――多くの人たち、ときには、特別に天分のある人でさえ、自分が体験するすべてのことについて、即座に判断を下さなければならぬと思っている、たとえば、初めて会ったすべての人について、また二、三ページめくっただけのすべての書物についても。それだから、しばしば判断を誤って、あとになって訂正せざるをえなくなる。あるいは誤りとわかっても自分の考えを固執して、その結果、自分の品性をそこない、さらによくないことに、他人をもしばしば傷つけたりする。もしあなたがこのような習慣をもっているなら、しかも新聞通信員を職業としているというのでなければ、そのような癖をすててしまいなさい。―― ヒルティ『眠られぬ夜のために(第一部)』より
現代人はおっちょこちょいで、よく知りもしないこと、聞きかじっただけのこと、思いついただけのことを断言してしまう。そればかりか、根拠のない言葉の暴力で他人を傷付けて、平気な顔でいる。
最近著しいのは、やはり新型コロナのこと。その他にも東京オリンピックのこと、小室圭さんのこと、大坂なおみさんのこと等々。妄想と憶測、根拠に乏しい誹謗中傷の嵐。ひどいものだ。
「現代人は」と言ったが、実際、人間は昔からそうだったのだろう。ただSNS等の発達で、現代ではそれが余計に目に付くようになった。そのことを見抜いていたヒルティの言葉は、時代と国境を越えて響いてくる。
昨日6月2日に54歳となった。上記の言葉を座右の銘として、日々励んで行きたい。あと禁酒(笑)。ヒルティは禁酒主義者だった。
しかし面白いのは、「新聞通信員を職業としているというのでなければ」というくだり。新聞通信員(すなわち現代でいうマスコミ)は、しばしば判断を誤り、誤った考えに固執し、品性をそこない、他人を傷つける、そういう悪徳が当たり前のヤツラだ、と。この点も時代と国境を超越して普遍的である。