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小説『襷がけの二人』

2024年03月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

                                                       鈴木千代は、裕福な家におっとりと育ち、
19歳の時、
父親の親友の家に嫁いで山田千代となる。
「千代。お前、山田の茂一郎君のとこへ行くんでいいね」
という一言で決まった結婚。
下谷にあった山田家は製缶工場を経営しており、
夫の茂一郎とは必要以上の会話もなく、
ただ同じ家に住んでいるような状態。
だが女中頭のお初さん、
その下のお芳ちゃんとは主従ではなく、
家族のような絆で結ばれる。

やがて、夫との間で夫婦関係が生じない秘密、
義父とお初さんの関係、
お初さんの過去などが明らかになり、
夫は、単身赴任先で愛人を作り、子までもうける。

お芳も嫁に行き、
千代とお初は肩を寄せ合うようにして家を守る。
そして、戦争が迫り、
夫の工場も戦時体制に組み込まれ、
夫は病死し、籍を抜くが家には留まる。
しかし、3月10日の東京大空襲で家は焼け、
お初さんとは生死が分からないまま別れ別れになる。

お芳さんを頼っての
疎開先から東京に戻った千代は、
製紙工場の寮母として働くが、
わけあって寮母を辞めた時、
口入れ屋で、三村初衣という盲目の三味線師匠が
住み込みの女中を募集していることを知る。

3月10日の空襲の中で声をつぶした千代は、
同じく空襲で目が見えなくなったお初さんに
かつての若奥様であることを隠して仕える。
(そのくだりは、冒頭で示される)
それも、主従の逆転をお初さんが
気にすると思ったからだった。
しかし、ある日・・・

という、女の一代記というか、
女性同士の交わりの年輪を描く作品。
1926年(大正15年)から1950年(昭和25年)まで、
大正末期から昭和初期という
一昔前の女性の立場が興味深い。
上野近辺の住民の描写、
様々な食べ物の記述、
山田家の三人の女性の交わりが麗しく、
人の幸せが人と人との出会いであることが
強く感じられる。
極めて読後感が良く
こういう小説を沢山読みたい。

襷がけというのは、和装が当たり前だった時代、
袖たもとが邪魔にならないように
襷を掛けて始末した格好のこと。

                                                                                      
台所仕事をする女性美の姿。

作者の嶋津輝は2016年にオール讀物新人賞を受賞してデビューした人だが、
初の書下ろし長編だという。
短編集も出ているから、読んでみようと思う。

                                                先の直木賞候補だったが、受賞は逃した。
「ともぐい」という強力な作品があったから仕方ない。

 



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