歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

(書評)梅田望夫「ウェブ進化論」

2006-10-02 05:45:31 | 読書
ベストセラーになった本ですし、多くの識者が書評を書いておられるので、今ごろ敢えて私のような素人が書くまでもないかもしれません。「こちら側」と「あちら側」という表現で、web2.0の持つインパクトをわかりやすく説明する筆力は実に見事です。製造業、それも素形材という典型的なリアル世界の産業に関与している私でも、読後に受けた衝撃は大きいものでした。
個人的には、「第4章 ブログと総表現社会」の中の以下のくだりが特に印象深いです。

(以下引用)
私の学生時代の夢は、学問の研究をずっと続けて大学に残ることだった。(中略)凄いことに私は今、ネット上に「バーチャル研究室」とも言うべきエンタイティ(存在)を持ち、本業のビジネスを営む傍ら、極めて充実した知的生活を送るに至っている。(中略)「バーチャル研究室」ができるに至ったのは、3年前にブログに出会い、始めてみようと思ったことがきっかけだった。さて毎日何を発信しようかとずいぶん考えて、日々の勉強のプロセスを公開することにした。(中略)そして、私が何か新しいアイデアを仮設として提示すれば、読者からの真剣なフィードバックが、私の視点をどんどん押しひろげてくれる「正のループ」が生まれるようになった
。そして2005年に入り、ブログに続くイノベーションの1つとして、ソーシャル・ブックマークというサービスが普及し始めた。(中略)ブログで文章を書くよりもカジュアルに勉強のプロセスを公開できるわけで、教授や助教授が「この論文面白いから、読んでごらん。」と研究室で学生に教えるのと全く同じような感覚を、ネット上で実現できている。
(引用終わり)
梅田望夫「ウェブ進化論」pp167-171

引用が長くなりましたが、これにはシビレました。シンクタンクの研究員として勤めておられる方で、梅田さんのように大学の教員となる方を目指していた、もしくは現在目指している方は少なくないのではないでしょうか。私もそんな研究員の1人でした。
しかし、私は学部卒で、修士号や博士号を持っていません。これは大学教員として採用されるには大きなネックです。かといって、時間とお金をやりくりして大学院に通う、というパワーはありません。
しかも、大学教員となった友人から話を聞くと、どうも最近の大学教員は知的とはいえない仕事が多いようなのです。たとえば、多くの私立大学では、少子化のこのご時勢ですから、いかに高い水準の研究を行うかよりも、学生確保のために高校に出向いて学校説明を行う、といった一種の営業活動が大学教員の重要な仕事であると聞きます。そもそも、大学が経営破たんする時代ですから、安定した再就職先とはなりえなくなっており、扶養家族を持つ私としては経済的にも大学教員になるという選択肢には躊躇せざるをえません。もちろん、一流大学と呼ばれる大学であれば、経営破たんということは多分ないでしょうけれど。

以上の理由から、私は大学教員になれないかな、というひそかな思いは捨てよう、と考えていました。それだけに、この梅田さんの言葉には感動しました。「よし、自分もブログで情報発信して様々な識者と情報交換して、知的生活を送ろう。膨大な情報の洪水の中に投じられた小石かもしれないが、web2.0のこの時代、検索エンジンを通じて誰かの目にきっと止まるだろう。」と。
しかしながら、ブログのアクセス状況を眺めるたびにがっくりとなるのが現実です。まあ、ブログを始めてからまだ1カ月も経っていませんから、もうしばらく努力してみることにします。

梅田望夫「ウェブ進化論」ちくま新書