空飛ぶ自由人・2

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映画『FLEE フリー』

2022年06月18日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「フリー」は「FREE」(自由な)ではなく、「FLEE」。
「(危険を避けて) 逃げる」の意だという。

研究者として活動しているアミン(仮名)が
友人にインタビューを受ける。
それは、誰にも語ったことのない、
驚愕の「逃げる」体験だった。

アミンはアフガニスタンのカブールに住んでいたが、
父親が反政府的言動をして連行され、行方不明に。
その結果、母親、兄と姉2人との5人で国外脱出する。
行き先は長兄の住むスウェーデン。


しかし、ビザを出してくれたのがソ連だけだったので、
ひとまずソ連に行き、スウェーデンに行く道を探る。
じきにビザが切れ、5人は「不法入国者」という立場になり、
当局の追究を逃れて、息をひそめる生活に。
(ここで描かれるソ連警察の腐敗ぶり。
警察を信じることの出来ない国は、不幸だ。)


密入国業者の手を借りるしかなく、
資金が足りなかったので、
まず姉二人がスウェーデンへ。
しかし、密入国業者が劣悪だったため、
コンテナに60人以上が押し込められて、
窒息寸前の瀕死の状態で長兄のもとにたどり着く。
次には、母子3人で密入国業者の手配したボロい貨物船に乗って、
バルト海を進むが、浸水して命の危機に。
エストニアの大きな客船に遭遇して、
結局沿岸警備隊に引き渡され、ソ連に強制送還される。
そして、次はアミンだけ偽パスポートで飛行機に乗るが、
着いたところはデンマークだった。

という悲惨な状況がアニメーションで語られる。

今年のアカデミー賞で、
長編アニメーション賞、長編ドキュメンタリー賞、
国際長編映画賞3部門に同時ノミネート
アニメでドキュメンタリー?
と不思議だったが、
出演者の安全を確保するために、
アニメーションの手法を取らざるをえなかったのだという。

その手法がぴたりと決まって、
実写以上の緊迫感が盛り上がる。
特に雪の中を船に向かって歩くシーン、
船でバルト海を渡るあたりは、
圧倒的な迫力で、
持ち込んだコーヒーを飲む気も起こらないで、
画面を凝視した。

その後、
残った兄と母もソ連を脱出できるのだが、
それまでは家族はバラバラ。
家族の大切さと絆の強さが胸を打つ。

兄や姉と合流したアミンに、もう一つの試練が。
アミンの性的指向についてのカミングアウトだ。
アフガニスタンでは決して赦されないLGBT。
アミンは、その試練を乗り越えられるだろうか?

ところどころ当時のニュース映像などが挿入され、
アニメという虚構ではなく、
現実に起こったことなのだと思い出させてくれる。
そして、アミンの語る内容は、
当局の追究を逃れて、
20年以上も抱え続けていた秘密だ。
親友である映画監督の前で、
瞑目しながら語る過去。
一人の人間が政治に翻弄された人生の断片。
あまりの真実に
観る者の魂が揺さぶられざるを得ない

映画祭や批評家から高い評価を受けている。
監督は、ヨナス・ポヘール・ラスムセン

5 段階評価の「5」

予告編は↓。

https://youtu.be/J0al68Fc-Zk

 

新宿バルト9他で上映中。

 

NHKの「映像の世紀」を見ると、
世界は戦争と内戦による難民の歴史だということが分かる。
その反省から国連が作られ、
国連憲章第2条4項で
「武力による威嚇又は武力の行使」を
禁じているにもかかわらず、
ロシアはウクライナを侵略し、
新たな難民を生んでいる。
そのロシアが、拒否権を持つ常任理事国だから、
国連は機能しない。

世界は虚偽と悪意に満ちている。

本作を観ると、
日本に生まれた幸福を思わざるを得ないが、
しかし、日本は核を保有する
ロシア、中国、北朝鮮に囲まれている。
日本が侵略されたら、
日本人難民はどこにも行きようがないのだ。
ウクライナの人々の姿が
明日の日本人の姿にならないように、祈るばかりだ。

 



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