空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『人生って、素晴らしい』

2024年10月13日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

腎臓病を患い、週3回透析を受ける。
そんな人生にうんざりしている
旅行会社勤務のリン・ミン。
ある日、リン・ミンは、
「亡くなったらドナーになってくれる人と結婚したい」
という趣旨の動画を、アップロードしてしまう。
すぐに削除したものの、
その僅かな隙間で見たという青年がコンタクトしてきた。
会って説明しようと考えたミンは、
指定された料理店に行くが、
そこに現れたのは挙動不審な男、
風変りで超天然なリュ・トという青年だった。
ミンは、今は考えが変わったと告げるものの、
リン・ミンが行く先々に必ず現れるばかりか、
リン・ミンの面倒を見るために
彼女の家に住み込んでしまう。
予測不能な行動でペースを狂わせてくるリュ・トに
嫌悪を感じていたリン・ミンだったが、
リュ・トの純粋さ、素直さに次第にひかれ、
心を通わせていく。
しかし、リュ・トがリン・ミンに付きまとうのには、
ある理由があった・・・。

ともに不治の病を抱えている2人の男女を描く
中国製ラブロマンス

物語の舞台は、中国・湖南省の長沙市近辺。
リン・ミンの透析治療の大変さが描かれる。
週3回病院に行き、透析を受ける。
3時間の間、じっとしていなければならない。
もう4年もそんな生活を続けている。
腕には無数の注射針の跡、
厳しい食事制限、水分摂取制限と戦い、
少し油断するだけで命取りになる。
ドナーの出現が唯一の希望だが、
移植手術が遺族の反対で直前で流れてしまい、
もう一人の被移植者の青年
(腎臓は二つあるので、
 一人で二人に移植できる)
が泣き叫ぶ姿も描かれる。

実はリュ・トは、悪性脳腫瘍という不治の病を患っており、
リン・ミンの病状を知ったリュ・トが、死後、
ドナーになろうと考えていたのだ。
悪性脳腫瘍再発の恐怖と闘いつつ、
再発しても手術を受けない、
腎臓はリン・ミンにあげると主張する。
それを説得して手術を受けさせようとするリン・ミン。
ドナーとしてのリュ・トと
愛する対象者としてのリュ・トとの相克。
腎臓患者のリン・ミンを励ますリュ・トと、
リュ・トに手術を受けさせようとするリン・ミン。
励ます方と、励まされる方が途中で入れ替わる

リュ・トは初めの方、風変りで奇矯な人物として描かれ、
リン・ミンの嫌悪を観客は共有するが、
次第にリュ・トの思いやりと暖かい心に触れ、
魅力的に見えて来る、作劇上の見事さ
次第にお互いに心を開き、
思いが通う経過が
大変ていねいに自然に描かれる。
リン・ミンの両親や
リュ・トの母親の存在も泣かせる。

監督は、ハン・イエン
リン・ミン役はリー・ゲンジー
リュ・ト役はポン・ユーチャン
二人の演技が素晴らしい。


4月5日に劇場で短期間上映された作品が
早くもNetflixに登場。

原案は、朱金平が雑誌「婚姻与家庭」に投稿した記事
「最功利的婚姻交易,最情的永恒定」(2015年)。

原題は「我們一起搖太陽」で
「一緒に太陽を揺らしましょう」
太陽は東から上り西に沈むが、
時々サボって曇天・雨天になる。
だから太陽を揺すって起こそう、
という、篇中出て来る挿話から取ったたもので、
日本で付けた邦題ほどベタではない。
サブタイトルの「Viva La Vida」は「生きる」という意味。

 


映画『シビル・ウォー』

2024年10月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「civil war」とは、「内戦」のこと。
特に定冠詞「The」をつけ、大文字で表記して
「The Civil War」と書くと、
アメリカ合衆国唯一の内戦「南北戦争」(1861~1865年)を指す。

この映画は、現代のアメリカが内戦に突入したら
という仮定で作られた作品。
近未来の映画かというと、そうでもなく、
カメラはフィルムカメラ、
デジタルカメラは一部しか登場せず、
ノートパソコンもスマホも出て来ないから、
1990年頃の設定か。

カリフォルニア州とテキサス州の西部勢力が結託して政府に反抗、
フロリダを中心とした南部同盟なども話に出て来るが、
アメリカがどういう形で分裂しているかの説明はない。
また、何が原因で内戦が起こったかも明確ではない。
ただ、19州が政府に離反、というプレス説明がある。
それがどこなのかは示されない。

↓は、あるサイトから獲得した布陣。


青が忠誠州で、政府側。
それ以外の3色が反旗をひるがえした州。

大統領は憲法違反の3期目で強権的な独裁者らしい。
そのあたりが原因か。

政府側、反乱軍側両方の抗争状態を描く
という従来のハリウッド的手法は取らず
映画は、14か月間もマスコミの取材に応じていない
大統領に単独インタビューするために、
ニューヨークからワシントンDCに
自動車で向かう5人のジャーナリストに付き添う形で展開する。
独特な映画を製作するA24ならでの作品だ。
メンバーは、有名な女性フォト・ジャーナリストと老齢の記者、
ベテラン記者と運転手、
それに、報道カメラマンを目指す、駆け出しの若い女性。


5人は行く先々で内戦の実情にぶつかる。

銃弾が耳をかすめる市街戦の真っ只中、
避難民が停泊するスタジアムのようなところ、
正体不明のスナイパーの狙撃の現場、
大量の市民の死骸を処理する兵士たち。


はっきり分かるのは、
銃の前に一般市民は無力だということ。
そして、ワシントンDCに突入した軍隊に同道した
報道カメラマンたちは、
大統領官邸にまで入り込む。
目的は大統領の身柄と殺害・・・
この首都突入のシーンは、すさまじい臨場感で描かれる。
耳を覆う炸裂する銃撃音。
アカデミー賞の音響賞にノミネートされるのは確実だ。
そして、ピュリーツァ賞確実のスクープ写真をものにしたのは・・・

アメリカの公開は4月12日。
1861年の南北戦争の始まった日だ。
2週連続でボックスオフィスで1位を獲得。
観客の興味を引き付けたようだ。
時は大統領選の前哨戦のさ中。
アメリカの分断がクローズアップされる状況での公開だった。

内戦ほど愚かなことはない。
国土を疲弊させ、民衆の命を奪う。
対立勢力に武器を供与する
外国勢力の支援なしには内戦は成り立たないから、
「代理戦争」の様相を呈し、
膨大な難民を生む。
難民問題とは、実は本国の政治問題だ。

ベトナム、ドイツという分断国家は統一したが、
朝鮮半島には、今だに分断国家が存在する。
日本も戦後処理で、分断の危機があったという。
もし日本に内戦が起こったら、
と想像するとぞっとする。
同じ民族同士で殺し合う姿は見たくない。

副題は「アメリカ最後の日」
アメリカに内戦が起こったら、
アメリカは世界の指導者の立場を失墜、
世界情勢は大きな変化をし、
その影響から日本は逃れられない。
国家の分断を描いた、極めて今日的な内容だ。

監督は、「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランド
報道カメラマン役で、キルステン・ダンストが出演している。

5段階評価の「4」

拡大公開中。

 


映画『キングダム・オブ・アーク』

2024年10月05日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]
                                       「キングダム・オブ・アーク」という邦題は、
日本でつけたもので、
原題「The Ten Comandment」
つまり、「十戒」

(アークとは、モーセが神から授かった
 十戒を刻んだ石板を納めた箱のこと。
 聖櫃(せいひつ)という。)
旧約聖書「出エジプト記」にある
モーゼに率いられたヘブライ人(イスラエル民族)の
エジプト脱出を描いた作品。
既に「十戒」(セシル・B・デミル監督 1923, 1956)、


別な「十戒」(1995)、


アニメ「プリンス・オブ・エジプト」(1998)、


アニメ「プリンス・オブ・アーク」(2007)

「エクソダス:神と王」(リドリー・スコット監督 2014)


トラマ「神と交わした約束:モーセの物語」など、


複数の作品があり、
これは2005年製作のテレビ用作品

監督は「アンネフランク」のロバート・ドーンヘルム
主演は「エニグマ」のダグレイ・スコット


オマー・シャリフがモーゼの義父役で出演している。


2時間56分の長尺。

やりつくされた感のある再映画化だが、
今回取り上げる気になったのは、
他の作品と一味違うから。
というのは、紅海が割れる奇跡までが半分で、
後半は、ヘブライ人の荒野での放浪生活
かなりていねいに長く描かれているからだ。

奴隷の身とはいいながら、
衣食住を保証されたエジプトでの生活から
荒野での流浪の生活への転換は、
様々な不平を生む。
なにしろ、モーゼ自身がどこに向かったらいいのか分からないのだ。
その上、荒野では、何万人を養う食料と水を得ることが出来ない。
当然不満は指導者であるモーゼに向かう。
旅の途中、アマレク人など、
先住民族と戦争をしなければならない。
そのための武器の装備と軍事訓練。
戦闘では多数の犠牲を生む。
視点を変えれば、
先住民にととっては、
ヘブライ人は侵略者なのだ。

そして、ヘブライ人同士の様々な争いを裁かなければならない。
モーゼは指導者だけでなく、
司令官と裁判官もする立場になる。
不倫を犯した男女の殺人事件が起こり、
見過ごせば、正義が問われるため、
厳しい判決が迫られる。
しかも、犯人は、かつてモーゼがエジプトで助けた男だった。

このような様々な事情で
戒律が必要になり、
それを求めてホレブ山に登ったモーゼを待つ間に、

偶像崇拝が復活し、
十戒の石板を持って帰って来たモーゼは、
信仰上の闘争に巻き込まれる。
ヘブライ人同士での内部抗争にまで発展するのだ。

ここまで描いたモーゼものは初めて見る。
特に、ヘブライ人同士の殺し合いの描写は凄惨を極める。

神の声が聞こえないモーゼの苦悩もたっぷり描かれる。
モーゼは何度もこの役目から外してくれと神に訴える。

エジプト脱出の快挙だけでなく、
荒野での苦労まで詳細に描いた。
そういう意味で画期的な作品と言えよう。

ドラマ用とはいいながら、
結構金がかかっており、
豪華なセットを作り、


群衆シーンも沢山の人を動員するなど、
手を抜いていない。

ツタヤディスカスから借りたDVD2巻組で鑑賞。

 


映画『本日公休』

2024年10月01日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

台湾の台中市にある、昔ながらの理髪店「家庭理髪」。


女店主アールイは40年にわたって店に立ち続け、
ハサミの音を響かせている。


引っ越した遠くの町から通い続けてくれる常連客もいるが、
その一人の歯科医が病に倒れたことを知ったアールイは、
「本日公休」の札を掲げ、
古びた理容道具を持ち、
愛車に乗って先生のもとへ向かう。
スマホを忘れて行ったため、
連絡が取れずに、子どもたちはやきもきする。

このアールイの車での旅と並行して、
子どもたちの状況が描かれる。

アールイの夫はすでに他界しており、
二人の娘と一人の息子をハサミ一つで育てた。
長女のシンはスタイリストとして、
CM撮影の現場などで働いており、
次女のリンは都会の美容院で働いている
長男のナンは変なビジネスに手を出しては、
無駄な時間を過ごしていた。
三人の子どもはあまり実家に寄り付かず、
近所で自動車修理店を営む次女の元夫チュアンが
優しくて善い男で、元義母を何かと気にかけてくれている。

こうした事柄が
過去と現在の時間軸を交差して描かれる。
町の片隅にある古い理髪店で
起こる平凡な出来事、
台湾の道路を走るアールイの車の周囲の田舎の光景。
家族の絆と、
客との交流。
心が暖かくなる映像ばかりだ。

アールイは、客の後頭部を見て、
その人生を思う。
常連客との会話は、
わずかな時間の人生の交流。
常連の髪型の好みはもちろん、
接客時の会話から相手の家族の事情まで把握しており、
頭の形を見ると似合う髪型がわかる、
頭の後ろ側にも“もう一つの顔”がある、と言う。

女性監督のフー・ティエンユーの母親が理容師で、
主人公アールイのモデルになった。
撮影に使ったのも実家の理髪店だ。
描かれるのは、
監督が日常的に触れた原風景。
アールイを演ずるのは、
24年ぶりにスクリーンに復帰した名優ルー・シャオフェン


2023年の台北電影奨で主演女優賞を獲得。

特に事件らしい事件は起こらないが、
何か大事なことを見せられた気がする。
人生経験が豊かな人ほど、
この映画に魅かれるだろう。

全国の床屋さん必見の映画。

主題歌『同款』が素敵。

5段階評価の「4.5」

シネスイッチ銀座で上映中。

 

私は、48年間、市内の同じ理髪店で髪を切ってもらっている。
前に住んでいたアパートの隣にあった理髪店だ。
市内の別の場所に引っ越してからも、
15分ほど自転車を走らせて通う。
最初にやってもらった時、
私の髪は剛毛だったそうだ。
今は、髪が細くなり、
地肌が見え、
すっかり白くなった。
この床屋さんは、私の人生を知っている。


映画『侍タイムスリッパー』

2024年09月23日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]


題名で分かるように、
侍がタイムスリップする話。
どこからタイムスリップするかというと、
幕末の京都から
現代の京都、しかも、時代劇撮影所というのがミソ。

会津藩士の高坂新左衛門は
長州藩士を討つよう密命を受け、
同志と共に待ち伏せする。
寺から出て来た相手は
一撃で一人を失神させるほどの豪の者。
二人が刃を交えた瞬間、
雷が落ち、気を失ってしまう。
目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。
江戸時代の扮装の人々に交じり、
洋装で妙な機械(撮影カメラ)を操作する人たち。


そこで展開する時代劇に介入して叱られた新左衛門は、
頭をぶつけて病院に担ぎ込まれ、
混乱の中、現代の町を彷徨い、


あの武士と一騎討ちをした寺の門前にたどり着く。
寺に居候しながら、
江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、愕然とする。
(ということは、この映画の舞台は、2008年ということになる)


動く絵(テレビ)や現代人の食べ物に驚きながら、
やがて磨き上げた剣の腕を発揮して、
撮影所の中で、斬られ役として生きていく。
時代劇の侍の役を、本物の侍が演ずるのだ。
評価が定着した頃、
往年の時代劇スターが、10年ぶりに時代劇に復帰する、
という話が伝わって来て、
新左衛門は、そのスターから
準主役で出演してほしいとオファーを受けるが・・・

ここで物語は急展開を迎える。
タイムスリップものとしては、見たことのある設定だが、
この時間差タイプは初めてで、ちょっと驚いた。
そして、新左衛門がタイムスリップした意味や、
斬られ役として生きる存在が問われてくる。
幕末時、新左衛門がいた会津藩の滅亡も語られる。
俄然、物語は
歴史ドラマ人間ドラマになって来るのだ。
しかも、熱い。
時代劇への愛が溢れる。
最後の対決シーンは熱気があふれる。


映画の最後にあるオチは秀逸。

実は、この映画、自主映画
低予算で、有名俳優やスタッフを起用しているわけではない。
スタッフは全部で10人しかおらず、
人手不足のため、準主役級の女優(沙倉ゆうの)が助監督を兼務。


製作費は監督の安田淳一が、車を売り、貯金をはたいて工面。
安田は、脚本・撮影・編集を兼任し、
チラシ作成・パンフレット制作まで11役以上を1人でこなしたという。


8月17日に池袋シネマ・ロサという小さな映画館一館のみで封切られたが、
評判が評判を呼び、上映館が増え
ついには、ギャガが配給に乗り出し、
新宿ピカデリー、TOHOシネマズほか
全国100館以上で上映と、全国展開した。


第2の「カメラを止めるな! 」と言われている。

エンドクレジットで出て来た俳優名は誰一人として知らない。
しかし、後で調べてみたら、
山口馬木也(やまぐちまきや)も、

冨家ノリマサ(ふけのりまさ)も、

こちらが知らないだけで、
時代劇の脇役としてのキャリアは十分な人達だった。

東映京都撮影所の特別協力によって完成。
脚本に感銘を受けた撮影所が
「自主制作で時代劇をつくるなどと言ったら
 いつもなら全力で止めるが、
 これは本(脚本)が面白いから、是非やりたい」
と、全面協力したというのも泣かせる。

丁度「SHOGUN 将軍」のエミー賞受賞のニュースが報じられ、
「これまで時代劇を継承して支えて下さった全ての方々に
 心より御礼申し上げます。
 あなた方から受け継いだ情熱と夢は
 海を渡り国境を越えました」
という真田広之の日本語でのスピーチが出されたばかりなのは、
何かの符号だろうか。

テレビ局の支援がなくても、
メジャーの映画会社の製作でなくても、
アイドルが出ていなくても、
コミックが原作でなくても、
良い映画を作れば、
観客が発見してくれる
という典型。

5段階評価の「4」
                                        TOHOシネマズ日比谷他で上映中。