなればと持っていったイタリアの眼鏡のヴィジュアル歴史本。
むかし、ローマの古書店で見つけた一冊なのだが、黎明期の眼鏡のクールさに驚く。




数日前、近所の花屋さんの軒先でピンポンマムの鉢植えを見つけ、迷わず連れてきた。
昔から、このまあるいかたちにたまらなく魅かれる。
そしてこの花をみるたび、ニキを思い出す。ニキが天国まで抱いていった花だから。


もうすぐ、満月。
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薔薇の重力、温かい水

2009-10-22 02:25:01 | Scene いつか見た遠い空




スリランカから帰国してからじわじわ慌しい日々。一瞬 微熱のち、二日間大爆睡して復活。
そんなさなか、金木犀が濃密に香る雨上がりの代々木公園ですれ違った薔薇たち。
誰が誰だったか、薔薇の名前は全部忘れた。そんなこと いいじゃない、と薔薇たちが云うから。


先週、ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルのあの半月型のちょうど角にある
最上階のレストラン個室で、新井満氏と石川啄木記念館学芸員の方との対談を取材。
新井氏は啄木の墓前で啄木と会話を交わしたそう。いわく、啄木は早口で甲高い声だったのだとか(笑)
対談が終わる頃には港にぽつぽつとあかりが灯り、薄暮の遠景に富士山の威容がほの見えた。



14日、愛用の無添加ジザニアシャンプーを買いにスプラッシュさんに行ったら
ちょうどOPEN8周年記念日!NHKが手描き文字を特集した番組用にボードを撮影していったそう。

裏側にはスタッフの方が書いた一言が。一瞬、点取り占いの謎めいたコピーみたいだけど、、
私もそう思います、ほんとに。
近いうちに、髪を整えにスプラッシュさんに行かなきゃ。


日曜の夕方、イラストレーターあさみちゃんのお誘いで、ご近所NEWPORTのイベントに。
あさみちゃんのイラストは相変わらず突き抜けてかわいかった。
たいちゃん&あさみちゃんコンビ、ますますラブリーです。


NEWPORTで合流したふくちゃん、レイちゃん、やまかわさんと、新宿パークタワーへ向かい、
ハカセたちと5人でゴハン@新宿思い出横丁。路地が昭和の映画セットみたいでわくわく。




週明け、丸の内ブリックスクエアへ。9月頭にOPENしたこの空間には訪れるのは初。
ちょっと一丁倫敦な匂い。この一角に佇むmikuni MARUNOUCHIで食育イベントの取材。
江戸時代からある希少な東京の伝統野菜や、三國シェフが大使を務める福井県の米や魚、お酒の
豊かさに驚かされた。コシヒカリって、福井県発祥なんだそう!
それにしてもこの食育イベント取材は毎回 試食が実に贅沢(嬉)。
三國シェフの蕩けそうな牛フィレ&フォアグラ&トリュフに放心。。




昨日はメグちづこさんと下井草の「ギャラリー五峯」へ。
今回の展示は内野敦子さんの「服展」。内野さんが作る一点もののお洋服たちはどれも
凛とした美意識のなかに、不思議なあたたかさがある。まるで猫みたいな。
ブランド名は「TATOPANI」。ネパール語で「温かな水」というイミだそう。

(奥にいるのは、素敵なマダム メグちづこさん)

ギャラリーを主宰する大村さんが、ミントティーとハロウィンにちなんだカボチャのお饅頭を
ふるまってくださった。カボチャ大王、ごちそうさまでした!


昼下がり、キムリエさんから電話があり、渋谷へ。げんきそうでうれしい。
夜はバックパッカーみたいな出で立ちのキムナオさんも合流してゴハン。
最近、澄んだ高原に引っ越したふたりの瞳に、東京では決して見えない
満点の星空が映っているように思えた。



9月あたりから、懐かしいミオフーの再発版を妙にリピートして聴いている。
84年当時には収録されていなかったトラック「Happy Lucky Life」がついつい頭をぐるぐる。


♪Up&Down でも進む HAPPY LIFE
Two Step Turn でも口笛吹き 走り抜けるよ―――ミオフー「Happy Lucky Life」より
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スリランカへ。

2009-10-15 17:05:26 | Travel 国内外猫の目紀行


アーユボワン(こんにちわからこんばんわ、さようならまで網羅する伊語のciaoみたいなシンハラ語)。

先週から今週頭にかけ、スリランカ取材に行っていた。
わずか一週間ながら、思いのほか濃い旅だった。
一緒に行ったのはレイちゃん&デザイナーのマイちゃん。
女子3人でミルクティーを何杯もおかわりしながら話した夜が、既に遠い昔のような。

5年前のモルディブ取材の際、コロンボに1泊したことはあるけど、
今回はキャンディと、シーギリヤ、ダンブッラ、ポロンナルワ、アヌラーダプラといった
文化三角地帯に初めて足を踏み入れ、この国の奥深さを思い知った。
アルカイックスマイルのような人々のほのかな微笑や、
自然と寄り添ういきものたちのいとなみや佇まいが
とてもシンプルでたいせつなことをたくさん思い出させてくれた。


膨大な写真の整理同様、自分のなかで熟成するにはまだいくらか時間がかかりそう。
ここにあるのは、たったいま私のなかにきらきら散らばっているイメージのピースたち。
(詳細は、11月発行予定の『スリランカ通信(仮称)』をぜひ!)











ダンブッラの遺跡に向かう階段途上で供花の蓮をスリランカモンキーに奪われた。
花芯だけ器用に毟りとってもぐもぐ食べると、花はぽいっと捨ててしまう。
それを拾ってまた階段を上っていくと、また別のサルが蓮を奪う。でも花芯がないと知るや
またぽいっ。。そんなことを繰り返していたら、とうとう花がくたくたになってしまった。


シーギリヤ近辺のレストランにいた猫さん、その名もキティ。首や顎を撫でたらごろごろ。。
ポロンナルワの一角に鎮座していた大きな仏像の貌にちょっと似ていた。
世界の何処にいても、猫と触れ合うひとときは聖なる時間。
世界の何処にいても、月や星をいとしく見上げるように。


往きの便では暇に任せてオセロに興じ(全戦全勝!)、帰りの便では5年前と同じようにテトリスに
はまりかけるも(テトリス狂なので)、後の疲れを考え自粛。まあそうでなくても爆睡だったけど。
着陸2時間ほど前から翌日に控えた取材資料の石川啄木歌文集を熟読していたら、
あっという間に成田に着いた。
「見よ、今日も、かの蒼空に 飛行機の高く飛べるを。」 飛行機 1911年TOKYO より



帰国後、メールチェックしたら、とてもとても懐かしいひとからコンタクトがあった。
不思議だな、スリランカでふとそのひとのことを思い出していたものだから。

アーユボワン。


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未来派、坂倉モダニズム、マスカット

2009-10-05 03:47:52 | Tokyo 闊歩・彷徨・建築探偵
咆哮する自動車は、サモトラケのニケより美しい。
――と云ったのはマリネッティ。1909年 未来派宣言。

「これから君たちは20世紀以降のアートを学ぶわけだけど、具体的には1909年の未来派宣言を
20世紀アートのスタート地点という風に定義します」――と云ったのは、大学時代の教授。
…と、教授といえば坂本龍一も未来派にインスパイアされたアルバムを’80年代に出していたっけ。
マリネッティの声をサンプリングした「1919」も、時々むしょうに聴きたくなる曲。

おっとまた前置きが長くなってしまった。
先週、日本科学未来館で開催中の[ZIGZAG 伝統革新 未来を走るイタリア] を観てきた。
未来派宣言から100年、イタリアの最先端テクノロジーを特集したこの企画展のアイコンに
ボッチョーニの彫刻[空間における連続性の唯一の形態]を再現した作品が飾られていた。
会場デザインにも未来派のエッセンスが散りばめられ、BGMにも未来派の「騒音音楽」が流れていた。
ちなみにボッチョーニの彫刻は20セントユーロにも使われている。探したら うちにも一枚だけあった。

右は未来派の面々。中央がマリネッティ、右から二番目がボッチョーニ。


展示は自転車から自動車、鉄道、航空宇宙まで乗り物が中心。機械工学には疎い私だけど
イタリアのインダストリアルデザインの美しさには抗いがたい魅力を感じる。
日本の警視庁のヘリコプターもイタリア製らしい。
火星探査機の大気圏再突入時に減速させるパラシュートというのもあった。
(火星で使うにしちゃレトロというか牧歌的というか…?)


最新のエコカーなどなどもずらりと。イタ車って、面構えがどこかひょうきん。
ジウジアーロさん、ピニンファリーナさん、運転できないので、見た目9割発言であいすみません。



新タイプのFIAT500(チンクエチェント)もいた。これはこれでかわいいけど。。。


でも私はやっぱり、昔のこんなチンクエチェントが好きだな。ぼこぼこになってもなおかわいい。
若き日のマルチェロ・マストロヤンニもルパン三世も、断然こっちの方がお似合いでしょ。
いつ行ってもイタリアには無傷でぴかぴかのチンクエチェントなんて皆無だったけど、
21世紀に入ってからは この旧500自体がもうほとんど走っていない。淋しいなぁ。。



せっかくなので、日本科学未来館の常設展示もさらっと見学。
4年ほど前に一度別の企画展で訪れたことがあるのだが、
ここは内装やインテリアがなにげに凝っていてなかなか心地よいのだ。
吹き抜け空間に浮かぶ巨大な球体ジオ コスモスには、“宇宙から見た今の地球”が
100万個のLEDで映し出されていて、ちょっとSF映画の宇宙ステーションみたいな雰囲気。



ゲノムコーナーにあったパズルゲーム。端整なアート作品みたい。


月と金星の模型。ルナーAという月探査機の説明も。
ついでにルナスービトっていう月面探査機も、どうでしょう?


左は小柴教授のノーベル賞受賞で話題になった神岡鉱山内にあるニュートリノ検出装置
カミオカンデのアップグレード版「スーパーカミオカンデ」(10分の1模型)。
なんだかドラゴンボールに出てくる最強キャラみたいなネーミング。傍らに「こわれやすいので、
けったり、たたいたりしないでね」の注意書きが。。最強キャラも、意外とやわなよう。

右は「セラピーロボット パロ」。触れると鳴いたり動いたりするこの手の玩具は既に市場にあるけど、
生きた動物の反応に勝るものはないはず、、といささか抵抗があったのだが、このパロ君に触れてみて
びっくり! あざらしというか、猫に近い絶妙な身のよじり方や眼差しの変化に くらっっ。。
なんでもこの子、10万回の撫でテスト(笑)で精度を高めた触覚センサーを持っているようで、
実際にお年寄りや子供のストレス低減効果も確認されているそう。開発者の柴田博士は多数の
実験でセラピーの最も重要な要素は「触覚」と判断したそう。なんかそれ、すごーくよくわかる。


未来館の帰り、新橋のパナソニック電工 汐留ミュージアムで開催されていた
「建築家 坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン」の最終日に滑り込み。
これは先日、鎌倉の神奈川県立近代美術館で観た坂倉準三展とのセット企画。
鎌倉では公共建築やターミナルなど大規模な仕事が中心だったけれど、
こちらは住宅建築を中心に紹介されており、坂倉準三のまた別の魅力をいろいろ発見できた。


ル・コルビュジエの仕事上のパートナー シャルロット・ぺリアンとの協動作品も多い。
天童木工から出ていた椅子のデザインには、時代のエッセンスが凝縮されている。
個人的には青山の岡本太郎宅や、東京日仏会館のディテールに惹かれてやまない。


惜しむらくは、幾つもの住宅作品が「現存せず」となっていたこと。
建築図面や写真、模型に混じって、家族のいる風景をさらさらっと描いたドローイングが
展示されていた。なんだかほっとするような、いい絵だった。



先週26日に弟の竜ちゃんが研究会でうちに泊まりにきていた。
弟の研究発表を三浦展氏が聞きに来て、いろいろと話をしたらしい。
三浦氏の著作『「家族」と「幸福」の戦後史―郊外の夢と現実』と
『ファスト風土化する日本 郊外化とその病理』は、竜ちゃんに薦められて数年前に熟読したけど、
実に興味深い本です(ベストセラーの『下流社会』よりおすすめ)。

と、これは竜ちゃんが岡山土産に持ってきてくれたマスカット アレキサンドリア。
竜と入れ替わりにうちに泊まりに来た母と一緒にいただいた。爽やかな甘みがあって美味しかった!

母は幼なじみたちと食事したり、短歌の全国大会に参加したり、文学散歩に出かけたりと
まあ相変わらず溌剌とおしゃれ好きで元気なことこのうえない。なんだかうらやましいくらい。


先週は怒涛の原稿ラッシュだったけど、週半ば、間隙を縫ってお出かけ。
久しぶりにお会いした原野先生、ちょうどバースデイだったのでケーキでお祝い。
ちづこさんと大村さんが用意してくださった花束も シックで美しかった。

昨夜は中秋の名月。深夜3時半頃、終わらない原稿の合間に窓を覗いたら、
真珠のようなお月さまがにっこり。
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