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短編集『たそがれ清兵衛』

2022年06月19日 22時53分52秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

藤沢周平の短編集。
1983年から1988年にかけて「小説新潮」に掲載された
短編を集めたもの。
名前の前に、
それぞれ愛称のような、蔑称のようなあだ名が付けられた
主人公が題名になっている。

たそがれ清兵衛

井口清兵衛は、病弱の妻奈美の世話のため、
下城の合図と共にそそくさと帰宅することから、
「たそがれ清兵衛」と陰口をたたかれていた。
その清兵衛が藩の政争に巻き込まれる。
筆頭家老の堀将監が専横を極めたため、
堀に対立する家老杉山頼母らは、
上意討ちを決意して、
討手に無形流の達人である清兵衛を選んだのだ。
一旦断わった清兵衛であったが、
妻の療治への援助の約束から、
ついに上意討ちを引き受ける。
予定通り執政会議の席で堀を切り捨てると、
上意討ちの褒美として、
名医による治療と転地療法を施すことができ、
妻もみるみる回復していった。
しかし、堀の股肱であった北爪半四郎が清兵衛の命を狙っていた・・・

うらなり与右衛門

三栗与右衛門は、顔が青白くて細長く、
あごがしゃくれていて、
へちまのうらなりを連想させるため、
陰で「うらなり」と渾名されて軽んじられていた。
その与右衛門に艶聞が立ち、
20日の遠慮処分が下される。
それは、藩内に起こっている勢力争いに絡んで、
密かに家老長谷川志摩の警護役を務めるはずであった
与右衛門に対する罠だった。
長谷川家老は刺客に襲われるが、
与右衛門の親友中川助蔵と、
急遽代理で警護に就いた白井甚吉の奮闘により
家老の命は守られる。
しかし、手傷を負った助蔵は命を落としてしまった。
権力を掌握した長谷川家老によって、
反体制派の多くが処分されたが、
助蔵の命を奪った襲撃については、
証拠不十分で断罪されることがなかった。
それを不満に思っていた与右衛門は、
ある日家老襲撃の実行責任者であった
伊黒半十郎と道ですれ違う・・・

ごますり甚内

川波甚内は、ごますり男として悪名を上げていた。
ある事情で5石の減俸処分を受け、
それが早く撤回されるよう、
甚内は上役にごまをすって回っていたのだ。
その甲斐あってか、家老の栗田兵部が
甚内に禄の回復を約束してくれる。
その代わりに、ある使命を与えられ、
その帰り道、3人の刺客が襲ってきたが、
甚内は3人に手傷を負わせて撃退した。
その1 か月半後、
甚内は家老の山内蔵之助と大目付の大熊百弥太に呼び出され、
彼を襲わせた黒幕の名を告げられた・・・

ど忘れ万六

物忘れがひどくなり、
そのために職務で失態を犯した樋口万六は、
家督を息子の参之助に譲って隠居生活を送っていた。
息子の嫁の亀代は、万六のことを少し粗略に扱うようになった。
ある日、その亀代が突然万六の前で涙を見せた。
聞けば、亀代はある行為が、札付きの大場庄五郎に見とがめられ、
脅されているという。
大場のもとに乗り込んだ万六は居合技で大場をこらしめるが・・・

だんまり弥助

杉内弥助は、極端な無口のため、少々変わり者と見られていた。
15年前、弥助は従妹の美根に、ある尋常でない場所で声をかけ、
その結果、美根を自殺に追い込んでしまった過去があり、
その自責の念にさいなまれ、無口になっていったのだ。
弥助は藩の政争に巻き込まれるが、
会議の場で、
密かに調べた大橋中老の不正について意見を述べた。
普段無口の弥助の意見に周囲は驚き、
中老は断罪された。
その後、中老一派であった服部邦之助と対決することになる。
服部こそ、美根の自殺の原因を作った男だった・・・

かが泣き半平

「かが泣き」というのは、
わずかな苦痛を大げさに言い立てて、
周囲に訴えることをいうが、
鏑木半平はこのかが泣きの人物であった。
同僚も妻も、半平のかが泣きには慣れっこになっており、
まともに相手をしてくれない。
3年前の普請の事故で亡くなった常雇い人夫の後家と
ねんごろな関係になってしまった。
そんなとき、藩主が家老の守屋采女正を秘密裏に暗殺するよう下命し、
心極流小太刀の名手であった半平が討手に選出されてしまう。
その腕を藩内で知る者がないのが理由だった。
家老宅に呼び出された半平は、
かが泣いて辞退しようとするが、
後家との不始末を指摘され、
不問にして欲しければ守屋を討てと脅される・・・

日和見与次郎

藤江与次郎の父は、藩の派閥抗争に関わって敗れたため、
家禄を半減され、失意の中で死んだ。
そこで与次郎は、派閥から距離を取り、
日和見与次郎と呼ばれている。
そんな折、従姉である織尾の夫、杉浦作摩が
政争に巻き込まれ、全員死亡した。
与次郎は織尾に密かな想いを抱いていた。
与次郎は、独自の調査で
一派の真の盟主である淵上多聞が
杉浦一家殺害を命じたという確証を得、
密かに淵上の元に向かった・・・

祝い人助八

御蔵役の伊部助八は、
2年前に妻を亡くしてから身なりに構わず、
御蔵を視察に来た藩主に、
体の匂いを注意されるという失態を演じた。
上司の取りなしで処罰はまぬがれたが、
以来、物乞いを意味する「祝い人」(ほいと)と呼ばれていた。
そんな助八の元に、親友飯沼倫之丞の妹、波津が尋ねてきた。
彼女が嫁いだ御番頭の甲田豊太郎が暴力を振るうため、
離縁したが、
豊太郎は承服せず、
波津につきまとっているという。
豊太郎が倫之丞に果たし合いを申し込み、
助八は代理を申し出て、豊太郎を叩きのめした。
倫之丞は波津を後添いに迎えないか、と助八に語ったが、
助八は、この話を断ってしまう。
しばらくたって、
組頭の殿村弥七郎が中老の内藤外記を城内で刺殺するという事件が起こる。
助八は、豊太郎との立ち会いを評価され、
屋敷に立てこもった殿村に対する討手に選ばれる。
波津が身支度を手伝ってくれ、
御武運をお祈りしますという波津の声に送られ、
助八は殿村の屋敷に向かい、死闘が始まる・・・

どの短編も、
藩では下士だが、
隠れた剣客としての才能を秘めており、
それがあることをきっかけとして
発揮して人を斬ることになる。
それに恋模様が絡んで、色彩を豊かにする。

山田洋次監督による映画「たそがれ清兵衛」(2002)は、
本書の「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」に
「竹光始末」を加えて脚色。


真田広之、宮沢りえ、田中泯の出演。
アカデミー賞外国語映画賞にノミネート

 



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