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「春に」

2010-11-13 16:40:39 | インクルーシブ・ライフ 

下中恵子さんの読み聞かせ講座 第3回

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              春に
                       谷川俊太郎

              この気もちはなんだろう
              目に見えないエネルギーの流れが
              大地からあしのうらを伝わって
              ぼくの腹へ胸へそうしてのどへ
              声にならないさけびとなってこみあげる
              この気もちはなんだろう


              枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく
              よろこびだ しかしかなしみでもある
              いらだちだ しかもやすらぎがある
              あこがれだ そしていかりがかくれている
              心のダムにせきとめられ
              よどみ渦まきせめぎあい
              いまあふれようとする
              この気もちはなんだろう


              あの空の青に手をひたしたい
              まだ会ったことのないすべての人と
              会ってみたい話してみたい
              あしたとあさってが一度にくるといい
              ぼくはもどかしい
              地平線のかなたへと歩きつづけたい
              そのくせこの草の上でじっとしていたい
              大声でだれかを呼びたい
              そのくせひとりで黙っていたい
              この気もちはなんだろう



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今まで、こんなに丁寧に詩を読んだことがあっただろうか?

と思うほど、一言一言に込められた思いを確かめながら、声に出す。

「この気持ちはなんだろう」
この1行だけでも、実感を持って、自分の胸の中の気持ちと対峙しながら読もうとすると
本当に難しい。
「ぼく」の体を突き抜けてこみあげてくる気持ち
悲しみでもある喜び、やすらぎのあるいらだち、いかりを内包するあこがれ
そのどれもが想像するのが難しい。

たにかわしゅんたろう、今までもこの人について調べたこともあった。
「朝のリレー」とか「いるかいるかいないかいるか」など教科書に載ってたから。
でも、私は何を調べていたのだろうと思う。
ひとりっこの谷川俊太郎が、幼いころはひよわで孤独だったけれど
思春期の頃から、大きく変化したという。
「突如としてわいてきた意志の力」を自覚したと「ひとりっこ」という文章で書いているという。

私自身が読んだ文章ではないけれど。

そして、詩を書き始めた18歳ごろから学校が嫌いになり
成績低下、定時制に転学したという。
大学進学の意思もなかったと。
一方そのころ三好達治の紹介で詩壇に登場する。
この「春に」は1986年刊行の詩集、「どきん」に収められている。

このころ毎年詩集を出しているから、このころの作(55歳ごろ)だと考えられる。
今も詩集を出し続けている谷川俊太郎さん。
詩集だけではなく、絵本・脚本・散文・戯曲・映像など活躍分野はかぎりない。

言葉を紡ぎ、磨き、生み出していく原動力は
いったいどこから生まれてくるのかと思った。

今まで、何を調べていたんだろう?
何を伝えてこれたんだろう?
これじゃぁなと遅ればせながらの反省をした次第。