[書籍紹介]
大きな賞をもらったものの、
その後作品に恵まれず、
スランプ気味のミステリー作家、三馬太郎。
父の故郷である中部地方の八百万(ヤオロズ)町を訪れた時、
ハヤブサ地区の雰囲気に魅了され、
東京での暮らしに見切りをつけて、
亡き父の実家に移り住んだ。
作家だから、東京にいなくても、
在宅で仕事は出来る。
気のいい住民たちに取り囲まれ、
久しぶりに若い移住者として期待され、
何時の間にか、地区の消防団に所属させられてしまう。
八百万町消防団ハヤブサ分団、
通称ハヤブサ消防団がその名である。
入退団式当日、
地区で火災が発生、
さっそく消防団の仕事に巻き込まれる太郎。
実は、ハヤブサ地区では短期間に不審火が頻発し、
放火の疑いもあるという。
こうして、作家の活動と並行しての太郎の消防団生活が描かれる。
やがて、ミステリー作家の本領を発揮して、
火災が、ソーラーパネル設置のために
土地売却を勧めている
タウンソーラーという会社と関係があるのではないかと思い始める。
今年になって家が燃えた4軒全てが
タウンソーラーの土地売却と関わっており、
土地を売らせるために、
家に火をつけて回っているのではないかと。
この話に、ハヤブサ地区の紹介動画の脚本を書く話が飛び込み、
映像クリエーターの立木彩(あや)との交流が描かれる。
そして、タウンソーラーの背後に、
教団内殺人事件で解散させられた
オルピス・テラエ騎士団の残党である
オルピス十字軍の存在があることが明らかになる。
この地区と教団は何かの縁で結ばれているようで、
ハヤブサに教団施設が作られれば、
地区が乗っ取られるのではないか、と。
事実、仏壇の返納が頻発し、
それが全てハヤブサの人たちなのだ。
「これは、宗教戦争ではないか」
とさえ、太郎は思う。
彩もこの教団と関わりがあるのではないか。
その疑いが持ち上がり、
そして、事態は殺人事件に発展する・・・。
新興宗教が出て来て、脱力。
ちょっと安易すぎないか。
終盤は、オルピス十字軍と
この地区との関わりの追及がなされていくが、
全部伝聞で、リアリティが欠ける。
話も無理やり。
そもそもオルピス十字軍の教義や組織が
全然明らかでないので、
その点でも迫って来ない。
だから、純朴なハヤブサの人々が
オルピス十字軍に入信する動機に説得力がない。
池井戸潤の筆致は、
企業小説の時のような歯切れの良さがなく、
他人が書いて、池井戸ブランドで発表したのではないか、
と疑いを持つほど。(そんなことはありえないが)
池井戸潤の企業小説では、
悪玉・善玉が明確になっており、
それが勧善懲悪的展開で心地よくなるのだが、
曖昧模糊とした教団が相手では、
勝手が違ったか。
こちらが池井戸潤風の作品を期待していたせいかもしれないが、
企業小説ほどの面白味はない。
残念。
(私は、池井戸潤の愛読者である)
『小説すばる』(集英社)に、
2021年6月号から2022年5月号まで連載し、
2022年9月5日に単行本として刊行。
中村倫也、川口春奈、満島真之介らの出演で
ドラマ化され、
2023年7月にテレビ朝日系列で放送されたが、
3回ほど観て、
面白くないので、やめた。
教団の名称は変更され、
後半は大幅な改変がなされているようだ。
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