歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

ものづくりとナレッジマネジメント

2006-10-16 23:22:17 | ものづくり・素形材
ナレッジマネジメントが流行っていますね。ナレッジの共有が企業にとって重要なのだそうです。何も横文字にすることはないと思います。知識共有という表現でいいじゃないですか。
この知識共有は、昔から日本の製造業が得意としてきたことです。たとえば、欧米ではマネジメント職のエリートはめったに現場に足を運びません。エンジニアもオフィスでふんぞりかえって指示を出すのが仕事と考えているのが多いと聞きます。これに対して、日本の製造業は、一流大学卒の幹部候補生も、まずは製造現場で一作業員として働くのが普通です。そして、マネジメント職やエンジニアになってからも頻繁に現場に足を運ぶものです。この現場主義に基づくマネジメント層やエンジニアと現場との知識共有こそ、日本の製造業の強みと言えるでしょう。
製造現場でも知識共有は盛んであることは言うまでもありません。現場の誰かが見いだした改善方法は、QCサークルのような組織的な活動がなくとも、自然に仲間同士で共有されるのが普通です。しかし、外国、特にアジアでは、この従業員同士の知識共有がうまくいかないことをよく聞きます。誰か1人に生産性を上げる方法を指導しても、周りの同僚には広まらないのだそうです。調べてみると、技術指導を受けた従業員は、せっかく相対的に高い評価を受けるようになったのだから、覚えたノウハウは同僚に教えたくない、というのです。個人主義の弊害ですね。

むしろ製造業での課題は、過去のノウハウをいかに効率よく現在で使いこなすか、すなわち過去と現在の知識共有にあるように思います。
この好事例が、名古屋市に本社を置く金属プレスメーカーの高木製作所です。同社は自動車用のホースクランプ、ブラケット等、小物部品の少量品生産を得意とするトップメーカーです。
ここでは簡単な説明のみにとどめますが、同社の強みの1つが世界最速の生産準備対応です。これを可能にしているのが、独自の類似形状データベースと検索ソフトです。同社は製品を設計するに際して、まずは過去の類似形状データベースを検索、ヒットした類似形状の金型図面、生産準備、形状特性などの情報をもとに加工レイアウトを設計、そして金型を設計していきます。過去の類似形状データには、当時の失敗情報もpdf形式で添付されているので、どんなことに留意すればいいのかも一目瞭然です。ちなみにデータベースには6,500点の形状データが蓄積されており、データ量は年間1,000点以上増加しているそうです。
そして金型設計の間に併せてCAMのデータも作ってしまうので、マシニングセンタでの型彫りも一気通貫に行ってしまいます。さらに金型設計の際に調達が必要な金型部品台帳が自動作成され、インターネットを通じて自動的に部品商社にデータが送信され、自動購買できる仕組みになっているというから驚きです。
同社はこのシステムの導入により、金型製作に要する時間を飛躍的に短縮化してしまったのですが、やはり過去の設計データベースの活用が最も効果を発揮しています。ただし、今まで経験したこともない形状の製品の受注も3割程度あり、その場合は過去の類似形状DBが使えないため、熟練工が今までのように1から制作せざるを得ないとのことです。しかし、7割の製品は上記の方法で極めて効率的に金型を設計、製作できてしまうので、トータルでの効果は非常に大きいと言えるでしょう。

試作品のような製品を除くと、たいていの製品は過去のノウハウを繰り返し使えることが多いものです。一昔前でしたら、従業員が先輩からいちいち教えてもらいながらこなしていた作業を、高木製作所のように、過去の製法データベースから必要な情報を引き出し、製品設計や工程設計を簡単に行えるようになれば、生産性は飛躍的に向上します。もちろん、新製品の中には過去のノウハウが通用しないものもありますから、そうした製品の設計等は熟練者の出番になります。彼らは熟練技能が必要な作業だけに専念すればよいわけですから、企業としては熟練者の確保に悩むことがなくなり、コストダウンの効果も期待できます。
熟練者以外の従業員は、単にデータベースを検索するオペレーターになってしまう、という懸念があるかもしれません。しかし、生産性が高まることによって、過去の蓄積のみに頼らないための、従業員の創造性を養う訓練に充てる余裕も生まれてくるのではないでしょうか。
高木製作所のようなすごいメーカーに出会うと、日本の将来が明るく見えるようで、本当に嬉しくなります。