ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、「西側諸国の価値観を押し付けることが問題の元凶だ」という言説が見られます。もっとも、ウクライナ問題に限らず、それ以前から、例えば中国の関係者からも同様の主張がなされることがあります。「中国には西側と違った歴史・価値観がある。それを尊重すべきだ」と。
各国の価値観を尊重すべきという、ごく広い一般論としてはそのとおりでありましょう。しかし、それが「自由、人権、民主主義」という価値を蔑ろにするための論理だったら、断固反対です。確かに「自由、人権、民主主義」は西側諸国で生まれ、発展してきました。けれども、それらは既に普遍性を持つ価値です。そのような普遍的価値を「西側のもの」という理由で否定するのは、詭弁というほかはありません。
心配なのは、わが国においても、とりわけ保守層などから「日本には日本の歴史・伝統がある。西側の価値を押し付けるな」という主張が見られること。わが国の歴史・伝統を尊重すべきことはそのとおりだとしても、そのことが「自由、人権、民主主義」を否定する理由にはなりません。場合によっては、わが国の歴史・伝統をいくぶん修正するとしても、「自由、人権、民主主義」を守らなければならないことだってあり得ます。その逆は不可ですよ。
現在、天皇制、家(家族)制度、男女の関係を巡る議論などにおいて、上記の観点から、やや憂慮すべき言説が見られるように思います。