空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

ドラマ『THE DAYS』

2023年07月07日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

6月1日から
Netflix で全世界独占配信されている連続ドラマ。
2011年の東日本大震災の津波で発生した
福島第一原発事故を扱っている。
同題材の映画として「FUKUSHIMA50」(2020)があるが、
映画館の時間的制約で2時間2分だったのに対し、
8話構成合計7時間16分もあるので、
その分、丁寧に臨場感たっぷりに描いている。

政府、電力会社、原発所内の3つの視点から描くのは同じだが、
現場での奮闘にたっぷり時間が取られている。
なお、電力会社の名前は「東央電力」だが、
映画の中では「東電」と言われている。

津波による浸水で全電源を喪失したため、
冷却不能の状況に陥った原子炉は、
このままではメルトダウン(炉心溶融)により
想像を絶する被害がもたらされることは明らかだった。
250キロ圏内に人は住めなくなり、
5000万人が住むところを失い、企業も東京から移転して、
日本経済は数十年にわたって機能しなくなる。
日本の3分の1に及ぶ土地が
数十年にわたって使えなくなり、
国は北海道と西日本に分断される。
日本崩壊だ。

と、今にして思えば、
まさに日本存続の危機に陥っていたことが分かる。

そのような危機の中、現場では、一体何が行われていたかが詳細に描かれる。
特に、原子炉内部の圧力を抜く「ベント」と言われる作業、
原子炉内の温度を下げ、燃料棒の露出を防ぐ
海水注水の二つが主だ。

ベントは、電源が失われたために、
圧力弁を電動で開閉できず、
原子炉内に人が突入して、
手動で弁を開けなければならない危険な作業。
職員は決死隊となって放射能の中に突入する。
所内の自家用車のバッテリーをつなげて電源を確保、
圧力弁を開けようとする工夫も描かれる。
まさに、現場ならではの工夫。
それにしても、電気を作る設備が
電気を失うという、この皮肉。

海水注水は、その結果臨界になるのではないかという心配をする
政府、東電の懸念から、
注水の中止を命令する本社の意向を無視して、
注水を続行する吉田所長の姿を描く。
吉田所長を演ずるのは、
役所広司で、時々激情に走りながら、
すぐ冷静さを取り戻す、豪胆な人柄。
こういう役をやらせたら、役所広司は天下一品。

政府、東電の会議室での議論と
原子力発電所の現場での対立。
「踊る大捜査線」のセリフではないが、
「事件は会議室ではなく、現場で起きている」という通り、
無能な科学者、責任回避を旨とする政治家、
官邸の顔色を伺う経営者よりも、
事態の回避のために
真剣に対応していた現場の努力が胸を打つ。
危険な場所に留まって、
今、何をすべきかを必死に考える
現場の技術者たちの姿には感動する。

最終的には、建築会社からの申し入れで、
コンクリートを流す機械を導入しての最終的対応で注水は完了する。
まさに日本の建築技術を投入しての救済だったのだ。

総理が会議メンバーのふがいなさに
次第に苛立ちをつのらせ、
ついには、現場に出向く(邪魔をする)という暴挙も描かれる。
この時、吉田所長の冷静な説明に、
作業の危険さ、それをものともしない現場の思いに
沈黙してしまう総理。
小日向文世が見事に演ずる。
総理の姿も単純に悪役ではなく、
アメリカ政府に米国人退去命令を撤回させるために、
大統領と瀕死に直接交渉する姿も描かれる。
それぞれの持ち場で最善を尽くしていたのだ。

ネットとメディアの無責任さも描かれる。
最初の津波時、原子炉の地下にいたために溺れ死んだ二人の職員が
行方不明のため「逃げた」とされ、
ネットで実名を上げられて非難されるエピソードも描かれる。
ネットに根拠のない流言をした人たちは、
今、どうしているのだろう。
メディアの責任も大きく、
情報を流出させないために
アメリカの協力をあおがず、
冷却剤提案を拒否した、
という推測を根拠に非難したメディアも恥じるべきだろう。

なにより、
非公開だった「吉田調書」
(吉田昌郎が政府事故調査・検証委員会の調べに答えた調書)
を秘かに入手して、
福島第一原子力発電所にいた所員の9割に当たる
約650人が吉田の待機命令に違反して、
撤退していたと報道した朝日新聞
その後、同じく調書を入手した他のメディアによって、
それが誤報だと暴かれて、謝罪した。
しかし、「所長命令に違反 原発撤退」の見出しで報じた記事は、
外国に拡散し、
たとえば、ニューヨーク・タイムズは
「パニックに陥った作業員が原発から逃走」
などと批判的な論調で一斉に報じた。

あとで、誤報であると謝ったとて、
一度拡散した記事は消せない。
「吉田調書」のどこをどう読んだら、
ああいう記事になるのか不思議だが、
日本を貶めようという、
誤った視点から読めば、
そう読めたということだろう。
つまり、朝日新聞の体質があの誤報を生んだのだ。

日本の危機に命懸けで対処しようとした、
原発の人々の努力を
一時的にせよ
海外メディアの嘲笑にさらした
朝日新聞は許せない。
よく恥ずかしくもなく新聞社を継続していられるものだ。

いずれにせよ、
現場の人々の努力により、
原子炉の爆発は逃れた。
現場に立った日本人の生き様。
こういう人たちによって、
原発の暴走が阻止されたのだと分かる。
と同時に、私は「神」がいたら、
その人々の努力に報いてくれたのだと思っている。

感動的な場面も多く、
弁を開けるために、
決死隊を募った時、
「自分が行く」という職員の中から
年齢のいった職員を選ぶ下り。
「申し訳ないが、若いやつらには行かせられない」

一旦退避を決め、
残された職員だけで作業する時、
家族にメールで別れを告げる場面。

口出しする官邸や東電本社に対して、
吉田所長が苦言をする場面。
「現場はですね、本店や官邸の顔色をうかがって、
躊躇しているわけじゃありません。
部下や自衛隊のみなさん、協力企業、
全員やれる全てのことをやっています。
邪魔しないで下さい」

部下を死なせては、自分は生きては帰れない、
と吐露する吉田所長。
「みんなに何度も何度も無理を言って
危険な場所に行かせてるのは、俺だ。
そのせいで所員の誰かが死ぬようなことがあれば、
俺は生きて帰るわけにはいかない。
この事故が起こった時から、そう決めていた」

消防車の操作が分からない時、
説明に来るという協力企業の技術者を止めて、
東電としては、その要請は出せない、
という吉田所長の言葉に反して、
自主的に現場にやって来た技術者。
「吉田所長が来いと言ってくれないから、勝手に来ました。
これは東電から要請されたことではありません。
自分で勝手に来たんです。
だから、何があっても、
もし死んだとしても、
責任なんて感じないで下さい」

退去命令に反して、現場に留まる、という若い職員を、
年長者がいさめて、
「ここは、俺たちみたいなじいさまに任せて、
お前らみたいな若いもんは早く行け。
お前たちには、これから始まるながーい、
復興の方で力を使ってもらわにゃならん。
頼んだぞ」

最後に、「未来のエネルギー」と期待された原子力発電の
過去と未来も語られる。

「1950年代、第2次世界大戦の敗北を乗り越えて、
空前の高度経済成長を邁進する日本は、
大量のエネルギーを必要としていた。
核燃料であるウラン235
1グラムが生み出すエネルギーが
石炭3トンに匹敵する。
実に300万倍のエネルギーの塊だ。
右肩上がりの成長が永遠に続くと信じた日本国民は
この“未来のエネルギー”に希望の光を見た。
私たちは丘を崩し、海に防波堤を沈め、
福島県浜通り、長者原の自然豊かな土地を切り開いて
原子力発電所を築いた。
それから40年後、
私たちは今度はその発電所を解体する日々を送っている。
建設当時、誰が思い描いただろうか。
“未来のエネルギー”を生む希望の発電所を
こんな風に壊す日が来ると・・・」

配役にはベテランを配し、
役所広司や小日向文世をはじめ、
竹野内豊、小林薫、音尾琢真、六平直政、
光石研、高橋和也、でんでん
らが生き生きと演ずる。
こういう真面目な技術者役をやらせると、
日本の俳優たちが輝くのは、何故だろうか。

脚本は増本淳
監督は西浦正記、中田秀夫ら。
セットも衣裳も手を抜かず、
日本映画界の底力を見せる。
力作
Netflix、どれだけ予算があるんだ。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿