空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『5A73』

2023年07月08日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

詠坂雄二(よみさかゆうじ) による
「幽霊文字」を扱ったミステリー。

幽霊文字とは、
1978年に制定されたJIS基本漢字(6349字)には含まれているものの、
読み方も、典拠(用例)も不明な文字(漢字)の総称
幽霊漢字、幽霊字とも言う。
(英語圏においても、辞典には記載されているのに、
用例の見つからない単語を指すghost wordから来ているらしい。)
その後、それらの多くは地名などに使われていた漢字であることが明らかになった。
また、人名に使われているものも判明したが、
こうした綿密な調査を経てもなお、
次の12の漢字については典拠不明のまま残った。

墸  壥  妛  彁  挧  暃  
椦  槞  蟐  袮  閠  駲  

文字は形と音と意味から成るが、
音(読み)も分からず、
意味も不明で、
ただ形だけがある、不思議な文字。

本書は、その内「暃」にまつわる話。
「罪」と似ているが、
罪の部首は「よこめ」(横になった目)。
似た文字には、悲、扉、輩、俳、緋など。

都内で、謎の自殺事件が連続して起こる。
事件そのものには関連性がなく、
ただ類似しているのは、
その体に「暃」という文字が書かれていたことだ。
書かれた、というわけではなく、
タトゥーシールで皮膚に転写されている。

3例続き、4例目の自殺死体で文字を発見した監察医は、
確か通達にあったな、と報告すると、
警視庁本庁から二人の刑事が派遣されてきた。
山本という女性警部と早川という警部補。
二人とも優秀であるにもかかわらず、
協調性などに問題があり、刑事部「別室」となっている。
こうした特殊な案件を担当させられるらしい。

1例目 尾倉陸久 ロープをマンションの非常階段にかけての縊死
2例目 湯村文  浴室で硫化水素を発生させての中毒死
3例目 黒下園子 浴室に浸かって、電線を引き込んでの感電死
4例目 瀬名本光太 電車への飛び込み
捜査の途中起こった
5例目 真室琢海  ホテルからの投身自殺

1~3例は遺書を残していた。
4例目は、遺書はないが、監視カメラの映像から、明らかな自殺。
5例目は、遺書はないが、ホテルの監視カメラの映像から、自殺しか考えられない。

文字の所在はそれぞれ違い、
1例目:左手の甲
2例目:右胸
3例目:
4例目:右足の付け根
5例目:右頬(手書き)

自殺者同志の間に接触の跡はなく、
自殺と自殺の間隔は狭まりつつあった。

二人の刑事は、文字について考察を行う。

意味を探ると、
日に非ず→日に背く→太陽がない→夜
日本に非ず→日本に背く→非国民
背中合わせの人→人と人の別れ→さようなら
太陽に背を向ける→見えるのは影→虹
七夕の織姫と彦星の別れ→あまのがわ
横向きにして、三途の川を横切る橋→彼岸

などが考えられた。

二人の刑事の考察と並行して、
1章ごとに自殺者側のことが描かれる。
尾倉→湯村→黒下→瀬名本→真室と
タトゥーシールの連鎖が描かれる。
と同時に、周辺に現れるヘッドホンをした人物が浮かび上がる。

最後は二人の刑事と
ヘッドホンの人物・韮澤との接触。
その後、本書の著者・詠坂雄二と韮澤との対話。
二人は事件の発端の場所に出かける。

幽霊文字を扱った、今までにない作品だが、
着地点は「リング」に似ている。
ということは、ミステリーというよりホラーか。
しかし、「暃」という一文字だけを使って、
ここまでの作品に仕上げる技量には脱帽。
ただ、もう一段階行けたのではないか
と惜しい気持ちも残る。

バラエティ番組「アメトーク」の「読書芸人」 で取り上げられて、
沢山の読者を生んだ。

作者は本の題名を「暃」としたかったようだが、
読みのない題名は出版流通上、支障がある、という担当編集者の反対で、
苦肉の策として、
「暃」に割当てられたJIS漢字コードである「5A73」を題名にしたという。
しかし、題名としてなら、
「幽霊漢字」または「幽霊漢字 暃」「幽霊漢字 5A73」
でもよかったのではないか?

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿