空飛ぶ自由人・2

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小説『ぼくらに嘘がひとつだけ』

2022年11月19日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

長瀬京介は、3代にわたる棋士の家系に生れた少年。
朝比奈千明は、落ちこぼれ女流棋士の息子。
二人の少年は、共に「中学生棋士」を目指し、
奨励会で知り合い、親友になる。
二人の親である長瀬厚仁・梨穂子夫婦と朝比奈睦美は、
一時代前に棋界をにぎわせた三人組だった。
その後、梨穂子と睦美は引退し、
厚仁は、48歳の今日まで、まだタイトルを獲得できずにいる。

京介と千明は、お互いの家庭を行き来する仲になるが、
千明は、ある時、
「千明の方が長瀬家の息子みたいだ」
という声を聞き、
実際、梨穂子と自分が似ている、と思うようになる。

実は、同じ病院で一日違いで生まれた二人は、
病院の小火騒ぎの中、リストバンドが付け替えられ、
取り違えられていたのだ。
それは、厚仁たちの若い頃を描く
第一部で明らかになっているのだが、
疑いが膨らんだ結果、
二人はDNA鑑定をして、
それぞれの親が違うことに気づいてしまう。
その事実は厚仁たちも知るところとなり、
病院は非を認め、
通常、実子の養育に至る前例から、
試験期間として交換生活を設けることになる。
千明の方はすんなり長瀬家になじむが、
京介の方は、母親の睦美と違和感一杯の生活となる。

家族とは一体なんだろう。
何をもって、それを絆と呼ぶんだろう。

という、「新生児すり替え」を背景に置き、
少年棋士の才能の開花、その悩みが描かれる。
過去と現在が行き来して、
時間は錯綜し、視点もどんどん変わり、
厚仁と国仲遼平との友情物語や
父親との確執も描かれる。

そして、
「棋士にとって、
遺伝子と環境は、
どちらが重要か?」
という大きな命題が全体を覆う。

私は将棋は指さないが、
将棋を知らなくても、
棋界の昇進の仕組みが分かれば、
楽しむことは出来る。
アマチュアであれば楽しむだけでいいが、
プロ棋士の勝負の世界の過酷さはすさまじい。

物語は二転、三転するが、
特に、最後の60ページの
展開は息を飲む。
更にラスト10ページは圧巻

カッコウの「託卵」も背景に存在する。

託卵(たくらん)・・・
カッコウのメスはモズの巣に自分の卵を産みつけ、
モズに卵を育てさせる。
カッコウの卵は、一足先にかえりヒナになると、
他のモズの卵を巣の外に落としてしまう。
自分の子供と信じて、カッコウのヒナを育てるモズの姿があわれ。