[映画紹介]
宮城県の小さな港町で、
ある家庭に男の子が生まれた。
祖父母と両親は、“大”と名付けて誕生を喜ぶ。
田舎のどこにでもあるような、
祖父母、両親との同居生活。
ただ、他の家庭と違っていたのは、
両親の耳がきこえないことだった。
大の赤子時代、幼児時代、
小学生時代をていねいに描く。
成長するにつれて、
自分の家庭が普通でないことに気づく。
次第に、周りから特別視されることに戸惑い、
苛立ち、母の明るささえ疎ましくなる。
父兄参観日には、来てもらいたくないから、
通知を親に見せなかったりする。
やがて、中学生になって反抗期が始まり、
親の“通訳”をする自分に疑問を感じ、
「こんな身障者の家に生まれたくなかった」
とまで口にする。
志望の高校に受からなかったことを
母親のせいにしたりする。
母親はそんな大を大きな愛情で包む。
東京に出ようとして悩む大に対して、
父親は東京に行くことを勧める。
その時、父母がろう学校で知り合って、
結婚を反対されて駆け落ちし、
東京に出た過去を初めて知る。
そして、妊娠した母親が生むことを反対されたことも。
母親が生む決断をしてくれなかったら、
今の自分の生はないのだ。
東京に出た大はアルバイトをしながら、
やがて出版社に就職するが、
父親が倒れたという連絡を受けて・・・
生まれて来る国と親は選べないというが、
普通でない両親のもとに生まれた
一人の青年の子ども時代から青年期までの
両親との親愛を描いて胸うたれた。
いわば、アカデミー賞作品賞を受賞した
「コーダ あいのうた」(2021)の日本版だが、
リアリティは各段に違う。
それだけに身につまされる。
コーダ・・・CODA, Children of Deaf Adults 。
きこえない・きこえにくい親をもつ聞こえる子 どものことを指す。
作家・五十嵐大氏の自伝的エッセイ
『ろうの両親から生まれたぼくが
聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して
考えた30のこと』(幻冬舎)が原作。
脚本は港岳彦。
監督は呉美保。
吉沢亮が、“きこえる世界”と“きこえない世界”を
行き来しながら生きる主人公を
繊細に演じた。
父母共に実際のろう者俳優を起用したが、
母・明子役の忍足亜希子(おしだりあきこ)が好演。
日本の母の持つ心情を見事に演じ切った。
昨年度のキネマ旬報ベストテンの助演女優賞を受賞。
(日本アカデミー賞ではノミネートさえされなかった。
というか、作品賞や主演男優賞をはじめ、
ことごとく無視された)
日本の家族、親、息子の姿を
ろう者の家庭を借りて
観る者の心に響く映画だった。
公開時は見逃したが、
WOWOWで視聴。