AWA@TELL まいにち

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江戸名物評判記案内

2005年04月02日 | 
 岩波新書、黄色いカバー。
 時代劇ファンとしては、「江戸」という言葉に敏感になるのも仕方がない。テレビはもちろん劇画にしても、小説にしても、時代モノは結構好き。池波正太郎「鬼平犯科帳」は決してはずせない。日本物だけではなくて、小説の類であれば司馬遼太郎、陳舜臣、宮城谷昌光ははずせないよね。

 さて、この本が扱っているのは、江戸時代の庶民が何でもかんでも評をつけて順位を決めていたという話。役者や遊女なんてのは序の口、虫や魚にいたるまで扱われている。江戸時代の文学を見ていると、あの江戸時代250年というのは日本で暮らす人々全体の教養の底上げが行われた時期だなあとつくづく思う。その恩恵にあずからなかった人も多いとはいえ、日本の近代化が比較的スムーズに行った原因はこの江戸時代250年にあると思う。変な言い方だが、名誉と権力と経済力が社会階層にばら撒かれ、すべてを兼ね備えた特定の層が江戸時代末期には存在しなかったのが明治維新の成功の裏にあるのではないだろうか。

 それにしても、評判記に扱われているテーマがなんと多岐にわたっていることか。この驚くべき好奇心の旺盛さと批評精神は、ひとつの成熟した社会をうかがわせる。今の日本の大学生は、インターネットというツールを使って自分の好奇心を容易に満たすことができるようになってきたが、その先に踏み込もうという姿勢があまり見られないような気がする。いや、のめりこむほど好きなものがあればかまわないと思うんだけどね、なんか、クールというか、あっさりしているというか、そんな印象をよく受けるんだ、この頃。
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岩波新書 313
中野三敏 著
1985年9月20日第1刷
1985年11月5日第3刷
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