Addicted To Who Or What?

引っ越しました~
by lotusruby

Mr. Vengeance に興味あり(1)

2006-04-12 23:50:11 | K-Movie Notes
(Image source: yahoo.korea)
朝鮮日報でも紹介されていたが、パク・チャヌク監督のロングインタビュー記事が4月9日付けNew York Times 紙に掲載された。韓国映画界を代表する監督なので、興味アリアリなのだけど、読み始めたらあまりに長くてびっくり。内容が面白いので、数回に分けて全文紹介してみることにした。
(*なお、ここに挙げる翻訳文はあくまでも、個人で楽しむ目的なので、リンク・転載・引用はご遠慮願いたい)

 Mr. Vengeance
筆者:IAN BURMA 掲載日:2006年4月9日 掲載紙:New York Times

訳文(その1) translated by lotusruby

パク・チャヌクは、暴力的な人間には見えない。眼鏡をはずすと、彼の柔和な丸顔は、唐王朝時代の温和な仏陀の顔に似ている。彼の語り口は物静かで、時折微笑みを浮かべ、超暴力的な復讐3部作の映画監督というよりは、格好良い大学教授のように見える。ソウルの彼のオフィスの壁には、映画のポスターやポストカードに混じり、夫人と12歳の娘の写真の数々が貼ってある。パクは、1980年代に夫人と大学の映画サークルで知り合った。夫人は、彼の脚本にはすべて目を通し、彼が最も信頼するアドバイザーである。彼の娘もまた彼の作品の大半を見ている。物静かで内省的、家庭的な良き夫は、時に残虐で目を覆いたくなる描写に長けた42歳の監督でもある。

つい先ごろ、彼のオフィスで、私達は暴力について、いやもっと具体的に言うと、パクが考える暴力の恐怖について語った。パクは、「自分の映画では、痛みと恐怖感に重点を置いている。暴力行為が行われる前の恐怖感、暴力行為が行われた後の痛み。これは、犠牲者のみならず加害者にも同様に当てはめている」と言う。パクは、具体的に、最新作『親切なクムジャさん』のワンシーンで説明した。そのシーンは、誘拐され殺された子供の父親が、廃校で椅子に縛り付けられた犯人に死命を制すところ。その父親だけでなく、犯人が他にも殺した子供の家族や関係者達も一緒だ。彼らは全員、辛抱強く無抵抗の犯人へ復讐を加える順番を待つ。

「その父親は、斧を手にする。娘は父親を制止しようとする。観客はそれを見て、彼女が、父親に『だめよ、やめて』と言うだろうと思う。ところが、そうではなく、彼女は、犯人を生かしておいてと頼む。そうすれば、残りの家族達も犯人に恨みを晴らすことができると。観客はそこで笑う。次のシーンでは、血のしたたる斧を持った父親がたたずむ姿を映し出され、彼がやったことにゾッとさせられる。観客は、もう皮肉な笑いを浮かべることができず、残忍な行為の前振りで笑ったことを後悔する。」

こう語る間、パクは笑わなかった。彼にとって、暴力とは、深刻な問題なのだ。彼は、おそらく、観客の感情を操る物騒な方法を知っているのかもしれないが、先ほど述べたように、彼の作品の焦点は、「暴力の美化やユーモア」ではない。彼の作品を見る限り、彼は、彼自身のことを「倫理意識を備えた人間」と思っている。パクにとって、犯人の心理は、被害者の心理同様に重要である。彼の作品の主人公たちは、多くの場合、加害者であり被害者でもある。

流血場面の詳しい描写が、絶え間なくそして麻痺するほどの勢いで次々と映し出されなければ、彼らの苦痛は、ブラックな笑いとして簡単に片付くのかもしれない。3部作の2作目『オールドボーイ』(2003年)では、15年間独房に監禁された後、突然解放される男を追う。その男は、活タコをガツガツ食べたり、狭い廊下で凶器を持ったチンピラと戦ったり、はさみで自分の舌を切ったり、最終章で彼を監禁した張本人の男と対決場面では血みどろの床に足を滑らしたりする。そう、そして、そこに至るまでに、主人公の男は娘と近親相姦の関係に陥る。

パクは、自分の娘に『親切なクムジャさん』を鑑賞することは許しているが、『オールドボーイ』は近親相姦を扱っているため許していない。パクは、弱気な、そして、少し決まり悪そうな笑顔を浮かべた。「これが、母親と息子の関係だったら、もう少し気が楽なのだが、これは父親と娘の話なので、気まずくなるかもしれない」と語る。

たいてい、パクの作品は「Asian Extreme」として分類される。この分野は、韓国、日本、香港、タイで制作された新しいジャンルの超バイオレント作品の総称のようなもので、アジアだけでなく、欧米でもカルト的な人気を得ている。こうした作品は、客ウケを狙った映画の要素を数多く取り入れ、予想外の展開に持っていく。暴力は様式化され独創的で、時に、プロットには政治的な意識が漂う。 三池崇史による近未来の地下組織映画『犯罪者』や、フルーツ・チャンによる美容界の身の毛もよだつ話『Dumplings』は、両作品とも、極端な状況を利用して社会の病を浮き彫りにしている。この2人の作品は、パクの作品と共に、昨年アメリカで発売されたオムニバス映画『美しい夜、残酷な朝』に収録されている。

パクは、Asian Extreme の世界で先頭を走るようになった。アートシアターや大学祭では、彼の復讐3部作をこぞって上映するようになり、彼の作品は各映画祭で賞を獲得、2002年と2003年には映画専門サイトainticool.com が選ぶ映画監督No.1に。そして、彼はさらにメジャーな舞台に立った。2004年、『オールドボーイ』でカンヌ映画祭グランプリに輝いた。ユニバーサル社は、『オールドボーイ』のリメイク版権を購入し、リメイクを33歳台湾生まれのジャスティン・リン監督に託した。

また、パクは、韓国でとても人気が高い。2003年、『オールドボーイ』は300万人以上の観客を動員した。『オールドボーイ』よりも3年前に彼が手がけた『JSA-共同警備区域』は、韓国兵士2人がこっそり国境線を越え、北朝鮮の兵士と友情を育む話であるが、韓国映画史上、最高の興行成績を挙げた作品である。(『JSA』もまた、『グラディエーター』の原作者兼プロデューサー デビッド・フランゾーニによりアメリカでリメイクされる予定であり、舞台は米国とアメリカの国境地帯となる。) 
to be continued....


パク・チャヌク監督の「暴力」に対する考え方が、とても明快。彼の作品を象徴する暴力や残忍性は、それを決して美化することや、ユーモアで描いているのではないということ。
韓国映画に流血はつきものと誰が言ったか知らないけど、あまりに流血シーンが夥しいと、見慣れて麻痺してしまうのではないかと思う。やっぱり、いつ見ても、流血シーンはおぞましいのだが、直視することで感じる何かが「恐怖感」だったり「痛み」だったりするのかなぁ、と思う。

娘さんとの関わりについて触れているところ、ファミリーパパの一面が微笑ましい

Asian Extreme の先鋒
Asian Extreme って日本語に訳せない。しっくりくる日本語がない。単にアジアンホラーとかアジアンスリラーといってしまうと、ニュアンスや響きが違ってくるから。

リメイクってどうよ
『JSA』のリメイクの舞台が、アメリカとメキシコの国境線って、なんだかツボが外れた感じがする。『JSA』には南北分断という、歴史的&民族的悲劇が現実としてあるから、意味があるような気がする。それに、ハリウッドのアジア的感性の解釈っていつも一元的でいただけない、と思うのは私だけ


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
この人の頭の中 (haru)
2006-04-13 20:06:06
lotusrubyさん、相変わらず美味しい記事ありがとうございます。

この人の頭の中・・・見てみたい。

思考回路というか心理構造というか・・どんなものの見方をしているのかとっても興味があります。

文章にも出てくるように『倫理意識を備えた』確信犯的なところがとても魅力的。

是非またBrianと組んですごいの見せてほしいなぁ~
返信する
期待度はなまる (lotusruby)
2006-04-14 01:22:53
haru さん、こんばんは。



確信犯的ね・・・ そうそう、言い当てていますね~

復讐3部作+Cutは、ストーリー性もさることながら、視覚的&美術的な演出にとっても興味があるわ



でもさすがに、Extreme(過激・極限)をテーマとする作品は、もう十分って感じもするなぁ。



作品としては、Brianが出演しているからという訳ではなく、最初に見た『JSA』が一番好きかな・・・

エンディングがとっても衝撃的だったから・・・



これまで見たこともないような切り口の作品を期待しちゃいますね~
返信する