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水にとけた太陽と 黄金の月

2009-01-30 05:50:51 | Scene いつか見た遠い空
週半ば、取材先に向かう途上、井の頭公園を漫ろ歩いた。
ぷくぷく芽吹いた猫柳の向こうには、水にとけた冬の太陽が仄かにゆらめいていて、
デコイみたいな鴨たちがその上を悠然と滑っているのが見えた。


遡ること日曜。Oxyオーリエさんちで昼下がりから鍋を囲みながら深夜まで尽きないお喋り。
彼女の部屋は実に居心地がいい。手作りでいろいろ工夫してあり、さすが空間デザイナー。


翌月曜に入稿しなければならないイームズ原稿のために、オーリエさんの私物シェルチェアや
ハウス・オブ・カードも撮影させていただいた。レイ・イームズの密かなガーリィ感がすき。



原稿書き、入稿、あちこち電話&メール、再び原稿書き・・・と慌しい月曜を乗り越え、
火曜は、ここはイタリア?な感じのリストランテ リヴァ デリ エトゥルスキ@南青山で
オペラ歌手幸田浩子さんのインタビュー。

イタリア留学経験もある彼女は、LunaSubitoの名刺を見るや、即イミを理解してくれた。
彼女が愛用しているという上原のお花屋さんは、私も御用達。オリーブが実をつける方法を話したら
早速試してみます、とチャーミングな笑顔。ボッティチェッリの春の美神の如く 心身麗しい人だった。


帰りにリストランテで松の実が入ったメレンゲのお菓子をお土産に。その名も「修道女の乳房」。
さすがイタリア人パティシエ、倒錯したセンス…しかも美味。メレンゲ愛好者としてはかなり好み。


水曜は5月まで開催している「プチ・ルーヴル展」の取材で、ジブリ美術館へ。
展示も美術館自体の造りも、子ども目線の仕掛けが随所にあってなかなかわくわく。
外国人来訪者の率が非常に高く、ジブリアニメの影響力を改めて思い知る。


帰りにポニョや猫バスのヌイグルミ、ではなく、プチ・ルーブル展アイテムのポストイットを購入。
さて、どの眼がどの絵に描かれた人物でしょう?

しかしこれ、普通に資料とかに貼って人に渡したら、引かれそう(笑)
余談ながらジブリ美術館のミュージアムショップ名は「MAMMA AIUTO!(伊語で、ママ助けて)」
なるマザコンめいたネーミングだった。意味深。

その夜は銀座へ。原野先生や清水さん、ちづこさんたちと久々にお会いし、積もる話題もあれこれ。
年長者の方々のお話は含蓄があって深い。そしてなんとも温かい。
「和福美」の色コラムの取材でいつもお世話になっている組紐作家の原野先生にささやかなお礼を
お渡ししたら、結んであった紐を解き、蜻蛉や蝶々や梅をいともたやすく作ってみせてくださった。


帰りにちづこさんに伺った60~70年代 銀座・原宿・横浜 青春グラフティ話も実に楽しく。
彼女にいただいたJohanの袋をうちに帰ってから見たら、ラズベリーの香りがふわん。
こんなピンクのかわいいパンが ぽこ・ぽこ・ぽこと。ごちそうさまです!



今週は新月明けで、しかも曇りがちだったので、月にはまったくお目にかかっていない。

そんななか、「黄金の月」を何度も聴いていた。オーリエさんちでこの曲を歌うスガシカオの
PVをみせてもらい、その歌詞の鋭利で屈折した“ジュンブンガク”っぷりが琴線にちくっときて。
有名な曲らしいのだけど、J-POPにあまり明るくない私は今までまるで知らなくて。
1997年のリリースだそう。12年前。。その頃って、私は何を聴いていたんだっけ?

・・・そんなことを思いつつ書棚を物色していて、こんな古雑誌を発掘。

ちょうど12年前、イタリア旅行中にローマの路上のバンカレッラ(キオスクみたいな雑誌スタンド)で
なぜかSILENT POETSが表紙になったイタリアのクラブ系雑誌がCD付きで売られていたという。。
(ちなみに1冊18500リラ。2000円ちょい?ユーロになる前の金額計算、もうできない…)
あの頃はポエツよく聴いてたなぁ。。ポエツの音楽は遠い旅の匂いがする。

そのときは南イタリアにも足を延ばした。電車でマルティーナフランカの賑やかな高校生たちと
乗り合わせた際、質問攻めにあったので、逆に彼らにどんな音楽が好きなのか訊いてみた。

多くはジャミロクワイ、オアシスの名を挙げ、イタリアの人気DJジョヴァノッティの名が出ると、
ものすごく盛り上がったが、一人だけ「メタルが最高」とガッツポーズしてみせた。

マルティーナフランカの隣はアルベロベッロ。ここでどんな音楽を耳にしたか、全然憶えていない。
夕暮れに、羊たちがとことこ歩く時、首に下がった鐘がカラコロ鳴っていたこと以外は。。


一昨年に出た「澁澤龍彦のイタリア紀行」の表紙もアルベロベッロでのスナップだが、
澁澤も似たような場所をあちこちわくわく訪れており、つくづく親近感がわく。
彼は最期の病床でも「もう一度イタリアに行きたいね」と云っていたとか。


あれからもイタリアへは遊びや仕事で2,3年毎に訪れているが、ここのとこご無沙汰。
今年こそは再訪したいな。と、花瓶の赤いヒナゲシを眺めつつ思うこのごろ。

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ルーヴル、またはイームズ

2009-01-24 06:57:57 | Art
黙々と原稿を書いていると、窓辺のフリージアがふと真夜中に香る。何かの合図のように―
今週は〆切りウィークにつき、後半は怒涛の缶詰モードだった。
そういう時の必須7つ小道具↓

くたびれた取材ノート、年季の入ったクオ・ヴァディス、インタビューが収録されたICレコーダー、
エスプレッソ、ミネラルウォーター(龍泉洞の水)、チョコ(カカオ85%)、蜜蝋のリップクリーム。

で、今週はこんなCDをよく聴いていた。
原稿を書く時はまず音楽は聴かない(聴けない)けど、合間のブレイク(逃避)タイムとか、
肉ジャガを作りながらとか、ベッドに入る前とか、あるいは起き抜けとかに。

ベティ・ブルーのサントラは、先日観た花組芝居の夜叉ケ池でも数曲使われていた。
Stanley CowellとHAUSCHKAは、雨がおちた夜にとても聴きたくなって。
一番よく聴いたのはYMOの’08スペイン ヒホンでのライブ版「GIÓNYMO」。
何かをとうに超えた、遠く澄んだグルーヴ。心身に一番快いかたちでしみこんでいく。


遡ること20日は、国立西洋美術館で2/28から始まる
「ルーブル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」の取材。

シニア・キュレイターの幸福氏(ご利益ありそうなお名前)のお話が実に興味深く。
(詳細は3月に発売される『NODE』のルーブル特集をお楽しみに!)

実は私、ルーヴル美術館は卒業旅行以来行っていない。書棚からその時のお土産本を発掘。

あの時はギリシア美術エリアで迷ってしまい、サモトラケのニケばかり印象に残っている。。

ベルトルッチの映画『ドリーマーズ』に、少年少女が手をとってルーヴル美術館を疾走するシーンが
あった。ゴダールやトリュフォーへのオマージュだったのだと思うけど、はっとするほど美しかった。


西洋美術館取材後、さらに渋谷で2件取材。夕刻、コーヒーと何か甘いものが食べたくなって
青山のCēlēb de TOMATOに入ると、編集者のヨシコさんとカメラマンのタカオさんにばったり。
(私は意外な場所で知人に遭遇しても全然察知できず、たいてい相手が気づいてくれるのだけど)

トマトのスイーツをいただきながら3人でしばしお茶。久々に逢うヨシコさんは相変わらずソフトで
タヒチやモルディブやハワイなどリゾート取材でよくご一緒したタカオさんのトークも懐かしく。


翌21日も渋谷で取材。帰宅後に朝刊と夕刊を一緒に読んだ。
かつてゴアがジョージに敗れた日、これは大変なことになるなと嘆息したけど、いまはその逆。

道のりはながくけわしいと思うけど、この“責任”の延長には私たちもいる。

アメリカといえば、米国在住のやまねちゃんと10数年ぶりにコンタクトがとれた。
このところ、懐かしい人たちとの邂逅が続いていてうれしい。

21日の夜は雨になり、ルーブル関連の原稿を幾つか終えるや、
今度はイームズ記事の原稿にとりかかった。
17世紀ヨーロッパから、いきなしアメリカ-ミッド・センチュリー。
どっちも面白いけど、ものすごい脳内トリップに一瞬くらくらっっ

レイアウト用に、自宅でマイシェルアームチェアを撮影。後ろ姿もかわいい。

ニキもイームズをご愛用だった。彼女の呑気な爪跡が、今もシェルのあちこちに残っている。

ぁあ、週末も原稿が続く。。To be continue・・・
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龍、夜叉ケ池

2009-01-19 08:18:32 | Event
今年も「龍泉洞の水」の若水が届き、毎日飲んでいる。まったくもって、美味しい。
龍泉洞の水とは、ここ数年来愛飲している岩手産のナチュラルミネラルウォーター。
(詳細は去年のブログ「おいしい水」をご参照あれ。↑写真は実際の龍泉洞にてに3年前に撮影)
若水とは毎年除夜の鐘終了と共に詰められる水。1月も半ばを過ぎれば年始の澄んだ思いも薄れ、
シゴトにまみれがちだけど、若水を飲むと スッと心身がクリアになる気がする。


先週末は、濃厚な一日だった。原稿書きで早朝に寝入った所、はや先生からランチのお誘い電話。
京都から仕事で上京されているそう。眠気を吹き飛ばし、新丸ビルのAWkitchenではや先生、
角ちゃん、トヨカワ姐さんとパスタランチ。懐かしいやら美味しいやらで10数年前に一気にトリップ。

ランチの後は、表参道でジャズコーラスグループ「Jammin’Zeb」のひとり、シモン君のインタビュー。
彼らのプロデューサーは、アルファ・レコード創成期に吉田美奈子やYMOも手がけた宮住俊之氏とか。
メキシコの血を引くシモン君は、とてもクレバーでフォトジェニックな人でした。

その後、帰宅して原稿を1本仕上げ、夜再び表参道に出て、
花組芝居の公演を観に青山円形劇場へ。

鏡花の夜叉ケ池は確か高校時代に読んだが、夜叉ケ池に棲む龍神がなんだか素敵な姫だった。
(先述の「龍泉洞」も、その名の如く龍神伝説がある)

さて、花組芝居の公演を観るのは初体験。シゴトでお世話になっているネオ・コミケーションズの
デザイナー矢吹さんたちが宣伝美術を手がけたことから、今回お誘いいただいたしだい。
台本風のカバーが粋なパンフレットや、役者さんたちの凝ったポートレートも面白く。

花組芝居は鏡花ものがオハコらしく、「夜叉ケ池」は90年代にも2回公演しているよう。
サーカス、大道芸、カーニバル、吉本新喜劇、オペラ、ミュージカル、オカマショー・・・
いろんな風味がてんこ盛りになったネオカブキ。座長 加納幸和氏の多芸ぶりには舌を巻く。
鏡花ワールドの大胆不敵な換骨奪胎にして、原作の肝はきっちり押えた解釈はもはや名人芸。

随分前に坂東玉三郎主演の同名映画を観たが、原作には忠実ながら少々退屈だった。
その点、エンタテインメント炸裂の花組芝居は退屈する暇なんてなし。
同じ鏡花原作の「草迷宮」も過去に公演しているよう。こちらもぜひ再演があれば観てみたいな。
(ちなみに「草迷宮」は寺山修司が映画化しているが、私は寺山映画の中でこれが一番好き)

芝居後は、青山の「魂」でゴハン。デザイナーの北見さんが私のブログをwebで偶然見つけたとか
矢吹さんもグールド好きだとか、鳥井さんは土日にハーレー86台でツーリングに行くとか(?!)
イカ天バンドの誰それがよかったとか、ネオのみなさんとの酔っ払い談義、楽しかったー。
<ネオ鳥井さん入魂の撮影


翌土曜の夜は、西麻布の「開化亭」でキムリエさん、ちよさん、マイカさんとゴハン。
ちょっとオールド上海風のアンティーク店さんみたいなお店で中華を食べながらわいわい。


その後、根津美術館に抜ける小路にあるタロットバー「Rosy」へ。薔薇のアロマが香る店内で、
薔薇のハーブ酒をホットでいただきながら、みんなで興味津々タロット占いをしてもらい。
不思議なことに、結果は自分でもなんとなく予知していたことだった。なるほどー。
といってもその時点で既に薔薇に酔っていて、ぽーーっとしてたんだけど(笑) 

うちの窓辺にも数日前から薔薇が。よく見ると、一輪の中に花芯が2つ3つある、でしょ。

それから芥子も早々と。出かけるたびに、つい花を連れて帰ってくる。


そういうときは、だいたいニキの月命日が近い。18日日曜、ニキが星になって8カ月目を迎えた。
ニキの画像ファイルをなんとなく観ていたら、5年前の冬に撮った動画を偶然発見!
今まで普通の写真と思い込んでいて、全然気づかなかったのだ。PLAYをクリックしてみる――

今と同じようにシャコバサボテンの花が咲いている冬の窓辺で、ニキはそっと花の匂いを嗅いでいた。
ほんの10秒足らずの愛しい仕草。ちょっとたまらなかった。
(動画をアップできず残念)
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満月週間、クレー、カラス

2009-01-15 21:48:28 | Art
今週は、今年最初の満月ウィーク。連休最終日の夜明け前、雲の間に間に満月が踊っていた。

13日は、歌集の打ち合わせでやってきた母と東京駅で待ち合わせし、新丸ビルでゴハン。
駅前は丸の内駅舎を創建当時の姿に復元する工事の真最中で、方々が工事用の壁で覆われていた。
壊すばかりの東京で、復元という選択は英断。90余年前の姿が甦るのが愉しみ。



翌14日は、母とBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の
「20世紀美術のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」展へ。
点数自体はそれほどなかったけど、クレー作品は素晴らしいセレクション!
ⓒkunstsammlung Nordrthein,Düsseldorf
パウル・クレー「リズミカルな森のラクダ」1920年

好みなのはやはりクレーと同じバウハウス仲間のオスカー・シュレンマーと、エルンスト作品。
シャガールはあまり好みじゃないのだけど、「バイオリン弾き」という作品には魅了された。
動物モチーフが多いフランツ・マルクの作品も、独特の寓話的な世界観に引き込まれた。
ⓒkunstsammlung Nordrthein,Düsseldorf
フランツ・マルク「3匹の猫」1913年

今回の展覧会は、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館の改修休館に伴う巡回展とか。
グッゲンハイムにもひけをとらない、なかなか厳選された渋い20世紀美術コレクションだなぁと感心。
最終日近くになるとまたすごい行列になるのかもしれないけど、今はまだ空いているので狙い目かも。

ランチ後は母と別れ、取材でホテルパシフィック東京へ。
随所に漂う70年代的モダニズムの香りが個人的にツボ。



本日は、母と日本橋高島屋で開催中の「智積院講堂襖絵完成記念 田渕俊夫展」へ。
京都東山にある真言宗智山派の総本山に奉納された襖絵60面は、墨の濃淡だけで表現されており、
繊細なモノクロームの写真のよう。↓これは夏をテーマにした「金剛の間」の襖絵。田渕画伯いわく
代々木公園でたまたま枝を伐られた欅を見て情を覚え、そこから繁茂した枝葉を想像で描いたという。

じっと眺めていると、葉のそよぎや木漏れ日のゆらめきが しずかに立ち上ってくるよう。


後姿は30代にも見えそうな古希の母を東京駅まで送った後、
帰りに清々しい冬晴れの代々木公園をゆるゆる散策。
都内では珍しい雪つり。

樹木の向こうに一瞬閃く まるい夕陽。


頭上には、あるじなきドラえもんの凧。スネ夫の顔が少し破れていた。


新芽がぷくぷく膨らみかけた桜の梢には、羽をまるく膨らませたハシブトガラスくん。

そうそうカラスといえば、近所のスーパーマーケットの軒先に並んでいた干し柿のパッケージを
嘴で巧みに破り、中身のひとつをあっという間にくわえてひらり飛び去っていく勇姿を本日目撃。
あまりに無駄のないシャープなシゴトっぷりに、思わず「かっこいい…!」と呟いてしまった。
(*よいこはまねしないようにしましょう)
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迷子の鍵と手袋

2009-01-10 17:08:50 | Scene いつか見た遠い空
この季節になると、路上に手袋が片方だけ落ちているのをしばしば目にする。
かくいう私もときどき手袋を落としてしまうくち。失くすのは、使う頻度の高い黒が多い。
バッグから何か出すとき、表面に置いてある手袋をうっかり落としてしまうようなのだ。
昨年末も、深夜の渋谷で革手袋を片方だけ落としてしまった。
すぐに気づいたけれど、歳末の雑踏の彼方にそれを再び見つけることはできなかった。

そんなわけで、数日前、新しい黒革の手袋を入手。自分の掌サイズにぴったり
と、喜んで着けて歩いていた矢先、渋谷警察署から携帯に電話が――

やはり昨年、渋谷でうっかり落としてしまった自転車の鍵が、警察の落し物課に届いているという。
合鍵が幾つかあったので、無くても困ることはなかったけど、再会できてとてもうれしかった。
この鍵には、かつてニキの首に巻いていたリボンが結わえてあったから。


リボンには、万が一ニキが迷子になっても連絡してもらえるよう携帯番号をしたためていた。
それがこんなところで効を奏したわけで。。鍵をぎゅっと握りしめて云った。「おかえり!」
在りし日のニキ@新幹線

――実は、警察に連絡をもらう前に、鍵を拾ったという女性から私の携帯に直接電話をもらっていた。
「清掃中に拾ったのよ。困ってると思って」という彼女に、「ありがとうございます。鍵というか、
リボンが猫の思い出の品なんです」と私がいうと、その人は「あー、ねこ」と呟いてふっと笑った。

しかし、いざ受け取りに行こうと、伺った彼女の携帯にかけるとなぜか全然つながらず。。
その方が先日警察に届けてくれたらしい。お礼をしたかったけど、警察には名乗らなかったよう。
色褪せたリボンに触れると、ニキの体温とその女性の心温かさが 仄かに伝わってくるような気がした。


さて、今週は仕事始め。水曜は『NODE』の取材で五反田の大日本印刷にある
ルーブルDNPミュージアムラボへ。ここは、ルーブル美術館の所蔵品からセレクトした作品を
マルチメディアを駆使して紐解く実験的空間。開催中の「ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》
問い直された観る人の立場」展は、入口に脱ぎ捨てられた部屋履きやドアに下がった鍵、
蝋燭の焔などなどから、絵に込められた秘密を探偵のように推理できる仕掛け。
詳細は、ルーブル展を特集する3月発売予定の『NODE』vol.6をぜひ。

帰りに、布張りの美しいノートをお土産にいただいた。その後、編集のサトウさんとPR会社の方と
カフェでしばし談笑。仕事始めにほっと心なごむ冬の午後。



木曜は銀座のジュエリー会社で打ち合わせ後、日本橋高島屋で12日まで開催中の
「ガレ・ドーム・ラリック アール・ヌーヴォーからアール・デコへ ~華麗なる装飾の時代~」展へ。

会場にはアール・ヌーヴォーからアール・デコの時代を彩ったエミール・ガレ、ドーム兄弟、
ルイス.C.ティファニー、ルネ・ラリックの名品(主にポーラ美術館所蔵品)がずらり。

植物や昆虫など自然の造形を取り入れたアール・ヌーヴォーらしい有機的な装飾の数々は
あるいみ非常にグロテスクかつエロティック。ゆえに きわどいほどエレガント。


特に魅かれたのは、↓ルネ・ラリックの彫刻的な花瓶「つむじ風」(1926年)。
アール・デコらしい造形の奥に、未来派やダダ、キュビズムのエッセンスが潜んでいる気が。


日本橋高島屋は昭和初期の建築らしい意匠がエントランスや階段など隅々に残っていて趣深い。
ここの屋上も穴場。特に平日は、都市の不思議なエアポケット空間に。
冬晴れのささやかな空中庭園ではしゃぐ子供や犬、誰かの噂話を神妙に語り合う女性たち、
テイクアウトのカフェでパンケーキを独りつまむ白髪のご婦人。。


この後、件の手袋を買い、渋谷警察で件の鍵を受け取ったしだい。
さらにその足で代々木八幡宮に向い、少し遅めの初詣。
ひと気もまばらな参道には近隣の小学生の書道作品がずらり。


世の中にはいろんな「お正月」があるもので。私はいまだ少々お正月惚けぎみ。。


夕刻、上原の一角でこんな早咲き梅に遭遇。

その夜は雪予報だったけど、私が目覚めている間は遂に窓外に雪を目撃することはなかった。

翌金曜午後には雪も雨に変っていたが、ひどく底冷えがした。浜松町に打ち合わせに行った際、
氷雨で濡れた窓越しに、浜離宮恩寵庭園の一角に咲いていた桃色の梅がぽっと見えた。


打ち合わせの帰り、タガタ氏がふくちゃんから預かったというお菓子を渡してくれた。
中原中也にちなんだ山口のお菓子。パッケージにはローマ字で「湖上」の一句が書かれていた。
  ポッカリ月が出ましたら   舟を浮かべて出かけましょう
  波はヒタヒタ打つでしょう  風も少しはあるでしょう

明日は満月。ポッカリ月が出るといいな。


そうそう、1月6日にNHKで放映された「教育テレビの逆襲~よみがえる巨匠のコトバ~」が面白かった。
本田宗一郎、三島由紀夫、開高健、司馬遼太郎、手塚治虫などなど故人たちのリアルな言霊に
幾度も魂をつかまれた。好き嫌いはさておき'80年収録の矢沢永吉インタビューも呆気にとられた
同じく若き日の坂本龍一(「YOU」出演場面↓)もひたすら微笑ましく。

とかく旧いものに興味が向きがちなのは、単なる回顧趣味というわけでもない。
ホンモノには、時代を超越した凄みがあるから。
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モルフォ、どこでも古書店

2009-01-06 10:28:18 | Book 積読 濫読 耽読
遅ればせながら、2009年もよろしくお願いいたします。

年末年始は実家で家族とともにのんびり。年明けからは弟夫婦も一緒だったので一段と楽しく。
大晦日、父の形見の蝶標本の樟脳を取り替えた。今までは母がしていたので、実は初めての経験。
密閉された標本箱を開ける瞬間、パンドラの筐を開けるような気持ちに。


買ってきた蝶もあるらしいが、ほとんどは登山好きの父が若い頃に野山や高山で採集した蝶たちだ。
30~40年経た今も変わらぬ姿のまま たくさんの標本箱に眠っている。


ガラスの蓋を開け、蝶をじかに観察して驚いた。メネラウスモルフォ(Morpho Menelaus)の翅が、
まったく色褪せていないどころか、今にも飛び立ちそうに鮮烈な輝き放っていたのだ。

あまりの美しさにそっとピンを持って、冬晴れの庭に翳してみた。
かつて南米の森の木漏れ日を湛えて煌めいていたであろう そのエレクトリックブルーの翅が、
ひんやりした真冬の空気に幽かにふるえた。

モルフォの鮮烈なブルーは、鱗粉自体の色ではなく、光の干渉により現れる構造色らしい。
ゆえに、角度を変えると、こんな風に 翅はたちまち枯葉のような茶色に変貌して見えてしまう。


一部、翅が落ちてしまった蝶がいて傷ましかったので、とれた翅とともに標本箱から取り去った。
それらを小さな箱に集めて夜の庭に降り、夜空に向かってそっとはなった。
白や黄色の花びらみたいな翅が、いつか飛び回った空に帰っていくようにひらりひらりひらり…
大晦日の夜に目撃した、ぞくっとするほど美しい翅の舞い。不意に涙がつっと零れた。


明けてお正月。母のお雑煮。代々伝わる味とかではなく、母のオリジナル。
具だくさんでお餅がよく見えないけど、とても味わい深い。



実家では、父の書棚を物色するのも 密かな愉しみのひとつ。
ありがたいことに、家の中が“どこでも古本屋さん”なのだ。


父の学生時代の本など、もうぼろぼろで変色しているのだが、独特の味わいがある。


大岡昇平は父が最も敬愛した作家だった。あいにく私は戦記ものに疎く、中原中也について
書かれたもの以外はあまり読んでいない。「幼年」「少年」もつまみ読みしかしていなかったが、
今回は熟読。年上の従兄に触発された文学少年時代の克明な読書回想は実に面白い。
漱石の影響も大きく。芥川を「ちゃがわ」と読んでしまったなんてかわいいエピソードもあったり。


また、大岡が幼少期から住んでいた渋谷界隈のリアルな描写も闊達で引き込まれる。
昭和初期、渋谷駅から今の文化村通り側の空き地には、うらぶれた曲馬団の小屋があったとか、
そこへ中原中也と一緒に遊びに行った(その時は既に中也は詩「サーカス」を書いていた)とか、
今の宇田川町交番側に越してきた竹久夢二の家の裏窓に愛人のお葉さんが佇んでいたとか、
渋谷史としても文芸史としても興味深いネタ満載。


全集に挿し込まれた小冊子には、澁澤龍彦からの少々アイロニカルなオマージュがあった。
サド裁判をきっかけに仏文の先輩である大岡と知り合ったようで、大岡の調べ魔ぶりを賞賛している。

書棚の隅からは 1970年代初期の週刊誌も発掘。


三島由紀夫事件の特集を組んだ1970年12月13日発行のサンデー毎日には、
「ボーナスで買う100枚のレコード」なる牧歌的なサブ特集記事も。

ロック、フォーク部門では、ビートルズ「レット・イット・ビー」や、サイモン&ガーファンクル
「明日に賭ける橋」などが、ムード、ラテン部門では、「バート・バカラック・ゴールデン・プライズ」、
セルジオ・メンデス・ブラジル66「ライブ・アット・EXPO’70」などが挙がっていた。
いろんな意味で、象徴的な時代だったんだなぁ。


4日には高校時代によく行った喫茶店ですみ太さんと会った。お店はリニューアルしていたけど
当時よく頼んだウィンナーコーヒーは、懐かしさ溢れる“喫茶店テイスト”で。
あの頃みたいにコーヒーをおかわりして、すっかりしみじみ長話。
お向かいにいつの間にかできたスタバじゃこの時間は味わえなかったかも。




そうそう、お正月には姉が昨夏遊びに行ったイタリアの写真整理を手伝った。
これはプロチダ島の夕暮れ。バカンス特集の扉写真とかにも使えそうな。


これはカラーブリア近辺のバカンス直前のビーチとか。
真冬にこの誘惑的風景、たまりません。
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