歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

中国の知的基盤の行方

2006-10-04 21:02:51 | 海外ものづくり事情
中国への出張目的でもっとも多いのは、現地の素形材メーカーでのヒアリングです。また、理工系大学や国家の研究所を訪問して、かの国の最先端の研究開発事情を取材することも結構ありました。機械関係は少なく、光デバイス関係が中心で、北京、上海、湖北、四川の大学、研究所を訪ねました。

中国では日本以上に産学連携が進んでいる、とは聞いていましたが、実態は予想を超えており、企業との共同事業なしに大学の研究室は存続できないような状況です。もともと中国の大学はほとんどが国立大学で、学費も安く、運営経費は国家から支出されていたのですが、今世紀に入ってから中国政府は大学への助成を大幅に削減する代わりに、経費を自前で賄うよう促したのです。このため中国の先生方は民間企業からの研究受託の受注にとても熱心です。民間企業の技術顧問として、さらには自ら起業した会社の経営者として、ビジネスマンと大学教授を兼業している先生も少なくありません。
こうした中国の産学連携事情については、産学連携が遅々として進まない我が国では肯定的にとらえる意見が多いようです。確かに大学の研究成果が実社会のニーズにダイレクトに結びつくことは結構なことです。「世界の工場」と呼ばれるようになったとはいえ、付加価値の高い基幹部品やソフトを外国に押さえられている中国としては、こうした状況を早く挽回するためにも、中国政府としては産学連携に期待しなければならないという背景もあるかと思います。
しかし、何事も極端なお国柄なので、ちょっと行き過ぎかなという印象もあります。理工系の名門、上海交通大学(江沢民元主席の母校です)の機械工学のある先生から実際に聞いたのですが、あまりにビジネスに偏りすぎ、基礎研究の水準が下がることも懸念されています。日本に長く留学して日本語にも堪能な彼は、大学教授が外資系企業などとの合作で研究資金を稼ぐことに忙しく、基礎研究にじっくり取り組むことが出来ない、日本の大学の先生がうらやましい、と嘆いていました。

理工系がこんな状況ですから、文系はどんなだろう、と他人事ながら心配してしまいます。孔子や孟子といった偉大な思想家を生んだ中国ですが、商売に忙しく静かに思索する時間もない現代中国からは、そんな人物が登場することは期待できないのかもしれません。