Left to Write

司法書士 岡住貞宏の雑記帳

国家百年の計

2010-10-29 22:55:12 | 世の中のこと
河川工学
高橋 裕
東京大学出版会


 「国家百年の計」という言葉があります。
 国の遠い将来までも見すえた遠大な計画――というような意味です。

 江戸時代以前、利根川は現在の銚子河口ではなく、東京湾に注ぎこんでいたのを知っていますか?一説によれば、昔の利根川は「暴れ川」でしばしば氾濫を起こし、流域に甚大な被害を及ぼしていたので、江戸を洪水から守ろうと、利根川を「東遷」し太平洋へ注ぎこむようにしたとのことです。この東遷事業は1594年に始まり、一応の完成を見たのが1654年。60年をかけた大事業でした。

 また江戸時代以前、現在の日比谷~有楽町のあたりは海だったのを知っていますか?日比谷という地名は、「日比谷入江」という入江の名に由来しています。江戸時代初期の埋め立て工事により、陸地となりました。

 さらに江戸時代、東京(江戸)は世界でも類を見ない上水道が完備された大都市であったことを知っていますか?神田上水・玉川上水の整備事業によって、便利かつ安全な上水道網が江戸市中に張り巡らされるに至りました。

 江戸時代の全期間を通じて、徳川幕府はこれら都市整備事業に力を注ぎました。このような下地があってこそ、現在の東京の繁栄があると言っても過言ではありません。徳川家が果たして現在の日本の繁栄を思い描いていたかどうか――それは分かりませんが、江戸の、ひいてはわが国の繁栄を願って、都市整備に力を注いだのは間違いのないことでしょう。

 このような先を見すえた計画を指して、「国家百年の計」というのでしょうね。

 外国に目を向けると、もっとスケールの大きな話があります。

 みなさん「万里の長城」は知っていますね。北方騎馬民族による中国への絶え間ない侵略を防ぐために建設されたものです。この建設に最初に着手したのは秦の始皇帝であるといわれますから、紀元前3世紀頃の話、現在の形で完成したのは明代ですので、14世紀以降。実に1600年以上もの年月をかけて完成した大プロジェクトです。無論、ずーっと工事を続けていた訳ではないでしょうし、始皇帝の造った長城は明代のものと場所も仕様も違うようですので、連続性のある構築物ではありませんが、その「理念」は一貫して受け継がれて来たものと言って良いでしょう。

 「国家百年の計」どころか「国家千年の計」を立て、ついにそれを完成させたのです。頭の下がる思いです。

 さてさて、前置きが長くなりました。言いたいのは「現在の日本」のことです。事業仕分けのことです。

 「200年に一度の河川氾濫」にも耐えうるスーパー堤防の建設事業は、「スーパー無駄遣い」との烙印を押され、廃止が決定されました。

 曰く――
 「このままのペースで行くと完成は400年後。意味がない」
 「建設途中で水害が起きたら防災効果は期待できない」
 「200年に一度しかない災害に備えて巨費を投じるのはいかがなものか」

 スーパー堤防の整備は、1987年河川審議会超過洪水対策小委員会の答申を契機として決定されました。「超過洪水」とは、文字どおり「普通でない洪水」ってこと。超過洪水対策の切り札は、やはりスーパー堤防なのです。それで、江戸川・荒川下流域など、いわゆる「海抜0メートル地帯」で人口の極めて多い地域、言い換えれば超過洪水が起きたら甚大な被害を生ずるであろう地域の治水事業として、その整備が決定されました。当時の河川審議会の委員さんは、当然のことながら、河川工学・治水事業の専門家の方々です。

 このスーパー堤防、本当に要らないのでしょうか?この整備事業を止めることは、「国家百年の計」として、後世に恥じることのない決定なんでしょうか?

 専門家の言うことが絶対に正しいとは思いません。「専門バカ」という言葉もあるくらいで、専門家であるがゆえに視野狭窄に陥っていることもあるでしょう。しかし河川工学・治水事業の専門家がじっくり検討して整備を推進した事業を、たった何分か、何十分かの議論で、他の専門家の意見も聴かず、ひっくり返してしまって本当にいいのでしょうか?それで本当に間違いのない決定が下せるのでしょうか?

 事業仕分けで有名となった女性議員は、今回もキャンキャン吠え立てるような声で担当者を質問攻めにしていましたが……そんなもん議論の前に自分で調べとけよ(怒)。前提知識すら持っていなきゃ議論にならんだろが。

 「このままのペースで行くと完成は400年後。意味がない」
 だったら予算をもっと増やして完成を早めるという選択肢はないんですか?

 「建設途中で水害が起きたら防災効果は期待できない」
 上記と同じく、完成を早めたらどうですか?

 「200年に一度しかない災害に備えて巨費を投じるのはいかがなものか」
 大洪水に見舞われて家や家族を失った人々に、「これは200年に一度の災害だからガマンしてね。洪水を防ぐより、洪水が起こった後で被害補償する方が安上がりだからね」と言うつもりでしょうか?

 どんなに費用がかかったって、やっぱり治水は、防災は大切なことです。いまの自分たちだけの問題ではありません。子孫にとっても重要なことです。「財政が苦しい中、100年前の先祖が頑張ってくれたから、いまこうして安心して住める」という国づくりを目指したいですよね。私たちもいま、先祖の努力があってこそ安心して暮らしていられるのですから。

 「どうしてもスーパー堤防を推進せよ!スーパー堤防じゃなきゃダメ!」と言ってるんじゃないですよ。そりゃ予算の都合もあるでしょう。妥協的に、もう少し堤防の規格を下げることを考えなければならないかも知れません。堤防整備は一時ストップしても、他にお金を回さなければならない事態もあり得るでしょう。

 でもね、国として治水・防災をどう図るのかは、しっかり考えとかなきゃならんでしょうが。それこそ、「国家百年の計」を立てなければならんでしょうが。スーパー堤防はやめる、それはそれで仕方ないとして、それに代わる治水・防災事業は、どう実現して行くのですか。スーパー堤防をやめて、あとは放ったらかし、それでオシマイですか。

 事業仕分けは、最初に結論ありき。ただ「廃止する」「縮小する」ことしか考えていないようです。スーパー堤防廃止「後」の治水・防災計画については、一顧だにされることもなく、ただひたすらに「廃止」だけが決まりました。

 「廃止・縮小」して生み出したお金を、今度はどこに持って行くつもりなんでしょうか?また子ども手当みたいにばらまく?こんなのもはや「国」ではありません。「国」の体をなしていません。何の将来的展望、公共的視点も持てないなら、いっそのこと「国」自体を止めたらいかがでしょう?「無駄遣い」は1円もなくなりますよ。

 「スーパー堤防はスーパー無駄遣いということで廃止」と、ひとり悦に入った顔で宣言した議員さん。私はあなたの下品なニヤケ顔を一生忘れないでしょう。日本中で洪水が起こるたびに、その顔を思い出すことでしょう。

 それを聞いて「アハハハ」と馬鹿笑いを上げていた周囲の人々。あなた方が洪水の心配のない高台にお住まいになっていることを、切に祈ります。私はぜんぜん笑えなかった。こんな国になってしまったことが、日本にこんな国会議員しかいないことが、悲しくて悲しくて、泣いてしまいそうでした。

 九州・耶馬溪にある「青の洞門」はご存知でしょうか。次のような物語が残されています。

――旅の僧・禅海は、山国川に面しそそり立つ競秀峰の裾にやって来た。ここは断崖絶壁を這うように渡らねばならぬ道の難所。これまでに何人もの村人が足を滑らせ命を落とした。禅海は競秀峰を貫く洞門(トンネル)を掘り抜く覚悟、この同門が抜ければどれだけ人々が助かることかと、岩壁にたった一本のノミを打ち続ける。「あんな小さなノミで洞門を掘り抜くなど、何百年かかることか」と、村人は禅海を狂人扱い。そんな声に耳も貸さず、禅海はノミをふるう。やがて一年が経ち、二年経ち、十年が経ち、洞門を一尺また一尺と掘り進むにつれて、村人の中からも禅海を手助けする者が現れる。それが一人二人と増えて行き、ついには村人総出で洞門を掘り進む。そして三十年の歳月をかけ、ついに洞門を掘り抜くことができた。以後、競秀峰で命を落とす者はいなくなった――

 このような美しい物語は、もはやこの先、この日本で生まれることはないでしょう。いつ掘り抜くことができるのか分からない洞門より、目先のカネ・カネ・カネ……400年先の幸せを図ることは、「スーパー無駄遣い」でしかないのですから。



ノーベル賞に思うこと

2010-10-08 15:11:53 | 考えたこと
マンガでわかる有機化学 結合と反応のふしぎから環境にやさしい化合物まで (サイエンス・アイ新書)
齋藤 勝裕
ソフトバンククリエイティブ



 鈴木章・北大教授、根岸英一・パデュー大教授が、そろって2010年度ノーベル化学賞を受賞されました!

 2000年度化学賞受賞の白川英樹さん以後、2000年代に入ってから日本人の受賞は10人目。ほぼ、毎年一人は受賞している計算になります。また今年の受賞こそ惜しくも逃しましたが、iPS細胞研究で有名な山中伸弥さんなども、きっと近いうちに医学・生理学賞を受賞なさることでしょう。日本人の受賞候補者は、目白押しです。

 「科学技術大国・日本」の面目躍如といったところで、ご同慶の至り。国民みんなでお祝いしたいですね

 ……と、浮かれてばかりもいられないようです

 鈴木さん・根岸さんのうれしい知らせに対し、2008年度ノーベル賞受賞者である益川敏英さん・下村脩さんが祝意を述べつつ、はからずも同じような「危機感」をコメントしています。要旨として、次のようなコメントです。

――近年、日本人のノーベル賞受賞が相次いでいるが、いずれも30年以上も前の研究成果が今になって評価されているものである。現在の日本が科学技術に秀でているなどと錯覚してはならないし、むしろ以前ほどの優位性を保ってはいない。日本の若い研究者たちは、もっと奮起しなければならない。そして研究者を支えるための国や社会の制度充実も、喫緊の課題だ――

 益川さんと下村さんは、出自も研究分野も住んでいる所もまったく異なり、交友関係はないと思いますが、そのお二人がほとんど同じ意見を述べておられる。日本人研究者の間には、相当に強い危機感が共有されているのだと思います。

 話は飛びますが、かつて日本は「石油の禁輸」を直接の引き金として、太平洋戦争に突入しました。そして最終的には、圧倒的な物資の差によって敗戦の憂き目を見ました。日本は資源のために戦争を始め、資源のために戦争に負けた――そう言ってもいいと思います。

 戦後の平和日本は、過去の愚を反省し、「資源を持たざる国」として科学技術に活路を見出すことにしました。そして、その戦略はみごとに的中したようです。日本は科学技術によって世界有数の経済大国にまで発展し、繁栄の中にいました。

 繁栄の中に「いました」?過去形?

 そのとおり。益川さん、下村さんらが共有する危機感が真実ならば、それはもはや過去のことと言うべきでしょう。10年後、20年後も、日本は科学技術によって「繁栄している」と言うことが可能でしょうか?どうも薄ら寒い気持ちになるのは、私だけではないはずです。

 そしてまた、最近では「レア・アース」という資源のために、「持たざる国」日本は、大国の横暴に鼻ヅラを取られて引き回される事態に陥っています。このような事態は十分に予想できたはず。「レア・アース」に対抗できるような、有力な科学技術上の優位性も持たぬまま、今後どうやってこの横暴に対処するつもりなんでしょうか?ヤケのヤンパチ、資源を求めて、もいっちょ戦争でもおっ始めるつもりでしょうか、政府は。

 「どうしても1番なんですか?2番じゃダメなんですか?」というのが、現政権から飛び出した科学技術に対する発言です。「も~ぉ、その発言は『失言だった』って言ってるでしょうアゲ足とってシツコイなぁ~!」と、蓮舫さんもウンザリしていることとは思います。でもね、あまりにひどく間違っているから、どうしても繰り返し批判させてもらいます。2番じゃダメです。卓越した1番の科学技術だからこそ、「資源」に対抗できる価値を持っているんです。

 そのような卓越した科学技術を育成するために、日本政府は、そして日本国民は、いったい何をしているのでしょうか?どんな努力をしているのでしょうか?この点こそが、将来を見通したときの「薄ら寒さ」の原因であるように思えてなりません。

 またまた話は飛びます。みなさん「米百俵」の話は知っていますよね。小泉元総理が所信表明演説で取り上げたことで、一躍有名になったお話です。復習のため、一応あらすじを述べておきます。

――幕末から明治維新の頃、北越戦争に敗れた越後長岡藩は、貧窮の極みにありました。その長岡藩に、支藩である三根山藩から百俵の救援米が届きます。決して多いとは言えないが、とりあえず窮地をしのげるこの救援米。どのように分け与えるのか、大参事・小林虎三郎の采配に注目が集まります。ところが小林虎三郎、救援米を分配することはせず、すべて売り払い、そのお金で学校を造ると言います。いきり立つ藩士たち。それに対し小林は、次のように諭します。「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」――

 ちなみに小林虎三郎は、「佐久間象山門下の二虎」のひとりと呼ばれた俊英。「二虎」のもうひとり(ひとトラ?)は、かの松陰吉田寅次郎です。

 さて、この米百俵のお話にひきかえ、わが国の現状はどうでしょうか?学校を造るどころか、「米を一人に一粒ずつ分け与える」ような愚策を犯しているのではありませんか?政府ばかりを責めることはできません。「科学技術なんて後まわしでいい。俺たちはいま腹が減っているんだ。その米を寄こせ!」と、がなり立てているのはいったい誰でしょう?いきり立つ長岡藩士を笑えますか?空腹に耐えながら、それでも「小林の言うとおりだ」と叫ぶことのできる人は、果たしてどれだけいるのでしょう?

 最低限、子ども手当はやめて、高速道路の無料化もやめて、そのお金を科学技術の発展に注ぐことを考えてみたら?

 ノーベル賞からとんだ脱線。思うところを記してみました。

武富士の相談はお早めに

2010-10-07 12:56:34 | 仕事のこと
〈新装版〉 欲望産業 小説・巨大消費者金融 上 (徳間文庫)
高杉 良
徳間書店


 会社更生法を申請した消費者金融(サラ金)大手・武富士についての続報です。

 過払い金債権については、今後、裁判所が定める債権届出期間内に、更生債権として届出をしなければなりません。この届出を怠ると権利行使できなくなる可能性もありますので、ご注意下さい。

 すでに訴訟をしている方、判決を受けたが支払いを受けていない方、和解をしたが未入金の方であっても、同様に債権届出の必要があります。

 マスコミ等の報道によって債権の届出をうながすことはするそうですが、顧客に対して個別に案内はしないとのこと。すべて自主的に債権届出しなければなりません。

 ご不明な点は、どうぞお早めにご相談ください。相談は無料ですので、お気軽にどうぞ。

   司法書士 おかずみ事務所(担当:おかずみ)
   電 話 027-362-1500
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