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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『彼女の家計簿』

2025年03月22日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

2歳の娘と共に暮らす
シングルマザーの瀧本里里(りり)の元へ、
疎遠にしている母親・朋子から
ぶ厚い封筒が届く。
五十鈴加寿という女性が
戦前からつけていた家計簿が入っていた。
日々の出金の記録とは別に、
備考欄に書かれた日記のような独白に
引き込まれ読み進めるうち、
この加寿という女性は、
男と駆け落ちした後、心中したと聞かされていた
自分の祖母ではないかと考え始める。

家計簿を送って来たのは、
NPO「夕顔ネット」を運営する三浦晴美という女性だった。
夕顔ネットは、水商売や風俗で働いていた女性の
高齢になってからの第二の人生を援助する
創立40年になる団体で、
晴美は2代目の代表にあたる。
その事務所は、定食屋を営む女性・加寿が
夕顔ネットに寄贈した築50年の建物で、
古くなったことから建て直すため、
加寿が残した荷物を晴美が整理していた時、
出て来た家計簿を
身内と思われる人物に送り、
受け取った朋子は、
男と駆け落ちしたと聞かされていた
母親の遺品など読む気にならず、
娘の里里に転送してきたものだった。

そんな時、里里が勤める会社が倒産し、
失業保険で生活する中、
里里は晴美を訪ねてみる。

こうして、里里の側晴美の側に加え、
家計簿に記された加寿の側
3方面から物語が綴られる。
里里は、今現在と、
加寿が記す戦後すぐの時代と
二つの時代を生きているように感ずる。
そして、家計簿に登場する
加寿が駆け落ちした相手の木藤という人物が
存命だと知り、訪ねて行くが・・・

題名から軽い楽しい読み物かと思っていたら、
意外や戦前戦後を貫く自立女性の生活を巡る
結構重い内容だった。
特に、教員をしていた加寿と
復員してきた夫、その母親との関係は、
時代の反映とはいえ、理不尽だ。
里里の祖母が駆け落ちして自殺したという伝聞の真相や
晴美の人に言えない過去の出来事も明らかになるが、
これも超重い。
里里の母親がなぜ娘に対して冷淡という原因も、重い。

一つの女性史として読むと
示唆するものは多い。
女性は家のことをやり、子どもを育てればいい、
外で働くことは許されないという
戦前戦後の時代が反映されている。

途中出て来た元AV女優の野村みずきの話が
絡んで来るかと思ったら、
途中で消えてしまったのは残念。

読む人が誰でも思うだろうが、
戦前の家計簿には、
生活を書き留める、
そんな広いスペースがあったのだろうか。
日記でよかったのではないか。

 


小説『海を破る者』

2025年03月18日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

日本の時代小説は、
戦国時代と江戸時代を書くことが多いが、
最近では、もっとさかのぼった時代を扱うことが多い。
この作品も、鎌倉時代
元寇(げんこう)を扱っている。

主人公は河野六郎通有(かわのろくろうみちあり)。
鎌倉時代中期の伊予国久米郡石井郷(現在の愛媛県松山市)の武将。
鎌倉幕府の御家人で、河野氏当主。
元寇の役で活躍した伊予水軍の将。

河野家は、源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われたほどの
名門だったが、
1221年の承久の乱(後鳥羽上皇と鎌倉幕府の対立抗争)で
京都側に付いたため、
鎌倉幕府の勝利後、
所領を没収され、
その上、親族間で惣領の地位と所領を巡って争いが絶えず、
今は見る影もなく没落し、
その家名を細々と伝えていた。

そういう状況の中での
一族融和の努力と
モンゴル帝国の襲来での
河野家の活躍を描く。
なお、河野通有は終始「六郎」という名で描写される。

文永の役(1274) と                              二弘安の役(1281) の
2度にわたる蒙古軍の襲来に備えて、
緊迫感がただよう時代。
その危機感の高まりの中で、
河野家の対立が緩和され、
結束して蒙古軍に対処する。
上陸を許せば、
蒙古軍は東進し、京都を落とし、
鎌倉まで到達する。
地上戦では、蒙古軍はめっぽう強い。
だからこそ、九州での上陸阻止が重要な意味を持つ。
六郎率いる伊予の水軍衆は、
博多の石築地(元寇防塁)の、
更に海側にある砂浜に戦船を置いて、
海上で元軍を迎え撃つべく陣を張り、
石塁は陣の背後とした。
この不退転の意気込みは
河野の後築地(うしろついじ)」と呼ばれ、
九州諸将から一目置かれた。
六郎は志賀島の戦いにおいて
惣領の地位を争っていた伯父の通時とともに
元軍船を攻撃し、
通時は戦死し、
六郎本人も石弓により負傷するも、
元軍船に乗り込み、散々に元兵を斬って、
元軍の将を生け捕る武勲を挙げた。
恩賞として、失われていた河野氏の旧領を回復し、
河野氏中興の祖とも呼ばれる。

史料が少ないのにかかわらず、
今村翔吾の筆は、
まるで眼前で見たものであるかのように、
詳細に描写する。
小説家の想像力、おそるべし。

人買いに連れて来られた
金髪、碧眼の西洋美女・令那(レイナ)と
高麗から来た奴隷・(はん)との交流、
踊り念仏を広めた一遍上人などが
物語を彩る。
特に、令那を通じて、
異国に対して憧れを抱く六郎の気持ちが伝わる。

子どもの頃から
海の向こうには何があるのか、
もしかしたら
己たちとは全く相貌も、
風習も違う者がいるのではないか。

始まりは少年の時分の夢であった。
海の向こう。
遥か遠く。
未だ見ぬ国々があり、
未だ見ぬ多くの人々が暮らしているのかと
思い浮かべた。

令那の国は「るうし」、町の名は「きいえふ」というところを見ると、
今のウクライナあたりと思われる。
そう考えると、今のロシアから侵略されている状況が重なり、
感慨深い。

弘安の役において日本へ派遣された艦隊は、
当時世界最大規模の艦隊
蒙古・漢軍1万5千~2万5千人の主力軍と
高麗軍5千~8千、
軍船の数は700から800。
大艦隊である。
(小説中では、数万、数千と、もっと大軍に描かれている)
その頃、モンゴル帝国の勢力はヨーロッパまで及び、
東の小国を鎮圧するために
送り込んだ大軍。
その拡張する宿命について
六郎たちが語る。

隣国を呑み込めば、
また新たな国に接する。
その国を恐れてまた侵略し、
次の国に触れる・・・
その負の連鎖に
止まれなくなっているのではないでしょうか

今のロシアと中国の状況を見ると、
示唆的である。

日本は第二次世界大戦での敗北以外、
外国からの侵略を受けたことがないが、
元の襲来は、その危機で、
もしあの時、蒙古の侵略が成功していたら、
日本の歴史は大きく変わっていただろう。

459ページの大冊で、
読むのに時間がかかったが
読みごたえは十分。


小説『まずはこれ食べて』

2025年03月11日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

ITベンチャー企業「ぐらんま」で働く人々の人間模様。

「ぐらんま」は、医療患者管理システムで伸びている会社。
大学の仲間たちで起業したものだ。
だから、仲間意識が強いし、半分学生気分が抜けない。
社長は多方向に気配りができる田中雄一、
営業の伊丹大悟(だいご)、
プログラム担当の桃田雄也(ゆうや)、
経理や事務仕事の池内胡雪(こゆき)の4人。
実は、元々はアイデアマンの柿枝駿(はやお)の発案で
成り立った会社だが、
その柿枝はある日失踪して所在不明。
メンバーの上に大きな影を落としている。

狭い会社で少ない人員で回しているから、
最近はいろいろと綻びが出ている。
不規則な生活で食事はおろそかになり、
社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。
そんな状況を改善しようと、
社長は家政婦を雇うことにした。
やってきた家政婦の筧(かけい)みのりは無愛想が来てから、
職場がきれいに片づき、
夕食と夜食は心がほっとするご飯を作ってくれた。

6つの話で成り立つが、
メンバーたちの心の動き、本音が描かれる。
たとえば、事務だけではつまらないからと
営業まで手を伸ばしたが、
実績を上げられず、鬱屈を抱えている胡雪。
アルバイトのフィリピン人とのハーフのマイカは、
故郷の叔母に仕送りしている。
本当の不幸を叔母の上に重ねる。
マスコミに知られた社長に見込まれて転職を考えている伊丹。
唯一の趣味の山登りで孤独なテントですごす桃田。
筧自身も大阪のラブホテルで勤めていた時に、
面接した庄田翔太が無戸籍者だと知って、
東京に移転して、手がかりを探っている。

そんな時、柿枝らしき男を見かけた、という情報が入って来て、
社内に波紋が広がり、
ミステリーの色を帯びる。
そして、誰にも言っていない、
田中と柿枝の接触の話を
筧は田中から聞き出す。

と、多数の人物の心の中を辿るのだが、
それが結構重い
人間の心の闇にまで迫る。
原田ひ香の小説は、
ほっこり系で、軽い、と思っていたが、
これまでの作風と一味違い
こういう人生も描けるのかと、
見直した思い。

エピローグで、思いもしなかった展開があるのだが、
それまでの人物像とかなり違う造形があり、
戸惑う。

いろいろな問題を抱える人物に、
筧が作るお料理を「まずは食べてみて」と言って食べさせる。
食べることによって、悩んでいた気持ちが変わったり
区切りがついたりする。
食べ物の力を再認識する。

筧は思う。

彼らは何も知らない。
自分たちがどれだけ恵まれているか。
その代わり、
いろいろな不満や悩みがあっても、
小さい頃からちゃんと親がいて
育ててもらった彼らは
素直に愛情を示す方法を知っている。

 


小説『図書館のお夜食』

2025年03月07日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

樋口乙葉(樋口一葉ファンだった母が命名)は、
東北地方のターミナル駅ビルの書店に勤めていたが、
店長とうまくいかず、
転職を考えていた時、
SNSで連絡を受けた
東京の郊外にある「夜の図書館」で働くことになる。
オーナーとのネット面接で採用が決まったのだが、
オーナーの顔は見えず、
声も変換されたもので、
オーナーが何者であるかは分からない。

そこは普通の図書館と異なり、
亡くなった作家の蔵書が集められた図書館で、
開館時間が夕方7時から夜中の12時まで
入館料は千円で、
月間パスポート1万円、
年間パスポート5万円もある。
裏手に職員用のも用意されており、
家賃は無料、光熱費だけ自己負担。
カフェもあり、夜食も出る。
主に研究者などが利用するもので、
どう考えても採算は取れないと思われるが、
オーナーの私財でまかなわれているようだ。
職員はみんないい人だが、
どうも過去に何かを背負っている気配。
時々、いろいろな職員の視点で過去が語られる。

蔵書印がない、持ち込まれたらしい本が発見されたり、
ある作家が乗り込んで来て、
自分とライバルだった作家の蔵書を点検させてくれと申し出たり、
最近亡くなった人気作家の蔵書を引き取るために
作家の家を訪ねると、
作家の妹という人物が出て来て、
実は、その妹が作家自身で、
死んだというのは虚報ではないかと疑ったり、
マネージャーとオーナーの不思議な関係が語られたり、
ミステリー的要素もある。
オーナーの正体も終わりの方で明かされる。
カフェのシェフが作る料理(お夜食)が、
様々な作家の本から取られていたりの趣向もある。

オーナーの口から語られる、
職員採用の基準が、
傷ついている人、疲れている人、
そして、秘密を抱えている人、
というのも興味深い。

ちょっとユニークな作品を書く原田ひ香の作品。
現実には成り立たない特殊な図書館の話。
ファンタジーを読むような感覚で読んだらいいだろう。

WEBで、紹介マンガというのがあるようだ。


小説『失うことは永遠にない』

2025年03月01日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

第48回の城戸賞に準入賞し、
「366日」の脚本を手掛けた福田果歩
小説家としてもデビューした作品。

東京・目黒で暮らす小学5年生の奈保子の家庭は、
父親の不倫の発覚をきっかけに崩壊しつつあった。
母親は家出し、消息不明に。
奈保子は大阪にある父の実家にひとり預けられることになる。
認知症の祖父との日常の中、
河原で出会った少女・アサコに連れられて訪れたのは、
血のつながらない5人の兄弟たちが住む、
崩れかけたアパートの一室だった。
最長年の15歳のキミ、奈保子と同じ10歳のアサコ、
9歳のハルト、5歳のガク、2歳のタイセイ。
キミが働く部品工場の給料で養われている兄弟は、
全員、学校に通っていない
奈保子は兄弟たちの勉強を見てやることになる。
その兄弟たちとの交わった夏は、
奈保子にはとって、忘れられないものとなった。

兄の生活とキミの生活を比べて、こう思う。

ほとんど毎日休みなく働き続ける、
わたしの兄と同い年の男の子。
兄は朝から番まで部活や遊びに明け暮れ、
好き嫌いをしてご飯を残し、
風呂に入って汗と汚れを洗い流し、
真っ白なシーツに覆われたふかふかのベッドで眠るのです。
そしてそれは、わたしも同じでした。
わたしはアサコたちと
本当に分かり合うことはできない。
あなたの苦労を理解することはできない。
わたしは決して、あなたたちの兄弟にはなれないのです。

そして、五人の兄弟を描いた絵の中に
自分の姿を描き足せば、
兄弟たちの一員になれるのではないかと妄想する。

東京に戻った奈保子は、
帰って来た母と共に家庭を維持するが、
その後、兄が荒れて、家族は再び崩壊する。
その嵐が過ぎた後、家族はまともな姿を取り戻すが、
高校生になった奈保子は、
「お母さん、わたしこの家を出るよ。
 それで、本物の家族と一緒に大阪で暮らすよ」
と母に告げ、
制服や教科書を処分して、
6年ぶりに大阪に戻る。
あの兄弟たちの住んでた家を訪ねるが・・・

血で繋がった家族と、そうでない家族。
その中で感ずる、人がはじめて対峙する「孤独」
少女のひと夏の成長物語だが、
一人称で語られる物語が
途中、誰に向かって語られていたのかが明らかになると、
恋愛物語としても感じられる。