イタリアの映画女優シルヴァーナ・マンガーノ、『苦い米』で鮮烈デビューし、
その後2流映画に出演していたが、1971年ヴィスコンティの「ベニスに死す』で
タッジオの母を演じた。一目でタッジオの美しさに惹かれたアッシェンバッハが
その母親が現れたシーンに見せる感嘆の表情に、観客をも納得させる優雅で
華麗な美女振り。この母にしてこの息子あり…、極端にセリフの少ない映画を
見事に語る映像美。20世紀初頭ブルジョア階級の人々が,一幅の絵のように
スクリーンを飾っていた。ただ一人の男の子タッジオを溺愛する母親の、優しい
仕草が何時までも眼に残っている。
『ベニスに死す』で演じた、滅び行く貴族の頽廃美が気に入られたのか、
翌72年には『ルードヴィッヒ』、74年には『家族の肖像』と、続けさまに巨匠
ヴィスコンテイ映画に出演したマンガーノだったが、89年12月16日、59歳で
他界した…、と言うことは『ベニスに死す』当時は41歳。あの美貌&完璧な
プロポーション、さすがイタリアを代表する美人女優であった。
既にヴィスコンティもボガードもマンガーノも此の世を去り、タッジオを演じた
ビョルン・アンドレセンも55歳、あぁ無情、虚しく時は流れたのねぇ。