Left to Write

司法書士 岡住貞宏の雑記帳

「龍馬伝」の評価

2010-11-23 11:15:50 | 考えたこと
龍馬伝 (NHKシリーズ NHK大河ドラマ歴史ハンドブック)
クリエーター情報なし
日本放送出版協会


 歴史をふりかえって見るとき、さまざまな要素や人物が、複雑かつ玄妙にからみあっています。偶然に起こった小さな出来事が、その後の流れを180度変えてしまったりします。一方で、ほとんど「神の意志」ではないかと思えるほどの歴史的必然が、大きな潮流を生み出すこともあります。

 歴史の楽しさ、醍醐味は、このような諸要素やら偶然やら必然やらを、くっつけてみたり離してみたり、空想したり確かめたり、いろいろに検討してみることにあると言えるでしょう。

 さて、このような検討作業が大好きな「歴史好き」の観点からした場合に、まもなく最終回を迎える今年の大河ドラマ「龍馬伝」に対しては、どのような評価が下されるでしょうか?

 「好きか、嫌いか」は、もっぱら主観的態様にかかわることでありますから、誰にも遠慮会釈は要りません。その意味で胸を張って断言しますが、私は「歴史好き」であります。そして「歴史好きの岡住」が評価するに、「龍馬伝」は、誠に失礼ながらほとんど0点。どんなに甘い点数を与えたとしても、合格点は差し上げられませんなぁ

 主人公ですから、坂本龍馬のことをすこぶる「良い人」に描くのは当たり前で、この点に異論はありません。だけど、どうにも「贔屓の引き倒し」の気味。何でもかんでも「龍馬サイコー!」の一色に染め上げられてしまっては興ざめです。ほぼ現代的感覚で言うところの平和主義者・平等主義者として龍馬を描いていますが・・・当時そんなヤツおらんて。それに平和的なイメージに固執するあまり、かえって龍馬のスケールが小さく見えてしまいました。対照的に、ほんの少しでも龍馬に敵対する立場にある人物は、ほとんど悪鬼のような描かれ方でウンザリ。西郷隆盛・大久保利通・桂小五郎など、「血に飢えた狂気の戦争主義者」のごとき扱いでした。武市半平太などもかなり扱いが悪かったですね。

 例えば、大政奉還。幕府には幕府の思惑があり、土佐には土佐の、武力討幕を目指す薩長にも、他の諸藩にも、いろいろな思惑や展望があったはずです。また、大政奉還は突然ふってわいた出来事ではなく、それに至るまでの過程には大変な厚みがあります。さらに、大政奉還それ自体が驚天動地の事件ではありますが、その影響がどれほどのものか、今後どのように波及していくのかは、この時点では測りがたいものがあります。ところが、「龍馬伝」ではそんな歴史的視点はいっさいお構いなし。平和を愛する龍馬の一念は岩をも通し、なんだかよく分からないけど突如として徳川慶喜は大政奉還を決意、血に飢えたる薩長は「戦争ができねぇ」と歯ぎしりして龍馬を恨み、深謀遠慮みずから大政奉還を決意したはずの慶喜公も、「坂本龍馬っちゅうヤツが悪いんでっせ」と進言されて「龍馬め~」と筋違いの逆恨み――こんな物語でホントにいいんかい!龍馬も「これで平和がやって来たぜよ」みたいに喜んでますが、それでいいんかい!この後、戊辰戦争が起きますぜ。この時期、大なり小なり、薩長と幕府との武力衝突の危険性は続いていたんじゃないか?でもそんなの、龍馬が死んだ後のことだから関係ないんかい!

 毎話、龍馬カベにぶつかる→苦悩する→仲間と共に頑張る→カベを乗り越え仲間と喜び合う、というようなチープなストーリーで、かつ「善玉」と「悪玉」の単純な二項対立。なんだか「ごくせん」でも観ているような気分でした。

 これは監督が悪いのか、脚本が悪いのか。いずれにせよ監督も脚本家も、あまり歴史が好きじゃないんでしょうな。少なくとも、「歴史の楽しさ」を重視してはいないんでしょう。映像は美しく、描写は達者、恋心も友情も豊かに表現されている――こういう評価はあり得るのかも知れませんが、そのような作品をめざすなら、なにも大河でやらなくてもいいんじゃない?大河はストーリーや時代背景に絶対的な制約のある分、表現上マイナスなんじゃないかな?

 もうとにかく、大河は歴史を好きな人が制作してくれーお願いしますよNHK。前作の「天地人」は良かったですよ。

 ちなみに、私がいままででに一番好きだった大河ドラマは「花神」。司馬遼太郎さんの原作で、1977年、私が小学校4年生のときの放送でした。主人公は一応、大村益次郎ですが、明治維新に向かう時代の青春群像を描いた、という趣の作品です。主人公だけに過剰なスポットライトを当てず、同時並行的にさまざまな人物をクローズアップすることで、幕末特有の重層的な歴史構図を見事に映し出していました。特に篠田三郎さん扮する吉田寅次郎(松陰)が秀逸。春風のような爽やかさと新雪のような純粋さと火焔のような激しさが混然として、「本物の松陰もこんな人だったのではないか」と思わせる素晴らしい演技でした。

NHK大河ドラマ総集編 花神 [DVD]
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NHKエンタープライズ



貸金業の規制とヤミ金の増加?

2010-11-19 18:08:18 | 世の中のこと
ヤミ金融の手口 (宝島社文庫)
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宝島社


 本日、日本貸金業協会(東京都港区)が、「貸金業法の完全施行後の影響等に関するアンケート調査」の結果を発表しました。

 このアンケートによると、「現在ヤミ金から借入がある」と回答した人は約2%、「過去にヤミ金から借入したことがある」と回答した人は5%という結果が出ています。さらに、「今後ヤミ金から借入する可能性がある」と回答した人は、20%もいるとのことです。

 貸金業の規制を厳しくすると、ヤミ金に流れる人が増加し、問題がより大きくなる――というのが、貸金業者サイドのかねてからの主張。日本貸金業協会は、「それ見たことか!」と言わんばかりなんでしょうかねぇ。無論、ストレートにそんなコメントは出ていませんが、マスコミ報道ではそのような雰囲気が漂っています。

 このアンケート結果は、確かにセンセーショナルではありますが・・・ちょっと待って。少し冷静に眺めてみましょう。

 問題とすべきは、「貸金業の規制を厳しくすること」と「ヤミ金に流れる人の増加」との間の、相関関係・因果関係の有無です。もともと(貸金業の規制強化前から)、ヤミ金被害は存在していました。それが増えているのか、減っているのかです。

 こういう肝心の情報を、貸金業協会は流していませんので、別のソースから。11月6日付の東京新聞は、次のように伝えています。まず、司法書士や被害者で作る「全国ヤミ金対策会議」は、貸金業の規制強化後も「ヤミ金についての相談は横ばいの状態」と報告。東京三弁護士会が設置する法律相談センターでも、ヤミ金関係の相談は増えていないと言います。また、名古屋消費生活センターも、ヤミ金に関する相談が「増えている印象はありません」とのことです。

 私の事務所の印象も、やっぱり同じですね。改正貸金業法の完全施行後、「業者がこれ以上貸してくれなくなっちゃったので」という人の、債務整理の相談は若干増えていますが、「ヤミ金に手を出してしまいました」という相談は、まったく増えていません。群馬司法書士会の相談センターでも、このところヤミ金相談が増えているという傾向は特にありません。

 そもそも皆さん、ヤミ金被害が一番激しかったのはいつのことかご存知ですか?平成14年前後のことです。この時期のヤミ金被害件数は、現在とはまったく比較にならないほど多く、「爆発的」ともいうべき勢いで被害が生じていました。さて、その平成14年頃、貸金業に対する大きな規制強化はあったのでしょうか?何もありゃしません。むしろ、サラ金業者が「わが世の春」を謳歌していた頃であり、言い換えれば、サラ金業者がバンバン貸していた頃なのです。

 このような事情から考えると、貸金業の規制とヤミ金の増加との間に、大きな相関関係や因果関係はない、というのが正解のようです。それはなぜか?実は、はっきりした理由があって、「ヤミ金の本質は金融でなく、恐喝だ」ということに尽きます。ただ、この点は語り出すと長くなるので、また別の機会に。

 ともあれ、「貸金業の規制を厳しくすると、ヤミ金に流れる人が増加し、問題がより大きくなる」という貸金業者サイドの主張――これには続きがあり、「だから貸金業の規制を緩和し、高金利を合法化しろ」ということなのですが――は、やっぱちょっと無理があるんじゃないかな。

 むしろヤミ金という「犯罪者」の存在をもテコにして、業界利益の拡大を図ろうとしているように聞こえます。何ともイヤらしい感じです

単純な脳、複雑な「私」

2010-11-17 23:00:53 | 本の紹介
単純な脳、複雑な「私」
池谷裕二
朝日出版社


 数少ない単純なルールに従って、同じプロセスを何度も何度も繰り返すことで、本来は想定していなかったような新しい性質を獲得する(本書339ページ)――このような過程を「創発」というのだそうです。

 一見、複雑にみえる私たちの心は、脳内の「創発」のはたらきによって生み出されるのではないか?世界中の最新の研究成果をふんだんにおりこみ、Webとのリンクでビジュアルに解説する抜群に面白い本です。著者・池谷裕二さんの母校、藤枝東高校の生徒を対象とした講義を書籍化したものなので、実に分かりやすい。

 Web上の動画で「創発」のシミュレーションを見ることができます。鳥肌が立つほどの感動モノです。

 近ごろは「脳ブーム」とも言うべき状況にありますが、そこいらの流行本とは一線を画し、最先端の脳科学者による本格的な内容を持っています。

 実はさる11月13日、長女の通う高校のPTA講演会で池谷さんのお話を聴く機会に恵まれました。その講演の、また面白かったこと!

 すっかり池谷さんのファンになりました。

尖閣ビデオのYouTube公開

2010-11-08 11:56:12 | 世の中のこと
YouTubeはなぜ成功したのか
室田 泰弘
東洋経済新報社


 尖閣諸島の中国漁船衝突事件に関するビデオ映像が、関係者とみられる人の手によってYouTubeで公開される事態となりました。

 このような形でこのような映像を公開することが良いことであるのか悪いことであるのか、その法的・政治的な是非については、いろいろな論者がいろいろな主張を繰り広げていますので、いまさら私が蛇足を加える必要もないでしょう。ただ、個人的な感傷のこととして言うならば、痛快な心地がいたしております。

 それにしてもインターネット時代における「情報」というものの威力を、まざまざと見せつけた事件ではあります。同時に、「悪事千里を走る」というインターネット時代とはうらはらに古風な格言も、また思い起こされたりします。

 この映像を、どうして政府は自ら公開できなかったのでしょうねぇ?外交上の配慮?しかし映像は、客観的事実の問題でしょう。そりゃ主観的な主張については、「モノには言い方」ってものがあるでしょうから、いろいろ配慮も必要なんでしょうが・・・客観的な事実を糊塗してまでしなければならない「配慮」って、いったい何なのでしょう?

 あくまでもマスコミ報道を通じて受ける印象ですが、中国側の態度は、表面上は相変わらず強気のように見えますが、映像公開を機に、明らかに「動揺」や「戸惑い」も感じられるようになりました。これが「事実」の持つ重みなんじゃないでしょうかねぇ?政府もこのことから何事かを学んで欲しいもんです。

マドンナのうしろ髪

2010-11-01 12:02:02 | 本の紹介
小説推理 2010年 12月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
双葉社



 われらが深山亮先生の受賞第一作が、満を持して発表されました!

 今度は高崎の「美人すぎる女性司法書士」が主人公。恋の話も織りまぜながら、ワクワク・ドキドキのストーリー展開はさすがの出来栄えです。

 みなさんもどうぞお読みください!