クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

舌を噛み切った“藤原頼長”は自死したのか?

2012年06月20日 | 歴史さんぽ部屋
 左府打ウナヅカセ給テ、御気色替セ給テ、
 御舌ノ崎ヲ食切リ、血ヲハキ出サセ給フ。
 何ナル御心向共難心得。威(おそろ)シカリケリ。
 (『保元物語』)

「悪左府」こと藤原頼長は、保元の乱で敗れて舌を噛み切り、
失意の内にこの世を去った。
大河ドラマ「平清盛」でも資長の最期が描かれていた。

舌を噛み切る……
あまりの絶望の中でなければ、
舌を噛み切ることはできないだろう。
平常心ではできない(切腹も同じだが)。

ところで、舌を噛み切れば人は死に到るのだろうか。
北野武監督の「アウトレイジ」でも、
舌を噛んで動けなくなった者がいた。
ただし、最後のとどめは拳銃。

『ベルセルク』(三浦建太郎作)では、
「グリフィス」が獄門の中で舌を切られた。
しかし、それで死んだわけではない。
彼は話せなくなったが生きている。

獄長も、「ガッツ」によって舌を切られるが、即死はしてない。
おそらく、「再生の塔」の底に落下して、最期を遂げたのだろう。
舌を切られただけでは、死には到らなかったと思われる。

だとすると、藤原頼長は余程うまく舌を噛み切ったのだろうか?
実は、頼長は即死していない。
舌を噛み切ったものの意識はあったようだ。
供の者が「御飯湯」を勧めるが、頼長は受け付けない。
そして、翌日の「午時」に亡くなったと『保元物語』は語っている。

舌を噛み切ったことが、頼長の寿命を縮めたことは間違いないだろうが、
果たしてそれは直接的原因になるうるのだろうか。
保元の乱で負った傷が原因だったのかもしれない。
何かで読んだことがあるが、
舌を噛み切るくらいで人は簡単には死なないそうだ。
人間はもろそうで、丈夫にできている。

舌を噛み切った場合、大量出血による出血死か、
舌を喉に詰まらせての窒息死になるという。

ドラマでは、頼長が口から血を流し、
あのとき即死したような描き方だったが、
亡くなったのはその翌日であり、
「般若野ノ五三昧」に土葬された。

別に、時代考証にケチを付けようとしているわけではない。
今年の大河ドラマは不人気が騒がれているようだが、
ぼくは結構面白く観ている。

周りの者に聞いても、「平清盛」を酷評する人はいない。
確かに、「ワンピース」(尾田栄一郎作)の色をさりげなく出しているところもあるが、
清盛が平氏の棟梁として頭角を現していくところなど、
観ていてゾクゾクする。

どの辺りが不人気なのかわからない。
「顔が汚い」とか、そんな評価はどうでもいい。
日本は、往古から豊かで清潔感溢れる国だったとでも思っているのだろうか。
時代背景が難しいのならば、勉強すればいい。

ドラマとはいえ、歴史入門として適していると思う。
「わからない」というテーマを見付けただけでも、
大河ドラマは観る価値はあるだろう。
ぼくは必ずしも大河ドラマ賞賛派ではないが、
「平清盛」だけは毎回楽しみに観ている。

世間の評価など気にせず、最後まで質の高い作品作りを続けてほしい。
それと、これまで戦国時代や幕末を描くことが多かったが、
この「平清盛」をきっかけに、いろいろな時代を取り上げてほしいとも思う。
歴史は何も、戦国や幕末だけではないし、
いろいろな人物が足跡を残しているのだから。

閑話休題。
藤原資長はなぜ舌を噛み切ったのだろう。
この当時、『完全自殺マニュアル』(鶴見済著)はなかったが、
もっと別の方法もあったはずだ。
衝動的に、かつ絶望の内に自死したように思える。

いや、実は自死するつもりはなかったのかもしれない。
あまりの失意に舌を噛み切ったということも考えられる。
心に傷を負ったとき、人は自虐的になる。
フロイトによると、ピアスをあけるのも「死への欲動」なのだそうだ。

試しに自分の舌を噛んでみる。
ちょっと噛んだだけでもかなり痛い。
やはり余程のことがない限り噛み切れない。
藤原頼長はそのときどんな心情だったのだろう。
舌をちょっと噛んだ痛みからして、
頼長の絶望と失意が窺い知れる気がするのである。

※最初の画像は奈良のシカ

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