新会社法の下では、会社は「利益」を資本に組み入れて増資することができなくなりました。
…恥かしながら、私は最近まで知りませんでした。
旧商法第293条ノ2は次のように規定し、会社の「利益の資本組入れ」を認めていました。
商法第293条ノ2 会社ハ利益ノ処分ニ関スル株主総会ノ決議ヲ以テ配当ヲ為スコトヲ得ベキ利益ノ全部又ハ一部ヲ資本ニ組入ルルコトヲ得
新会社法では、「利益」という概念は「剰余金」という概念にとって代わりました。そして会社法第450条は、次のように規定しています。
会社法第450条 株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる。
ん?この規定からすると、旧商法と変わりないのではないかですって?
私もそう思いました。
しかし、違うのです。会社法施行にともない制定された会社計算規則(法務省令)第50条第2項では、「剰余金」のうち「資本剰余金」について、次のように規定しています。
会社計算規則第50条第2項 株式会社のその他資本剰余金の額は、前三款及び第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が減少するものとする。
一 法第450条の規定により剰余金の額を減少する場合 同条第1項第1号の額(その他資本剰余金に係る額に限る。)に相当する額
それに対し、「剰余金」のうち「利益剰余金」について定めた会社計算規則第52条第2項では、会社法第450条に関する規定を欠いています。
会社計算規則第52条第2項 株式会社のその他利益剰余金の額は、次項、前三款及び第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が減少するものとする。
一 法第451条の規定により剰余金の額を減少する場合 同条第1項第1号の額(その他利益剰余金に係る額に限る。)に相当する額
<注:↑法第450条に関する規定がありません>
その結果、会社法第450条によって資本に組入れすることができる「剰余金」とは「資本剰余金」に限られることとなり、会社の営業活動等で生じた「利益(利益剰余金)」は、資本に組入れすることができなくなってしまったのです。
しかし、釈然としませんね~。
「剰余金」の概念は、会社法第446条できちんと定義されています。この定義によれば、「剰余金」の中には、いわゆる「利益」も当然に含まれています(かつて「利益の配当」と呼ばれていたものは、会社法上は「剰余金の分配」と呼ばれています)。そうすると、会社法第446条で定義されている「剰余金」と、会社法第450条でいう「剰余金」とは、異なる概念のものということになってしまいます。これでは何のために「剰余金」を定義したのか分かりません。
例えば、会社法第450条を「株式会社は、剰余金の額
(政令で定めるものに限る。)を減少して、資本金の額を増加することができる。」とするのであればともかく、このような国民の権利義務の範囲を画する概念について、法律の授権なく、勝手に政省令で定義を変えてしまってよいものでしょうか?
知り合いの税理士さんは、「親が『いい』と言っているものを、子が『だめ』と言うようなものだね。」とおっしゃってましたが、同感です。
※この記事の内容は、平成21年4月1日以降変更となっています。コチラをご参照ください。