稽古なる人生

人生は稽古、そのひとり言的な空間

犬に噛まれ、血だらけの右手を隠していた思い出

2020年02月12日 | つれづれ
仕事をしながらテレフォン人生相談などをよく聞いている。
いろんな相談の中に人生の表裏、本音、生い立ちなどが見え隠れする。

ある時、一人の相談者が「小さい頃に怪我をしても親に隠していた」という話をした。
するとパーソナリティの加藤諦三は「たいへんつらい思いをしてきたんですね」と言った。

怪我をしたことを親に言えないのは大変なことなんだと驚いた。
実は私も怪我をしても親に言えず隠した記憶がある。

台風21号(2018年9月4日)
https://blog.goo.ne.jp/kendokun/d/20180904/

上の記事にも書いたが、昭和36年9月16日、6才の時に奈良の自宅が台風で飛ばされ、
家の修理が終わるまで半年ほど大阪の小坂(旧布施市小坂)というところに仮住まいしていた。
近鉄奈良線小坂駅前の近鉄マンションの2階。さほど広くも無い部屋だった記憶がある。
通園の関係で幼稚園の年長組に行かなかったので私は一人で留守番をすることが多かった。

仮住まいで、引っ込み思案の私は友達も出来ず、
中庭の砂場で同い年ぐらいの子供たちが遊ぶのを横でぼんやり見ていたり、
家の中で自動車のおもちゃ(と言っても銀行がくれたビニールの貯金箱)で遊んだり、
ともかく時間の過ぎるのがとても長く感じた毎日だった。
テレビはあったが、朝と夕方からしか放映していない時代だった。

2階の窓からは隣の空き地が広がり、そこには犬小屋と繋がれた犬が一匹いた。
白い犬だと記憶しているから当時人気のあったスピッツかスピッツの雑種だったと思う。

生まれた頃から家には雑種のトスという犬がいて、
その犬のごはんを手づかみで食っていたと聞かされたほど犬は身近で親しい存在だった。

その白い犬はビルの1階の散髪屋の犬で、
私は何とかこの犬とお近づきになりたいと毎日のように近くまで行った。
犬は吠えたりうなったりするわけでもなく、尻尾を振るわけでもなく、いつも無表情で無反応だ。

ある日、その犬がいつもかじっている骨が、犬の届かない位置に転がっていた。
私はその犬がその骨をかじるのが大好きなのを知っていたので、
近くにあった棒きれで、その骨を犬のそばに転がしてやった。

どうしたものか、突然、犬は私の右手に噛みついた。
おそらく、犬の鎖は私が思っていたよりも長く伸びたのだ。

私は血だらけの右手を隠し、自宅まで帰った。
帰ったが、6才の子供にはどうして良いのかわからない。
痛みをこらえて家族が帰ってくるまでじっとしていた。
泣きはしなかった。悪いことをしたんだという気持ちでいっぱいだった。

母親と兄たちが帰ってきたが私は何も言えずじっとしていた。
夕食の時間になりテーブルについたが右手は出せない。
噛まれてから時間がたった右手は血が固まりガビガビになっていた。

食べ始めない私に「どうしたんや?」と母親が聞き、しぶしぶ右手を出したら大騒ぎ。
「散髪屋の犬に噛まれた」と言ったら食事どころでは無くなった。

すぐに父親と母親に連れられ、線路を渡った南側の病院まで連れられ消毒と包帯と注射。
注射を嫌がったら父親に「帰りにおもちゃ買うたるさかい我慢し」と言われた。
両親に連れられ踏切が開くのを待つ情景が何故か今でも目に焼き付いている。


(借り物の画像、こんな感じの戦車だった)

同じビル内にあったおもちゃ屋でブリキの戦車を買ってもらった。
怪我のことなど忘れ、欲しかった戦車を買ってもらったのが嬉しくてたまらなかった。
家に帰ると兄たちが「なんでそんなんでおもちゃ買うてもらえるんや」と怒っていたのを憶えている。

怪我をしてどうして誰にも言えなかったのだろう。
今にして思えば不思議なことだが、怪我をしても誰にも言えない心理状態だったのだろう。
物心ついた頃から兄弟に馬鹿にされてきた記憶がある。
弱みを見せることだけは嫌だ。そういう心理状態で育ってきたのだろうと思うのだ。
ラジオで加藤諦三が「たいへんつらい思いをしてきたんですね」と言ったのが何となくわかる気がする。

とんでもない失敗をしてしまった。
叱られる、笑われる、馬鹿にされる。
出来るなら誰にも知られずに時間が過ぎて欲しい。

泣きもしないで、痛みを我慢して、血だらけの手を隠していた6才の私。
テレフォン人生相談を聞いていて、6才のちょっとした事件を思い出してしまった。


(河内小阪駅北口にあるビル、正面1階に散髪屋の3色サインポールが見える)

河内小坂駅前をグーグルマップで見てみたら今でも同じ場所に散髪屋があるのがわかった。
このビルの2階に住んでいた半年間だった。たった半年だが私にとって思い出深い場所である。
コメント
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