久しぶりに会社法の話を。
現在の会社法では、株式会社に監査役を置くかどうかは任意です。つまり「株式会社には、監査役のいる会社と、監査役のいない会社がある」ということ。株式会社に監査役を置くかどうかは、各会社が定款で定めます。ただし「取締役会を置く株式会社は、監査役も必ず置かなければならない」など、一定のしばりがあります。
そして「監査役を置く株式会社」は、「監査役設置会社」であることが登記されます。
ここまでは、そう分かりにくい話ではないですね。
と・こ・ろ・が! 会社法の規定上、「監査役を置く株式会社」=「監査役設置会社」とは限らないのです。
ん?えっ?よく分からない……???
「監査役を置く株式会社」は「監査役設置会社」であることが登記される。しかし、「監査役を置く株式会社」=「監査役設置会社」とは限らない……?そうすると、「監査役設置会社と登記された会社」≠「監査役設置会社」ということ???
実は、そのとおりなんです。
「監査役設置会社」については、会社法上、きちんと定義があります。
会社法第2条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
九 監査役設置会社 監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)……<中略>……をいう。
つまり、「監査役を置く株式会社」でも、「監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある」場合には、「監査役設置会社」では
ないということです。
細かい話になりますが、監査役は「業務監査」と「会計監査」の二つの監査権限を持っています。ところが株式会社によっては、監査役の監査権限を「会計監査」に限定すること、すなわち「業務監査」の権限を与えないことを、定款で定めることができます。で、このような定款の定めのある株式会社は、たとえ監査役がいても「監査役設置会社」とは言わない、というのが法律の定めなのです。
大丈夫ですか?話について来れていますか?
もう少し話を分かりやすくしましょう。会社法上、監査役には、(1)「業務監査」と「会計監査」の両方を権限に持つ監査役と、(2)「会計監査」の権限しか持たない監査役の2種類があります。ここでは仮に、(1)の監査役を「大監査役」、(2)の監査役を「小監査役」と呼んでおきましょう。会社法では、大監査役がいる株式会社を「監査役設置会社」と言い、小監査役のいる株式会社はそう言わないということなのです。
ではでは。株式会社の登記に「監査役設置会社」と記載があったら、その会社に「大監査役がいる」ということを表しているのでしょうか?
そうではないんです。ここがヤヤコシイところ。
会社法第911条第3項
第1項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
十七 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)であるときは、その旨及び監査役の氏名
な、なんと、この登記に関する規定では一転して、「小監査役」がいる場合も含めて「監査役設置会社」と言うと定められているのです。
なんちゅーまぎらわしさ

会社法第2条で定める「監査役設置会社」と会社法第911条で定める「監査役設置会社」では、まったく同じ字面の「監査役設置会社」でも、意味するところが違うのです。
この違い、あらかじめ知っていなければ絶対に理解できませんよね。ポイントは、「監査役設置会社と登記されている会社でも、会社法2条でいう監査役設置会社であるとは限らない」ということ。あなたの会社の登記事項に、「監査役設置会社」であることが記載されていますか?もし記載されていたとしても、会社法上、ホントーは「監査役設置会社」でないかも知れません。法律上、そういうことになっているのです。
しかしまぁ、どうしてこんな規定になってしまったのでしょうかねぇ……そしてまた、今からでも遅くありません、さっさと改正できないものなのでしょうか?世間的な常識からしたら、ほとんど理解不能な規定の矛盾。しかし立法サイドでは「何も問題はない」と強弁しています。
会社法立法を担当した優秀な官僚様。あなたがたの頭の中は、私のような凡夫にはトーテイ計り知れません。