[映画紹介]
1980年のイギリス南岸の静かなリゾート地マーゲイト↓。
その海辺に建つ名門の映画館エンパイア。
そこで働く女性、ヒラリーは、
新人の移民の黒人青年スティーヴンを迎え、教育係として指導していく。
物語が進むにつれて、
色々なものが見えて来る。
総合失調症で、入院歴のあるヒラリーは、
今も病気の再発を恐れながら一人で暮らしている。
支配人のエリスとは、不倫関係で、
職場の一角で関係を結ぶ始末。
スティーヴンは大学進学を希望しながら果たせず、
夢を諦め映画館で働かざるを得ない。
映写技師のノーマンは、
昔家を捨てたことから、
成人した息子に拒絶されて、会えずにいる。
いつしかヒラリーとステーヴンの間には愛が芽生える。
「炎のランナー」のプレミア会場に選ばれ、
名士を招待してのその日、事件が起こる・・・。
「映画館に生きる人々の絆と
“映画と映画館という魔法”を力強く、感動的に描く、
珠玉のヒューマン・ラブストーリー」
というのがうたい文句の感動作、
のつもりで観ると、裏切られる。
途中からかなりビターな味付けになる。
黒人差別、男女差別、労働問題、
移民排斥運動など、
社会の動きに巻き込まれていく。
で、感動しないかというと、
そうでもなく、苦いな味わいながら、
最後は、胸を突かれる。
映画館のスタッフが全員良い人なのが救われる。
老舗映画館として、設備が豪華。
以前は4スクリーンでやっていた劇場も、今は1スクリーンのみ。
他のフロアは荒廃していて、
ピアノのあるレストランは、鳩たちの巣になり、
人が訪れると、鳩が舞うのが悲しい。
映写技師の説明で、
映画は静止画が24分の1秒ずつ映し出され、
その間は暗黒。
でも、目の残像で動いて見える、とか、
昔のフィルム上映の切り換え時の技術の説明など、
今はない手法で、なつかしい。
(今はデジタル上映だが、
昔は10分ほどのリールを2台の映写機で交互に映し、
その切り換えのきっかけが、
スクリーンにパンチマークとして現れる。
その後、映画1本分をまとめる巨大リールが出現して、
更にハードディスクでの上映となった。)
主人公ヒラリーを演じるのは、アカデミー賞女優のオリヴィア・コールマン。
中年女性の孤独と愛情を演じて、さすがにうまい。
が、館長と関係をしたり、親子ほど年の離れた青年と
恋愛関係になるようなイメージには遠い。
スティーヴンを新鋭マイケル・ウォードが演ずる。
映写技師ノーマン役のトビー・ジョーンズが良い味を出している。
コリン・ファースは、なんで、この役で出演したのだろうか。
監督・脚本は名匠サム・メンデス。
撮影(ロジャー・ディーキンス)が美しい。
このたびのアカデミー賞で撮影賞にノミネートされている。
「炎のランナー」、「スタークレイジー」、「9時から5時まで」など、
当時の映画が物語を彩る。
ヒラリーは映画館に勤めながら、映画を観ておらず、
最後に映写技師に頼んで、
閉館後、一人が映画を鑑賞する。
その作品がピーター・セラーズ主演の「チャンス」(1979)。
「屋敷から出た事のない庭師」の話で、
「映画館に勤めながら映画館で映画を観たことがないヒロイン」
ということか。
映画が上映される際に、
幕が開いてスクリーンが現れる。
昔の映画館はみんなそうだった。
それがワクワク感を誘った。
今はスクリーンが最初から出しっぱなしだが、
いつからあんな風になってしまったのだろう。
5段階評価の「4」。
TOHOシネマズ他で上映中。
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