ごっとさんのブログ

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セレンディピティ 私の場合

2015-05-01 10:17:38 | 文化
先日の昔の仲間との飲み会の時、忘れられない仕事の話が出ました。5年ほど前のことですが、ずいぶん前に書いた、セレンディピティとも関連することですので、たまには私の仕事の話を書いてみます。
このころ私は、高分子樹脂合成という、それまでとはかなり異なる分野の仕事をしていました。どうも私の専門は説明しにくいことが多く、分かりにくいところがあるかもしれません。

高分子樹脂というのは、2,3種類の輪が交互にくっついて、長い鎖のようになったものというイメージです。この鎖の長さは、あまり短いと良い性能が出ず、長くしすぎるといわゆるプラスチックになってしまい、固まってしまいます。したがって適度な長さに調節する必要があり、長くなっていく途中で反応を止めることになります。そこでここではAとしますが、大体良い長さになった時、Aを加えて反応を止めていました。鎖の両端にAがぶら下がった形になるわけです。

この高分子樹脂にわりと良い性能が出たので、構造を確認するためにいろいろな分析を行いました。その結果、反応しないと思っていた部分が反応してしまい、Aを加えた時点では反応する場所がなく、Aは樹脂の中に組み込まれているわけではなく、単なる樹脂との混合物になっていることがわかりました。そこでAを加えない樹脂の性能を調べると、これが全くダメだったのですが、その樹脂にAを添加すると良い性能が出ることがわかりました。
つまりこの高分子樹脂には、Aという低分子の添加物が必要だったということになります。
この発見により、研究の方向性もかなり違ってきて、いろいろな試みができるようになりました。私は高分子樹脂に何か余計なものが入ってしまうと、性能が悪くなると思っていましたので、添加物という発想は全くありませんでした。

以上のことがセレンディピティに該当するか微妙なところですが、ここではポイントだけに単純化して書いてあります。実際はかなり複雑な状況でしたので、Aと樹脂との反応に失敗し、単なる添加物になっているのでは、ということに気づくまでかなり悩んでいました。
ついでに、Aが添加物として良い効果が出たので、もっと良い添加物はないかといろいろ試しましたが、Aより良いものは見つかりませんでした。単に反応を止めるだけなので、高分子樹脂に似たものとしてあまり考えずに選んだものが、結果的には最適であったというようなことも、研究の中ではよくあることです。

私のような研究をしていると、10回実験をすると1回ぐらい予想しない結果が出てしまいます。予想通りの時は何も考えませんが、失敗した時はその中か何かを見出そうと考えるものです。結局私は、一生セレンディピティと付き合ってきたような気もします。