龍馬伝 (NHKシリーズ NHK大河ドラマ歴史ハンドブック) | |
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歴史をふりかえって見るとき、さまざまな要素や人物が、複雑かつ玄妙にからみあっています。偶然に起こった小さな出来事が、その後の流れを180度変えてしまったりします。一方で、ほとんど「神の意志」ではないかと思えるほどの歴史的必然が、大きな潮流を生み出すこともあります。
歴史の楽しさ、醍醐味は、このような諸要素やら偶然やら必然やらを、くっつけてみたり離してみたり、空想したり確かめたり、いろいろに検討してみることにあると言えるでしょう。
さて、このような検討作業が大好きな「歴史好き」の観点からした場合に、まもなく最終回を迎える今年の大河ドラマ「龍馬伝」に対しては、どのような評価が下されるでしょうか?
「好きか、嫌いか」は、もっぱら主観的態様にかかわることでありますから、誰にも遠慮会釈は要りません。その意味で胸を張って断言しますが、私は「歴史好き」であります。そして「歴史好きの岡住」が評価するに、「龍馬伝」は、誠に失礼ながらほとんど0点。どんなに甘い点数を与えたとしても、合格点は差し上げられませんなぁ
主人公ですから、坂本龍馬のことをすこぶる「良い人」に描くのは当たり前で、この点に異論はありません。だけど、どうにも「贔屓の引き倒し」の気味。何でもかんでも「龍馬サイコー!」の一色に染め上げられてしまっては興ざめです。ほぼ現代的感覚で言うところの平和主義者・平等主義者として龍馬を描いていますが・・・当時そんなヤツおらんて。それに平和的なイメージに固執するあまり、かえって龍馬のスケールが小さく見えてしまいました。対照的に、ほんの少しでも龍馬に敵対する立場にある人物は、ほとんど悪鬼のような描かれ方でウンザリ。西郷隆盛・大久保利通・桂小五郎など、「血に飢えた狂気の戦争主義者」のごとき扱いでした。武市半平太などもかなり扱いが悪かったですね。
例えば、大政奉還。幕府には幕府の思惑があり、土佐には土佐の、武力討幕を目指す薩長にも、他の諸藩にも、いろいろな思惑や展望があったはずです。また、大政奉還は突然ふってわいた出来事ではなく、それに至るまでの過程には大変な厚みがあります。さらに、大政奉還それ自体が驚天動地の事件ではありますが、その影響がどれほどのものか、今後どのように波及していくのかは、この時点では測りがたいものがあります。ところが、「龍馬伝」ではそんな歴史的視点はいっさいお構いなし。平和を愛する龍馬の一念は岩をも通し、なんだかよく分からないけど突如として徳川慶喜は大政奉還を決意、血に飢えたる薩長は「戦争ができねぇ」と歯ぎしりして龍馬を恨み、深謀遠慮みずから大政奉還を決意したはずの慶喜公も、「坂本龍馬っちゅうヤツが悪いんでっせ」と進言されて「龍馬め~」と筋違いの逆恨み――こんな物語でホントにいいんかい!龍馬も「これで平和がやって来たぜよ」みたいに喜んでますが、それでいいんかい!この後、戊辰戦争が起きますぜ。この時期、大なり小なり、薩長と幕府との武力衝突の危険性は続いていたんじゃないか?でもそんなの、龍馬が死んだ後のことだから関係ないんかい!
毎話、龍馬カベにぶつかる→苦悩する→仲間と共に頑張る→カベを乗り越え仲間と喜び合う、というようなチープなストーリーで、かつ「善玉」と「悪玉」の単純な二項対立。なんだか「ごくせん」でも観ているような気分でした。
これは監督が悪いのか、脚本が悪いのか。いずれにせよ監督も脚本家も、あまり歴史が好きじゃないんでしょうな。少なくとも、「歴史の楽しさ」を重視してはいないんでしょう。映像は美しく、描写は達者、恋心も友情も豊かに表現されている――こういう評価はあり得るのかも知れませんが、そのような作品をめざすなら、なにも大河でやらなくてもいいんじゃない?大河はストーリーや時代背景に絶対的な制約のある分、表現上マイナスなんじゃないかな?
もうとにかく、大河は歴史を好きな人が制作してくれーお願いしますよNHK。前作の「天地人」は良かったですよ。
ちなみに、私がいままででに一番好きだった大河ドラマは「花神」。司馬遼太郎さんの原作で、1977年、私が小学校4年生のときの放送でした。主人公は一応、大村益次郎ですが、明治維新に向かう時代の青春群像を描いた、という趣の作品です。主人公だけに過剰なスポットライトを当てず、同時並行的にさまざまな人物をクローズアップすることで、幕末特有の重層的な歴史構図を見事に映し出していました。特に篠田三郎さん扮する吉田寅次郎(松陰)が秀逸。春風のような爽やかさと新雪のような純粋さと火焔のような激しさが混然として、「本物の松陰もこんな人だったのではないか」と思わせる素晴らしい演技でした。
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