クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

「デスノート」、逆さになったリュークが意味するものとは? ―死神―

2006年11月22日 | レビュー部屋
火曜日深夜のアニメ、
「デスノート」と「ゴーストハント」。
前者は日本テレビ、後者はテレビ東京で放送中です。
ちなみに後者を観たのは今回が初めてで、
何気なくチャンネルを回して映ったそれに、
ピタリと動きが止まってしまいました。
というのも「牛の刻参り」が素材に使われており、
物々しい雰囲気に包まれていたからです。
日本の古くからの風習を目にしてしまうと、
どうも心がくすぐられます。
「デスノート」にはその手の要素は見られませんが、
「死神(=リューク)」の存在がやや“伝統性”を帯びています。
(リュークの風貌は西洋の死神それですが……)

今回の「デスノート」は、リュークのキャラがよく表されていたと思います。
リンゴが好物、禁断症状として逆立ちをする、
夜神月の部屋に仕掛けられた盗聴器、隠しカメラを探し、
頑張りすぎて死神と雖もバテてしまうリューク。
“リンゴ”は「旧約聖書」でイブが口にした禁断の果実を連想させますし、
ギャグに見える“逆立ち”という行為も、意味深に見えました。

ところで、死神と言えば三遊亭圓朝の落語「死神」が有名です。
実はリュークが逆さまになったシーンを観て、
ふと脳裡によぎったのが落語の「死神」でした。
(ぼくが聴き親しんでいるのは三楽亭圓生の「死神」)
主人公は貧しい生活を送る男です。
そこに死神が現れて、呪文とアドバイスを与えるところから始まります。
それは「死神」が見えるようになる呪文と(死神は多数存在)、
医者になれというアドバイスでした。
と言うのは、病人の枕元に座っている死神を見たら寿命は残り少なく、
逆に足もとにいたら助かるので、
呪文を唱えて死神を追い払えばいいという内容だったのです。
この死神のアドバイスを受けた男は早速言われた通りにし、
瀕死の病人をあっと言う間に回復させたので、たちまち評判を得ることになります。

しかし、簡単に事はうまくはいきません。
順風満帆に思えた医師の商売でしたが、
訪問する先々で死神はいつも枕元に座っており、
男はたちまち貧乏暮らしに戻ってしまうのです。
そんなある日のこと、男は大繁盛している店に呼ばれ、
もしご隠居の命を助ければ3000両のお礼を払うという話を持ちかけられます。
死神はご隠居の枕元に座っていましたが、その大変な金額に目がくらんだ男は、
死神がうたた寝している隙に布団を半回転させてしまいます。
死神がハッと目を覚ましたときにはすでに遅し。
男は呪文を唱えて追い払ってしまいました。

大金を得た男は家路の途中で、最初に会った死神と出くわします。
そして無理矢理連れていかれたのは、大量のロウソクがゆらめく洞窟の中。
そのロウソクは人の寿命を表したもので、
男のものはいまにも消え入りそうなくらい弱々しく灯っているのでした。
みるみる青ざめていく男に、ほくそ笑む死神。
男は金に目がくらんで死神の位置を逆さにし、追い払ってしまったので、
ご隠居と自分の寿命が入れ替わってしまっていたのでした。
男は必死に命乞いをしますが、死神は聞く耳持ちません。
むしろ、慌てふためく男の様子を楽しそうに見つめるのです。
「ああ、消える……」
死神の嬉しそうな声と共に、この落語は終わります。

「デスノート」に登場する死神(リューク)とは、
だいぶイメージが違うと思います。
リュークが西洋版だとしたら、落語の「死神」は日本版でしょう。
(ただし、ネタ自体は西洋から輸入されたと言われます)
えてして「死神」や「悪魔」が登場する物語は、
主人公の“欲望”が原因で身を破滅させてしまうモチーフがほとんどです。
落語「死神」に登場する男も、
3000両に目がくらんで自ら自分の寿命を縮めてしまいます。

ところが、「デスノート」の主人公夜神月は、
全くそんな気配が見られません。
あらゆることを緻密に計算し、冷静沈着です。
そもそも逆に、死神(リューク)を利用しているきらいがあります。
主人公といい、死神といい、「デスノート」はどこか“逆さま”です。
もともと「デスノート」の作品全体が、
逆さまに満ちあふれたものなのかもしれません。
ます主人公が悪役、「友情・努力・勝利」の3大要素を掲げる雑誌「ジャンプ」で連載し、
明らかにそれとは違う作風、
主人公夜神月は悪でもあるが正義でもあるというパラドックスの要素などなど、
細かく見ていけば異質性に溢れた作品であることが窺えます。
落語のように人が「ご隠居」の位置を逆さまにするのではなく、
昨夜のアニメ「視線」の回で死神(リューク)自身が逆さまになったのは、
そのことを端的に示しているように見えました。

深読みと言えばそれだけのことかもしれません。
ただ、色々な解釈を可能にさせ、
またその強度を充分保つ作品であることは間違いないでしょう。

※画像は死神の「リューク」です。

参考URL
http://ja.wikipedia.org/wiki/DEATH_NOTE

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