歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

美術館で開催されたスイス・ヴィンタートゥール市の投資誘致説明会

2010-08-28 23:38:36 | 海外ものづくり事情
 スイスにヴィンタートゥールという町があります。チューリッヒから車で約15分、人口は10万人ほどの小さな町ですが、大型ディーゼルエンジン、医療、環境、包装、印刷、情報技術などで世界トップレベルの技術を持つ企業が集積しているスイス有数の工業都市です。例えば、現在世界に3社しかない船舶用大型ディーゼルエンジンのライセンサーの1つ、フィンランドのバルチラ(Wärtsilä)のスイス法人がヴィンタートゥールにあります。このバルチラ・スイスは、元はといえば19世紀にドイツのディーゼル社と合弁でヴィンタートゥールに設立されたスルツァー(SULZER)のディーゼルエンジン開発製造部門なのです。海に面していないスイスで船舶用大型ディーゼルエンジンの開発が行われ、そこで設計された図面をもとに世界中の重工メーカーで生産されているとは、なかなか興味深いものがあります。
 またその一方で、ヴィンタートゥールは世界有数の美術コレクションでも有名な町でもあります。日本では産業と芸術の関係性はあまりピンと来ないのですが、ヴィンタートゥールで財を成した企業家たちは積極的に美術品を収集し、地元のヴィンタートゥール美術館に寄贈していった結果、この美術館はゴッホ、モネ、ルノワール、ピカソ、ルソー、クレー、ジャコメッティなど世界的なコレクションで知られる欧州でも有数の美術館となったのです。

 さて、ヴィンタートゥール美術館が誇るコレクションが2010年8月7日(土)~10月11日(月・祝)に東京の世田谷美術館にて「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」として公開されています。同美術館のコレクションが海外で展示されるのは史上初めてなのだそうです。私は一昨日にこの世田谷美術館に行ってきたのですが、芸術鑑賞のためではなく、ここで開催されたヴィンタートゥールの投資誘致説明会への出席が目的です。




 公共交通機関での交通アクセスが不便な美術館です。千歳船橋、田園調布、用賀からバスを使わざるを得ないのですが、炎天下でバスを待つのは正直しんどかったです。


 説明会にはスイス大使も挨拶に来ていました。
 私はこれまで仕事上の情報収集のためアジア諸国の投資誘致説明会に何度か足を運んだことがありますが、今回はそれらとは趣が大きく異なりました。そもそも美術館で投資誘致説明会というビジネスのミーティングを行うこと自体、日本ではあまり聞きません。また投資誘致局の同一の担当者が、ビジネス拠点としていかに有利かという話だけでなく芸術品のコレクションについての話も誇らしげに説明するというのも、アジア諸国の投資説明会では経験がありません。
 産業だけでなく美術品のコレクションでも有名な町であるからこそ、こういった投資誘致説明会が実現したんじゃないの、と言えばそれまでですが、芸術というコンテンツ力をビジネスに生かし、コストメリットや市場規模を強調する新興国とのレベルの違いを示そうとするスイスの戦略を見たような気がします。確かにお話を聞いてみると、スイスは日本が欧州でFTAを締結している唯一の国ですし、技術インフラや生活インフラにも優れており、欧州各国とのアクセスも良好なので、高付加価値製品で欧州市場を開拓しようとする企業にとっては進出先として十分検討の余地があると思いました。


 説明会の後は、「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」の鑑賞、そしてカクテルパーティー(たぶんスイスのワインとチーズを供されたのでしょうね)がプログラムに用意されていたのですが、残念ながら仕事の関係でこれらはパスせざるを得ませんでした。お土産としてスイス大使館よりマウスパッド、ボールペン、ストラップ、そしてスイスチョコレートを頂いたので有効に活用することにします(チョコレートはその日のうちに食べてしまいました)

NHKスペシャル「灼熱アジア 第1回 タイ “脱日入亜”日本企業の試練」を見て

2010-08-24 01:03:53 | 海外ものづくり事情
 昨夜、NHKスペシャル「灼熱アジア 第1回 タイ “脱日入亜”日本企業の試練」を見ました。国内の政治的混乱にも関わらず中国、インドなどとのFTAを武器に輸出が絶好調であるという話は勉強になりましたし、取材先の日系金型部品メーカーが急ぎの仕事で焦っている最中に落雷による停電が起こり、マシニングにかけていた部品がすべてオシャカになってしまった模様は、南国での操業のリスクを実感させてくれるものでした。
 ただし、「もはやタイにおいて技術立国(モノ作り大国)日本の圧倒的な優位性は崩れてきている」という番組のメッセージには、タイの素形材業界を見て回ったことのある私にはちょっと納得がいきませんでした。確かにタイはASEANの中でも比較的厚みのある機械工業の集積が形成されている国ですが、その裾野は日本と比較すると実に狭いものです。また、番組で紹介された自動車部品のサミットグループのように世界でも通用するローカルメーカーも現れてはいますが、そもそもこのサミットグループは日本と関係の深い会社です(こちら)。タイの機械工業の技術レベルを牽引しているのは今でも間違いなく日系企業ですし、そこそこ優れた技術を持つローカルメーカーでは必ずといっていいほど日本人技術者が指導しているのは常識です。また、タイでは国境を越えたビジネスチャンスが広がる一方、コスト競争が厳しさを増しているのは事実ですが、日系企業の競争相手はローカルメーカーではなく同じ日系企業というパターンがほとんどではないでしょうか。
 タイ・サミットによるオギハラ(日本を代表する金型メーカー)の買収劇は確かに驚きでした。しかし、日系企業にとってのタイの戦略的重要性を高める上では、将来のパートナーとしてのタイのローカルメーカーの技術力の底上げに日本側がまだまだ協力していく必要があるように私は思います。

ブラジルの「暴れる洗濯機」

2010-07-21 01:59:11 | 海外ものづくり事情
 ブラジルという国は、かつては外国産の工業製品に極端に高い関税を課して事実上輸入から締め出し、自国の工業を保護して育成するという輸入代替政策を取っていました。ブラジルが自国の航空機産業(エンブラエル社)を持ち、年間300万台近い自動車を生産する南米随一の工業国になったのは、この輸入代替政策のおかげとも言えます。しかし、何しろ外国製品との競争にさらされないために概して品質は世界水準に比べると低く、たいていの工業製品はとても輸出できるような代物ではありませんでした。
 90年代前半以降、ブラジルは自国市場を積極的に外資に開放することで80年代の経済の混乱と停滞から脱し、製造業も外資を導入することで輸出競争力を付けるようになった、と聞いたのですが、どうも依然としてブラジル製の工業製品の品質には難があるようです。特にブラジル製の白物家電には、現地にいらっしゃる日本人女性たちのブログを拝見したところ彼女たちはかなり苦労していることがうかがえます。

(以下引用)
そしてこれがうちの洗濯機。ちなみに2台目です。
一台目は洗濯層に穴が開いてるとかでお陀仏に。
修理できるのできないので2週間ぐらいかかり
その間手洗いを強いられるということに!あれは辛かった。
お友達にも結構洗濯機のトラブル聞きます。
ブラジルの洗濯機は古くなってガタがくると歩き出すって(苦笑)
轟音を轟かせながら移動を始めます(コワ!!!)
かなりの暴れん坊っぷりらしいよ。
やっぱり洗濯機だって日本のが最先端だと思うなぁ。
(引用終わり)

出所:http://feliz2005.exblog.jp/5069568/

 YouTubeで"Lavadora"(ポルトガル語で「洗濯機」)と入力して検索すると、いろいろな洗濯機の動作の模様を撮影した動画を見ることができます。なんでこんなにたくさん洗濯機の動画が投稿されているの?という疑問も沸きましたが、日本ではちょっとお目にかかれない挙動を示す洗濯機の動画が興味を引きました。



 どうやらまだ新品の洗濯機のようですが、脱水のときにたてる音と振動が半端ではありません。脱水後には洗濯機の位置が動いてますし・・・30年以上も前、私が子どもの頃に家で使っていた洗濯機も脱水のときに大きな音を立てて振動したものですが、さすがにここまでひどくはなかったと思います。問題はモーターなのかベアリングなのかはわかりませんが、とにかく日本の家電メーカーが現地で日本水準の洗濯機を作ればきっと売れるだろうな、と思いました。
 ちなみにこの動画に写っている洗濯機はBrastempというブラジルを代表する家電メーカーの製品です。Brastempはアメリカに本社を置く世界的な家電メーカーのWhirlpoolに買収された会社なので、技術も同社から導入していると思ったのですが、この様子だと技術移転は十分には行われていないようですね。

(以下蛇足)
 Whirlpoolについて調べてみようと思い、Googleで「Whirlpool」と入力して検索したら、トップに表示されるhttp://www.whirlpool.co.jp/が家電とは全く関係ない会社(秋葉原と関係が深いという意味では関係がなくもないか)のホームページなので笑ってしまいました。アメリカのWhirlpoolは抗議しないんですかね。

ブラジル・ベロオリゾンテの銑鉄工場

2010-06-10 00:20:18 | 海外ものづくり事情
 日頃の行いがよいのかどうかはわかりませんが、運良く再びブラジル出張付きのお仕事をいただくことができました。今年の夏、1週間程度の日程でサンパウロと南部のサンタカタリーナ州、リオグランデドスル州を訪れる予定で、私にとって2004年、2006年と今回で3度目のブラジル出張になります。ブラジルのものづくりの現場についてはこれまで何回かこのブログで紹介しましたが、これからも情報があまり得られないこの国の魅力などを紹介できればと思います。

 そういえば2004年の初めてのブラジル出張のことをまだこのブログで書いてなかったので、紹介しておこうと思います。初のブラジル出張は、鋳物用銑鉄の生産と販売の状況について調べるという、かなりマニアックな調査を目的としたもので、サンパウロとミナスジェライス州のベロオリゾンテという町を訪れました。
 ミナスジェライス州は鉄鉱石を豊富に産出する地方であり、新日鉄の技術協力で建設されたウジミナス製鉄所をはじめ鉄鋼産業が集積しています。ブラジルの鉄鋼産業で特徴的なのは、鉄鉱石の還元をコークスではなく木炭を用いている企業が多いことです。ブラジルは豊富な鉄鉱石に恵まれている国ですが、石炭は低品質なものが少量しか採れません。一方、森林資源は豊富ですし、熱帯多雨の気候の地方ではユーカリなどを植えればすぐに成長します。このため、木炭はブラジルの中小鉄鋼メーカーに重宝されているのです。

 こちらはベロオリゾンテ郊外の森の中にある銑鉄工場です。


 工場の前景です。


 回転する型に溶解した銑鉄が流し込まれていきます。


 横から見たところ。


 ちょっと上から見たところ。


 出来上がった銑鉄のインゴットです。


 最後に銑鉄工場の皆さんと一緒に記念撮影。とてもフレンドリーな人達でした。相手がポルトガル語がわからない外国人だろうとお構いなしに、とにかく人を楽しませようとするブラジル人たちのホスピタリティは世界に冠たるものがあります。初めてのブラジル訪問で私が実感したのは、ブラジルの最大の魅力はブラジル人だ、ということです。

鴻海の自殺問題で浮き彫りになった中国の若い労働者たちの気質の変化

2010-05-29 23:04:00 | 海外ものづくり事情
 低賃金の労働者を長時間にわたって過酷な環境で働かせる工場のことを、英語で「sweatshop(スウェットショップ)」といいます。日本語には建設労働者を搾取する「タコ部屋」という言葉がありますが、イメージとしてはこの「タコ部屋」の製造業版です。アメリカは「スウェットショップ」について敏感であり、かつてナイキが東南アジアのスウェットショップに外注していたことがわかり問題になったことがあります。現在では、メーカーにとって製品の外注先における労働環境は十分注意すべきチェック項目であるといえます。
 さて、広東省にある鴻海(Foxconn、中国では「富士康」)龍華工場で若い従業員たちの自殺が相次いでいます。従業員30万人という巨大なこの工場は、アップルのiPhone、任天堂のWii、ソニーのPSPなど、様々な有名ブランドのIT機器の生産を請け負っているのですが、今年に入ってから半年間で10人以上もの自殺者を出しています。こんなに多くの自殺者を出す工場に生産を委託している、となると「スウェットショップ」への発注が疑われかねないことから、アップルなどは龍華工場に調査に入っているようです(こちら)。

 確かに鴻海の工場は軍隊的な管理で有名であって労働者にとっては厳しい職場ですが、中国のローカル系資本の工場に比べれば労働環境は整備されており、決して「スウェットショップ」ではないと思います。鴻海での自殺者の多発の背景には、厳しい労働管理もありますが、それ以上に出稼ぎ労働者たちの意識がこの10年間ほどで大きく変わったことがあるようです。かつて農村からやってくる出稼ぎ労働者たちは1元でも多くの現金を稼ぐため、過酷な長時間労働を厭わなかったものですが、甘やかされて育った現代の若い出稼ぎ労働者たちはひ弱な半面、高望みする傾向があり、理想と現実の落差が絶望を生んでいるのではないかという指摘が見られます(こちら)。
 また、鴻海の自殺問題についての中国中央電視台(CCTV)の特集番組の動画を見てみましたが(投稿者によって英語字幕が付けられています)、自殺した労働者にはプロの歌手を目指していた青年やモデルになることを夢見ていた女性もいたそうです。


 そのような個人的な夢を抱いて出稼ぎに訪れること自体、かつての「とにかく稼いで故郷の家族を豊かにさせたい」という思いを抱く中国の出稼ぎ労働者のイメージからは大きくかけ離れているように思います。中国の若い労働者たちの気質が大きく変化していることは、中国を単なる「安価な大量生産の場所」と捉えている企業に対して考え方の転換を迫るのではないでしょうか。

鴻海(Foxconn)のチェコ工場訪問の思い出

2010-05-28 08:02:21 | 海外ものづくり事情
 もう5年以上も前になりますが、鴻海(Foxconn)のチェコ現地法人を訪れたことがあります。当時すでに世界最大規模を誇るEMSであった同社に対しては閉鎖的なイメージを抱いていたのですが、ここは非常にオープンな雰囲気で、台湾人のマネージャーに暖かく迎え入れてもらい、社員食堂で中華料理のランチまでご馳走になりました(美味しかったです)。




 この工場はチェコ中部のPardubiceという町にあり、チェコの国営総合電機メーカーTESLAの軍需向け電子部品工場を買収(2000年)するという形での進出です。従業員数は3,500人と、従業員規模では同社の中国拠点とは比べるべくもありません。しかし、売上高は15億ドル、うち14億ドルをヨーロッパ、北アフリカ全域計40ヶ国に輸出する、同社の欧州・北アフリカ向けの一大生産拠点として位置付けられているほか(2004年当時)、チェコにおいて国産自動車メーカーのシュコダに次ぐ第二の輸出業者の地位を占めるまでに成長しています(これも2004年当時の話)。

 残念ながら工場の中の写真撮影は禁止でしたが、印象に残ったことが2つあります。

 まず一つ目が、この工場ではデスクトップPC、ルータ、携帯電話を生産しているのですが、プレス機械と成形機も入れてプレス部品、成形部品の製造も行っていることです。なんとなくEMSといえば中国、東南アジアから部品を運んできて組み立てるところ、と当時考えていた私にとって、プレス機械と成形機がずらりと並ぶ生産ラインは意外なものに見えました。後に、同社の中国工場では金型が大量生産され、筺体の材料であるマグネシウム合金まで自社で生産してしまうという話を聞いてたまげてしまうわけですが。

 もう一つが、日系メーカーではあまり目にしない性悪説に基づく従業員管理です。まるでプロレスラーのような屈強な警備員が建屋の入口で睨みを利かせており(マジで怖かったです)、出入りする従業員のボディーチェックを行っているのですが、台湾人のマネージャー氏に理由を聞くと従業員によるCPUなど高価な部品の盗難を防ぐためであるということでした。従業員による資材や工具の盗難が多いために注意が必要だという話は中国やベトナムなどでよく聞かされましたが、チェコのような工業国でもこんなことをやるのか、と驚きました。しかし、鴻海はチェコですらこういった従業員の管理を行っているということから、中国やベトナムでは相当に厳しい管理を行って従業員にプレッシャーを与えていることが想像されます。

 現在、鴻海の中国工場で従業員の自殺が相次いでいることが大きな問題になっています。同社の行き過ぎた従業員の管理が要因ではないかという報道を見て、ふとチェコ工場で見た光景を思い出した次第です。

アメリカの州別に素形材の出荷額を調べてみた

2010-04-05 00:12:40 | 海外ものづくり事情
 我が国の工業統計調査に相当する、U.S. CENSUS BUREAU, Annual Survey of Manufacturesでアメリカの州別に素形材の生産状況を調べてみました。かなり細かく産業が分類されているのですが、州別の統計(Geographic Area Statistics)では、4桁の分類でしかデータが取れません。
 素形材はどれだろうと調べてみると、Foundries(3315)、Forging & stamping(3321)がそれに該当します。前者は鉄鋳物、非鉄鋳物、ダイカストが合算されており、後者は鉄及び非鉄の鍛造、金属プレス、そして粉末冶金などが合算されていますが仕方ありません。両者の2008年におけるTotal value of shipments ($1,000)を表にしてみました。


出所: Sector 31: Annual Survey of Manufactures: Geographic Area Statistics: Statistics for All Manufacturing by State: 2008 and 2007

 両者とも自動車産業と深い関係がある産業ですから、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンといった五大湖地域の州が上位に来ることは頷けます。西部はカリフォルニアがFoundriesで9位、Forging & stampingで5位、オレゴンがFoundriesで10位に入っているほかはほとんど登場しませんし、中西部もForging & stampingでテキサスが2位に入っているほかはぱっとしません。テキサスで自動車を生産しているというイメージがあまりないので、航空宇宙産業や石油産業の関連かなあ、と想像しました。なんだかんだでやはり素形材の生産は五大湖地域を含む東部に集中していますね。
 衰えたとはいえ依然として巨大な存在であるアメリカの機械工業は、調べてみると意外に面白いのではないかと思います。

光州金型産業振興会東京事務所を訪問しました

2010-04-04 23:36:11 | 海外ものづくり事情


 この3月末に東京・虎ノ門の光州金型産業振興会東京事務所を訪問しました。
 光州の金型メーカーは219社と全国(4995社)の4.2%に過ぎないのですが、試験生産を行うための大型のプレス機、射出成形機が備えたトライアウトセンターを設立したほか、産学官連携による人材育成、技術開発、企業経営に対する支援など、韓国政府は光州市の金型産業の育成に相当に力を入れています。長年にわたって光州市を含む韓国南西部は産業の発展が遅れた地域でしたが、同地域を地盤とする金大中氏が大統領に就任して以来、風向きが大きく変わったようです。

 しかし驚いたのは、光州市という韓国の一地方都市の業界団体が、海外にビジネスチャンスを求めて拠点を設けているということです。光州金型産業振興会は2007年に東京事務所を開設し、2008年にはフランクフルト、マレーシア、トルコに駐在員を置いています。彼らは現地で金型メーカーの営業窓口機能を果たしているのですが、この海外ネットワークがお互い連携することで金型ユーザーの海外事業展開も支援できる仕組みになっています。例えば、日本の某大手自動車部品メーカーは金型を光州で起こして全世界に供給しており、欧州の某国での生産ラインを立ち上げる際には、光州の金型メーカーの技術者に加えて光州金型産業振興会の東京事務所の職員とフランクフルトの駐在員が立会い、彼らが日本語と現地語の通訳を行うことで円滑な生産の立ち上げを実現したとのことでした。
 私はこれまで韓国のものづくりについてあまり注目していなかったのですが、韓国政府の産業振興策、そして金型業界の海外戦略に対する力の入れ方の本気度を知り、いろいろと考えさせられました。

タイのローカル系鋳物工場訪問 Thai Heng Foundry and Machining

2009-12-20 05:20:06 | 海外ものづくり事情

 先日のタイ出張で訪問した、バンコク市西部のBangKae地区にあるThai Heng Foundry and Machiningというローカル鋳物工場です。周辺は住宅地で、ロケーションといい、工場の雰囲気といい、なんとなく昔の川口の鋳物屋さんと雰囲気が似ています。入口の段階で完全に華人の会社であることがわかります。


 作っている製品です。鋳造から機械加工、塗装まで一貫して手がけています。


 鋳造工場の中の様子です。2枚目の写真の左側に国王の写真が飾られていることにお気づきでしょうか。何もこんな汚れやすい場所に飾ることは無いだろうと思うのですが。


 金型製作の様子です。金網の奥は金型倉庫で、盗難予防のために鍵がかけられています。


 機械加工の様子です。工作機械は大半が台湾製、汎用旋盤はタイ製とのことでした。


 ドイツのティッセンクルップ・エレベーター社の部品を作って輸出しています。また、日本にも新幹線の部品を輸出しているとのことでした。お世辞にもきれいとはいえない工場ですが、技術力はそこそこあり、コスト競争力も備えているようです。近くこの工場を閉鎖して東部のチョンブリ県に新工場を建設するとのことで、将来の発展が楽しみなローカル系鋳物メーカーです。


 意外に思われるかもしれませんが、タイは先進国並みに製造業に対する環境規制が厳しい国です。この規制のため、バンコク市ではキュポラは環境に悪いということで現在は使用が禁止されており、この会社は溶解に電気炉を使っています。ちなみにタイではキュポラを使っている鋳物メーカーを見たことがありません。キュポラの使用禁止の規制はバンコク市内だけでなく広い範囲で適用されているように思います。
 この会社ではかつて使っていたキュポラを工場の中にそのまま残しています。「開爐大富」と漢字で書かれたお札が貼られています。「炉を開き大いに富む」と読み下すのでしょうか。引退したこのキュポラは今では会社のご神体のような存在のようです。炉を神聖視する思想は日本人も華人も同じなのかもしれないですね。

タイの工場での鳩対策

2009-12-12 17:00:12 | 海外ものづくり事情
 鳩は平和の象徴とはいえ、糞を落とされ汚されるということで、人が集まる場所では厄介者扱いされがちです。このため鉄道の駅では、鳩が羽を休めそうな場所に華道で使う剣山のような針を取り付けて鳩除けにしている光景をよく見かけます。

 ところで先日訪れたタイでは、鳩について面白い話を聞きました。

 タイでは工場の中に鳩が入り込むケースが多いそうです。そもそも鳩がたくさんいる(仏教国なので鳩が住まいにする寺が多い)、鳩が入り込みやすい構造の工場が多い(暑い国なので壁を少なくして通気性を良くしている工場が多い)ということが理由なのですが、工場の中で糞でもされたら製品の品質に当然影響しますから、やはり鳩はできるだけ進入を阻止したい厄介者です。
 ではタイの工場ではどのような鳩対策を講じているかというと、ある日系金型メーカーで見たものがこちら。網を張って鳩の進入を防いでいます。


 しかしこうした対策は必ずしも万全ではないようです。
 ある日系自動車メーカーの工場では食堂の中に鳩が住み着いていました(最新鋭の設備を誇るこの工場にはもちろん鳩は入り込んでいません)。もちろん会社としては鳩を食堂から追い出したいのですが、なかなか鳩は去ってくれません。調べてみると、「どうもタイ人の従業員たちがこの鳩に餌をあげて飼っているらしい」とのことでした。敬虔な仏教国ですから、心優しいタイ人たちにとっては鳩に施しを与えることは功徳を積むための善行の一つなのでしょうね。